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第一章:仇討ち
第五話:クリープヒルから出立
しおりを挟む「兄貴、おはようだどー!」
「朝から元気がいいな」
事務所のドアを開けて勢いよく入ってきたのは兎人族のナミだった。
ナミは背が低いため子供っぽい服を着て擬態しているが、本当は15歳くらいなはずだ。
見た目は幼女に見える。ただ幼女にしては胸の発育はいい。
クリクリした大きな瞳と長いまつげ、少し大きめの前歯がキュートなやつだ。
俺は、ナミとの付き合いは2年も経っていないが頼れる相棒だ。
「兄貴にいい情報を持ってきたど」
「そうか。 悪いが少し待ってもらえるか?」
ナミは椅子に座ったサリーとララを交互に見た。
朝から来客があったことが予想外だったのだろう。慌てたように、言った。
「あ、お客さんだったのか。それじゃ、あとで来るどー」
「少し外で待っていてくれ」
「了解だどー」
ナミは手を挙げて俺に、後でねって合図を送ってから事務所を出て行った。
どうせ外で聞き耳を立てているんだろう。
サリーの部屋と店の契約を終わらせると、ララの今後について話をすることにした。
「とりあえず、ララは住むところはどうするかだ」
「ええ、でもお金がないので部屋を借りるにしても借金をするしか.....」
「それならあたいと一緒にしばらく住んでいいよ」
「そんな、ご迷惑じゃないかしら」
「大丈夫だよ。ベッドは1つだけどソファーをおいて、そこで寝てもいいし、あたいは床でもいいからさ」
「ま、まさかサリーさんに床に寝させるなんてできませんっ!」
「冗談だよ。本当に、うちに来たらいいよ。ちょっとボロくて狭いけど」
「おいっ、聞き捨てならないぞ」
「あはははは、冗談だよ。セイヤには本当に感謝してる」
ララは結局サリーの部屋に同居することになった。しばらくサリーの武器屋の店番でもさせていたらいいだろう。
「サリーにこき使われるかもな」
「まさか、そんなことしないよ。仕事が見つかるまで、うちで店番や買い物のお使いをしてくれたらいいよ」
俺はララを観察して見たが美人ではないが醜いわけではない、いたって普通の女だ。
髪は金髪で肩までの長さがあり、軽いウェーブがかかっている。鼻筋も高く、目も大きくてはっきりした顔だちだ。
体型も引き締まっていて、無駄な贅肉はなさそうだ。
服の上からでもララの胸はしっかり主張しているので、酒場で働けば人気が出るだろう。
カラダを売るわけではないが、いまはサリーの店で働いて、心労が癒えたらどこか安心して働ける酒場で働くのも悪くはないだろう。
リーファに会ったら、相談してみるか。
サリーとララの用事は終わったので、店の外まで見送った。
「サリー、店にはまた寄る。俺の武器を作る約束を忘れるな」
「わかったよ。あたいの技術の全てを駆使して作ってあげる」
「ララは、サリーの店の手伝いをしてくれ」
「はい、サリーさんの恩返ししないといけませんから、しっかり手伝いますね」
俺はふたりが通りの角を曲がるまで、見送っていた。
「ナミ、もういいぞ」
「はいな! お待ちかねだど!」
建物の隙間から、ひょこっと顔を覗かせてナミが笑顔で出てくる。
待っている間も、中の会話を聞いていたのだろう。
「朝から女が訪ねてくるとは、相変わらず兄貴はモテモテっ」
「いや、今回は人助けのようなものだ。それより何かわかったか?」
「ジョーってヤツのこと調べたど!」
「ビズリーにいるらしいな」
「さすが兄貴、もう知ってるんだ」
「ああ、昨日ちょっとな。俺に絡んできた奴らがいたからシメてやった
「ひゃぁーー。兄貴に絡んできた奴がいたの?無鉄砲すぎるど!」
ナミが持ってきた情報では、ジョーがビズリーの廃農園をねぐらにしていることだった。
昨日のあいつらの話と一致している。おそらく間違いない情報だろう。
「ナミ、さっそくビズリーに行くんだが、ついてくるか?」
「もちろん!」
俺は、黒い上着を着た。いつも着ている俺の戦闘服だ。
上下とも色は黒だ。この街では黒い服を着ているものは魔法使い以外には見かけない。
俺のような、白い大きな襟のシャツに正装のような黒い上着を着たやつを見たことがない。
しかも、俺のズボンのポケットは魔法袋になっていて、ポケットに押し込めばいくらでも物が入る。
取り出すときも、頭で思い浮かべるだけで取り出せるので便利この上ない。
だから、俺の魔剣もズボンの中に入れることができる。敵からしたら丸腰に見えるので油断させるにも都合がいい。
「ナミ、朝めしは食べたか?」
「まだ食べてないど。兄貴と一緒に食べに行くど!」
ナミは大陸の南方の生まれなのか訛りが独特だ。もしかして獣人の中でも兎人族特有の語尾なのか。
一度同じ兎人族だけで話し合っているところを見て見たいものだ。
俺とナミは朝市をしている西地区の中心部に来た。
西地区はちょうど真ん中にゆるい丘になっており、クリープヒルと呼ばれている。
短い草が生えた丘で、クリープヒルを囲むようにマルシェが建ち並んでいる。野菜に果物、肉なども売っているが、調理した飯を出す店もあるので、そこでナミと食べることにした。
「いらっしゃい。セイヤさん、ナミさん、おはよう」
「おはようだど! おばさん、いつもの」
「俺もいつものでいい」
「はい、いつものね。いつも同じもの食べて飽きないかい?」
「美味しいから毎日食べても平気だど」」
俺は自炊はしないので、毎日ここで食べている。ナミとも何度となく来ているので顔なじみだ。
ここで出す飯は美味い。新鮮な野菜と肉を使っているからというのもあるが、この店の女性の調理の腕前は素晴らしい。
この国では野菜を生で食べることは稀だ。ほとんど焼くか煮る。
しかし、この店は生で食べることができて草っぽい青臭さがないのだ。肉料理も朝から胃がもたれない脂身のない鶏肉を茹でたものがメインだ。
料理はシンプルだが、毎日食べても飽きることがない。しかも、食べ過ぎない程度の量だ。
西地区は冒険者が多いため、味や質より量を優先する店が多い。
しかし、この店は女性の客が多いのはこの生野菜と脂身のない肉料理がウケているからだろう。女は食にも気を使うもんだ。
「ねぇ、兄貴。すぐにジョーを探しに行く?」
「あいつらは夜は起きていて、昼過ぎまでは寝ているだろうから飯を食べたら行くぞ」
「寝込みを襲うの得意だもんね」
「おい、俺はそんなことはしないぞ。たとえ女でも寝込みを襲うような卑怯なことはしない」
「ごめん、ごめん、冗談だど!」
ナミが何やら含みのある笑い方をして言い訳した。
最近ナミは、俺が女たちのところに行くと、決まって不機嫌になる。どうやら女としての自覚が出て来たようだ。
ナミは背は小さいが大人の女性だ。結婚もできる年齢だろう。男を意識しても良い頃だ。
ビズリーの集落は、ここから近くはない。今から行けば昼前に着くだろう。
さっそく、ナミと一緒にジョーを見つけるべくビズリーへ向かった。
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