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第三章:ヴァンパイア王妃
第二話:依頼
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ニブルの街の町長であるスピアーズは、領主への貢納の責務を担う役割をしている貴族だ。街の人は、町長と呼んでいる。
スピアーズは、六十代半ばほどで、頭髪はなく禿げ上がっていた。
目は窪み、目の下はたるんで生気がなく見える。
二人掛けのソファの中央に座った姿は、どことなく覇気がない。
「はじめましてですな。ニブルの町長をしておるスピアーズです」
町長は、生気がない目をしていたが、目を逸らさずに俺を見て言った。
どういう男なのかと見極めようとしているのだろう。
「サルバトーレ様の噂は聞いております。西地区だけでなく、東地区も再建させる手腕、裏組織の者たちをまとめ上げる力、敬服します」
社交辞令ではなく、この街の誰もが竜牙会の躍進と、セイヤの手腕を評価しているという噂は、セイヤ本人の耳にも入っていた。
町長がただ挨拶に来たわけではないことは、一目瞭然だ。
何か頼みごとがあるのだろう。
時折、手のひらをズボンで拭っている。緊張しているのか。
そして、意を決したように、両手を膝に上へ置き、頭を下げて言った。
「どうか、手を貸していただきたい」
町長が絞り出した声で言った
「どんな用件だ? 用件を聞いてから手を貸すかどうか考えよう」
「はい、実は……」
◇ ◇
「その依頼を受けられたのですか?」
「そうだ。数日は戻れないだろう」
町長が帰った後、そのまま二階のマーガレットの部屋に上がった。
そして、たった今マーガレットに依頼の内容を伝えたところだ。
マーガレットは、ゆっくりとソファに座った俺び上に跨り乗って来た。
周りに人がいないときは、ときおり甘えるように抱きついてくる。
俺の両肩に置いた手は温かく、指は長くしなやかできめ細かな肌で産毛一つ生えていない。こまめに手入れをしているのだろう。
「いつも綺麗な爪をしている。美しい指だ……」
「指なんて褒められたことないです……うれしい」
対面で見つめ合うと、ブルートパーズ石のように透き通った青い瞳は美しい。
俺は、マーガレットの腰と背中に手を回して抱き寄せ、口づけした。
「いきなり……口づけとか、まだ明るいのに恥ずかしいです……」
「明るいからいいんだ」
「そ、そんな……明るいところで私の……見たいだなんて……」
顔を真っ赤にして、うつむくと何に興奮しているのかわからないが、可愛いやつだ。
もう一度口づけをすると、俺は、マーガレットを降ろして立ち上がりタバコに火をつけた。
「大した仕事ではない。心配しなくても必ず戻ってくる」
俺は、窓から外を見た。ちょうど裏庭が真下に見え、キッドとティルシーが剣の素振りをしているのが見えた。真面目にやっているようだ。
「どなたを護衛するのです?」
「あの爺さんの知り合いとしか聞かされていない」
町長の依頼は、カールトン国の南部の町「アルーナ」に、ある人を連れて行って欲しいというものだった。誰を護衛するのかは、当日まで明かせないという。
俺は、依頼の内容より南部の町アルーナに興味があった。
そこに、カトリーナに頼まれた踊り子がいるはずだ。
放浪の踊り子だ。今はアルーナにいることは掴んでいる。
それだけでなく、大陸南部にあるスティハーン国との境でもあり、アルーナの街は興味深い。まだ一度も訪れていない街だ。何か商売のネタが拾えるかもしれない。
マーガレットは、机の上にあるグラスに水を注ぐと、一口飲んでから俺の前に置いた。
「どれくらいニブルを離れることになるの?」
「九日後には戻れるだろう」
そんなにかかるのですねと、寂しそうな顔をする。
「連れて行っては欲しいけど、邪魔になりますよね」
「危険な地域を通ることになる。今回は少人数だからお前を危険に晒すことはできない」
国境付近には樹海があり、魔物が跋扈する地域だ。魔物は、古代神話の時代に闇の女神が生んだ異形の生き物で、ダンジョンにいるモンスターとは違う。
魔物の樹海を通る必要はないが、何が起こるかわからない。
