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第一章:仇討ち
第四話:二人の少女
しおりを挟む当時悪華組は西地区を牛耳っていた。
一大勢力の悪党集団と言われていたが、それをたった一晩で俺が叩き潰した。
そのことは翌日には街中に知れ渡ったが、俺はニブルの街に来たばかりで名前を知られていなかったため噂に尾ひれがつきまくって極悪非道人のように伝わっていた。
もちろん、俺の姿や名前を知っているのは西地区の者でも一部の人だけだろう。
この東地区では、ほとんど噂も忘れらているはずだ。
さて、6人の男たちは肩を落とし、これから自分がどうなるのか不安でたまらないらしい。
『おい、俺たちどうなるんだろう?』
『しらねぇよ。殺されるか、ひどい目に合わされるのかも……』
『ヒェッ!やっぱやめといたほうがよかったんじゃね?』
『仕方ねぇだろ、やれって言われたんだから』
男たちはすくみあがって、小さくなっている。
俺は、ヒソヒソと話をしているのを黙って聞いていたが、最後の言葉に引っかかった。
「おい、やれって言われたって? 誰にだ?」
「あっ、いえ。なんでもないです」
「そうか、言わないんなら言いたくなるようにしてやろうか」
俺はズボンのポケットから鋏を取り出した。
「これは何か知ってるか?」
「いや、知らない。それでに何しようてんだよ!」
「これは鍛冶屋が熱した刃を掴む道具なんだが、これで舌を引きちぎることができる」
「ヒェ! や、やめてくれよ。わかったよ、わかったから」
まさか本当にそんなことはしないが、いい脅しになった。
俺のズボンのポケットには数々の道具や、書物、食べものも入れてある。
「じゃぁ、ひとつ教えてくれ。お前たちは誰かに命じらえて俺を襲ったのか?」
男たちの話を要約するとこういうことだ。
自分の女が金を持ち逃げしたのを助けた俺にぶちのめされ、逃げた男が東地区に戻って来たところ男に声をかけられた。
お前の女を助けた男を叩きのめして欲しいと言われ、前金で10ガメル金貨を6枚くれた。
俺に恨みを持っていたので、二つ返事で請け負って知り合いの男たちを集め、俺を追って来たらしい。
「その男というのは、誰だ?」
「しらねぇ。帽子をまぶかにかぶっていたので顔も良く見えなかった。見たことないやつだ」
「お前たちはどうだ?」
「俺たちは、こいつから誘われただけで依頼主がいたことさえ知らなかった」
「そうか。だがお前たちもこいつと同罪だ。この場で頭を胴体から切り離してやろう」
「わあああ、堪忍してくれ!!お願いだ!」
「何も知らないんじゃ、役立たずもいいところだ。死んで詫びろ」
「やめてくれ、わかった、わかったから」
「何がわかったんだ?」
「本当は知ってるんだ。そいつのことを」
「じゃぁ話すんだな」
「でも、俺から聞いたって言わないでくれよ。その人もおっかない人なんだ」
「わかった。お前から聞いたとは言わないでおこう」
「そ、そいつはジョーってやつだ」
「ジョーだと!そいつはどんなやつだ」
男はジョーが悪党で、女を騙しては奴隷商人に売り飛ばしたり娼婦にして金を巻き上げていること、この国ではなく他国から流れ着いた者だということを話した。
「ジョーは今どこにいるんだ?」
「ジョーは、いつもビズリーの潰れた農園の家にいる」
ビズリーとは、この場所スラッツ(だらしない女)の北側にある一帯の集落のことだ。
東地区の中は北と南に分かれていて、北側ビズリー、南がスラッツとなっている。
「ビズリーの潰れた農園だな」
「ああ」
「今度、俺の前に姿を見せるな。それと女を大切にしろ、女をいたぶるやつは容赦しない」
「や、約束する。本当だ」
「今日のところは、お前たちのやったことは見逃してやる」
「すまない。本当に悪かった。もう二度とあなたには逆らわない。誓う」
俺は、ポケットから10ガメル金貨を1枚ずつ男たちに手渡した。
「こ、これは? ……もらえるのか?」
「ああ、お前たちの服を切ったからな。それで新しい服を買え。それで上等な服が1着買えるだろう」
