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理性を失う狼
ジョセフの課題
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……
…………
……………………
「つまり、常時欲望が無限に増殖してて、何とかしとかないとあっちゃう間に元の姿に戻るんか」
「うん」
「で、お前の場合食欲だったけど、長らく性欲を押さえつけてたのと入ってきたのがよりにもよって俺だったせいで暴走したと」
「ごめん。巣に入ってきたってことは合意だろってわけわからん発想で……」
「自室のことを巣って言うな」
とりあえずジョセフから色々と聞いた。ウォーウルフのことや弟の一件で家族と距離をとっていたこと、いつ何時もビーフジャーキーを手放さなかったわけも。
全てを話し終えたジョセフは今まで感じた印象とはまるで真逆な態度だった。今まではそうだな、精悍かつ凛々しいそれでいて人と話すのは得意ではない、それでも初対面の他者に自分のお菓子を分け与える優しさはあり、そしてなによりいざという時はちゃんと言葉で示してくれる。そんな俺特有の図体でかいやつは皆敵だという思考を少しだけ払拭させてきた頼れる男というふうに考えていた。
しかし今はどうだろう。まるで飼い主に叱られた大型犬のようにしょんぼりと縮こまっている。声は小さくて弱々しくなって、まるで何かから逃げるように力強く頭をシャカシャカと洗い始めた。
「それで集団というか、群れから1歩引いてるの? 今日のトランプゲームの時だってそうだし」
「群れ、ねえ」
俺の問いにジョセフは下唇を噛んで逡巡していた。そして答えがまとまったのか、言葉を紡ぎ出した。
「俺は群れに混ざれない。思い返してみりゃ初対面のJBに絡まれなければこうしてお前と話をすることもなかっただろう」
「え? お前が学園で初めて話したのってJBだったの?」
「うん。人どころか里の奴等以外と話すの初めてだったからめっちゃ緊張した。でもビーフジャーキーあげたら友達になれた。そん時に友達になるにはビーフジャーキーあげればいいってわかった」
「よ、よかったな……」
「朝昼晩ビーフジャーキーを食い続けた甲斐があった」
ジョセフが1人で開祖したビーフジャーキー教はひとまず置いておいて、俺がジョセフの力になれそうなことがわかってきた気がする。というか今さっき聞き捨てならないことを喋ったんだコイツが。体と頭を洗い終わり気まずそうながらも隣にお邪魔すると言いながら湯船に入ってきたジョセフの肩をがっしりと掴んだ。
「おい、今なんて言った?」
「え、隣失礼……」
「違うその前だ」
「び、ビーフジャーキーあげたら友達になれたって」
「戻り過ぎだ、その後」
「朝昼晩ビーフジャーキーを食い続けたって……」
そうだそこだ。前にも行ったことがあるかもだが、俺は身長を伸ばすために栄養のことを考えて飯を食っている。タンパク質、特にカルシウム多めになるようにな。だからスポーツとかしてないくせに、年頃の男子高校生にしてはそこら辺うるさい部類だと思っている。だがしかし、ビーフジャーキーはタンパク質が豊富だ。しかも味の濃いものは塩分も多い。つまり……
「お前、それ3食全部ビーフジャーキーだったってことか?」
「うん。朝はパンとビーフジャーキー、昼はサンドイッチ1つとビーフジャーキー、夜は……今日は食べてないけど一応煮物とビーフジャーキー」
「馬鹿野郎! それは体に悪いに決まってんだろ!」
俺はジョセフの両肩を掴んで揺さぶった。いやもう本当に信じられないことをするやつだなコイツ! 身長の割に1日に食う量が少ないのもそうだが、何より1日3食全部ビーフジャーキーって、それ以外に欲を紛らわす好物は存在しないのか。
「だ、だって……他に食いたい物なんてないし」
「ないわけないだろ! 果物とか野菜とかあるだろ!」
「お、俺は肉食なんだ。野菜は……ちょっと」
「なに、食ったら腹壊すの?」
「いや、そういうわけじゃないけど、苦いじゃん野菜」
この阿修羅のような顔を見てよくいえたなジョセフ。そりゃこんなチビが怖い顔してても動じないか、そうか。
「もういい! 決めた! 今日から俺がお前と飯を共にしてやる! もちろん3食以外ならビーフジャーキー食えるとか甘ったれてんじゃねえぞ、もちろん監視してやるぜ」
「は、はあ?」
ジョセフは素っ頓狂な声を上げる。しかしこれは俺のためでもあるんだ。副菜全部ビーフジャーキー生活なんて、若い頃ならまだしもそんな生活を続けていたらいつか体壊すに決まってるからな。シンプルに痛風になるわ。そうだ、全部父さん母さんからの受け売りとはいえ色んな料理を教わっていたからそいつも作ってやろう。おやつとかなら作れそうだ。
「え、て、手料理?」
「ああそうだ。毎日少しずつ色々作ってみるから、それでビーフジャーキーに並ぶ好物見つけろ」
