異世界悪党伝 〜 裏稼業の元勇者が力と女で成り上がる!〜

桜空大佐

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第四章:成長と拡大

プロローグ:地下一層への挑戦

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 朝の空気を思いっきり吸い込む。胸いっぱいに清涼感が広がり、それをゆっくりと吐くと体の隅々からネガティブな感情が抜けていく。
 明るくなりつつある空を見上げて、両頬をパンパンと二回叩いた。

「さぁ、今日もがんばるど!」

 ナミは、セイヤが出発してからというもの、竜牙会ドラゴンファングの構成員が勝手をしないように目を光らせていた。しかし、不満を言う者は皆無で、率先して東地区スラッツの整備に精を出していた。
 荒くれ者も多く、また悪華組デモゴルゴンの元構成員もいるのだが、今ではわだかまりもなく、一枚岩となって動いていた。
 全て、セイヤのおかげだと思っているナミだったが、実のところナミを慕っている者も多くいることに気づいていなかった。
 テキパキと指示を出す小さな兎人族ラビットマンのナミを、崇拝する者がいるほどだった。

 そんな連中の気持ちに気づかないまま、ナミは事務所へと向かう。

 一番隊とマイラ隊の十人全員が揃って、頭を下げて迎えてくれる。
 正直、仰々ぎょうぎょうしくされることに慣れていないナミは、毎朝テレ笑いするしかなかった。
 だが、そのテレ笑いがみんなの心を和ませることに一役買っていた。

 事務所の中には、セイヤが使うデスク以外には、五人掛けのテーブルと椅子がいくつか置かれている。簡易的なイスだが、ここが全て埋まったことは一度しかない。
 ほとんどが、東地区スラッツの復興と西地区バーンの放火事件の後処理に連日追われていたからだ。

「マイラたちは、今日も東地区あっちの手伝いをしてくれるかな? 一番隊は、オイラと来てくれ」
「あっ、いいなぁー!」

 マイラ隊の五人は口を揃えて羨ましがるが、ナミはその意味を別の意味に捉えていた。

「お前ら、サボったらダメだど。一番隊はこれからオイラと遊びに行くわけじゃないんだど」

 ナミが一喝すると、目尻を垂らしてマイラたちは頭を下げた。

「ところで、俺たちはどこに行くんですか?」
「ちょっと、ダンジョンで魔物退治だど」

 冒険者でもない一番隊の隊長は、あんぐりと口を開けて驚く。無理もない、ダンジョンは一番初心者向けと言われている地下一階でもゴブリンが百体ほど軍団で襲ってくるほどの場所なのだ。
 戦闘の訓練をしていない者にとっては、地下一階でさえ厳しい。

「本気ですか? 俺らダンジョンには入ったこともないですぜ」
「そんなことはわかってるど。今回は護衛だから、お前たちは冒険者のパーティーが危うくなったら、身を呈して守るのが任務だど」

 マイラは、その会話を聞いて胸を撫でおろすと、自分たちにとばっちりが来ないよう仲間に合図を送り、さっさと事務所を出て行った。

「護衛って、冒険者の護衛を俺らがするんですか?」
「そうだど。冒険者といっても駆け出しの子供。でも、セイヤが面倒見ている子たちだから何かあってはいけないんだど」

 ナミは、そういうと倉庫の扉を開けて防具を付け始めた。
 慌てて、一番隊の男たちも防具と武器を倉庫から取り出す。

「さあ、準備ができたらギルドに向かうよ、行くど!」
「はいっ!」

 ナミを先頭にして、一番隊の五人は後に続いた。街の人には、死んだ目をした一番隊の五人がナミに叱られて引き連れられているように見えただろう。それくらい、一番隊はどんよりと暗い雰囲気を放っていた。

 ◇◇

 ダンジョンは、西地区バーンの北側にあり、大きな円形の建築物に見える。
 かなり大きいが、内部はどういう仕組みか、一日で回れないほどの広い空間が続いている。
 地下一階層は、草原エリアが主で岩山がところどころあり、その近辺にはゴブリンやスライムが現れる場所だ。

 ナミたちがギルドに着いた時、すでにキッドたちはギルドの談笑コーナーで待っていた。
 朝の早い時間帯は、依頼を受けて出て行く者、ダンジョンを攻める者でごった返していたが、現在は他の冒険者は数えるほどしかいない。

