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はじまり
天使様?の持ち物
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どういう原理なのかは想像もつかないが、スター曰く魔術で浮いているらしい俺のリュックサック、そして図書室から俺ごと持って来てしまった本を受け取る。凄いな、流石は異世界。散々な目にあうだけじゃなくこういうのも見れてよかった。
テーブルの方に目を移しても凄いったらない。先生が掌を2回叩いただけで、テーブルクロスが現れる。そしてポッドやコップが踊るようにクルクルしながら勝手にお茶を入れる。
お菓子も保健室にあるちょっと黒い木の箱を開けた中にあるケーキやクッキーが追随するように棚から出て来たお皿を従え自分からテーブルに並ぶ。ちょっと見えた黒い木箱の中身は凍っていた、多分この世界の冷蔵庫的なやつだろう。お湯を沸かす時間を含めてもものの1分ぐらいであっという間に華やかなティーパーティーの始まりだった。
「おお~」
目を奪われた俺はこれらが終わる頃には素直に拍手をしていた。スターに向けて、先生に向けて、そしてこのティーセットやお菓子達に向けても。こういうのって夢があるよなぁ。
「意外とコツがあるんですが、そこを超えたら後は簡単です。アサヒナさんも魔術の勉強をしてちょっと練習すれば直ぐですよ」
「ま、魔術すげぇ!」
我ながらというやつだが、さっきまでの意気消沈は何処へやら、すっかりテンションが上がってしまった。
「紅茶はどうでしょうか? 先生の魔法で作ったスペシャルブレンドです」
魔法と魔術の違いはよくわからないが、とにかく飲んでみよう。香りは……ちょっとスパイシーだ。全然知識ないけどなんか高そうだというのは伝わってくる。
いただきますと言い、ふーふーと熱と冷まし、一口飲んでみた。スッキリとした味わいが喉から鼻へ向かう。でも全然しつこくない上に後から甘みが来るからスッキリとした甘さが残る。これめっちゃ美味しい。あと個人的に紅茶なの助かる。子供っぽく見えるからあまり話さないが、ここだけの話コーヒーはあまり得意ではない。
「美味しい……コレ凄いですね!」
「それはよかった。お菓子もどうぞ。下界の甘味を楽しんで下さいね」
……
…………
………………
ようやく一息付けた。今までが人生の中でも上位に入るレベルの怒涛の展開だったから、ここに来ての小休止がとてつもなくありがたい。
お茶は勿論お菓子も最高だった。子供舌なのかお菓子や甘いものに目がない。特にチョコレートケーキがチョコの甘さとクリーミーさ、そして苦味の黄金比が完璧に近かったと思う。お菓子に使っている小麦はこの学園と、森とは正反対に少し歩いた場所にある、とある町で作られているそうだ。半分自給自足ってことか、えげつねえ。
「……鞄とその魔導書の話をするんじゃなかったのか」
「個人的にはその物々しい魔導書の方が気になるかな」
あ、そうだ。自分で言ってたこと忘れてた。足元に置いておいたリュックと魔導書って呼ばれてるスピリチュアル本を膝に置く。リュックには筆記用具と教科書、そして使い物にならなくなったスマホ、同じく無用の長物と化しただろう端金の入っている財布だ。
それでも違う世界の住人からしたら惹かれるものがあるようで、
「コレは貨幣でしょうか? 紙を貨幣にするなんて斬新なのですね」
「すげ~これここ押すとなんか細いのが出てくるんだな。コレで何すんの? __文字書けるのか!?」
と言った感じで先生がお金に、JBはシャーペンやボールペンに夢中になっている。今さっき魔術を初めてみた俺と同じような反応をしていて少し笑ってしまった。
あの2人はしばらく放っておこう、なんか面白いし。
