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エシィニアへ

手紙

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「えっと、遅れてすまない。物資を運ぶのに手間がかかってな」

喜助たちが帰ってきたのは少し後、疲れている様子だが別に戦ったとかそういうのではないらしい……まあ強いていうなら別の何かとは戦ったみたいだけど。もうコグエを出て行くと言ったら皇子様やヒノマルの人達からの贈り物の嵐が降り注いだらしい。食料や旅の必需品はもちろんのこと、猫や犬、牛なんかも贈呈されそうになったらしい。

流石に生物はその場で断ったらしいが、慎ましい風に見えて意外と推しが強いというか、根性あるヒノマルの人たち相手に喜助たちが一生懸命説明してお断りしていたのを考えると大変だったなと同情してしまう。実際高松と晴雄は疲れたのかさっさと船内自室に行ってしまった、せめて最後の挨拶をってそれをしてきたんだったな。晴雄についていってしまったタマモをよそに喜助が疲れ切ったような顔をしている、あとでなんかしてやろうかな。

「その、流石に全てを断るのは逆に申し訳なくて……食料品を送ってくれた中でも1割ほどいただいてきたよ」

「よく頑張ったなって言いたいけども、これで1割かよ」

「全部だと申し訳ないではなくて船が沈むのではという不安が勝ってしまった……」

そりゃそうだろうな。山盛りの野菜、氷漬になった(多分鮮度のため)の魚の数々、そしてやっぱり大好きなお肉、こっちも氷漬けだけど。とにかくエシィニアに行くまでに食べ切れるのか不安になる、具体的にどれぐらいの距離なのかは知らないけど、少なくとも10日は待つな。40人以上、しかも殆どが育ち盛りなこの状況、海の旅で最も怖いのは嵐でも感染病でもなく食糧難だ。

戦いに縁がない日本の男子高校生だからか、全員腹が減っては戦はできんみたいな性格なもんで、それはまさに戦力と直接結びつく。でもこの量はありがたいな、俺みたいに食いしん坊なのがいても10日間は間違いなく余裕で航海ができるだろう。

「あ、そうだ。皇子から梓宛に手紙だって」

食べ物の量に感心していると、後ろで休む準備をしていた喜助から再び声がかかった。真っ白な紙に達筆に描かれている、習字が苦手だった俺としては筆でここまで器用に書けるのは羨ましい話だ。



巳陽梓殿、悪しき魔王に受けた呪いの話は喜助殿からしかと聞きました。我が国の魔術ではそれ程の悪しき呪いは解くことができません。このような状況に陥ってもお力添えができず申し訳ありませんでした。出来る限りの食料を国民が準備をしてくれたので、そちらを旅の助けにしていただければ幸いです。

さて、私としてもこの偉大なる歴史を持つ和の国の皇子として、今はなき父上、天皇陛下の代理として、何か助言ができればと思います。なにぶん文才は乏しいので、短くまとめることをお許しください。

耐え難い憎しみを向けることがあっても、決して恨んではいけませんよ。まず、その人がなぜそのようなことをするのか、なぜそうしようと思ったのか、きちんと話をするのです。そうすれば周りの評価や自分の物差しだけではわからなかった、その人の本当が見えてきます。

優しい梓殿、貴方が人を傷つけることがありませんよう、私はいつまでも祈っております。どうかこれからもタマモと仲良くしてあげてくださいね。

日丸慶喜



……とても優しい内容だった。決して恨んではいけない、か……しばらく放心状態だった俺を見ても何も言わなかった喜助をありがたく思った。



さて、いつまでも引きずられてはいけない、俺たちにはまだやらなきゃいけないことが山ほどあるからな。

「勇者様、これからも頑張ってください!」

「どうかお体には気をつけて!」

「タマモをよろしくお願いします!」

船を出すときも、皇子様の顔は見えず、ただただヒノマルの国民たちが見送ってくれるだけだ。手を振る40人の勇者たち、事実上の今世の別れだからな。この服を仕立ててくれた店主の顔が見えたのも嬉しかった。

「梓、大丈夫か?」

「なにがだよ」

「なんかその、辛そうだったからさ」

仁に心配されてしまった。いつまで経っても顔の出やすさは健在のようだ。仁の肩をバシバシと叩き、無理やり笑う。

「平気だって! まあ、世話になった人達にもう会えないのは辛いけど……元々ベルを倒すまでの旅って決まってたからな」

そうだそうだ、元々俺たちはここにいるべきではなくて、この世界にとっては謂わばベルの次ぐらいにはめんどくさい混乱因子。そんな俺たちがただ元の世界に帰ったら会えなくなる、別になんともないだろう。むしろ伝説の勇者って感じだ。

しかし流石というのかやはりというのか、仁は斜め上に言葉を取る。

「お前、いつから魔王のことベルって呼ぶようになってんだ?」

「え? いやそれはその、無意識……?」

「まさか少しずつ魔王の呪いが効き始めて」

「いやない、それはない」

その後周りの奴らも集まって医務室に連れて行かれるのは言うまでもないが、そのおかげなのか寂しさは無くなった気がする。やっぱそういうところだよな、このクラスのいいところ。
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