「ナミさん!! こっちです!」

 キッドが元気のいい声と、満面の笑顔で手を振っている。
 しばらく、むさ苦しい男たちばかりを相手にしていたナミには、そんなキッドの笑顔が眩しい。

「いい笑顔だど! 元気いっぱいはいいけど、少しはティルシーに勝てるようになったか?」

 ティルシーは顔を横に振るが、キッドは威勢良く返事した。
 短期間に追いつけるほど、ティルシーは弱くはなかった。だが、キッドも伸び盛りで日が経つにつれ一度も勝てなかったものが、少しずつ勝ちを取れるようになっていた。

「はいっ、三回に一回は勝てるようになりました!」

「少なっ! せめて二回に一回勝てるようにならないとダンジョンは無理だど!」

 キッドは、肩を落としたがティルシーとフェリーチェは肩を揺すって笑った。
 テーブルには、キッドとティルシー、そしてフェリーチェの三人が並んで座っている。
 ナミは、キッドの襟首を掴むと引っ張って、無理やり立たせるとその席へ座った。

「いててっ! 何するんだよ。席はいっぱい空いてるだろうよ」

「あーっ!うるさいど! 足腰の鍛錬のために椅子に座るのは禁止だど!」

 いつから禁止になったんだと、ふてくされたキッドを見て、また二人の少女が笑う。
 案外、三人は仲良くできているようで、ナミは何かを察したようにうなずいた。

「ティルシーもフェリちゃんも、ひさしぶりだど。元気か?」

「もちろんですわ。ナミさんのほうこそ、お元気かしら?」

 フェリーチェは、カップに入れた茶を口に運ぶと、ふぅふぅと二回息を吹きかけ口をつけた。
 所作は優雅だが、やることは子供っぽいとナミは、ほっこりしてフェリーチェを見る。

 今日、ナミが一番隊を連れて来たのには理由があった。
 フェリーチェは、元悪華組デモゴルゴンの二代目組長だったが、そのときの構成員の一番隊に配属されていた。もともと、東地区スラッツへ攻撃した時に参加していた一番隊の五人から二人が抜け、元悪華組の若手が二人が入ったのだ。
 昔の仲間と顔をあわせるのもいいだろう。その二人は、フェリーチェの変化に驚いているようだったが。
 ちなみに、抜けた二人は現在はセイヤが紹介した農園で働いている。

「オイラはいつも元気だど。今日は、お前たちがダンジョンに初めて入るって聞いたから見に来た。もちろん、手助けなんてしないから、アテにしてはダメだど!」

「手助けなんていらないわよっ! 三人で地下一層攻略してみせるわ」

 ティルシーは、赤い髪を三つ編みにして一つに縛っていた。額を守る『額当て』にはオーガスト家の紋章であるウルフベリーの花に龍がデザインされた銀プレートが光っていた。
 三人とも装備は軽装だが、キッドとティルシーは速さで勝負するタイプなのだろう。

「ティルシーは勇ましいな! キッドは、大丈夫か?」

「大丈夫ですよ。僕がこのパーティーをしっかり守っていきます!」

 胸を張り拳を当てて、キッドは鼻の穴を膨らませて言った。
 気合が入ってるじゃないか、とナミが思った時すかさずティルシーが吠えた。

「はぁ? なに、自分がリーダーみたいに言ってるの?」

 ティルシーは、キッドの肩を小突くと、リーダーは私よ!と、キッドの耳に向かって大声をあげた。

「がぁあああっ! 耳が痛いじゃないですかっ~!」

 耳を押さえてキッドがのたうちまわるのを見て、フェリーチェがぽつりと口を開いた。

「後衛の私がパーティ全体を見渡せるのですから、当然リーダーは私が適任かしら」

 澄まし顔でそう言うフェリーチェに、ティルシーは溜息をついた。
 それからしばらく、三人は誰がリーダーになるかで揉めていたが、ナミの一言であっさり決まった。

「とりあえず、階層主のところまで行ってから誰がリーダーにふさわしいかオイラが決めるど」
「ええ、それでいいわ」
「仕方ないですかしら。私も承知いたしますわ」

 ◇◇

 ギルドの受付で、三人とナミと一番隊の九人分の入構証を受け取った。
 ティルシー以外はダンジョンでの注意点など、受付で簡単に説明を受けていた。

「この入構証は魔法が付与されていて、もしお前さんたちが死んだらギルドにわかるようになっている。心配するな、きっちり遺体は回収してやるから」

 白髪の爺さんは、キッドに向かってそう言うと目を細めて笑った。
 この老人も、元勇者ベルの仲間で炎竜を倒した者たちの一人だ。老人だが、肩幅も広く胸板も厚いので今でも現役でいけそうな雰囲気を見せていた。

