小柄コンプを拗らせていた俺、魔術学校ものの異世界に飛ばされた挙句デカ男達から天使扱いされる

荒瀬竜巻

文字の大きさ
上 下
68 / 71
いつかは辿り着く

もう逃げないから

しおりを挟む
オカルトコーナーのあの本が置かれていた例のスペースに何故か鎮座していた赤い首輪。これを手に取った瞬間頭の中にはてなマークが大量発生した。俺が知っているこの首輪に関する情報は圧倒的に少ない。前触れもなく動いたりいなくなったりする得体の知れないJBからの戦利品ということのみ。

「……ん……さ……!」

「……ん? 声?」

静かな空間だったから音源はすぐにわかった。首輪だ。もう手がかりはこれしかない。ひたすらに耳を覚ました。

「……な……さい……! ハ……ん……」

「よく聞こえねえ……」

聞こえはしないが確証があった。この首輪もあいつらからの助け舟だという確証が。学園長の言うとおりに魔導書を初めて手に取ったところへ辿り着いた先にこれがあった。しかも光り輝いてる上になんか声聞こえるし。無関係とは思えないと俺の勘が言っている。

……なんだかムズムズするな。スマホの件といいあいつらから助けてもらったりアプローチされっぱなしだ。なんでいえばいいのかわからない。屈辱的? いや申し訳ないというべきか。とにかく俺からも声をかけてみる。

「……スター?」

その途端、さっきまでは手加減と言わんばかりの強い光を放った。そして次の瞬間には俺の体を包み込む。ああやっぱりあいつらも俺から声かけるの待ってたんかな……?

……

…………

……………………

すっかり聴き馴染んでしまった、それでいて待ち侘びた声が聞こえた。

「やった! ハジメくんに気づいてもらえたよ!」

「天使様ー!」

「スター顔拭け。顔から出るもの全部出てる」

「……いまから引っ張り上げる。もう大丈夫だぞ」

スター、JB、アナ、ジョセフ。待ち侘びた声達だ。何度も俺を困惑させたと同時に助けてくれた奴らの声が聞こえて心底安心する。いつの間にか図書室じゃなくて光ばかりの何もない空間にいたが、これってつまり俺が向こうの世界で助かるためにやらねばならないことを完遂したってことだろうか。もしそうだとすれば、これでなんとかなったんかな……? 俺頑張ったもんな。そうであってくれ。

「よーしホワイト、これでなんとかなりそうやな?」

「ああ。この首輪と鎖を彼が握った今、あとは綱引きの要領で引っ張り上げるだけだ」

「よかった……! 本当によかったよ!」

俺のために本気で泣いてくれているスターを見ると目頭が熱くなる。それはそれとしてJBの言うとおり顔は拭いとけよ。涙に汗に鼻水に涎にとせっかくのイケメンが台無しになるぐらい顔から出るもの全部出ている。

この鎖は向こうの世界に繋がっているのか、それてもあいつらのところに繋がっているのか。今はそれを区別する必要はなさそうだ。いずれにせよ鎖を握れば俺は向こうに行けるんだろう。力を抜いてあいつらに身を委ねた。





「……朝日奈さん!」

「ん……?」

疲れていた体が自然と起き上がった。誰かが俺を呼んでいる……? ずいぶん重くなってしまった瞼をもう一度開けた。

「朝日奈さん! 僕……挽回するね」

後ろからどんと衝撃が走る。何故だ、何故俺は虎杖に抱きつかれてるんだ。しかも思い。こいつ自分の身長が180オーバーなことを完璧を忘れてやがる。俺なんて150すらいってないのに。おかげで腕と口ぐらいしか満足に動かせないが、俺の場合口が無事なら問題ない。

「おいバカ離せ! このままだとお前も引き摺り込まれちゃうの! 二人諸共帰れなくなるの!」

「それでもいいよ。朝日奈さんを一人にしたくない。何よりあいつらに負けないためにも、もっときみと仲良くなる時間が欲しいな。もう遠目から見るのは辞めたんだ」

「やーかーまーしーいー!」

すごいこいつ早速俺が言う一人で見つめて一方通行で処理するのやめろを実行できている。そうなんだけど全然嬉しくねえ。虎杖をあの世界に連れて行って巻き込むなんてことしたくない。でもこいつはそんなもん知らねえ意地でもついていくといった心意気でがっしりとホールドしてくる。

