小柄コンプを拗らせていた俺、魔術学校ものの異世界に飛ばされた挙句デカ男達から天使扱いされる

荒瀬竜巻

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一の才能

暫定戦犯の供述

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「いやな、学園中がなんか浮き足立っとるやん? 学園長として見過ごせんって思うのは普通やん?」

「なんで見過ごさなかったんですか」

「面倒なことしてくれたな」

「図書室へ行きたいだけだったのに」

「碌でもないことしかしねえな」

「ちょ! 揃いも揃って殺意がありすぎやろ」

 来た瞬間にこの口撃の数々。本来なら部下であるはずの先生ですらもあまりのメッタメタに笑いが堪えきれず、みんな落ち着こうねと言うのがあまりに遅すぎたことからも顕著だ。

「はいはい、みんな落ち着いた?……フフ」

「笑わんといてよ、生徒にボロカスに言われてちょっとショックやわ。励まして」

 そう言いながらいつも帽子の上に鎮座している小さなテディベアを手元に抱き寄せてヨシヨシし始めた。全員そこまで指摘しない俺だけが気になる所だけど、縫い目が大きく目を赤いボタンで再現している手作り感満載のくたびれたぬいぐるみなのに、いつも学園長とお揃いにコーディネートされた衣装だけは新しくピカピカしているのは、なんとも言えない不気味さがある。
 そもそも見た目はただの変人な事を除けばかなりのジェントルマンなのに、行動の端々が幼い子供な事自体結構倒錯的に見えたりする。

 ……あのぬいぐるみ、やっぱり気になるな。

「取り敢えず学園長室帰ったら慰めとしてホットミルク飲も。あ、そうそう話戻すなぁ」

 曰くハジメっちの入学によって浮き足だった10人ぐらいの生徒達が学園長に泣きついた。それを哀れに思ったのが5割、面白そうだと思ったのが5割で、例の恋してる人がわかる魔術を教えたらしい。これで天使様の想い他人を割り出せば恋敵とかが一瞬でわかって簡単では? と無責任な事を教えたら、1時間で校内は魔法陣だらけになってしまったらしい。

 ……この時点でハジメっちの手が出そうだったがジョセフが掴んでくれた。そしてその事態を1年D組に知らせようと空を飛んで窓から入ろうとしたものの、俺達はお取り込み中(「21」をやっていたから)で、窓の外からそれを生唾飲みながら勝負の行く末を見守っていたらしい。今さっきハジメっちがもう1本の手を上げようとしたところをスターに止められた。2本の腕を掴まれてめっちゃ不機嫌だ。

「まあと言うわけで、今校舎内は大パニックなんよ。ポケットマネーで業者呼んだけんなんとかなるとは思うけど、少なくとも全部除去まで半日はかかるなぁ」

 何にせよ思った以上の大災害だった。数打ちゃ当たるにも限度ってもんがあるだろう限度ってもんが。でも時間空いたら何とかなるのは安心だな……どしたん、いやごめん訛りがうつった。どうしたんだよ、ハジメっちなんかめっちゃキレてるじゃん。

「……話聞く限り、魔法陣準備したのって、せいぜい10人ぐらいのグループ犯ですよね」

「ん? まあそうやな。途中に何人か加わって13人ぐらいやけど。今回一応学園長にも責任あるし特に罰は与えず今は陣のない食堂に一緒に避難させとるよ」

「じゃあ、そいつらと話をして来ます、今すぐに」

「え?」

 __俺は思う。ハジメっちって頭いいし運もいいし意地っ張りなところも可愛いけど、性根が脳筋だ。それは素直になれない所由来なのか、口撃性の高い性格の副産物なのかわからないが、今はそこを区別する必要はなさそうだ。

「じゃ、言ってくる。スター、ジョセフ、手を離してくれ」

「い、いやだ」

「離したらその、行くんですよね?」

「何渋ってんだ」

 そりゃ渋るわ、むしろ何で快諾してくれると思ったんだ。俺たちは天使様の犬ではあるが、地雷原を通る主人を止めない飼い犬はいないだろう。そもそもどうしてそんな暴挙に出ようとしてるんだ、まず解説してくれ。

「……聞きたいことがあれば、直接聞けばいい。本人が知らんところで、影でこそこそする、そう言うまどろっこしいのが1番腹立つんだよ」

 その瞬間、JBの眉が揺れたのを見逃さなかった。多分、過去になんかあったんだろう。影でコソコソされて、大いに苦しんだことが。

「だからソイツらの前で魔法陣を踏む!」

「……え??」

 あんな素っ頓狂な学園長の声を聞いたのは初めてだった。俺たちも顔を見合わせ、JBはなぜか楽しそうにする、そしてスターはまた泣いている。

「不届で下賎な者どもの望みすらも叶えようとするとは、何と言う度量の広さ!」

「そんなもんじゃねえ、ただ言いたいことがあったら周りに迷惑かけてねえで目の前でちゃんと言えって思っただけだ。ブルーブック、特に好きな奴がいない状態で魔法陣踏んだらどうなるんだ?」

「うぇ?! えっと、別にどうともならない。ただ光が溢れて、消える。それだけ」

 突然はなしをふって来られて死ぬほどビビり散らかした。当の本人はそんな挙動不審者のことなんて返す意を持たないようで、逆にそれがわかりゃ十分だと一礼を返してくれた。

 豪胆かつ野蛮な行動とは裏腹な、天使という表現すら足りないほどのあどけない笑顔に心を奪われた俺は、さあ行くぞと気合を入れ直す貴方を止めることはできなかった。
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