「では、また一緒に行きましょう。私もアルーナに行って見たいわ」
「ああ、いつか、ティルシーやアナベルも連れてみんなで行こう。いい温泉もあるらしい」
南国は火山が多いためか、良質の温泉が湧いている場所が多いと聞く。
カールトン国も温泉が湧くが、俺の家のように湯をためた湯船を持つ風呂は、町人にはまだまだ普及していない。
そのため、温泉は町人や貧民にとっても憩いの場となっている。
「男女が一緒に風呂に入るのもたまにはいいだろう」
俺の言葉に、即座に反応してマーガレットが、耳まで顔を真っ赤にする。
……しまった、振ってしまった。
「男女が一緒に? んんぅ……男の人と風呂で裸の見せ合いなんて、ああん」
太ももを擦り合わせて、身をよじるマーガレット。
この女は、ちょっとした言葉で急に淫乱癖が出てしまうのだ。
妄想が激しいというか、急にエロくなり妄想がはじまる。
こうなると長いため、俺はマーガレットを残して部屋を出た。
部屋を出ると、扉の外にフェリーチェが立っていた。
俺の顔を見て、微笑むとすかさず左腕にしがみついてきて言う。
「キスしてらしたようで、お姉さまと仲がよろしいかしら」
「聞いていたのか? 趣味が悪いな」
「聞こえて来たから聞いていただけですわ。私にもキスしてくれるかしら」
フェリーチェが目を瞑り唇を突き出したので、手の平で押し戻す。
「うぷぷっ、ちょっと何をするんですか! レディの顔に手を押し付けないでくださらないかしら」
慌ててフェリーチェは、俺の手を押し戻し、両手で顔を払う。
その仕草がおかしくて、俺は笑ってしまった。
この屋敷に連れて来たときは、塞ぎ込みが違ったフェリーチェだったが、元気になったようで安心した。
「子供のお前には、まだ早い」
俺をキョトンと見つめるフェリーチェの手を取って言うと、手を握り返してフェリーチェが言う。
「まあ、私はこれでも立派な女ですわ。まだ胸は蕾ですが、薹が立ったお姉様方より将来育った時の楽しみがありますわ」
「それは失礼なことを言った。では、唇を出せ。さっき、マーガレットにしたこの口でいいのならな」
「ややっ、それはイヤ! 洗ってきてくださるかしら」
大げさに嫌がるフェリーチェを見て、おかしくて笑う。
「また今度だ」とフェリーチェに言うと手を引いて一階に下りた。
フェリーチェは、俺と手を繋いで歩くのが嬉しいのか、おとなしくついてくる。
父親を何者かに殺されたフェリーチェは、このベルの屋敷で世話になっている。
そして、フェリーチェの仲間だった者たちのほとんどは、竜牙会に入った。
フェリーチェにとって、仲間と離れて見知らぬ他人の家で過ごすのは不安も多いだろう。
しかも、まだ十三歳だ。
「フェリは、アナベルとは仲良くやっているのか」
「アナベルとは、毎日一緒にお風呂に入っていますわ。仲良くしてるほうかしら」
アナベルは十二歳、フェリーチェは十三歳だ。
歳も近いのはいいが、アナベルは人見知りが激しい。
だが、アナベルは素直でいい子だが、ずる賢く狡猾な一面がある。
そのため、見えないところでいじめられていないか不安だったが、大丈夫そうだ。
冒険者ギルドには、多くの冒険者が談話所で談笑していた。
今日の成果をパーティごとに話し合っているのだろう。
だが、メイド服に身を包んだ金髪の美しい少女を見た冒険者たちは、一瞬静まる。
あからさまに、「可愛い娘がおるぞ」と指を指す奴もいたがフェリーチェは気にしないようだ。
おそらく、毎日こんな風に冒険者に好奇の目で見られているのだろう。
俺は、そのうちの空いている席に座ると、フェリーチェも横に座る。
「どこに行くのかと思ってついてきたら、ここでおしゃべりするのかしら?」
キョロキョロとギルド内を見回すと、冒険者たちと目が合うたびに小さく手を振った。なるほど、この年齢で男どもを手玉にとる方法がわかっているようだ。
「フェリは魔法が使えるが、誰に習った」
俺は疑問に思っていることを単刀直入で聞いてた。
あの日から、なるべく過去のことは聞かないように気を使っていたが、もう大丈夫だろう。
「お母様かしら。私のお母様は魔術師でしたわ。私が十歳の頃に病気で亡くなったけど……」
「そうか。悪いことを聞いた。すまない」
俺は、フェリーチェの肩を抱き、あやすようにポンポンと肩を叩くとフェリーチェは平気よと答えた。
