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一の才能
赤い糸は
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スターに貸してもらった(押し付けられたともいう)上着をそのまま装備し、夥しいほどの陣をかわし潜り抜けた俺たちは、ついに食堂までやってきた。もともと開いていたドアの先には避難して床に足がつかないように椅子やテーブルの上に座っている被害者と、遠巻きだがメッタメタに怒られている背の高いあいも変わらずの顔面偏差値を誇る集団。……あいつらか。
「わ、天使様だ。なんか苦しそう? というか……」
「顔赤くてなんか、ちょっとえっちだな」
「ってか上着ブカブカじゃね?」
俺の見る視線、視線、視線。そしてそれに対する最低限の防御として用意してもらった上着の出所が現在薄着になっているスターであることを知った故の嫉妬。ブルーブックが他人のフリしたいとぼやくほどに俺たちは一瞬にして注目の的になってしまった。
だが今はそんなことに付き合っている暇はない。やつだ、やつと話をさせろ。足がふらふらする、高熱の時みたいに身体中が熱い。でも上着から感じる虎杖……じゃないスターの匂いが悔しいぐらい俺の心を落ち着かせてくれた。元いた世界に居た人間と近しい気配だから自然と心が安らぐのだと、決してスターだから安らいでいるわけじゃあ無いんだと自分に言い聞かせた。
「お、おい、こっち来てないか?」
「え? ちょ、ちょっとそんな可愛い顔しながら接近されたら期待しちゃうって」
必死こいて1階まで走ってきたのとここまで熱視線を送られて調子に乗った身体が欲しいホシイと訴えるせいで、こうして主防犯のところに歩み寄るだけでも「ふぅー、ふぅー♡」とあられもない息遣いになってしまう。犯人たちの目が遠目から見ても明らかに色々な意味で狼狽えているのが伝わってくる。
視線を外そうとしてくる癖に一定の距離がつまる度にチラチラと俺を見るその姿は、目が印象的かつ鼻筋がすっきりとした年頃にしては完成された顔に比べて対照的、なんとも童貞臭い反応だ。まあ俺も童貞だけど。一応非処女だから、先輩ぶってもセーフだ。
「おい、お前ら……」
「な、何でしょうか……?」
「魔法陣描きまくった犯人ってお前ら?」
勇猛果敢に来たつもりだが、向こう側から見たら発情した猫が何故か話しかけてきたぐらいの珍妙な光景に違いあるまい、舐めやがって。という心意気で来たが、どうやら思ったよりも迫力があったみたいで、犯人たち10人ほどの犯人たちは言い訳もせずに顔を縦に小さく振るばかり。本来なら顔面に暴力をかましてやりたいところだが、その前に対話……という名の言葉の暴力だ。
「俺はな、コソコソ嗅ぎ回ったりそれのせいで人様に迷惑かけるってのが大っ嫌いなんだ」
「は、はい……」
「お前らの用ってのはシンプルにコレだろ。わかったらコレからは陰湿に好き勝手してんじゃねえぞ!」
それと同時に足元にある魔法陣に左足を突っ込んだ。スター達は俺の行動の計画とかをある程度知っていたからいいとして、それ以外の人間からしたらいきなり奇行に走るようにしか見えないに違いない。体が歓喜に咽び泣く。
「え、?……え!? 天使様!?」
「あ、ぅ、うる……せええっ、黙ってぇろ!」
身体中に街に待っていた快感という名の魔力が流れ込んでくる。待ちががれていた? 寝言は寝て言え。ちゃんと凄まないかんタイミングで体が身震いしてしまってめちゃくちゃ機嫌悪いぞ。何はともあれこれで魔術は発動するはず。
何が起こっているのか分からないといった外野のザワザワは光に包まれた今でもよく理解できた。かくいう目と鼻の先にいる奴らも同じ心境に違いあるまい。
侮るな。お前らの粗末な魔法陣の気配を読み取るのも、その中にあえて足を突っ込むのも、今身体中に流れる快楽に耐えるのも、造作のない事だ。いや違う1番最後のは不機嫌になるぐらいには結構効いている。だけど言わなきゃいいんだ、うん。嘘はついてないから。どうせ糸なんて出てきやしないんだ。さっさと終わらせっぞ。
しかし何というか、人間そんなわけないとかあるわけがないとか思ってる時ほどトラブルだの新しい火種がやってくるようだ。このままカッコつけて食堂をされたら多分明日から「可愛い天使様」から、「ちょっとだけカッコいい可愛い天使様」ぐらいにはランクアップできると思ってたのに。
「て、天使様の指に……」
「赤い糸……マジか」
光が消えて初めて目に入ったのは、赤い糸。俺の左の小指から伸びる赤い糸。
一瞬そんなバカなと青ざめたが、問題は、その糸が途切れていること。俺の指から伸びたそれは丁度スターやブルーブックのいる方角へ力なく垂れて、大体3メートルぐらいでプッツリと途切れている。何だこれ、こんなの習ってない、ブルーブックから教えてもらってない。縋る思いでブルーブックの方に目を向けるが、向こうも意味がわからないといった感じ、視線からもう困惑が伝わってくる。でも、糸が見えるって事は、俺に好きな人が…………誰だ?