「いいのか? …… 俺たちはあなたを襲ったのに」
「襲われたうちには入らない。お前たちは弱すぎる。いいんだ、持っていけ」
男たちは、金貨を受け取ると俺に会釈をして、そして逃げるようにして走っていった。
もう明け方近くになっていた。これからビズリーに行ってもジョーがいるかわからない。
とりあえず今日は帰って、明日ナミに聞いてみるか。
◇◆◇◆◇
翌朝、俺は自分の事務所にきていた。
事務所と言っても、机と椅子がある程度だ。
看板も出していないので、事務仕事をするだけの場所だ。
この街では店という言い方が一般的だ。
ここかなぁ、と女の声がドアの外から聞こえてきた。
サリーだろう。
俺は、ドアを開けてやった。
「あっ、セイヤさん!おはよう。ここで合ってた、よかった」
サリーは、俺の事務所に無事にたどり着いてホッとしたようだ。
サリーの後ろで、背の高い女がぺこりと頭を下げる。昨日の女だ。
「どうだ、昨日はよく眠れたか?」
「いやー、それが二人で意気投合しちゃってさ。話していたら朝が来たって感じで......」
えへへ、と頭をぽりぽり書きながらサリーが言った。女も微笑んでいる。
どうやら落ち着いたようだな。やはり、サリーと一緒にいさせたのがよかった。
「あのー、申し遅れました。わたしはララ」
「俺はセイヤだ。二人とも、とりあえず入れ」
「はーい、おじゃましまーす!」
サリーは事務所に入るなり、何もないねーって驚きの声をあげた。
悪かったな、ここは契約書を交わしたり、借用書を交わすための机があればそれでいい。
とりあえず、サリーの借家と店の契約をすることにした。家賃は一般的な金額だ。
サリーなら払えない額ではないだろう。ただ、店がうまく行くかどうかだ。
「サリー、店のほうはいつから開店だ?」
「道具はほぼ揃っているんだけど、鉄を溶かす炉が欲しいのとその他諸々の材料を仕入れなきゃ」
「当てはあるのか?」
「当てはある。あたいがこの街で修行していた頃からの知り合いがいるんだ」
「そうか。何か困ったことがあったら、いつでも言え」
「ありがとう、セイヤさん」
「ところで、ララ。昨日蹴られた腹はどうだ、痛むか?」
「いえ、もう大丈夫です。心配かけてごめんなさい」
「ララはこれからどうするのだ?娼婦を続けるのか?」
「いえ、仕事も身体を売るのはもうやめます。好きでやっていたわけじゃなかったので。それに、住む家もあの男と一緒にいた部屋には戻りたくありません」
そうだろうな、男に無理やり娼婦をさせられていたんだ。何か良い仕事先を紹介してやってもいい。
「仕事も家も何もないのか。ララは何か得意なことはあるのか?」
俺は、ララは本来はいいところの家庭に生まれてきた子ではないかと思っている。だから人当たりも悪くないと思っていた。
「えっとー、これといって得意なことがなくってぇ」
「そうか。じゃぁ質問を変える。ララの好きなことは…… 」
「あたいは武器作りだ!」
サリーが話の途中で割り込んできた。
「お前には聞いてない!」
「ごめーん、つい会話に入りたくなっちゃって」
ペロリと舌を出したサリーは、ララの方を見やるとララは言った。
「えっと、好きなのはおしゃべりかな。人と話をするのが好きです」
「そうか、酒は飲めるか?」
「お酒は、あまり得意なほうじゃなくて、すぐ酔ってしまって」
「どれくらい飲めるんだ?」
「エールなら大ジョッキで30杯くらいしか......」
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「俺の知り合いに酒の強い女がいる。リーファというダークエルフだ」
「えっ、リーファさんってあの?」
「知ってるのか?」
「はい、お酒の飲み比べをしたことがあります。あの時は互角で、勝負がつきませんでした」
それはかなり酒に強いぞ。リーファは俺の知る限り酒がめちゃくちゃ強い。
それと互角とは、胃袋がドラゴン並みだぞ。
その時、扉が勢いよくバーンと開いてナミが姿を現した。
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