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タイムリミット

老人の勘?

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こってこての味噌おでんが完成した。北海道並みの寒さで新潟並みの積雪量、そんな中で食べる名古屋名物の味噌おでんは格別だろう、いろいろズレてることは放っておいて。

「コグダムの味噌は和の国に比べて甘いので、味噌おでんにすると美味しいのです」

「甘い! どれぐらいですか?」

「多分真田くんの基準じゃ普通の料理は全部甘くないから期待するだけ無駄だと思うよ」

魔式の圧力鍋でこれでもかと煮込むと、短時間でも汗見て美味しくなる(らしい)。おでんは最初にこんにゃくを食べると相場が決まっているんだ俺の中では、無理を言って牛すじ肉(危うくホロケウさんが爪で切り裂くところだった)もつけてもらった、これが無いとおでんと言えない。風の噂で聞いたけど関東では昆布を入れるらしい、きっといい出汁が取れるんだろうな。

何人もの学生を養えそうな馬鹿でかい鍋を5つも使わせてもらったから、なかなかのボリュームだ。それでも食べ盛り育ち盛りの男子高校生が40人もいればおおよそ平らげられそうだ。一応俺も食べる方だし、満腹になるまで熱々のおでんを堪能しよう。

「「「いただきまーす!!!」」」

味噌の匂い立ち込める食事処、ぎゅうぎゅう詰めかつグツグツと煮込まれたそれの一つ、箸を突っ込んでこんにゃくを取り出した。食物繊維の取りすぎは身体に良く無いと聞いたことがあるものの、幸い俺はそう言った経験はない。お腹いっぱいこんにゃくを食べた時にもならなかったからきっと身体が食物繊維に強いんだ。

「それにしても、おでんの具ってどの世界でも変わらないんだな」

「多分両者ともに洗練しあった結果がこれなのではないかな」

「あーなるなる。これ入れたいあれ入れたいがたまたま一致したんじゃなくて、究極のおでんの具について考えたら同じ結論に行き着いたんだな。じゃあこいつらはエリートってことか」

「なるなる……?」

面白い考察だと思う、やはり食に妥協は通用しない、俺だって美味い肉を求めて世界中を駆け回りたいものだ、時間と金があれば。あと幸一は喜助に若者言葉を教えてあげるべきだ、鈍感で生粋の陽キャ夢野幸一には難しいかもしれないけど。ちなみになるなるとは、成る程という意味。

「さて、コグダムの伝統的な家庭料理を拵えさせていただきましたが、お気に召しましたでしょうかな?」

「めっちゃ上手いです!」

「これ〆はラーメンにしません?」

「それただの出汁効いた味噌ラーメン……」

うん確かに上手い。味噌というとねっとりしててしつこい味を想像していたが、すじ肉の出汁も効いてて風味がいい。その分味も濃くなってるけど元の味噌がいいんだなこりゃ、全然しつこくない。甘いと言ってもほんのりだから全然飽きが来ないし、第一体があったまる。

「そういえば巳陽さんや、この後少し時間をいただけませんかな?」

「え、飯の後っすか?」

「ダメです。梓はこの後オレと過ごす予定なんで」

何が目的なのかは分からない、聞く前に仁に止められてしまった。オレと過ごすってセックスなんだけれども……そんな事のために誘いを断るのは申し訳ないと思うのが半分、仁とセックスしたいからちょうどいいとか考えてしまうのがもう半分。

ホロケウさんも先客がいましたかと澄ました態度でにこりと笑った。……流石は学長、見たところ俺の魅了は効いていないみたいだし安心した。その老体では少しの発情も毒かもしれない、長生きしてほしい俺としては少し安心した。

「では明日にしましょう。今日のうちは、そちらのリーダー様とお話を、我らコグダムに頼みたいことがあったのでしょう?」

「は、はい! 是非ともお話を聞いてください」

隣でこれで邪魔者が片付いたとか抜かしやがるから、手の前で餅巾着(かなり数に限りがある)を2個もとってやった。この世のものとは思えない仁の悲痛な断末魔をうるせーと皆が一掃しつつ、俺はしれっとその中の1つを仁のお椀に入れといた。どんだけ巾着食べたかったんだよ食に対する執念がすごすぎる、俺がいえたことでもねえな。

「いやはや賑やかなのは良きかな、小生寿命が伸びる気持ちです」

「長生きしてくださいね……」

急に切ないこと言ってくるホロケウさんに少し不安になった。それと共に、何処からともなく降ってきた疑問も頭に浮かんだ。

そういや俺ってホロケウさんに名乗ったっけ? みんなが梓って言ってたからそれでわかったのか、いや巳陽さんと呼ばれたけど。しかもなんで喜助がリーダーだってわかったのか、ようがある云々はまあ察しが良ければすぐわかるけど、第一喜助はホロケウさんの前で一度もリーダーだと名乗っていない。

「巳陽さん、今のうちにこんにゃくを取ることを推奨しますよ。みな餅巾着で頭がいっぱいですから」

なぜ俺の好物がバレている、こんにゃくばっか取ってるのを見られたか? だめだ疑問持つとなんでも気になり始めた。頭からにして食事に集中した、明日に何か聞けることを信じて。
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