小柄コンプを拗らせていた俺、魔術学校ものの異世界に飛ばされた挙句デカ男達から天使扱いされる

荒瀬竜巻

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もはや辿り着けない

どうして

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……

…………

………………………

「……かっ帰ってこれた?」

朝焼け。慣れ親しんだ筈なのに妙に懐かしい匂いに包まれて目を覚ます。視界に入ったのは栄養や運動の本が大量に入った本棚。小さめのテレビとゲーム機。ぐちゃぐちゃの勉強机。床は畳なのに寝ているそこはベッド。よようにいえば和洋混合、悪くいえばまとまりのないそこは紛れもなく元の世界に存在する自分の部屋だ。そんな部屋を一通り確認して、一瞬今までにあったことは夢なのではと勘繰った。

しかし自分の着ている服にその淡い仮説は否定された。洋風かつ黒くて、遠目からだと軍服に見えなくもないそれは確かに学園の制服だ。……念のために確認しておいたが、パンツも紐だった。とりあえず夢ではないことは確実。

「と、とりあえず母さんと父さんのところに行かないと……」

部屋を出て階段を降りる。慣れ親しんだ部屋と慣れ親しんだ廊下。とくれば慣れ親しんだリビングに両親がいる筈。廊下とリビングを繋ぐ扉は開いていて、そこから二人の姿は視認できなかった。

「母さん、父さん!」

探し回っても見当たらない。声を出しても出て来てはくれない。時計を見ると今は朝の七時頃。仕事に行ってしまった? いいや普段の二人はもっとゆっくり支度をしているからこの時間帯は朝ごはんを食べている筈。

「き、近所の人にも話を聞くか……」

あまり親しみのない人間と話をしたくないという我儘を振り切り、近所の家も回ってみた。近所に住む顔見知りのおっちゃんに、奥さんに、クラスメイトの同級生やその家族にも声をかけてみる。皆一様に俺の声も姿も無視した。チャイムを鳴らして出て来てもらっても誰も俺の声と姿を認識していない。まるで朝日奈一なんて存在していないように。

まるで自分という存在が世界に認知されなくなってしまったような感覚だった。それは気分のいいものではない。吐き気さえ催した。

「なんで……なんでだよ……が、学校ならまだ!」

青春らしいことをしなかった俺にとって自分の世界とは家と学校の往復。それでもまだ当てはあると藁にもすがる思いで走り出した。その間にも俺のことが見える人はいなかった。何度もぶつかりそうになり、更には車に突進もされかけた。それでもやはり、誰一人として俺を認知しようとはしなかった。

走る。走る。とにかく走る。よく考えたら財布を持って来ていなかった。いくら姿が見えていないとはいえ無賃乗車は気が引けた。結果片道で一時間ほどの通学路を走ることになってしまったが無賃乗車よりマシだと思うことにする。後悔はしていない。

多分人生で一番走ってる。普段から身長を伸ばす為とはいえ基礎的な体力作りの運動をしていた俺でもかなりキツい道のりだ。汗もだらだらで制服は汗ばみ、喉の奥から鉄の味がする。気分は雨の日の校庭で傘もささずに鉄棒齧てる小学生だ。……そんなの存在するのか? やばい思考も馬鹿になってきた。

「ぜぇ……はぁ……っ!」

体力と気力をすり減らし、突撃してくる自転車や車を掻い潜る。なんとか学校へたどり着いた。気がつけば時刻は九時半。普段なら八時ぐらいに着くところを一時間以上オーバーしたが、こうして五体満足で無事に着くことはできた。

一人ゼェハァと呼吸を整える。自分の呼吸音しか聞こえないと思われたがそういう訳でもない。何やら体育館の方から大きな声がする。集会中か? 疲れのせいでガクガクと震える足を奮い立たせて体育館の方へ向かった。

「……もう知っているかもしれないが、一年三組の朝日奈一くんが行方不明となってしまいました。ご両親は昨日から警察へ情報提供を行なっております。彼が最後に目撃されたのは……」

体育館ではあの学園長に爪の垢煎じて飲ませてやりたいぐらいクソ真面目な校長先生が挨拶を……ではなく行方不明者の失踪届けの話をしていた。……そんで行方不明者ってのは俺だ。本人が中に入ってきたのも知らずに、校長は淡々と事務的にそれを知らせている。そんな中コソコソと俺のクラスの奴らが集まっているところから声が聞こえる。

「朝日奈……あーあの無愛想なやつか」

「あいつ、いつも一人で難しそうな本読んでたもんな。誘いも断るし」

「チビで根暗で口も悪いような奴がいなくなってもなぁ。可愛い女の子なら心配してあげるけど」

「はいはい。お前の女好きはともかくそんなのが居なくなってぶっちゃけ親も清々してんだろうさ。帰りカラオケいこー」

「ってか早く集会終われよ~」

……あー嫌だ。俺はああいう人間が一番嫌いなんだ。文句があるなら俺に直接言え。いや今は見えてないから……それはそれとしてもいくら嫌いな人間でも、そいつが大変な間に合ってたら見せかけであっても心配しろよ。アイツらだけじゃない。殆どの人間はどうでもよさそうに聞き流していた。アイツらと仲良くなるにはあんな酷いことを言ったりやならければいけないのか。そんななかったから願い下げだ。やっぱり俺は上から目線じゃない。あいつらが下過ぎるから上から目線に思われるだけなんだ。

「やってらんね……」

「……朝日奈さん?」

思わず口をついて出てしまった言葉に答えるように、声がした。思わず振り返ると、あんな量産型のどちらが酷い人間なのかわからない有象無象とは訳が違う奴がいた。親譲の外人顔。遊ばせた赤髪と緑目の吊り目。ちょっと褐色な肌とプレイボーイ感溢れる外見からは想像もつかない、優しく少し低めの落ち着いた声。今までも、奴はスターにそっくりだ。

逆陸虎杖。何故か知らないがアイツと目があい、咄嗟に逃げ出した。
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