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天国のような地獄の始まり

火神山の魔法使い

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1年生教室練 廊下

教室の扉の前に白い紙が貼っていた。多分クラス分けの紙だ大体人クラス20人ぐらいで合計で5クラスあるし、大体1学年100人ぐらいか。

名前を探した、一応手続きしてもらって生徒ってことになってるからな。学園長先生が裏で手を回してくれたおかげで入学試験とか受けずにモノホンの裏口入学してしまったけど、今のところ通りすがる先生に何と言われてないから大丈夫なはずだ。まあそれが原因で退学になっても元の世界に帰ってまた不登校するだけだから別にいいけどさ。それに周りが注目しているのは俺じゃない、

「見ろよ、碓氷峠の魔法使いだ……」

「マナ底なしって噂のあそこだろ? 入試も主席だってよ」

「いくら学園長直属の使用人一家っつう家柄だからって入学式サボるとかやってんなぁ」

なぜかみんな碓氷峠くんを怖がっていた。別に猫の尻尾や耳を怖がってるんじゃあないと思う。だって周りにも犬っぽい尻尾や馬みたいな耳、さらにはコウモリみたいな羽根を背中に持っている人がちらほらいるからだ。普通に動物の見た目な奴も普通にいるし、むしろ完璧に俺の知る人間のままなやつの方が珍しいと思う。

「あ、あったぜ慎太郎。1年1組だ、同じクラスだぞ」

「え? ……あ、ほんとだ」

指差す先には確かに俺と碓氷峠くんの名前があった。たまに何言ってんのかわからなくて怖いけど、右も左も分からない状況で一緒にいてくれるのは嬉しい。後は寮が一緒かどうかだよなぁ……

「え、誰だよアイツ」

「あんなん入学式にいたか?」

「碓氷峠の魔法使いとダチになるなんて信じらんねえ……しかもあいつも入学式サボりだぜ」

碓氷峠の魔法使い……コレもあれなのだろうか、魔法使いの家柄の話。いい家系もあれば悪い家系もあり、それ以前な訳ありもある。意外と生まれが肝心らしい魔法使いの世界は現実世界とはまた違う苦労がありそうだ。ここまでこだわるなんて、ひょっとしたら産まれついて持っているマナの量や、将来的な成長率は遺伝なのかもしれない。

それにしても俺までこんな目で見られるなんて、早く行こうと手を引かれる。そうだな、俺はともかく本人である碓氷峠くんはこれ以上辛い思いしたくないよな、そう思いついて行こうとした。しかし邪魔者というか、知らない人が現れる。

「なあ君、碓氷峠の魔法使いと仲良いんだって?」

「え? は、はい……?」

話しかけられた瞬間、碓氷峠くんの目がギラリと光った。話しかけられたくない人なんだろうか、仲悪いのか? あと素朴な疑問だが碓氷峠の魔法使いって言い方は良くないと思う、そんな言い方してるから仲良くなれないんだ。もっと親しみやすいさん付けとか君付けとか、あと俺は勇気ないけど下の名前で読んでみるとか、もっと色々あるだろう。

呑気に仲良くなる方法を探すようなタイミングではないんだろうけど、碓氷峠くんの今後を考えるとつい口出しをしてしまった。こんなんだからもといた学校でも浮いてしまうんだろうか。しかしこの男の子もややというよりかなり特別らしく、周りが再びザワザワし始めた。

「アイツ火神山の魔法使いじゃね?」

「あれも1組だったはずだ……」

「は? 1組魔境すぎだろ」

火神山の魔法使いという事は、アレだ、碓氷峠と同じ凄い家なのかな。山羊のような後ろに伸びる螺旋柄の長いツノが目を引く、寝返り打つのに苦労しそうな頭だと大きなお世話かもしれないが考えてしまった。生まれが大事というより意外と権威主義な魔法の世界、こういう所は現実味がありすぎて少し辛いかもしれない。

「初めまして、私は火神山角乃《かがみやまかくの》、皆が知っての通り火神山の魔法使いだ」

あ、碓氷峠くんと違って普通に自分から火神山の魔法使いだと言うんだ。まあコレばっかりは価値観の問題か。

「なぁに怪しい一族ではないよ、代々この学園の護衛騎士団長を務める家柄でね。碓氷峠の魔法使いが見えて挨拶をしたかったのさ」

ああ。そんなに怖い人じゃなさそうだ、ただ挨拶したかっただけみたいだし。なら少しぐらいは返すのが礼儀ってもんだろう。でも初対面の人間は怖い気持ちはあるから、碓氷峠くんに待っててねと、置いていかないでね伝え彼の前へ行く。

「お、おい!」

「初めまして。その、碓氷峠くんの友達の、関根慎太郎です」

「初めまして関根慎太郎、お会い出来て光栄だ」

紳士っていうのかな、こういう人のことを。とても同い年には思えない態度に育ちの差を痛感しながら、それでも挨拶をやめない。

「あの、慎太郎って呼んでもいいから……火神山くんって呼んじゃあダメ?」

目を見開かれる、ひょっとして同い年の男の子にこんなふうに言われたことがないんだろうか。なら俺が友達第一号……ちょっと緊張してきたな、ふ、不束者ですがよろしくお願いします……

「____いいよ、慎太郎。君は優しくて、美しいね。好きだよ」

愛情表現がどストレートだ。周りから信じられないものを見るように見られつつ、気まずそうな碓氷峠くん入れて3人で1組の教室に向かった。
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