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タイムリミット

不気味な町

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今までうっすらと頭の中には存在していた疑問がようやく浮き彫りになる。あまりに静かすぎる。コグダム都はそれなりに広い、和の国といい勝負だ。しかも都市ということは人口に関してはこちらに軍配があがるだろう。
しかしその肝心な人がいない、人っ子一人歩いていない。寒いから外に出たくないのか、いいやそれでも一人ぐらいいるってものだと思う。

「不気味なぐらい静かだな」

「ま、まさか……柿原くんの言う通り、寒すぎで家で凍っているのでは!」

「こういう気候なら寧ろ家はあったかいだろ」

天然というより不思議くんに片足突っ込んでる喜助にツッコミを入れつつ、周りを見渡す。雪は降っているけど前が見えないとかそんな深刻な具合じゃない。あくまでしんしんといった感じ。雪降る街に住んだことないから知らないけど、恐らく豪雪地帯であるここに普段から住んでいる人からしたら、痛くも痒くもない程だと思う。普通に労働や学業もしくは雪掻きしてても問題ない。

しかしだれもいない。そもそも色々とおかしい。これだけ高い壁に守られていながら国の入り口である城門はガラ空きな上、たくさん賑わうはずのメインストリートも出店ひとつなく観光客の姿も見えない。家だってよく見ればカーテンがかかって、内側からうっすら光が漏れてやがる。普通に生活しているんだか緊急事態で隠れてんのかわからんな。

「ふ、ふ、ふぇっくしょん!!!」

「デカいくしゃみだな、大丈夫か健吾」

「やっぱり防寒魔法あっても肌寒いね……」

「うーん、確かに」

「ほらほら鼻水垂れてるよ、大丈夫僕テッシュ持ってるから。ほらジーンして」

「ジーン!!」

「「口で言うなよ……」」

見た目の軽装通り寒さに応えたようで、健吾が根を上げ始めている。世話してる蓮舫の方が小柄なのに大きく見えるのは、多分精神年齢が原因だ。

「ふむ……とりあえず、あの無駄にデカイ塔に行くぞ。道に迷うなよ」

このままだとどうにもならないと察したのか、高松が指さしたのは都の中心、例の時計塔だ。確かにあそこに人間の1人や2人いるだろうし、偉い人もいて何があったのかとか聞きやすいだろう。時計台なんて初めてだ、うちの学校にもあったけど小さくて人が入らない、所謂記念碑のような物だった。だから正しくは人が入れる時計塔なんて初めてだ。

「なあ梓……これどう思う?」

「ん!? うーん、今日は休みなんか、それとも何かの理由で隠れているのか、どっちかじゃねえの」

気が合うなと同じ意見を主張する明。音もなく近寄って声をかけるのはやめてほしい、ただえさえ雪道歩くために気を遣っているんだ。流石の魔改造十二単衣も防音機能だけで滑りにくいようには施されていないらしく、寧ろこの履き物で雪道は罰ゲームレベルだと思う。足を取られないように下に意識を向けていたから、背後がら空きで明にも気づかなかった。

「よかったら俺が調べに行こうか? ほら、俺忍者だし」

「いや、それはいいよ……初めての街で単独行動は危険だ」

「心配はありがたいけど、俺からしたら忍者って少ない人数で色々やった方が有利だと思うけど」

「え、えっと……確かに。あーでも今は、俺を支えてくれないか? 歩くの下手すぎて滑って転びそうだから」

「……わかった」

明なりにクラスのためを思っての発言だったんだろう、珍しく真面目な顔をしていた。なんというか、今こうして支えてくれているからこそ思い浮かんだけど、明も最初に比べて随分変わったよな。

……魔王にやられて弱ってる所を触られたり、例の船での回され事件の共犯者だったりある意味薫と同じぐらいの危険人物のはずだ。でも俺が警戒してないのはやっぱり忍者の力なのか、それとも同じ筋トレ同盟を締結した仲だからか……ひょっとしたら仁も混じってその、3Pしたから? 童貞らしい反応で可愛かったのを覚えている。

まあ俺が警戒していない理由はこの際どうでもいいんだ。とにかくこいつは変わった。上手く言葉ではいえないけど、少なくともこうやって人のこと支えてくれるなんて昔の自由人っぷりでは考えられなかった。

「おやおや、客人かな?」

時計塔まであと半分というところまで来て、ようやくコグダム都に住む人と思わしき人間に話しかけられた。ファーストコンタクトだから、警戒されないように、怪しい者じゃなくて勇者であることをなんとか伝えようと思ったが……多分全員の計画が吹っ飛んだだろう。

____狼だ。話しかけてきたのは、二足歩行で歩く狼だった。でもいい服を着ている上に紐のついた眼鏡までかけてやがる、知性も理性もありそうな見た目だ。そもそも人語を巧みに操る時点で普通の狼ではないよな……誰だよ。どうやら狼は暫くの沈黙のうちに何かを察したのか、自ら名乗りを上げた。

「これは失礼、名を伺うには先ず自らが名乗るべしですな。申し遅れました。私はホロケウ18世、あの大きな時計塔の学長をしております。失礼ですがあなた方は、例の勇者御一行で間違い無いですね」
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