自分の好奇心が原因で魔法学校に来たんだから卒業ぐらいしてから帰れ

荒瀬竜巻

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天国のような地獄の始まり

内蔵マナは

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鞠田さんはまだ疲れているのかソファーにもたれかかった。コレに関して俺のせいだからとやかくは言いたくない、ただ俺に教えてくれたらそれでいい。勝者の権利であり散々罵声を浴びせられた詫びでもあるだろう。

「……その杖の内蔵マナははヤベェんだよ」

内蔵マナ、聞いたことのない言葉だ。体内マナと同じルールだとするならば、杖の中にあるマナ……みたいな感じだろうか。

「魔法を使うには杖のマナ必要だ、杖にどれだけのマナが入っているのかを示すのが内蔵マナというわけだ」

「そう、んで持ってどれだけ使っても術者と共に休むと回復する、最大値も経験を積んだり年数を重ねるほど伸びていく……お前の植物の杖をこのルーペでよく見てみろ」

どうやらこの虫眼鏡は魔法道具の中に入っている内蔵マナを見るものらしい。手に握った杖をそっと覗き込んだ。

内蔵マナ 658500/660000

お、多い……のか? 体内マナの目安が1年生の時は2000だったはず。そんで肝心の内蔵マナの平均はどれぐらいなんだ?

「改めて見るとほんとすげえな」

「……1年生が使うような新品杖の内蔵マナは同じく2000ぐらいだ」

……え? その、660000って学年で言うとどれぐらいのマナなんだ?

「660000なんて膨大なマナ6年生でも待つことはできない、それこそ大賢者レベルの歴史の人間でも持ってる奴は一握りレベルだぜ」

そ、そんなにか。確かに売れ残りというわけで最古参だったらしいが、まさかこんなにとは思いもしなかった。鞠田さん曰く、ここまでのマナがあればほとんどのマナを杖が肩代わりしてくれて上級魔法もゴリ押しで成功させることが出来るらしい。……改めてなんで俺を選んだんだろう。

「まあそればっかりはコイツの判断だからな。やっぱ可愛いから気に入ったんじゃねえの」

「いやそれはどうだろう……」

「可愛い見た目に限らず意外と怖えし……見抜かれてんじゃね?」

「貴方には言われたくないな」

あ、そういえば、鞠田さんの本名。気晴らしに聞いておきたい、本当の名前と後なんで隠しているのか。

「鞠田さん、その、貴方の口から本名が知りたいんです」

「な、なんだよ今更……」

あくまで知っているけど鞠田さんに正直に話してもらいたいですってのを装う。一瞬蒸し返されて不愉快だと子供でもわかるほど不機嫌そうな顔をされたが、名前看破(実はしてない)とあの杖に選ばれた一件のせいかどうやら俺に勝てないと諦めたらしく、意外と潔いというか、真面目に答えてくれた。

「……鞠田温冷

すごくかっこいい名前だ。あったかいけど冷たいなんて珍しいしそもそも苗字の鞠田ってのも珍しくていい名前だと思う。どうしてそんなにその名前が嫌いなんだ?

「え、お前熊殺しの鞠田を知らねえのか?」

「知りません。その、強そうですね」

「あーすまんこいつここいらの事あんま知らねえんだ」

話によると熊殺しというのは鞠田家が受けた不名誉な称号らしい。代々魔法医師の家系だった鞠田さんちのひいじいちゃんは医療ミスでとある村のシンボルであるヒグマを殺してしまったらしい。後にそれは当時裕福だった鞠田家を妬んだ悪い魔法使いたちのせいだってのが分かったらしいけど、それはもう鞠田家はヤブ医者だって捏造が広まり切ってしまった後で手が付けられず、今になっても鞠田家はダメな魔法一族として扱われているらしい。

「ひ、ひどい……」

「そんなこと言ってもな。まあこんな感じで魔法族にも家柄がいい奴とか悪い奴とか、俺のところみてえに訳あり一族ってのもいる」

「まあ学園長が本名隠しながら保健室で雇ってくれてるから、今はそんなに貧乏じゃあない、少なくともオレがガキの頃よりかは」

そうか、それほどまでに大変な思いをしてきたんだな。思わず抱きしめて左手で背中をポンポンする。……碓氷峠くんに回収されたのは5秒後だった。

「やめろ、そして今度は俺にしてくれ」

「な、なんか怖いから嫌だぁ……」

やけに切羽詰まった顔で迫られるのが怖くて今度は鞠田さんの影に隠れる。碓氷峠くんをどーどーとあやしつつ、俺を前に出した。

「はいはい喧嘩よせよ。あと、慎太郎、オレの名前のことは黙っとけよ。その、3人でいるときだけにしろ、いいな?」

随分と凄い迫力でどやされたから身が引いてしまう。とにかくわかりましたとだけ言ったら満足したみたいで、碓氷峠くんがそうしたみたいに頭をポンポンしてきた。

「じゃあ入学式も終わったと思うし教室行ってきます、流石にホームルームは出ねえとジジイ共に何言われるか……」

「はいはいはよ行け。おら慎太郎もぼさっとすんなよ、猫太についていけ」

おせわになりましたと一言だけお礼を言い、足早な碓氷峠くんを追いかける。もちろん大切な杖を持って。
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