小柄コンプを拗らせていた俺、魔術学校ものの異世界に飛ばされた挙句デカ男達から天使扱いされる

荒瀬竜巻

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はじまり

取り敢えず自己紹介

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「えっとさ、折角だから自己紹介してくれないか?」

 まず俺はお前らのことをビックリするぐらい何も知らない。強いていうならそこのさっきまで俺を抱っこしてたやつがスターって名前なぐらいだ。そう伝えると彼等も確かにと声を出す。ようやっと話の主導権の順番が回って来たぞ。

「えっともう初めましてじゃないけど、初めまして。アルビオン・ロー学園に今年から入学する1年生、ギャリック・リー・スタッフォード。家名がギャリックで名前がスタッフォードね。でも、スタッフォードってあんまり好きじゃないからスターってあだ名を……つけられたよ」

 はにかみながら笑う虎杖に似た男ギャリック・リー・スタッフォード。よくあるファンタジー物語とは違って下が名前なんだな、日本と同じで馴染みやすくて助かった。
 こんなにかっこいい名前のどこが気に食わないのかは本人のみぞ知るところだが、俺も呼びやすさ重視でスターと呼ばせてもらおう。そのあだ名もわかりやすくてかっこいいと思うし。

「はいはい! 次オレな!ドルレアック・ジェービー! スターやアナと違って名前嫌ってるわけじゃないから、気軽にJBって呼んでくれよ、天使様!」

 凄い、見た目も陽キャならあだ名も陽キャっぽいぞ。褐色+赤目+このあだ名って全方向陽キャじゃん。ジャパニーズ陰キャはビビリだからそんなに光を発さないでくれ。いやごめんやっぱなんでもない、きっとそれがお前のいいところなんだろうな。仲良くしようぜ。
 ノリに合わせるべく恐る恐る返事すると、左手を掴まれてグイグイと握手された。握手文化この世界にもあるんだ。あと多分コイツ左利き。

「えっと、デイ」

「アレキンス・ジョセフレカ。コイツらと同じく新1年生。ジョセフって呼んでくれ。あとはえっと……ビーフジャーキー食う?」

 ジョセフ、お前がビーフジャーキーが好きなのはめちゃくちゃ伝わったよ。俺が天使だ天使じゃない論争に渦中でも呑気に食べてたもんな、寡黙なのかビーフジャーキーに夢中なのかわからないが。あと今回も1枚貰った。久々に食うと美味いよな。
 あとそのいかにも控えめそうな金髪碧眼男が可哀想だから俺から声をかけるか。そもそも俺が自己紹介してくれって頼んだんだし。

「えっと、お前の名前は?」

「は、はい! すいませんビーフジャーキー食べてたのに気を使わせてしまって……デイウス・アナゼルです。えっと……僕はまだまだアナゼルという名に相応しい身の上ではないので、アナとお呼びください」

「そんなことないぞ。コイツな、凄い才能があるからデイウス家の英雄と同じ名前つけられてんだよ、そりゃもう凄いんだ!」

「じぇ、JBくん、それしーだよ!」

 さっきの件と今のやり取りでアナがこのグループでどう言った扱いなのかは理解出来た。決して蔑まれていたり過小評価されてる訳でもなく、ただシンプルに弄られて可愛がられるタイプだ。
 現代日本にこれ程の白馬が似合いそうかつ、金髪碧眼でちょっとだけ垂れ目で眉も細い王子様系のイケメンがいたら、絶対今のように愛されキャラにはなれないだろう。これもこの世界の顔面偏差値の平均点が高い故というやつか。
 あとその、身長がこの中だと低めなのもちょっとだけ安心できる。せいぜい170台と見た。普段の俺ならそんだけあったら男だろうが女だろうが敵認定している、だが今は有事だ。そんな贅沢を言ってられない。

「皆さん知り合って1週間ほどしか経っていないのに仲良しですよね。あ、私はアルビオン・ローの養護教諭をしています。名をカダ・ラー・アーサーと言います、お好きなようにお呼び下さい、天使様」

「えっと……天使様って呼ばれたら即座に反応できないから、朝日奈とか、一とかで呼んでほしい」

 このように平気で190近くあるようなイケメンもいるからな。腰まであるクリーム色の髪を下の方に結ぶことで元々有り余ってるだろう上品さが7割増しぐらいになってる。黒くて金色の装飾があるこの学園の制服とは打って変わり、白い白衣らしき上着も似合っている。
 あ、よく見たら青い目を引き立たせるその眼鏡がちょっと大きめだ、そこは野暮ったい薬師っぽくてちょっと安心する。

 ……うーん、元の世界に帰れるような情報はなかったな。あとなんか聞きたいことといえば……あ、そうだ、俺のリュックサック何処にあるんだろ? 確か一緒に持って来てしまった気がするんだけど。

「リュックサック?……あーあの鞄のことだね。ちょっと待っててね。あ、その前にゆっくりお茶でもしない? 天使様のこともっと色々知りたいし」

「うん。俺も俺のこととか置かれてる状況を把握したいからさ、リュックをくれると話が弾むと思うぞ」

「そ、そうかい?」

 結局リュックの中身を物色しながらお茶をするという形に落ち着いた。側から見たら珍妙この上ない空間になること間違いなしだが、俺が思うにこの世界に迷い込むほど珍妙なものはないと考えている。よって何を今更というやつである。

 そして俺はソファーに座り、何故か隣に座って来たジョセフから3枚目のビーフジャーキーを貰った。何も出来ず話すことも思い浮かばない俺は、それを食べながら、リュックサックをとりに行ったスター、そしてお茶の準備をしてくれているほか3人を観察する。別に怪しんでるわけじゃない、むしろちょっとワクワクしてた。なんでかって? そんなの簡単だ。

「天使様……じゃなくてハジメくん、魔導書も持って来たよ。魔術で浮かせてたから汚れもついてないし安心してね」

「あとは私の魔法と魔術でやりますよ。それよりも、アサヒナさんがジョセフくんとのお話に困っています、助けてあげてください」

 元いた世界じゃ一生見られなかったであろう、魔法だの魔術だのが目の前で巻き起こってるんだからな。
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