「し、死んだって……ダンジョンで死んだ人っているんですか?」
「もちろんいるさ。自分の力を過信して身の丈に合わない階層に行くと死んでしまうぞ」

 物騒なことを言うものだとキッドは思ったのか、顔をしかめている。

「ナミさんは、ダンジョンに入ったことがあるの?」

 ティルシーは、一番隊の前に立つナミへ尋ねた。小さな兎人族の女の子だが、セイヤの相棒でいかつい男たちを従えているので、以前から興味があったのだ。本当にこの人は強いのだろうかと。

「オイラは、一人では地上二層目までかな。パーティーを組めば地上三層くらい行けると思う」

「なっ! 一人でって、一人でダンジョンに入って地下は攻略できるの?」

 ティルシーは驚いてあんぐりと口を開けている。
 フェリーチェとキッドも振り返って、耳を疑っているようだった。

 ダンジョンは地下三層、地上五層となっている。
 地上階は、入口で入構証を受け取るカウンターや売店などが並んでいる部屋があり、宿泊する施設も地上階にある。そこから地下へ降りることができる。
 今日は、ギルドで入構証を受け取ったが、他の冒険者はギルドで受付をしてからダンジョンに入り、もう一度カウンターで入構証を受け取るのが決まりだった。

 地下一層は初心者用と言われている。魔物も比較的小さく強さも初心者にはちょうど良い。
 だが、多くの冒険者は地下一層の地上主まで辿り着くのも難儀するのも事実で、地下一層を攻略できて初めて冒険者が名乗れると言われていた。

 この大陸では、冒険者のランクを、ダンジョンの攻略階層で示されるため、ナミのように地上二層冒険者は上級者と言えた。さらに、地上五層に辿り着くだけで英雄扱いされる。

「最初から地下一層目を攻略しようなんて思わないほうがいいど。何度か挑戦するほうが、実力を付けることができるから、しばらく地下一層で修行する冒険者も多いんだど」

「私も地下一層でずっと修行していたわ。ゴブリン軍団が出てくるとやっかいだけど、他は比較的簡単よ」

 ティルシーは、今までも他の冒険者について地下一層目に入ったことがあった。

「その、おっかない、ゴブリン軍団ってなんだよ?」

 キッドは、ティルシーの言葉にすぐさま反応して聞いた。

「地下一層の階層主の前いる百体ほどのゴブリンのことよ。一斉に襲いかかってくるため、的確な判断力と速さと強さがないと抜けることができないわ」

 ティルシーは、階層主の前のゴブリン百体が抜けない冒険者が多いんだとキッドに説明する。続けてナミが引き継ぐ形でキッドに説明した。

「なぜか攻撃魔法や範囲魔法が効かないんだど。一体ずつ倒す必要があるから、とっても厄介!」

 キッドは、グッと剣を持つ手に力を込めた。地下一層目を少し舐めていたかもしれないと、改めて自分の認識を変える必要があることに気づいたのだ。

「とりあえず、そこまで行けたら今日は帰るど。一番隊のお前たちも魔物と戦って実戦経験を積んで来いな」

 ナミは、一番隊にそう言うと一番頑張った者は今夜オイラが酒を奢ってやるぞと煽った。
 士気の上がる一番隊を率いてナミが先頭にダンジョンに入って行く。
 意気揚々とキッドたち三人も後に続く。

「さぁ、初ダンジョン! 頑張っていこう!」

 キッドは右手拳を高々とあげると、ティルシーに頭を叩かれ前につんのめる。
 三人の笑い声と共に、ダンジョンの入り口へと吸い込まれて行った。

<つづく>



(作者あとがき)

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