小柄コンプを拗らせていた俺、魔術学校ものの異世界に飛ばされた挙句デカ男達から天使扱いされる

荒瀬竜巻

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いい子の反逆

いい子の苦悩 ※R15

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 兄さんに昔のことを話されて、いい子でしょ?って言われるのは好きじゃない。子供なんて、みんな良い子に決まっている。親の言うとおりにして、愛想を振りまく、たったそれだけで良い子になるんだから。
 アナゼルという名前も嫌いではないのだけれど、地元の伝説、デイウス家の誇り、僕の人生を一生縛り付けるであろう忌々しいそれは、その全て内包している悍ましい響きに思えた。
 子供の頃に沸いたこの小さな反逆心は、周りからの良い子だね砲撃で撃沈したかと思われていたが、何のことはない。この齢になるまでまだ生きていた。寧ろ悪い子になってみたいといういけない方向へ進化しちゃった。

 わかってる、自分が他より素質があることなんて。兄さんレベルの魔力の人間は一捻りだって。それでも僕がいまだにアナゼルと名乗りたくないのは、まだ自由を味わっていないから、悪い子になってないから。

「天使様! お名前を書かずにページを開いてはなりません!」

「え?」

 背後からシューという音がする。今まで1人で考え事してたことも忘れて振り返る。白い煙に包まれたアサヒナくん、しまった、アサヒナくんは知らなかったんだ。魔術や魔法の教科書は紛失や盗難を防止するために、名前を書いている人すなわち持ち主からの許可を経ていない人間が本を開くと、防犯魔術が作動する。そしてこの学校の教科書に仕掛けられている防犯魔術の形式は、

「ハジメさんが……」

「素っ裸だ!」

「ってかあれって紐パン? ゴクリ……」

「……いっそ殺せ」

 脱衣だ。学園長曰く、折角おめかししたのに全部剥ぎ取られるのは処刑よりも辛いらしく、この学園の教科書は皆この魔術、煙に包まれた人間の下着も含めた衣類が剥ぎ取られて地面に散乱する、というものが仕込まれている。

 だから今の状況はとっても大変だ。上着もズボンもブラウスも、靴や靴下、タンクトップとなんだろあの紐みたいなやつ……まあいいや、紐みたいな服も全部流されたアサヒナくんが大事なところである股間を隠して顔を俯かせている、表情はここからだと読めない。
 小さくて白い身体も、筋肉がつきにくいのか全体的に柔らかそうな四肢も、今この教室にいる人間には全部見えている。更にはこう言っちゃ何だけどそんなに小さな手のひらでは陰茎を隠すのが精一杯なのか、それともあまり意識がむいてないのか、上半身のピンク色の果実が丸見えだった。

「……悪いスター、俺はここからどうすれば良いんだ?」

「あ、そ、そうだ! 見惚れてる場合じゃなかった。下賎な者ども、天使様の御体ですよ! 首を垂れて踞いなさい!」

「いやそうじゃなくて。お前らも別に乗らなくて良いから、あと何見惚れてんだ。ただ貧相なだけの男の体見て何が楽しいんだ」

「え~……流石にそれはスタッフォード悪くねーだろって思います」

「そうですよ。天使様ってば魔性の無防備っぷりですね」

「あ? 喧嘩か? 買うぞ」

「こらこら、先生命令だぞ~せめて服着ないとね」

 そればっかりは同意してしまう。いくら何でも警戒心がなさすぎる、天界には股間を隠してもおっぱいは隠さなくていいっていう常識があるんだな、そうでなくちゃちょっとエッチすぎる。悪い人に押し倒されても文句言えない。

 天使様が服着るまで外で待ってようね。そう言われたスター達が兄さんと共に教室から出ていく。僕も後に続こうとすぐに動き始めたが、ドアを抜ける直前でなぜか阻止されてしまった。しかも兄さんに。

「兄さん、小さい頃みたいな可愛い困り方はできませんよ」

「違うよ。天使様の手伝いしてあげてってこと」

「え? ……あの、アサヒナくん今先程のことだけではなく、昨晩の件もあり非常にナイーブになっています。あまり不躾な対応をしては余計こまらせてしまうかと」

「大丈夫大丈夫! アナは____いい子だから」

 その屈託のない目をやめてほしい。じゃあ頑張ってって、そんな気安く頼まないで、ほらスターも物申したいって感じじゃないか。そんなのも知らないゴールデンオブマイウェイ兄さんは、最も簡単な扉を閉めてしまった。こうなった兄さんはもう話が通じない、本当に教師に向いていない人だなと再確認した。

「えっと……アナ、まだこのパンツ履くのに慣れてないんだ。ちょっと手伝ってくれないか?」

 この人は本当に……もし自分が理性を失って押し倒したとしても、こんな反応ができるのか、貴方の前では誰もが狼だと言うのに。とはいってもこの前手伝いもせずに四苦八苦するのを見ていたら余計変な気が湧いてしまいそうで、手伝う事にした。
 __所でこの紐はパンツだったんだ、変わった形状のものを履いているんだね。昔からこういうエッチなのはあんまり関わらない様にしてたけど、こういうのも悪い子になるのには必要なのかな。

「スターや周りの奴らだとちょっと怖かったからさ、お前でよかったよ」

 そうか、頼りにしてくれているんだね。それにしては何だか言い方が妙な気がする……蝶々結びが苦手な様子のアサヒナくんを手伝いながら、少しだけ引っかかったことを詳しく聞いた。

「……それは、どう言う意味?」

「ほら、他の奴らってみんな鼻の下伸ばしてるだろ? そう言う目で見られるのなんて今までなかったからちと怖くてな。でもお前はそう言ういやらしいのとは無縁そうだし、ちっちゃいころからの優等生、根っからの「いい子」って感じがしてさ」

 それは______



 あまりにも酷い話だ。おかしくなりそうだ。頭で考えても自分はそこから脱却できていなかったと言う不甲斐なさから生じる謙虚な怒り。いくら僕が小柄でも今の無防備な貴方なら簡単に抑え込めるんだぞというドス黒い感情が混ざり合って、どうにかなりそうだった。

 なんだ、あるじゃないか。自分にも悪いことを考える頭脳と勇気少しだけでもあると考えると安心もしたし、奥底で撫で何かが落ちる感覚がした。でもそれはそれとしてさっきの失言は修正して貰いたかったから、少しだけ揶揄うことにしよう。
 うーん、この完璧に油断し切った澄まし顔をどう歪めてやろうか。いくら悪い子とは言え痛い事はしたくない。悪い事は自体が大事にならない様に、ちょっとずつ揶揄うのを楽しむのだって本に書いてあった。

 だからそれの通りに、ゆっくりじっくり可愛い顔をさせてあげよう。
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