魔術師の母親から習ったということは、フェリは魔法を使う素質があると母親が気づいたってことか。
「お前の父親が殺された時のことは、何か知ってるのか?」
「いいえ、何も知りませんわ。組のみんなが、あなたに殺されたと言っていたから、私もてっきりあなただと……」
「それなんだが、組の者は誰に聞いたのか知ってるいるか?」
フェリーチェは、ルーセン杉の机を、指先でトントンと叩くと指を横に振る。
やはり知らないか。
ナミに調査させているが、元悪魔爪組の構成員たちは皆同じように知らなかった。
誰かに吹き込まれたとしたら、その発信源があるはずだ。それがわからなかった。
一体誰が、何者から聞いたのか……。
「へー、こんなところで二人で休憩してるんだー」
ティルシーが練習が終わったのか、ギルド内に戻ってきた。
「俺は、しばらく仕事でアルーナに行かなければならない。十日は戻らないから、俺がいない間にもっと強くなれ。それと、フェリも一緒にダンジョンに入るから三人での戦い方をアスガーに習っておけ」
「はいはい。連係できるように練習しますよ。いいなぁ、アルーナかぁ。果物が美味しいらしいから、買ってきてね」
ティルシーは両手を合わせてお願いねと、念を押す。
そして、カウンターの裏の扉から二階に上がって行った。
「フェリも、しっかり練習しておけ。狙ったところに魔法が打てるようにするんだ。今のフェリだと、味方にも当てかねない」
「確かに、まだその点は反論できませんかしら。でも、どこで練習すればいいかしら」
俺は、カウンターにいる元勇者ベルのパーティメンバーを指差して言った。
「あのおじいさんに頼め。元勇者のパーティで魔法で炎竜を倒した男だ」
「嫌ですわ。もっとシュッとした若い男の人がいいですの!」
「そう言うな。あの人ほど適任はいないんだ」
「そこまで言うなら、わかりましたわ」
俺は、事前にフェリーチェの指導を頼んでいる。
だが、自分でお願いして指導してもらうことにした。それも、この娘のためだ。今まで組長として担ぎ上げられ、男どもが自分のために右往左往して世話を焼いてくれていた時とは違う。
なんでも自分でできるようにしてやるのも、俺の務めだ。
俺は、オーガスト邸を出ると西地区の娼婦ギルドへと向かった。
スピアーズは、六十代半ばほどで、頭髪はなく禿げ上がっていた。
目は窪み、目の下はたるんで生気がなく見える。
二人掛けのソファの中央に座った姿は、どことなく覇気がない。
「はじめましてですな。ニブルの町長をしておるスピアーズです」
町長は、生気がない目をしていたが、目を逸らさずに俺を見て言った。
どういう男なのかと見極めようとしているのだろう。
「サルバトーレ様の噂は聞いております。西地区だけでなく、東地区も再建させる手腕、裏組織の者たちをまとめ上げる力、敬服します」
社交辞令ではなく、この街の誰もが竜牙会の躍進と、セイヤの手腕を評価しているという噂は、セイヤ本人の耳にも入っていた。
町長がただ挨拶に来たわけではないことは、一目瞭然だ。
何か頼みごとがあるのだろう。
時折、手のひらをズボンで拭っている。緊張しているのか。
そして、意を決したように、両手を膝に上へ置き、頭を下げて言った。
「どうか、手を貸していただきたい」
町長が絞り出した声で言った
「どんな用件だ? 用件を聞いてから手を貸すかどうか考えよう」
「はい、実は……」
◇ ◇
「その依頼を受けられたのですか?」
「そうだ。数日は戻れないだろう」
町長が帰った後、そのまま二階のマーガレットの部屋に上がった。
そして、たった今マーガレットに依頼の内容を伝えたところだ。
マーガレットは、ゆっくりとソファに座った俺び上に跨り乗って来た。
周りに人がいないときは、ときおり甘えるように抱きついてくる。
俺の両肩に置いた手は温かく、指は長くしなやかできめ細かな肌で産毛一つ生えていない。こまめに手入れをしているのだろう。
「いつも綺麗な爪をしている。美しい指だ……」
「指なんて褒められたことないです……うれしい」
対面で見つめ合うと、ブルートパーズ石のように透き通った青い瞳は美しい。
俺は、マーガレットの腰と背中に手を回して抱き寄せ、口づけした。
