小柄コンプを拗らせていた俺、魔術学校ものの異世界に飛ばされた挙句デカ男達から天使扱いされる

荒瀬竜巻

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はじまり

万策つきかけたけれど

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 身体測定と聞き、最初に考えるものはなんだろう、そうだ身長だ。中には体重の方が気になるという層も一定数いるだろうがそんなの関係ねえ、まずは身長だ。

「はい、次は……朝日奈一あさひなはじめくん、ここに背をつけてピンとしてね」

 今俺の目の前にあるのは、宿敵身長計。今思い返せば俺の人生における幸せのおおよそはコイツに奪われたと言っても過言ではない。友達に身長が書かれた身体測定表を覗き見されては笑われて、挙げ句の果てには女子から朝日奈くんは男の子なんだから来年にはもっと大きくなってるよと応援された。なんたる屈辱。またジェットコースターも身長が原因で出禁、西松屋で買う服が中1までキツくなかったんだぞ。 

「朝日奈くん、背伸びしちゃダメだよ」

「あ、はいすみません」

 ……まあいい、俺はこの日に向けて様々な鍛錬をした。身長が伸びそうなことや、伸びましたと言った成功例がある事を探しまくりそれらを一切合切試した。身体測定の三ヶ月も前からだ。牛乳、運動、睡眠、そして栄養バランスの整った食事。これらの環境を整えるのを手伝ってくれた父さんと母さん、本当にありがとう。今日の朝、行ってらっしゃいと共に頑張ってきなさいと喝も入れてくれた、理解のある親を持って俺は幸せ者だ。

 見よ、俺の3ヶ月の結晶、努力、本気を!

 俺の革命春の陣! 目指せ!! 大台の150㎝!!!

「えっと……149.9㎝ね」

「ガッデム!!!!!」

 結果、去年より2㎝伸びてた。目標達成は……ならず。

 ……

 …………

 ……………………

 放課後、予報になかった雨によって多くの生徒が帰宅の足止めを喰らっていた。高校1年の春。俺、いや俺たちは、中学生までいた環境がどれだけ閉鎖的だったのか、並びに自分達がどれだけの選択肢の渦中にいるのかを知り唖然としていた。それでも俺のやることは変わらない、あの背高のっぽの身長計に目にもの見せる、それだけだ。しかしそれは失敗に終わった。しかも叫んだ勢いで秤に頭をぶつけた、これ以上縮んだらどうするんだ。そもそもなんだよ2㎝って、成長を見越して買ったこのブカブカの学ランに顔向けできねえ。このままでは中学生の時の二の舞だ。

 自分の何がいけなかったのだろう。もっと牛乳と運動の量を増やせばよかったのか、睡眠の質がいけなかったか、食事のバランス……は母さんと父さんがしてくれたんだ、駄目なわけがないだろう。

 じゃあ何故だ。俺の次に測った逆陸虎杖さろくいたどりは182㎝もあったんだぞ。デカくていいなおい。
 バスケやってて運動も得意。親のどちらかが外人らしく、彫りの深く髪も天然モノの赤髪で癖っ毛をあえて遊ばせてやがる、それで様になってんだからもう無敵だ。そんでよく見ると目が緑なんだぜ、信じられるかよ、緑色の目とかカッコよくないわけがない。強いていうならちょっと吊り目なのが怖いかもだが、周囲に漂ういい人オーラで掻き消している。肌も健康的な小麦色で本当に夢に出るぐらいのイケメン外国人って顔。
 女子が好きそうな線細めの細マッチョ体型で、モテまくるのに女癖は全然悪くない。勉強も人並みにできてしかも性格も良い。さっきガッデムと叫んだ拍子に身長計の秤に頭ぶつけたあの件も、真っ先に駆け寄ってくれた。あんなにいい奴なんだ、身長が低いぐらいのデメリットがあっても構わないだろう。

「朝日奈さん、頭はもう大丈夫?」

「平気だ。えっと、逆陸」

「よかった。あと虎杖でいいよ」

「……虎杖」

「うん。今日はバスケ休みか~なあさ、実は折り畳み傘がたまたまバックに入ってて、よかったら駅まで一緒に帰らない?」

 やめろ。俺に優しくするな。今さっき俺はお前の身長が小さくても構わないとかそんなこと考えてたんだぞ。しかもそれ相合傘じゃねえか、そんなことしたら俺との身長差が顕著になるだろ。

「……いい。母親が送迎してくれるってことになってる」

「あ、そ、そうなんだ……ううん、なんでもない。なら安心だね。じゃ、また明日」

 嘘だ。そんな約束してない。傘も持ってない。ただコイツといる時間が嫌で、嘘をついた。またねと手を振る虎杖をまともに見ることすら出来なかった。
 とりあえず、気を紛らわす意味も込めて、雨が止むまで図書室で時間を潰そう。

 漫画、資料、小説、図鑑、実は一般にも開放している我が校の図書館は意外と広くて本も多い。この中にある身長を伸ばすための本も役に立ったなぁお陰で2㎝は伸びた、2㎝。

 次に向けてまた対策を練らねば、そう思い色々フラフラしていると、あるコーナーが目に入った。

「お、オカルト?」

 オカルトコーナー。確定事象ではない幽霊や占い、魔術に関する本が並んでいる、書いてある内容のせいか表紙も禍々しいのが多くて、少しだけ重圧感もある。……そう言えば、ありとあらゆる方法を試したと豪語した手前あれだが、こういったスピリチュアルなシロモノはまだだな。神仏に頼ってどうこうなる問題ではないが、何もしないよりかはマシなはず。藁にもすがる一心で、オカルトコーナーの中で1番古そうかつ厚みのある本を拝借した。

 表紙だけじゃなくて中身の紙までもが風化していたが、文字は問題なく読める。さてさて、こう言う本初めてだけどどういうのが書いてあるんだろうか。

【1ページ……低身長を救う魔術の話】

 おいおい神かよ。なんでよりにもよって1ページ目になんてもん書いてんだ、あれか、著者も俺と同族か。まあ何でもいい。調子に乗った俺は読み進める。

【この魔術は、行使者がこの文面を読んだだけで発動する。この魔術は、行使者を低身長が聖者だと崇められる世界に転移するものである。しかし、この魔術は一度発動すると来るべき時までまた再び行使する事は不可能であると同時に……】

 読み進める途中で意識が遠のくのを感じた。ヤバいと感じつつもどうにもならない。最後の一文を読む前に、俺の意識、いや体もろともか? 遥か遠くに運ばれてしまう感覚がした。

【この術を発動する1時間以内に嘘を吐いていた場合、術に障害が発生する。低身長を天使の如く尊く愛らしい存在だと崇められる世界に転移してしまうので気を付けよ】
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