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タイムリミット
老年の詩人
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ホロケウ18世。名前からしてアイヌ感半端ないその狼は、人語をスラスラと操るだけではなく声まで渋くてかっこいいときた。それにしてもホロケウカムイの事を言ってるのだろうけど、学問を司るなんて話は聞いた事ないし、こんなヒョロヒョロなのも少し予想外。異世界だから俺達の知るそれとは若干のズレがあるのかもしれないな。
「それにしても貴重な体験ですな、勇者だけではなく同族にも出会えるなんて。長生きはしてみるものですね」
「は、はい……」
同族とはタマモのことを言ってるのだろうか、狐と狼じゃあ色々と違うだろとは思うけど同じまさか獣人という枠組みなのか?
「えっと、タマモくんとはどう言った付き合いで?」
「同じ獣人です。小生らは皆好奇心に殺されたがる生き物でね、遠くに冒険に行くばかりで同族は少なくなるばかりだ」
「そうなんすね、あの、ホロケウさんは行かないんですか?」
「うーむ……我が肉体、虚弱故に去る事叶わず。若い頃和の国に出向いた事があるものの、3日間に及ぶ昏睡により夢破れたり。遣る瀬無し。といった具合ですな」
そうなのか。忠義でヒノマルに残るタマモや虚弱体質のせいで国から出られないホロケウさんが少し変わってて、気質としては好奇心旺盛なんだな。どこか詩人のような彼の話を暫く聞くと、どうやら獣人と一言で言ってもどれぐらい獣に近いのかは個体差があるようで、タマモのように耳と尻尾が付いてるだけのもいれば、ホロケウさんのように全身動物な個体も居るそうだ。
「どうです? 寒空で立ち話というのもなんですから、続きは時計塔で。温かい食事を準備しましょう」
フレンドリーなその人は、顔の造形というより骨格が違っても笑っているんだなと分かる表情をした。後ろでブンブンと動いている尻尾が可愛いなとか考えつつ、後ろをついて行く。身長は俺より低いが、ほっそりとした身体には荷が重いだろうブカブカの高そうなローブはそんな彼の威厳を象徴している。
異世界は凄いなと層の厚さに感動していると、背後から晴雄と手を繋いでいるタマモに話しかけられた。すっかり仲良しだな、まあ今の俺も転ばないように明に支えてもらってるからどっちもどっちだけども。
「どうした、やっぱり同族は嬉しいんか?」
タマモは言いづらそうにしていたが、覚悟を決めたように小さな声で喋り出す。
「それもありますが、心配なんです。その……もうお爺ちゃんなんですよ、あの学長様。恐らくそう長くは無いでしょう」
「あーわかる、もってあと100ってところだね」
いきなりの言葉に耳を疑った。確かに体は細くて高齢に見えるけど、そこまでだったとは。晴雄の言うあと100というのが何を表しているのかは……わかるけど理解したくは無いものだった。
「え、その……そういうのわかるのか?」
「同じ獣人なら多少は。人間にはああ言った全身獣の獣人の歳は分かりずらいですからね、無理はありません」
「いやそうじゃなくて、梓が言いたいのは晴雄のことじゃねえの?」
「まあねぇ、こう見えてお婆ちゃんの死ぬ日を予知したことあるから、精度は高いよ」
ホロケウさんの背中を見た。言われてみれば細いというよりよぼよぼに見えてしまう、たまにふらついているのが危なっかしい。高齢者しかも大事な学長をこんな雪降る日に1人にさせるなんて、一体全体どういう事なのだろうか。
…………………
「さあ、陸路での長旅実にご苦労でした。皆様、存分にお休みくださいな」
そんな心配をよそに時計塔に着いても、ホロケウさんは休まない。食事処に集めてコグダム都の味を知ってほしいと1人夕飯を作り始めた、42人分を1人で。
「ま、待ってください、俺も手伝います」
「いやはや。小生齢98年、客人を丁重にもてなす心得は捨てたことがありません」
「「「98歳!?」」」
全員が手伝う体制に入った。98歳の老体に鞭打つなんてのは流石に気が引けたんだろう、よしよしいいぞ。ホロケウさんも若者の気力を咎める事はせず、結局全員の夕食を全員で作ることになった。指導のもとコグダム都の家庭料理を作る、といっても俺たちの馴染み深い煮込み料理だけれど。
犬手というのか、狼手というのか、とにかくその手では物を掴むのも一苦労なようで、爪で肉を切り裂こうとしてたから必死になって止めた。かなり近所迷惑になるぐらい騒いでるけど誰一人としてここに来ることはない、それどころか声すら上がらない。コグダム都ってこんなところなんか、東京よりも無関心だな、東京行った事ないけど。
「そういやさ、ここに住んでるやつって今何してんの?」
ナイスタイミングだ暁彦、俺が聞きたかったそれと端的に同じそれだった。
「……皆隠れているのですよ、恐ろしいと考えたのでしょう」
「それって魔王のことか? 魔王がどっか行くまで隠れてるつもりかよ……」
「まさか。隠れているのは勇者様御一行が来るからです」
え、そっちなん? 違う世界から来た当てど無い力を持つ存在を恐れるのは……よく考えたら普通の話だけど、ここまでされるとは。
「……光を恐れて闇を隠し、この極寒のみが我らの味方。この地方に伝わる童謡の一節で御座います。伝統のみに不貞腐れ、それなのに、だからこそ、それ盾に未来を学ぶ……滑稽なことではありませんか」
……何いってるのか全然わからんけど、多分俺たちの味方するよって意味だと思う。しばしの間、この少し変わった狼との時間を楽しむこととなった。
「それにしても貴重な体験ですな、勇者だけではなく同族にも出会えるなんて。長生きはしてみるものですね」
「は、はい……」
同族とはタマモのことを言ってるのだろうか、狐と狼じゃあ色々と違うだろとは思うけど同じまさか獣人という枠組みなのか?