「いきなり……口づけとか、まだ明るいのに恥ずかしいです……」
「明るいからいいんだ」
「そ、そんな……明るいところで私の……見たいだなんて……」
顔を真っ赤にして、うつむくと何に興奮しているのかわからないが、可愛いやつだ。
もう一度口づけをすると、俺は、マーガレットを降ろして立ち上がりタバコに火をつけた。
「大した仕事ではない。心配しなくても必ず戻ってくる」
俺は、窓から外を見た。ちょうど裏庭が真下に見え、キッドとティルシーが剣の素振りをしているのが見えた。真面目にやっているようだ。
「どなたを護衛するのです?」
「あの爺さんの知り合いとしか聞かされていない」
町長の依頼は、カールトン国の南部の町「アルーナ」に、ある人を連れて行って欲しいというものだった。誰を護衛するのかは、当日まで明かせないという。
俺は、依頼の内容より南部の町アルーナに興味があった。
そこに、カトリーナに頼まれた踊り子がいるはずだ。
放浪の踊り子だ。今はアルーナにいることは掴んでいる。
それだけでなく、大陸南部にあるスティハーン国との境でもあり、アルーナの街は興味深い。まだ一度も訪れていない街だ。何か商売のネタが拾えるかもしれない。
マーガレットは、机の上にあるグラスに水を注ぐと、一口飲んでから俺の前に置いた。
「どれくらいニブルを離れることになるの?」
「九日後には戻れるだろう」
そんなにかかるのですねと、寂しそうな顔をする。
「連れて行っては欲しいけど、邪魔になりますよね」
「危険な地域を通ることになる。今回は少人数だからお前を危険に晒すことはできない」
国境付近には樹海があり、魔物が跋扈する地域だ。魔物は、古代神話の時代に闇の女神が生んだ異形の生き物で、ダンジョンにいるモンスターとは違う。
魔物の樹海を通る必要はないが、何が起こるかわからない。
「では、また一緒に行きましょう。私もアルーナに行って見たいわ」
「ああ、いつか、ティルシーやアナベルも連れてみんなで行こう。いい温泉もあるらしい」
南国は火山が多いためか、良質の温泉が湧いている場所が多いと聞く。
カールトン国も温泉が湧くが、俺の家のように湯をためた湯船を持つ風呂は、町人にはまだまだ普及していない。
そのため、温泉は町人や貧民にとっても憩いの場となっている。
「男女が一緒に風呂に入るのもたまにはいいだろう」
俺の言葉に、即座に反応してマーガレットが、耳まで顔を真っ赤にする。
……しまった、振ってしまった。
「男女が一緒に? んんぅ……男の人と風呂で裸の見せ合いなんて、ああん」
太ももを擦り合わせて、身をよじるマーガレット。
この女は、ちょっとした言葉で急に淫乱癖が出てしまうのだ。
妄想が激しいというか、急にエロくなり妄想がはじまる。
こうなると長いため、俺はマーガレットを残して部屋を出た。
部屋を出ると、扉の外にフェリーチェが立っていた。
俺の顔を見て、微笑むとすかさず左腕にしがみついてきて言う。
「キスしてらしたようで、お姉さまと仲がよろしいかしら」
「聞いていたのか? 趣味が悪いな」
「聞こえて来たから聞いていただけですわ。私にもキスしてくれるかしら」
フェリーチェが目を瞑り唇を突き出したので、手の平で押し戻す。
「うぷぷっ、ちょっと何をするんですか! レディの顔に手を押し付けないでくださらないかしら」
慌ててフェリーチェは、俺の手を押し戻し、両手で顔を払う。
その仕草がおかしくて、俺は笑ってしまった。
この屋敷に連れて来たときは、塞ぎ込みが違ったフェリーチェだったが、元気になったようで安心した。
「子供のお前には、まだ早い」
俺をキョトンと見つめるフェリーチェの手を取って言うと、手を握り返してフェリーチェが言う。
「まあ、私はこれでも立派な女ですわ。まだ胸は蕾ですが、薹が立ったお姉様方より将来育った時の楽しみがありますわ」
「それは失礼なことを言った。では、唇を出せ。さっき、マーガレットにしたこの口でいいのならな」
「ややっ、それはイヤ! 洗ってきてくださるかしら」
大げさに嫌がるフェリーチェを見て、おかしくて笑う。
「また今度だ」とフェリーチェに言うと手を引いて一階に下りた。
フェリーチェは、俺と手を繋いで歩くのが嬉しいのか、おとなしくついてくる。
