小柄コンプを拗らせていた俺、魔術学校ものの異世界に飛ばされた挙句デカ男達から天使扱いされる

荒瀬竜巻

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理性を失う狼

束の間の休息

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寮へ帰ると談話室は学園の喧騒とは裏腹に、いや喧騒に揉まれた奴らが全員大人しくなったのか、談笑する生徒を含めてもとても穏やかだった。あ、天使様だ! と手を振ってくるやつらに振り返してやるアイドルのような胆力は今の俺には備わっていなかった。

どうやら先の事件で近くの村に住みながら朝と夜にご飯を作ってくれるコックさん達が一部欠勤してしまっているようで、折角のビュッフェ形式の晩御飯も今日だけはメニューが一部品切れらしい。JBとアナ、ジョセフ達が無事に帰ってくるまで部屋で……いや部屋からカフェテリアまでは距離が遠いから今の体ではちょっと憂鬱。仕方がない談話室で待とうか。……十中八九話しかけられるだろうけど。

「ねえねえ天使様、好きな人いるって本当なの?」

「赤い糸見えたんでしょ? ねえスタッフォード近くにいたんだろ、なんか言えよー」

「天使様は現在ナイーブになられている。そういった質問はご遠慮願いたい」

「そんなこと言ってスタッフォードだって知りたいくせに~」

「うーむ……」

もちろんウザ絡みされた。朝の食堂の時はスターにたいする殺意が高くてこの学園に馴染めてるのか心配になってたが、大した問題ではなかったようだ。安心安心。そしてこのような所謂想定していた範囲内の絡み方をされるのはまだマシなんだ。個人的にまずいと思うのは、

「天使様、、また猿だって罵ってもらえませんか?」

「朝浴びせられた罵声がくせになってしまって……」

「ハァハァ……わからせてえ」

こう言った感じで変な性癖の扉開いちまったら奴らだ。性癖云々に関しては自分も人のことを言えた身分ではないが、複数の男の人生を狂わせてしまった罪悪感はある。

どうしよう俺が元の世界に帰ってもあいつらがあのままだったら、ムーブが完璧に悪女のそれになっちまう。男の人生を破滅(ある意味)させた挙句その張本人は絶対に追いつけない場所にドロンなんて、あまりにも男を弄ぶ妖艶の美女っぽい感じで到底俺には荷が重い。……それと共にこいつらを一時的にとは言え露払いできる手段をひとつしか知らないのも何とも歯痒い話だ。

「さ、盛りのついた猿がよ……」

「「「うぉー!!!」」」

……すまない。奴らは俺のせいで戻らないところまで来ているみたいだ。助けを求める意味も兼ねて気持ちスターの方に体を寄せる。挙動不審になったスターと共に3人の帰りをただ待つことしかできなかった。

……

…………

………………

業者のおかげで無事に校舎はきれいになったようで、それに伴い3人を含む他の動けずにいた連中が帰って来たのはそれから1時間後の話。3人のおかげで腹も減ったからカフェテラス行こうぜ~のノリが作れた、ありがとう。

中でもJBの動きは完璧だったと言っていい。流石が陽の存在というか、大袈裟に言えば圧倒的光パワー、端的にいうとコミュ力でその場どころか外野の声すら制しやがった。陽キャすぎて同じ生物の言葉なのかどうかさえわからなかった。

「何か持ってきましょうか!?」

「お飲み物はどれにしましょう?」

「いいよ、自分で取りに行くから」

なんだかんだ俺たちについてくる連中はいたが、無事に席にはつけてこうして食事にありつけているわけだ。……こうして一息ついてみれば、後ろでコソコソして最終的に周りに迷惑かけてくるよりも、多少しつこく絡まれる方がマシなのかもと考えることができる。束の間の休息の時。強いて懸念というか、心配事を挙げるとするならば、

「なあ、ジョセフはどこに行ったんだ?」

そうだ、今まで何だかんだ一番後ろをひっそりとついてきてたじゃが、カフェテラスに入ってまもなくすぐ姿を消してしまったのだ。食べ終わって自室に帰った? いやあんな短時間で? 

「……そういえば居ねえな、いつの間に?」

「さっきビーフジャーキーがない……みたいなこと言ってだけど、それっきり見てないね」

ビーフジャーキー? ああ、そういうことか。さっき言った通り物流の関係で一部のメニューが品切れになっていると聞いたけど、そのうちのひとつがビーフジャーキーだったんだろう。それで機嫌を損ねてしまったってことか。

「ってことはあいつ飯食べてないのか」

「おそらく。気に入ったおやつがなくて機嫌を損ねていると考えられます」

俺たち4人は顔を見合わせる。こいつらとつるみ始めてまだ1日しか経ってないのに1人いないだけでちょっと寂しく感じてしまうのは何故だろうか。そして何より……たまらず俺はゆっくり食べていたシーフードクリームパイを口に詰めいれる。ジョセフが好きそうな肉料理と多少の野菜と炭水化物を取りに行くことにした。

「そもそも、成長期のやつが1日中ビーフジャーキー以外食べないってのはよくないからな。部屋まで行って直々に食わせに行く」

そう、身長を伸ばすのために飯の知識をしこたま詰め込んだこの頭が食事を拒否する成長期の若造を逃すはずがないのだ。一緒に行こうかと言ってくれる3人の提案もあったが、ここだけの話個人的なお礼もジョセフには言いたかったので謹んでお断りした。

こうして俺はこの世界に来て初めての大規模単独行動。……と言ってもジョセフに飯を食わせてやるだけなのだが、とにかく1人で行動することになった。
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