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理性を失う狼
大切な君に話す真実
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初対面の無愛想かつ仏頂面なイメージはどこはやら、すっかり化けの皮の剥がれたジョセフ。思わせぶりな発言で焦らすだけ焦らした後、あっさりシャワーで泡を洗い流す。
「さ、頭洗うぞ」
「どうも……」
なんにせよ変なスイッチが入って下がる様な緊急事態がなくてよかった。相手は悪魔(の様な凶暴性を兼ね備えた奴の意)とはいえ俺の友達、ほっと一安心して大人しく髪の毛を洗ってもらうことにした。
「ん、そのシャンプーいい匂いだな」
「そうか。こういうのって学園長が決めてるらしいぞ。しかも定期的に変えてるみたいだし」
「性格の割にいい趣味してるのな、あいつ」
感触からも目の前の鏡からもわかる。泡塗れになってゆく髪の毛はジョセフの手によってわしゃわしゃと揉み込まれて行く。1人で髪を洗える様になってから10年近く人に洗ってもらう機会なんてそうなかったが、意外と気持ちがいいな。いやそもそもジョセフの技術が凄い。あくまでも俺の住んでいた世界での褒め言葉になるが、美容師になれそうなくらい気持ちいい。
「あ、耳の裏とか痒くないか?」
「あー……そこ掻いて欲しいかも」
耳の裏を指の腹で優しく擦られる。爪を立てないで撫でるように掻いてくるあたりも細かい気遣いが感じられてとても心地いい。さすがいっぱいいる弟達を世話してきた実績があるな、弟もこんなに頭洗うの上手い兄ちゃんいたら懐くわな。俺の家に住んでる居候の従兄弟なんて風呂どころか深夜にようやく帰ってくるってのに。
「気持ちいいな」
「……うん……」
つい心の声が漏れ出てしまうほどジョセフの洗い方は気持ちが良かった。後ろからジョセフが短くとも嬉しそうに「よかった……」と声に出していた。
「痒いところは?」
「ん、もう大丈夫。ありがとうな」
「そうか」
ジョセフはシャワーで俺の頭についたシャンプーを洗い流してくれる。泡が目に入らないように目を瞑ると、ジョセフの指の感触が無くなった。終わったのかなと目を開けると、目の前には小さめのタオルを持って構えたジョセフがいた。
「髪びしょ濡れじゃ湯船入りずらいだろ」
「な、何する気だ?」
「頭をおりゃりゃって拭く」
「おりゃりゃ……? ぎゃ!?」
俺がジョセフの奇怪な表現方法に困惑していると、ゴツゴツとした手に髪の毛をタオルで包まれる。正しく「おりゃりゃ」という表現に相応しい形で拭かれたあと、ある程度水気をとったのかそのまま頭皮まで優しく拭き始めた。
「弟を思い出すな……」
「一応聞いておくけど何番目の弟だ?」
「5番目の末弟……あ。ち、違うんだ。俺たちの一族というか種族自体が結構大柄で、人間に化けてもそれが身体的特徴として出てて、結果まだ10歳ぐらいの末ですらハジメと同じぐらいの背丈になるだけであって」
「あーわかったわかった。そんなに早口にならんでもいいよ」
柄にもなく早口で弁解してきた。失言を悟ったんだろう。末弟って言われた瞬間に睨みつけた甲斐があった。それにしても聞き捨てならない話がひとつだけ。「俺たちの種族」ってなんだ。
人間と比べてという表現が使われてるってことはつまり“俺たちの種族=人間”であるという可能性はゼロだろう。しかも人間化って……あれひょっとして俺ってば勘違いしてる? てっきりなんかの原因があると狼の姿になって暴走しちゃうもんだと思ってたが、逆なのか? 元々狼の姿なのを人間化しているってこと?