「ごめんねわがまま言って。でも僕は朝日奈さんが見た世界を見たいんだ。遠くから思いを馳せると迷惑がかかるなら、せめて同じ視座に立ちたいんだ!」

……なんだよそれ。どうしてお前は俺が思ってもいなかったことを軽々と言葉にするんだよ。まるで俺がこいつを突き動かしているみたいじゃないか。いや事実そうなのか。

「僕は今までずっと朝日奈さんを遠くから見るだけだった。僕も君の隣に立ちたかったけれど、朝日奈さんのこと何も知らない自分なんかじゃそこに立つ資格がないからって自分の心を圧し殺していたんだよ」

「……」

「でも違った。そうじゃないんだ。外から見て満足してるふりしたって虚しいだけだ。押し殺して自己満足してても気が付いてもらえない。本当に隣に行きたいなら自分から動いて認めてもらわなきゃだってわかったから。何から何まで自分勝手だよね、僕」

……少し見くびっていた。顔だけは満点の感情激重なめんどくさいだけのやつだって。でも違った。あいつはきっと、好きな人間のためなら重くも強くもなれるってだけなんだ。ただそれを言葉にできていないだけで。

本当に俺はこいつのことを全然わかっていないんだ。自分が恥ずかしいわ。もう手遅れだろと自分を嘲笑ったが、それは裏を返せば虎杖と向き合うことができたからでもある。心の奥で虎杖への敗北宣言をした。

「僕は朝日奈さんの特別になりたいんだ」

なんて幸せそうに笑うんだろう。好きなやつのために行動できる人間ってのはきっとこんな顔をするんだろうなって思わせる顔だ。誰かを嗤って生きる奴ばかりを見たせいだろうか。そういう奴、俺は嫌いじゃない。

「ねえ朝日奈さん、僕じゃダメかな?」

「……ダメじゃない。__振り落とされんなよ!」

俺と虎杖は同時に光の中に吸い込まれた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

俺が総受けって何かの間違いですよね?

彩ノ華
BL
生まれた時から体が弱く病院生活を送っていた俺。 17歳で死んだ俺だが女神様のおかげで男同志が恋愛をするのが普通だという世界に転生した。 ここで俺は青春と愛情を感じてみたい! ひっそりと平和な日常を送ります。 待って!俺ってモブだよね…?? 女神様が言ってた話では… このゲームってヒロインが総受けにされるんでしょっ!? 俺ヒロインじゃないから!ヒロインあっちだよ!俺モブだから…!! 平和に日常を過ごさせて〜〜〜!!!(泣) 女神様…俺が総受けって何かの間違いですよね? モブ(無自覚ヒロイン)がみんなから総愛されるお話です。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

親友と同時に死んで異世界転生したけど立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話

gina
BL
親友と同時に死んで異世界転生したけど、 立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話です。 タイトルそのままですみません。

弟勇者と保護した魔王に狙われているので家出します。

あじ/Jio
BL
父親に殴られた時、俺は前世を思い出した。 だが、前世を思い出したところで、俺が腹違いの弟を嫌うことに変わりはない。 よくある漫画や小説のように、断罪されるのを回避するために、弟と仲良くする気は毛頭なかった。 弟は600年の眠りから醒めた魔王を退治する英雄だ。 そして俺は、そんな弟に嫉妬して何かと邪魔をしようとするモブ悪役。 どうせ互いに相容れない存在だと、大嫌いな弟から離れて辺境の地で過ごしていた幼少期。 俺は眠りから醒めたばかりの魔王を見つけた。 そして時が過ぎた今、なぜか弟と魔王に執着されてケツ穴を狙われている。 ◎1話完結型になります

第二王子の僕は総受けってやつらしい

もずく
BL
ファンタジーな世界で第二王子が総受けな話。 ボーイズラブ BL 趣味詰め込みました。 苦手な方はブラウザバックでお願いします。

【完結済み】準ヒロインに転生したビッチだけど出番終わったから好きにします。

mamaマリナ
BL
【完結済み、番外編投稿予定】  別れ話の途中で転生したこと思い出した。でも、シナリオの最後のシーンだからこれから好きにしていいよね。ビッチの本領発揮します。

処理中です...