父親を何者かに殺されたフェリーチェは、このベルの屋敷で世話になっている。
そして、フェリーチェの仲間だった者たちのほとんどは、竜牙会に入った。
フェリーチェにとって、仲間と離れて見知らぬ他人の家で過ごすのは不安も多いだろう。
しかも、まだ十三歳だ。
「フェリは、アナベルとは仲良くやっているのか」
「アナベルとは、毎日一緒にお風呂に入っていますわ。仲良くしてるほうかしら」
アナベルは十二歳、フェリーチェは十三歳だ。
歳も近いのはいいが、アナベルは人見知りが激しい。
だが、アナベルは素直でいい子だが、ずる賢く狡猾な一面がある。
そのため、見えないところでいじめられていないか不安だったが、大丈夫そうだ。
冒険者ギルドには、多くの冒険者が談話所で談笑していた。
今日の成果をパーティごとに話し合っているのだろう。
だが、メイド服に身を包んだ金髪の美しい少女を見た冒険者たちは、一瞬静まる。
あからさまに、「可愛い娘がおるぞ」と指を指す奴もいたがフェリーチェは気にしないようだ。
おそらく、毎日こんな風に冒険者に好奇の目で見られているのだろう。
俺は、そのうちの空いている席に座ると、フェリーチェも横に座る。
「どこに行くのかと思ってついてきたら、ここでおしゃべりするのかしら?」
キョロキョロとギルド内を見回すと、冒険者たちと目が合うたびに小さく手を振った。なるほど、この年齢で男どもを手玉にとる方法がわかっているようだ。
「フェリは魔法が使えるが、誰に習った」
俺は疑問に思っていることを単刀直入で聞いてた。
あの日から、なるべく過去のことは聞かないように気を使っていたが、もう大丈夫だろう。
「お母様かしら。私のお母様は魔術師でしたわ。私が十歳の頃に病気で亡くなったけど……」
「そうか。悪いことを聞いた。すまない」
俺は、フェリーチェの肩を抱き、あやすようにポンポンと肩を叩くとフェリーチェは平気よと答えた。
魔術師の母親から習ったということは、フェリは魔法を使う素質があると母親が気づいたってことか。
「お前の父親が殺された時のことは、何か知ってるのか?」
「いいえ、何も知りませんわ。組のみんなが、あなたに殺されたと言っていたから、私もてっきりあなただと……」
「それなんだが、組の者は誰に聞いたのか知ってるいるか?」
フェリーチェは、ルーセン杉の机を、指先でトントンと叩くと指を横に振る。
やはり知らないか。
ナミに調査させているが、元悪魔爪組の構成員たちは皆同じように知らなかった。
誰かに吹き込まれたとしたら、その発信源があるはずだ。それがわからなかった。
一体誰が、何者から聞いたのか……。
「へー、こんなところで二人で休憩してるんだー」
ティルシーが練習が終わったのか、ギルド内に戻ってきた。
「俺は、しばらく仕事でアルーナに行かなければならない。十日は戻らないから、俺がいない間にもっと強くなれ。それと、フェリも一緒にダンジョンに入るから三人での戦い方をアスガーに習っておけ」
「はいはい。連係できるように練習しますよ。いいなぁ、アルーナかぁ。果物が美味しいらしいから、買ってきてね」
ティルシーは両手を合わせてお願いねと、念を押す。
そして、カウンターの裏の扉から二階に上がって行った。
「フェリも、しっかり練習しておけ。狙ったところに魔法が打てるようにするんだ。今のフェリだと、味方にも当てかねない」
「確かに、まだその点は反論できませんかしら。でも、どこで練習すればいいかしら」
俺は、カウンターにいる元勇者ベルのパーティメンバーを指差して言った。
「あのおじいさんに頼め。元勇者のパーティで魔法で炎竜を倒した男だ」
「嫌ですわ。もっとシュッとした若い男の人がいいですの!」
「そう言うな。あの人ほど適任はいないんだ」
「そこまで言うなら、わかりましたわ」
俺は、事前にフェリーチェの指導を頼んでいる。
だが、自分でお願いして指導してもらうことにした。それも、この娘のためだ。今まで組長として担ぎ上げられ、男どもが自分のために右往左往して世話を焼いてくれていた時とは違う。
なんでも自分でできるようにしてやるのも、俺の務めだ。
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