小柄コンプを拗らせていた俺、魔術学校ものの異世界に飛ばされた挙句デカ男達から天使扱いされる

荒瀬竜巻

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はじまり

学園長絶許

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 全員があまりの驚きに動きが止まった。ピタって身体が音が聞こえた。当のずけずけの入って来た見知らぬ誰かも例によって高身長な上に細身だ。

 色白で青髪、細くて銀色の目、着ている英国紳士なスーツもとはアンバランスなトンチンカンな装飾が多すぎるシルクハットも相まって、どう考えても狂人にしか見えない。不思議の国出身ですとか言われても普通に受け入れられる気しかしない。
 そんな狂人紳士は俺を一目見るとニッカリと笑い、帽子の装飾の一つである小さなクマの人形を揺らしながら近づいてくる。やめろ、ホラー映画のシリアルキラーみたいなのが近づいて来てもなんも嬉しくないから。

「うわホンマやごっつええ感じやん。魔術も使えんとあんな森におった上に生き残っとったとか、どんな屈強な天使やねんと思っとったけど。全然そんなんちゃうやん、想像の100倍かわええな!」

 俺の心に中の心の中による、心の中だけの抵抗も虚しく、間近くに近寄られた。
 しかし待っていたのは意外と優しい関西弁。この世界に関西弁って概念あるのか? いやこの国の人たちから見てもかなりクセの強い喋り方をしていて、それが方言として日本語訳されてるだけかもしれない。兎に角あまりに拍子抜けだったところに驚愕の事実が舞い込む。

「学園長先生、天使様は天使様と呼ばれるのが不慣れな様子です。アサヒナ・ハジメという名前とのことなので、我々もそのように呼ぶことにしています」

「……え? 学園長なの? 不審者ではなく?」

「はい。新1年生の9割は不審者だと思ってたら実は学園長だったのを入学式で知るっていうのを経験しますけど、一応は学園長です」

 それはそうなっても仕方がないだろう、むしろ通報されなかったなと感心してしまうレベルだ。ほらみろスター達もちょっと引いてるぞ。
 見た目はともかく意外と礼儀正しいのか、いきなり入って来て申し訳ないと一礼し、向かいのソファーに座り姿勢を正す。俺たちがビビってんのは勝手に入って来たことじゃなくて外見なんだけどな。

「すまんけど今までの話は盗み聞きしたったで。魔導書使ってこの世界に来たけど、気が付いたら暗く塗りつぶされとって、変えられへん。やったっけ?」

「盗み聞きしたのかよ」

 ほんとそれだ。ちょっと世間一般とはズレてるけど礼儀正しい所あるじゃんと感心していた10秒前の俺を返せ。

「その魔導書見してみ、この魔カメラで写メ撮るけん」

「魔カメラとは?」

「魔力で動く使い捨てカメラって奴やな。ハジメちゃんのおった天界にはないもんで?」

 いや違う俺が言いたいのは魔法や魔術の世界にもカメラってあるのかって話。でもよく考えたらそりゃあるか、動力源が科学から魔力に変わっただけっぽいし。
 実際恐る恐るとはいえ渡したが、魔導書の表紙から裏面、そして塗りつぶされたそこを入念にパシャパシャ撮り終わったのちありがと~と言われながら返された。
 幼少期にほんの少しだけ大阪で生活したことがある程度の身の上ではバリバリの方言は難しい、ありがとうという言葉だけでも訛りって出るんだなとシンプルに思った。

「ほんだらさっさと本題に入るで。天使様やのうてえっと、、そうそうハジメちゃんはこれからどないするつまりなん?」

 この人想像を遥かに絶する勢いで話を前へ前へ進めていくな。助かるけども、実際学園長が来るまでちょっと停滞気味だったし。でも実際これからどうするのかは見当もつかない。1に元の世界への帰宅、2に元の世界への帰宅が最優先だが、具体的なビジョンが全く浮かんでないぞ。どうしたものか。

「と、兎に角色々調べ物をしながら帰れる方法を探したい……です」

「ほほう……模範解答やな。副賞としてこの学園の図書室を個室から成績上位者しか入れんスペースやら何から何まで自由に利用してええ権利を与える、大賞はそうやな……この写真を信頼のおける生徒や教師に渡すけん、何か分かりそうか聞いて来たるわ」

 いつの間にか変なのに参加させられていた。でもありがとうございます。スターやアナも手伝ってくれるとの事なので、俺も気合が入る。とは言っても魔術の本とか多分この世界で誰よりも知識がないから全然役に立たないと思うけど。
 じゃあ早速善は急げだとJBに急かされ、ジョセフも重い腰を上げる。でもよくいうだろう、美味しい話には裏があるって。この人をちょっと甘く見ていた。

「待て待て、まだ参加賞について話してへんやん? 副賞、大賞とくれば参加賞もあるのが普通やな」

 ……この時点から、ちょっとだけ嫌な予感はしてた。

「ハジメちゃんは、今日から裏口入学! 天界に帰る方法が見つかるまで、ここの生徒や。衣食住は勿論、教育の場も提供するなんて、ほんま出血大サービスやで!」

「……は?」

 ここにいる全員がポカーンとしてしまったが、ただ1人慌てて意を唱えた男がいた。スターだ。どした、顔真っ赤になってるぞ。当事者の俺が放心状態なのも考えたものだが、そんなに焦ることがあるのか?

「お、お待ち下さい学園長! ハジメくんは現在私とパスが繋がっている状態なのですが、それは生きていく上で必要最低限の魔力を提供するだけの簡易的なものです。学園生活、もっと言いますと魔術や魔法を使う事になった場合、あっという間に魔力不足に__」

「なら補給すればええやん? もっと強固なパスを使って」

「も、もっと強固な?」

「そうそう。そんなんセックスすれば簡単にできるで!」

 …………

 なんだかよくわからないけどまた俺の貞操が危機に瀕していることは理解出来たぞ。そして言ったなコイツ、セックスって! もう誤魔化しが効かんぞこれは、言い逃れする気すらなさそうなのが憎たらしいが。

「……学校内での性行は風紀を乱すのでは?」

 ここで沈黙を貫いていた先生からの指摘が来た。ありがとうアーサー先生、その言葉を待っていた。しかし相手は学園長、しかもただの学園長ではない、こんなにとち狂った園長なんだ。

「学校内で天使様が飢え死にする方が公序良俗的に良うないやろ。最初に手ェ出したんやから、スタッフォードが責任もって一番槍勤めあや」

「え!?」

 聞く耳すら持っていない。こうして騒ぐだけ騒いで嵐のように消えていく学園長を俺達は黙って見ていた。
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