カバンに目新しいものがないとなると……やっぱりこの魔導書か。別に信心深いわけでも迷信好きなこともないが、この事件はこの本と出会って始まった。無関係とは思えない。あとこれのせいで本来なら可愛くて家庭的でボインな女の子にやってもらうはずの初めてを、クラスメイトにそっくりな高身長イケメンに奪われたのだ。そう思うとこの本に対しての怒りとも羞恥とも取れる、如何してくれようかという明確ではないが何かの想いがつのる。
「ハジメくんがいた世界って魔術も魔法もないんだよね? それにしては歴史の古そうな魔導書だね」
「……わからん」
「えっと、この本の力で下界に来たの?」
「それもわからん。そもそもこの世界が下界なのかすらも知らない。確か、1ページ目に書いてたよな……」
そう。俺がこの世界に行く直前。この本の1ページ目、低身長を救う魔術という項目を読んでいたんだ。だんだん思い出して来たぞ、そしたらなんか気が遠くなって……そんで虎杖2号ことスターと出会ったんだ。
確か1ページ目だったはずと思い、魔導書を開いた。探す必要すらない、なんてったって1ページ目だからな。ああ思っていたのだが……
そこにあったのは、難しいことが書いてある文字の並びではなく、黒。目次を超えた先にある1ページから2ページの見開きが黒いインクのようなもので塗りつぶされていた。それの代わりのように白い魔法陣みたいなのが書いてある。知らない、こんな不気味なものではなかった。そんじゃそこらのホラーゲームよか怖いじゃねえか。
「なんだこれ……」
「貴重な年代ものの魔導書をこんなにするなんて、よっぽどこの魔術を使われたくなかったんだな」
「ねえアサヒナくん、本当にこの魔術でこの世界まで来たの?」
何もかも覚えがないんだ、知るわけがないだろうそんな事。やばいちょっと洒落にならなくなって来た。さっきまでの休息返せよと思ったが、そもそもこの本を調べようとか最初にほざいたのは俺だったのを思い出す。
まさか元の世界に帰れないなんて事ないよな、嫌だぞこんな所で天使様扱いされてなす術もなく貞操が男達のサンドバックになる人生とか。
先生とJBが異変に気付くぐらいには沈黙が流れたと思う。その間俺がどんな表情をしていたのかなんて知りようがないが、その沈黙を遮る音と声は、確かに聞こえた。
この部屋と廊下を繋いでいた扉が大きな音を立てて開く。
「やあやあ、保健室に天使おるって聞いたけどホンマに?」
テーブルの方に目を移しても凄いったらない。先生が掌を2回叩いただけで、テーブルクロスが現れる。そしてポッドやコップが踊るようにクルクルしながら勝手にお茶を入れる。
お菓子も保健室にあるちょっと黒い木の箱を開けた中にあるケーキやクッキーが追随するように棚から出て来たお皿を従え自分からテーブルに並ぶ。ちょっと見えた黒い木箱の中身は凍っていた、多分この世界の冷蔵庫的なやつだろう。お湯を沸かす時間を含めてもものの1分ぐらいであっという間に華やかなティーパーティーの始まりだった。
「おお~」
目を奪われた俺はこれらが終わる頃には素直に拍手をしていた。スターに向けて、先生に向けて、そしてこのティーセットやお菓子達に向けても。こういうのって夢があるよなぁ。
「意外とコツがあるんですが、そこを超えたら後は簡単です。アサヒナさんも魔術の勉強をしてちょっと練習すれば直ぐですよ」
「ま、魔術すげぇ!」
我ながらというやつだが、さっきまでの意気消沈は何処へやら、すっかりテンションが上がってしまった。
「紅茶はどうでしょうか? 先生の魔法で作ったスペシャルブレンドです」
魔法と魔術の違いはよくわからないが、とにかく飲んでみよう。香りは……ちょっとスパイシーだ。全然知識ないけどなんか高そうだというのは伝わってくる。
いただきますと言い、ふーふーと熱と冷まし、一口飲んでみた。スッキリとした味わいが喉から鼻へ向かう。でも全然しつこくない上に後から甘みが来るからスッキリとした甘さが残る。これめっちゃ美味しい。あと個人的に紅茶なの助かる。子供っぽく見えるからあまり話さないが、ここだけの話コーヒーはあまり得意ではない。
「美味しい……コレ凄いですね!」