「な、なあ……お前って人間じゃねえの?」
後顧の憂いを払拭するために、念の為と聞いておく。本人にとって聞かれたくないことかも知れないが、今後また他のようなことがあったら悲しいのはジョセフだ。無神経な問いかけかも知れないが許してほしい。ジョセフは少しだけ考え、項垂れた。
「ああ、さっき墓穴掘っちまったもんな。……うん。人間ではない。人間からすると欲望と隣り合わせな恐ろしい生き物だろう」
震えた声でそう答えた。うんやっぱ話したいことじゃなかったんだ。どうしよう、知りたいことはちゃんと知れたしさっさと話切り上げた方がいいかも知れない。
「そう、なんだな。すまん」
「ごめんな、どうしても話す気にならなくて……」
後付けのように無理に話さなくていいかならと言い捨て、一足先に湯船に入る。ジョセフを見ることができずにそっぽを向いてしまった。
「……お前になら話してもいい。というかここまで乱暴しちまったんだから、話さねえとな」
「いや話してくれるんかい」
思わず振り返りツッコミを入れてしまった。
「さ、頭洗うぞ」
「どうも……」
なんにせよ変なスイッチが入って下がる様な緊急事態がなくてよかった。相手は悪魔(の様な凶暴性を兼ね備えた奴の意)とはいえ俺の友達、ほっと一安心して大人しく髪の毛を洗ってもらうことにした。
「ん、そのシャンプーいい匂いだな」
「そうか。こういうのって学園長が決めてるらしいぞ。しかも定期的に変えてるみたいだし」
「性格の割にいい趣味してるのな、あいつ」
感触からも目の前の鏡からもわかる。泡塗れになってゆく髪の毛はジョセフの手によってわしゃわしゃと揉み込まれて行く。1人で髪を洗える様になってから10年近く人に洗ってもらう機会なんてそうなかったが、意外と気持ちがいいな。いやそもそもジョセフの技術が凄い。あくまでも俺の住んでいた世界での褒め言葉になるが、美容師になれそうなくらい気持ちいい。
「あ、耳の裏とか痒くないか?」
「あー……そこ掻いて欲しいかも」
耳の裏を指の腹で優しく擦られる。爪を立てないで撫でるように掻いてくるあたりも細かい気遣いが感じられてとても心地いい。さすがいっぱいいる弟達を世話してきた実績があるな、弟もこんなに頭洗うの上手い兄ちゃんいたら懐くわな。俺の家に住んでる居候の従兄弟なんて風呂どころか深夜にようやく帰ってくるってのに。
「気持ちいいな」
「……うん……」
つい心の声が漏れ出てしまうほどジョセフの洗い方は気持ちが良かった。後ろからジョセフが短くとも嬉しそうに「よかった……」と声に出していた。
「痒いところは?」
「ん、もう大丈夫。ありがとうな」
「そうか」
ジョセフはシャワーで俺の頭についたシャンプーを洗い流してくれる。泡が目に入らないように目を瞑ると、ジョセフの指の感触が無くなった。終わったのかなと目を開けると、目の前には小さめのタオルを持って構えたジョセフがいた。
「髪びしょ濡れじゃ湯船入りずらいだろ」
「な、何する気だ?」
「頭をおりゃりゃって拭く」
「おりゃりゃ……? ぎゃ!?」
俺がジョセフの奇怪な表現方法に困惑していると、ゴツゴツとした手に髪の毛をタオルで包まれる。正しく「おりゃりゃ」という表現に相応しい形で拭かれたあと、ある程度水気をとったのかそのまま頭皮まで優しく拭き始めた。
「弟を思い出すな……」
「一応聞いておくけど何番目の弟だ?」
「5番目の末弟……あ。ち、違うんだ。俺たちの一族というか種族自体が結構大柄で、人間に化けてもそれが身体的特徴として出てて、結果まだ10歳ぐらいの末ですらハジメと同じぐらいの背丈になるだけであって」
「あーわかったわかった。そんなに早口にならんでもいいよ」
柄にもなく早口で弁解してきた。失言を悟ったんだろう。末弟って言われた瞬間に睨みつけた甲斐があった。それにしても聞き捨てならない話がひとつだけ。「俺たちの種族」ってなんだ。
人間と比べてという表現が使われてるってことはつまり“俺たちの種族=人間”であるという可能性はゼロだろう。しかも人間化って……あれひょっとして俺ってば勘違いしてる? てっきりなんかの原因があると狼の姿になって暴走しちゃうもんだと思ってたが、逆なのか? 元々狼の姿なのを人間化しているってこと?
「な、なあ……お前って人間じゃねえの?」
後顧の憂いを払拭するために、念の為と聞いておく。本人にとって聞かれたくないことかも知れないが、今後また他のようなことがあったら悲しいのはジョセフだ。無神経な問いかけかも知れないが許してほしい。ジョセフは少しだけ考え、項垂れた。
「ああ、さっき墓穴掘っちまったもんな。……うん。人間ではない。人間からすると欲望と隣り合わせな恐ろしい生き物だろう」
震えた声でそう答えた。うんやっぱ話したいことじゃなかったんだ。どうしよう、知りたいことはちゃんと知れたしさっさと話切り上げた方がいいかも知れない。
「そう、なんだな。すまん」
「ごめんな、どうしても話す気にならなくて……」
後付けのように無理に話さなくていいかならと言い捨て、一足先に湯船に入る。ジョセフを見ることができずにそっぽを向いてしまった。
「……お前になら話してもいい。というかここまで乱暴しちまったんだから、話さねえとな」
「いや話してくれるんかい」
思わず振り返りツッコミを入れてしまった。
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