「えっと、タマモくんとはどう言った付き合いで?」
「同じ獣人です。小生らは皆好奇心に殺されたがる生き物でね、遠くに冒険に行くばかりで同族は少なくなるばかりだ」
「そうなんすね、あの、ホロケウさんは行かないんですか?」
「うーむ……我が肉体、虚弱故に去る事叶わず。若い頃和の国に出向いた事があるものの、3日間に及ぶ昏睡により夢破れたり。遣る瀬無し。といった具合ですな」
そうなのか。忠義でヒノマルに残るタマモや虚弱体質のせいで国から出られないホロケウさんが少し変わってて、気質としては好奇心旺盛なんだな。どこか詩人のような彼の話を暫く聞くと、どうやら獣人と一言で言ってもどれぐらい獣に近いのかは個体差があるようで、タマモのように耳と尻尾が付いてるだけのもいれば、ホロケウさんのように全身動物な個体も居るそうだ。
「どうです? 寒空で立ち話というのもなんですから、続きは時計塔で。温かい食事を準備しましょう」
フレンドリーなその人は、顔の造形というより骨格が違っても笑っているんだなと分かる表情をした。後ろでブンブンと動いている尻尾が可愛いなとか考えつつ、後ろをついて行く。身長は俺より低いが、ほっそりとした身体には荷が重いだろうブカブカの高そうなローブはそんな彼の威厳を象徴している。
異世界は凄いなと層の厚さに感動していると、背後から晴雄と手を繋いでいるタマモに話しかけられた。すっかり仲良しだな、まあ今の俺も転ばないように明に支えてもらってるからどっちもどっちだけども。
「どうした、やっぱり同族は嬉しいんか?」
タマモは言いづらそうにしていたが、覚悟を決めたように小さな声で喋り出す。
「それもありますが、心配なんです。その……もうお爺ちゃんなんですよ、あの学長様。恐らくそう長くは無いでしょう」
「あーわかる、もってあと100ってところだね」
いきなりの言葉に耳を疑った。確かに体は細くて高齢に見えるけど、そこまでだったとは。晴雄の言うあと100というのが何を表しているのかは……わかるけど理解したくは無いものだった。
「え、その……そういうのわかるのか?」
「同じ獣人なら多少は。人間にはああ言った全身獣の獣人の歳は分かりずらいですからね、無理はありません」
「いやそうじゃなくて、梓が言いたいのは晴雄のことじゃねえの?」
「まあねぇ、こう見えてお婆ちゃんの死ぬ日を予知したことあるから、精度は高いよ」
ホロケウさんの背中を見た。言われてみれば細いというよりよぼよぼに見えてしまう、たまにふらついているのが危なっかしい。高齢者しかも大事な学長をこんな雪降る日に1人にさせるなんて、一体全体どういう事なのだろうか。
…………………
「さあ、陸路での長旅実にご苦労でした。皆様、存分にお休みくださいな」
そんな心配をよそに時計塔に着いても、ホロケウさんは休まない。食事処に集めてコグダム都の味を知ってほしいと1人夕飯を作り始めた、42人分を1人で。
「ま、待ってください、俺も手伝います」
「いやはや。小生齢98年、客人を丁重にもてなす心得は捨てたことがありません」
「「「98歳!?」」」
全員が手伝う体制に入った。98歳の老体に鞭打つなんてのは流石に気が引けたんだろう、よしよしいいぞ。ホロケウさんも若者の気力を咎める事はせず、結局全員の夕食を全員で作ることになった。指導のもとコグダム都の家庭料理を作る、といっても俺たちの馴染み深い煮込み料理だけれど。
犬手というのか、狼手というのか、とにかくその手では物を掴むのも一苦労なようで、爪で肉を切り裂こうとしてたから必死になって止めた。かなり近所迷惑になるぐらい騒いでるけど誰一人としてここに来ることはない、それどころか声すら上がらない。コグダム都ってこんなところなんか、東京よりも無関心だな、東京行った事ないけど。
「そういやさ、ここに住んでるやつって今何してんの?」
ナイスタイミングだ暁彦、俺が聞きたかったそれと端的に同じそれだった。
「……皆隠れているのですよ、恐ろしいと考えたのでしょう」
「それって魔王のことか? 魔王がどっか行くまで隠れてるつもりかよ……」
「まさか。隠れているのは勇者様御一行が来るからです」
え、そっちなん? 違う世界から来た当てど無い力を持つ存在を恐れるのは……よく考えたら普通の話だけど、ここまでされるとは。
「……光を恐れて闇を隠し、この極寒のみが我らの味方。この地方に伝わる童謡の一節で御座います。伝統のみに不貞腐れ、それなのに、だからこそ、それ盾に未来を学ぶ……滑稽なことではありませんか」
……何いってるのか全然わからんけど、多分俺たちの味方するよって意味だと思う。しばしの間、この少し変わった狼との時間を楽しむこととなった。
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