「それはよかった。お菓子もどうぞ。下界の甘味を楽しんで下さいね」
……
…………
………………
ようやく一息付けた。今までが人生の中でも上位に入るレベルの怒涛の展開だったから、ここに来ての小休止がとてつもなくありがたい。
お茶は勿論お菓子も最高だった。子供舌なのかお菓子や甘いものに目がない。特にチョコレートケーキがチョコの甘さとクリーミーさ、そして苦味の黄金比が完璧に近かったと思う。お菓子に使っている小麦はこの学園と、森とは正反対に少し歩いた場所にある、とある町で作られているそうだ。半分自給自足ってことか、えげつねえ。
「……鞄とその魔導書の話をするんじゃなかったのか」
「個人的にはその物々しい魔導書の方が気になるかな」
あ、そうだ。自分で言ってたこと忘れてた。足元に置いておいたリュックと魔導書って呼ばれてるスピリチュアル本を膝に置く。リュックには筆記用具と教科書、そして使い物にならなくなったスマホ、同じく無用の長物と化しただろう端金の入っている財布だ。
それでも違う世界の住人からしたら惹かれるものがあるようで、
「コレは貨幣でしょうか? 紙を貨幣にするなんて斬新なのですね」
「すげ~これここ押すとなんか細いのが出てくるんだな。コレで何すんの? __文字書けるのか!?」
と言った感じで先生がお金に、JBはシャーペンやボールペンに夢中になっている。今さっき魔術を初めてみた俺と同じような反応をしていて少し笑ってしまった。
あの2人はしばらく放っておこう、なんか面白いし。
カバンに目新しいものがないとなると……やっぱりこの魔導書か。別に信心深いわけでも迷信好きなこともないが、この事件はこの本と出会って始まった。無関係とは思えない。あとこれのせいで本来なら可愛くて家庭的でボインな女の子にやってもらうはずの初めてを、クラスメイトにそっくりな高身長イケメンに奪われたのだ。そう思うとこの本に対しての怒りとも羞恥とも取れる、如何してくれようかという明確ではないが何かの想いがつのる。
「ハジメくんがいた世界って魔術も魔法もないんだよね? それにしては歴史の古そうな魔導書だね」
「……わからん」
「えっと、この本の力で下界に来たの?」
「それもわからん。そもそもこの世界が下界なのかすらも知らない。確か、1ページ目に書いてたよな……」
そう。俺がこの世界に行く直前。この本の1ページ目、低身長を救う魔術という項目を読んでいたんだ。だんだん思い出して来たぞ、そしたらなんか気が遠くなって……そんで虎杖2号ことスターと出会ったんだ。
確か1ページ目だったはずと思い、魔導書を開いた。探す必要すらない、なんてったって1ページ目だからな。ああ思っていたのだが……
そこにあったのは、難しいことが書いてある文字の並びではなく、黒。目次を超えた先にある1ページから2ページの見開きが黒いインクのようなもので塗りつぶされていた。それの代わりのように白い魔法陣みたいなのが書いてある。知らない、こんな不気味なものではなかった。そんじゃそこらのホラーゲームよか怖いじゃねえか。
「なんだこれ……」
「貴重な年代ものの魔導書をこんなにするなんて、よっぽどこの魔術を使われたくなかったんだな」
「ねえアサヒナくん、本当にこの魔術でこの世界まで来たの?」
何もかも覚えがないんだ、知るわけがないだろうそんな事。やばいちょっと洒落にならなくなって来た。さっきまでの休息返せよと思ったが、そもそもこの本を調べようとか最初にほざいたのは俺だったのを思い出す。
まさか元の世界に帰れないなんて事ないよな、嫌だぞこんな所で天使様扱いされてなす術もなく貞操が男達のサンドバックになる人生とか。
先生とJBが異変に気付くぐらいには沈黙が流れたと思う。その間俺がどんな表情をしていたのかなんて知りようがないが、その沈黙を遮る音と声は、確かに聞こえた。
この部屋と廊下を繋いでいた扉が大きな音を立てて開く。
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