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第二章:勇者ベルと三姉妹
第六話:冒険者ギルド
しおりを挟むニブルの街は、カールトン国で第三の規模と言われている。
王都との距離も馬で2日もあれば行けるため、人の往来も多い。
特に、この国に唯一あるダンジョンは、最上階の階層主が炎竜のため赤茶色の円柱状の塔になっている。
現在では多くの国民はダンジョンのおかげで資源が冒険者によって持ち帰られることで恩恵を受けている。
ダンジョンができた経緯や、伝説は諸説あるが、古代王国滅亡時に神々が善の心を一切持たない種族だけを閉じ込め、番人として神獣の竜を置いたという話がこの国では信じられていた。
神獣を倒すほど優秀な民を増やすことでこの世の安泰を神々は願っているのだと、ダンジョン入り口に上位古代文字で示されている。
このダンジョンを攻略した者が約十年前に現れた。それが、人間、エルフ、ドワーフで構成された冒険者四名のパーティだった。当初七名で挑んだが、途中で命を落とし最終的に残ったのが四名だった。
今まで多くの国家騎士、近衛兵、冒険者、そしてエルフ族などの数多の種族がダンジョン攻略後の報酬目当てで挑戦し、炎竜に敗れていた。
古代王国時から4000年もの間、無敗だった炎竜。それを打ち取った冒険者の4名をカールトン国は英雄と称えた。
パーティーの中心人物であるベル・オーガストは、多くの金銀財宝をカールトン国に献上した。
そのため、カールトン国から勇者の称号をベルは与えられ、ダンジョンの管理と運営を委譲されたのだった。
ベルたち四人は、ダンジョンの横に豪邸を建て、そこの一階に冒険者ギルドを作った。
その後もダンジョン攻略を目的とした『攻略冒険者』や、資源やアイテムを獲得する『職業冒険者』は、ダンジョンに入るときには必ずギルドに立ち寄り受付をすることになった。
入場許可を取って入ることで、生存と帰還の管理を行うのもギルドの仕事の一つだからだ。
冒険者ギルドの入り口を開くと、真正面にカウンターがある。
カウンターの裏には書棚となっていて、多くのダンジョンやモンスター情報が示された文書が並べられている。
書物の古いものは板や樹皮に書かれていたようだが、ベルは現在主に使われている木材の繊維と小麦で作られた紙に古文書の情報を写し、紙で保存していた。
黄土色に変色した文書は、冒険者にとっては貴重な情報だが読み書きができない者が多いため、読んで聞かせるのもギルドの仕事だった。
その文書を読み聞かせる仕事を、ベルの三人娘の長女マーガレットが担っていた。
カウンターの中には三人の老人が受付係をしている。この三人が炎竜を倒した英雄たちだった。
煉瓦造りのオーガスト邸の1階は大変広く、その半分以上は談話室となっている。
談話室には黒光りする木製のテーブルと大きなリザードマンが座っても余裕があるほどの大き目の木製の椅子が複数おかれている。
広さは、おおよそ数十組が入れる程度だろう。
「どうぞ、こちらにお掛けください」
アスガーは、俺とキッドを談話室の一角にあるテーブルに座るよう案内してくれた。
キッドは、ギルドに入ると物珍しそうにキョロキョロとギルド内部を見回している。
俺から見ると大したことのないギルドだが、キッドには目新しいものばかりなのだろう。
特に、受付の横の壁一面に貼られた商会ギルドからの資源募集の依頼にキッドは目を止めた。
「すみません、アスガーさん。あの掲示物はなんですか?」
「あれは、ダンジョンでドロップするアイテムや、資源を買い取るという依頼が書かれている」
「冒険者はあの依頼を受けてダンジョンに入るってことですか?」
キッドは目を輝かせてさらに聞いてきたが、アスガーは表情を変えずに答えた。
「いいや、依頼を受けなくてもダンジョンには入れるよ。例えば、職業冒険者は依頼を受けて資源を集めて売って生計を立てているが、攻略組と言われている冒険者は依頼を受けずにダンジョンに入るんじゃ」
「何れにしても受付に行けばいいんですね」
冒険者志望のこの少年は、ギルドもダンジョンのことも、冒険者がどういうものかもわかっていないようだ。