兎にも角にも、俺には変な説が出てしまった。
天使様には、好きな人がいる。
「わ、天使様だ。なんか苦しそう? というか……」
「顔赤くてなんか、ちょっとえっちだな」
「ってか上着ブカブカじゃね?」
俺の見る視線、視線、視線。そしてそれに対する最低限の防御として用意してもらった上着の出所が現在薄着になっているスターであることを知った故の嫉妬。ブルーブックが他人のフリしたいとぼやくほどに俺たちは一瞬にして注目の的になってしまった。
だが今はそんなことに付き合っている暇はない。やつだ、やつと話をさせろ。足がふらふらする、高熱の時みたいに身体中が熱い。でも上着から感じる虎杖……じゃないスターの匂いが悔しいぐらい俺の心を落ち着かせてくれた。元いた世界に居た人間と近しい気配だから自然と心が安らぐのだと、決してスターだから安らいでいるわけじゃあ無いんだと自分に言い聞かせた。
「お、おい、こっち来てないか?」
「え? ちょ、ちょっとそんな可愛い顔しながら接近されたら期待しちゃうって」
必死こいて1階まで走ってきたのとここまで熱視線を送られて調子に乗った身体が欲しいホシイと訴えるせいで、こうして主防犯のところに歩み寄るだけでも「ふぅー、ふぅー♡」とあられもない息遣いになってしまう。犯人たちの目が遠目から見ても明らかに色々な意味で狼狽えているのが伝わってくる。
視線を外そうとしてくる癖に一定の距離がつまる度にチラチラと俺を見るその姿は、目が印象的かつ鼻筋がすっきりとした年頃にしては完成された顔に比べて対照的、なんとも童貞臭い反応だ。まあ俺も童貞だけど。一応非処女だから、先輩ぶってもセーフだ。
「おい、お前ら……」
「な、何でしょうか……?」
「魔法陣描きまくった犯人ってお前ら?」
勇猛果敢に来たつもりだが、向こう側から見たら発情した猫が何故か話しかけてきたぐらいの珍妙な光景に違いあるまい、舐めやがって。という心意気で来たが、どうやら思ったよりも迫力があったみたいで、犯人たち10人ほどの犯人たちは言い訳もせずに顔を縦に小さく振るばかり。本来なら顔面に暴力をかましてやりたいところだが、その前に対話……という名の言葉の暴力だ。
「俺はな、コソコソ嗅ぎ回ったりそれのせいで人様に迷惑かけるってのが大っ嫌いなんだ」
「は、はい……」
「お前らの用ってのはシンプルにコレだろ。わかったらコレからは陰湿に好き勝手してんじゃねえぞ!」
それと同時に足元にある魔法陣に左足を突っ込んだ。スター達は俺の行動の計画とかをある程度知っていたからいいとして、それ以外の人間からしたらいきなり奇行に走るようにしか見えないに違いない。体が歓喜に咽び泣く。
「え、?……え!? 天使様!?」
「あ、ぅ、うる……せええっ、黙ってぇろ!」
身体中に街に待っていた快感という名の魔力が流れ込んでくる。待ちががれていた? 寝言は寝て言え。ちゃんと凄まないかんタイミングで体が身震いしてしまってめちゃくちゃ機嫌悪いぞ。何はともあれこれで魔術は発動するはず。
何が起こっているのか分からないといった外野のザワザワは光に包まれた今でもよく理解できた。かくいう目と鼻の先にいる奴らも同じ心境に違いあるまい。
侮るな。お前らの粗末な魔法陣の気配を読み取るのも、その中にあえて足を突っ込むのも、今身体中に流れる快楽に耐えるのも、造作のない事だ。いや違う1番最後のは不機嫌になるぐらいには結構効いている。だけど言わなきゃいいんだ、うん。嘘はついてないから。どうせ糸なんて出てきやしないんだ。さっさと終わらせっぞ。
しかし何というか、人間そんなわけないとかあるわけがないとか思ってる時ほどトラブルだの新しい火種がやってくるようだ。このままカッコつけて食堂をされたら多分明日から「可愛い天使様」から、「ちょっとだけカッコいい可愛い天使様」ぐらいにはランクアップできると思ってたのに。
「て、天使様の指に……」
「赤い糸……マジか」
光が消えて初めて目に入ったのは、赤い糸。俺の左の小指から伸びる赤い糸。
一瞬そんなバカなと青ざめたが、問題は、その糸が途切れていること。俺の指から伸びたそれは丁度スターやブルーブックのいる方角へ力なく垂れて、大体3メートルぐらいでプッツリと途切れている。何だこれ、こんなの習ってない、ブルーブックから教えてもらってない。縋る思いでブルーブックの方に目を向けるが、向こうも意味がわからないといった感じ、視線からもう困惑が伝わってくる。でも、糸が見えるって事は、俺に好きな人が…………誰だ?
兎にも角にも、俺には変な説が出てしまった。
天使様には、好きな人がいる。
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