ジョセフは目をぱちくりさせて俺を見る。そして、なぜだか恥ずかしそうに顔を綻ばせ、ビーフジャーキーに並ぶ毎日の軽食作りに納得してくれた。
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「つまり、常時欲望が無限に増殖してて、何とかしとかないとあっちゃう間に元の姿に戻るんか」
「うん」
「で、お前の場合食欲だったけど、長らく性欲を押さえつけてたのと入ってきたのがよりにもよって俺だったせいで暴走したと」
「ごめん。巣に入ってきたってことは合意だろってわけわからん発想で……」
「自室のことを巣って言うな」
とりあえずジョセフから色々と聞いた。ウォーウルフのことや弟の一件で家族と距離をとっていたこと、いつ何時もビーフジャーキーを手放さなかったわけも。
全てを話し終えたジョセフは今まで感じた印象とはまるで真逆な態度だった。今まではそうだな、精悍かつ凛々しいそれでいて人と話すのは得意ではない、それでも初対面の他者に自分のお菓子を分け与える優しさはあり、そしてなによりいざという時はちゃんと言葉で示してくれる。そんな俺特有の図体でかいやつは皆敵だという思考を少しだけ払拭させてきた頼れる男というふうに考えていた。
しかし今はどうだろう。まるで飼い主に叱られた大型犬のようにしょんぼりと縮こまっている。声は小さくて弱々しくなって、まるで何かから逃げるように力強く頭をシャカシャカと洗い始めた。
「それで集団というか、群れから1歩引いてるの? 今日のトランプゲームの時だってそうだし」
「群れ、ねえ」
俺の問いにジョセフは下唇を噛んで逡巡していた。そして答えがまとまったのか、言葉を紡ぎ出した。
「俺は群れに混ざれない。思い返してみりゃ初対面のJBに絡まれなければこうしてお前と話をすることもなかっただろう」
「え? お前が学園で初めて話したのってJBだったの?」
「うん。人どころか里の奴等以外と話すの初めてだったからめっちゃ緊張した。でもビーフジャーキーあげたら友達になれた。そん時に友達になるにはビーフジャーキーあげればいいってわかった」
「よ、よかったな……」
「朝昼晩ビーフジャーキーを食い続けた甲斐があった」
ジョセフが1人で開祖したビーフジャーキー教はひとまず置いておいて、俺がジョセフの力になれそうなことがわかってきた気がする。というか今さっき聞き捨てならないことを喋ったんだコイツが。体と頭を洗い終わり気まずそうながらも隣にお邪魔すると言いながら湯船に入ってきたジョセフの肩をがっしりと掴んだ。
「おい、今なんて言った?」
「え、隣失礼……」
「違うその前だ」
「び、ビーフジャーキーあげたら友達になれたって」
「戻り過ぎだ、その後」
「朝昼晩ビーフジャーキーを食い続けたって……」
そうだそこだ。前にも行ったことがあるかもだが、俺は身長を伸ばすために栄養のことを考えて飯を食っている。タンパク質、特にカルシウム多めになるようにな。だからスポーツとかしてないくせに、年頃の男子高校生にしてはそこら辺うるさい部類だと思っている。だがしかし、ビーフジャーキーはタンパク質が豊富だ。しかも味の濃いものは塩分も多い。つまり……
「お前、それ3食全部ビーフジャーキーだったってことか?」
「うん。朝はパンとビーフジャーキー、昼はサンドイッチ1つとビーフジャーキー、夜は……今日は食べてないけど一応煮物とビーフジャーキー」
「馬鹿野郎! それは体に悪いに決まってんだろ!」
俺はジョセフの両肩を掴んで揺さぶった。いやもう本当に信じられないことをするやつだなコイツ! 身長の割に1日に食う量が少ないのもそうだが、何より1日3食全部ビーフジャーキーって、それ以外に欲を紛らわす好物は存在しないのか。
「だ、だって……他に食いたい物なんてないし」
「ないわけないだろ! 果物とか野菜とかあるだろ!」
「お、俺は肉食なんだ。野菜は……ちょっと」
「なに、食ったら腹壊すの?」
「いや、そういうわけじゃないけど、苦いじゃん野菜」
この阿修羅のような顔を見てよくいえたなジョセフ。そりゃこんなチビが怖い顔してても動じないか、そうか。
「もういい! 決めた! 今日から俺がお前と飯を共にしてやる! もちろん3食以外ならビーフジャーキー食えるとか甘ったれてんじゃねえぞ、もちろん監視してやるぜ」
「は、はあ?」
ジョセフは素っ頓狂な声を上げる。しかしこれは俺のためでもあるんだ。副菜全部ビーフジャーキー生活なんて、若い頃ならまだしもそんな生活を続けていたらいつか体壊すに決まってるからな。シンプルに痛風になるわ。そうだ、全部父さん母さんからの受け売りとはいえ色んな料理を教わっていたからそいつも作ってやろう。おやつとかなら作れそうだ。
「え、て、手料理?」
「ああそうだ。毎日少しずつ色々作ってみるから、それでビーフジャーキーに並ぶ好物見つけろ」
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