いくつか質問してきたが、アスガーは嫌な顔をせずに答えてやっていた。
その後もキッドは、聞きたいことがあるようだったが、俺は話を本題に戻す。
「ダンジョンの話はまた今度だ。まずは、何故冒険者になりたいのか話せ」
少々イラついた口調になってしまった。
キッドは俺が怒っていると思ったのか、慌てて俺たちに正対するように椅子に座りなおした。
「僕はジャックグリーンから来ました。父は村長をしていましたが先日他界しました」
ジャックグリーンは東地区のずっと北にある山岳地帯だ。
エルフの里がジャックグリーンの近くにあったので、俺も村の名前だけは知っていた。
「お前の父が死んだことと、お前が冒険者になることに何か関係があるのか?」
「はい、父は昔この街で冒険者をしていたそうです。この剣は父から譲り受けました」
そういうと、机の脇に立てかけていた両手剣を指さした。
「その防具も父親のものか?」
「いえ、これは山の中で死に絶えていた人が着ていた物を外してもらってきました」
キッドがそう言うと、アスガーと俺は顔を見合わした。
死体から武器や防具を剥ぎ取ることは、よくある話だが、村長の息子なら防具くらいは買えるだろう。
「何か事情があるのですな…… よかったら話を聞かせてもらえませんか?」
俺とアスガーは、キッドに冒険者になろうと思った経緯を聞いた。
その話は、取り立てて話題にするほどのことではなく、父が冒険者の頃の武勇伝を、小さな頃から聞かされて育ったキッドが、冒険者に憧れている、と言うことだった。
だが、キッドは生半可な気持ちではないと言うこともわかった。きっと、彼には大きな目標があるのだろう。
目の輝きは、悪くはなかった。だからこそ、俺もキッドの話を聞く気になったのだ。
「キッドは、剣は使えるのか? どれくらい練習してきたんだ」
少し意地の悪いことを聞いていると言うのはわかるが、あの大きな両手剣はキッドには不相応だ。
だから本当に使えるの気になっていた。
「僕は父から物心ついた子供の頃から剣を習っていました。剣なら使えます」
「そうか…… モンスターを倒した経験はあるのか?」
「それはまだ……でもきっと倒せるはずです」
「甘いな、小僧。倒したことがないモンスターを、たぶん倒せるだろうという甘い考えでは、冒険者としては失格だ。冒険者は、未知のモンスターと戦うときは生き延びることを最優先しなければならない。たぶん倒せるだろうで挑んでも、多くの場合はやられてしまう。だから、情報と経験が大切になる」
キッドは、ハッとした顔をしてから小声ですみませんと頭を下げた。
まだ少年だ、今は経験がなくてもいずれは経験を積み、階位を上げていくだろう。
「はっはっは、キッドさん、そう落ち込むことはない。セイヤさんがピシャリと言ってくださったということは、見込みはあるということですぞ」
アスガーは、白髭を撫でながらキッドに優しい笑顔で言うと、受付にいるティルシーに手招きする。
ティルシーは、俺たちの方を気にして遠巻きに見ていたが、アスガーが手招きすると走ってやってきた。
「キッドさん、今のあなたの腕前がどれくらいかわからない。だから、このティルシーと模擬戦をして見てはどうじゃ。それで、凡その剣の腕と、階位がどれくらいかがわかる」
「えっ、ティルシー……さん、とですか?」
「そうじゃ。この子は、わしが小さな頃から鍛えてやっている。お前さんも父親から小さな頃から剣を習っていたのだろう? だったら、勝負してみてはいかがかな」
ティルシーとキッドを戦わせてみるというのは妙案だ。さすが元勇者のパーティにいただけのことはある。
アスガーの後ろに立ったティルシーはふんぞり返って、すでに勝ち誇ったような態度をしている。先ほどのような挑発的なことを言わなかっただけマシだ。
「ティルシーよ、ちょっと木剣を二つ持ってきておくれ」
ティルシーは、嬉々とした様子で木剣を取りに倉庫の方へ消えて行った。
彼女がいなくなったことを確認すると、アスガーは俺に耳打ちをしてきた。
「キッドさんの父親は、私も存じ上げています。ちょっと有名な冒険者だったんです」
<つづく>
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