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ざわつき

行ってきます

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嵐のようにとんとん拍子に話が進み、そして気がつくと置いていかれるように1人自室に取り残された。これはアレだ、後は俺たちがやるからお前は寝てろ的なやつだろう。ありがたい、今日は一度に色々なことが起きすぎた。相当濃い1日だったと思う。明日もどうせ濃い味の生活が待ってるだろうからやれやれだとかは思わないようにしよう。一々思ってたら身が持たないからな。

蓮くんをクラスメイトに丸投げして大丈夫なのかとか心配は絶えなかったが、体は正直に布団に沈み眠る体制に入る。正直云々の前に体が限界だったのかもしれない。あれこれ考える前に意識は沈んでしまった。



「本当に護衛は必要ありませんか? 勇者様方のお手前を疑うつもりはありませんが、タマモが御世話になるのにお礼が食料の提供だけというのは……」

「いいんすよ。元々オレが言い出したことだし、何より40人もいるんだから護衛もだろうに」

次の日、優しく起こされて時計を見るとすでに9時を回っていた。こりゃあかん寝過ごしたと起きるのを手伝ってくれてる仁と大輔を吹っ飛ばす勢いで跳ね起きた。この動き実際の戦闘に応用できないかな? いやいやそれどころじゃあないと急いで朝食をかき込んでみんなが待つお城の出入り口まで走った。

そして最初に聞いたのがこの会話、まだ蓮くんのままみたいだ。蓮くんに限ってそんなことはないとは思うけど、元々の持ち主がいる体なんだから無茶をしてはいけないと忠告したい複雑な兄心。どうやらタマモが冒険に加わるようだが生憎何も思わない、なんかもう頭数が増える程度では驚きも混乱も何も感じなくなっている。玉藻の頭を撫でる蓮くんは体が違うとはいえ兄弟のようだ、モノホンは見た目も似てるから更に兄弟感が増すだろう。

「そ、そうですか。失礼ですか長谷部晴雄殿、昨日に比べて少し雰囲気と言いますか、気が違うような……」

「同じだ。タマモは成長して帰ってくる、このオレが保証するぜ」

「はい! 長谷部さん、ご指導の程よろしくお願いします!」

世界救う勇者が1人増えたとかそんな新事実は隠している。ヒノマルに来てわかったけど、勇者というのは想像以上に皆の尊敬や注目を集めるということ、多種多様な民族や種族が住むグルーデンとは違い基本同じ民族なヒノマルだからこそわかった。1人増えただけでもお祭り騒ぎな上に霊媒で呼んだとかいうトンデモ設定持ちはベルトルトさん達を除いて秘蔵っ子として守り、みんなが蓮くんと呼ぶのも元の世界の渾名だと少し無理のある言葉で押し切ることにした。まあ元の世界のことなんてタマモは知らないから、適当に誤魔化すというやつだ。

幸いタマモは晴雄との交流が薄かったから
気付くことはない、まあ2日も縁がなかったらそんなもんだろう。晴雄に変わっても何とか全員の助力で上手い感じに誤魔化すつもりらしい。

「お、遅れました!」

「いきなり寝起きの梓に吹っ飛ばされた……」

「多分最初の時よりフィジカル強くなってるぞ」

謝る俺、そしてさっきの出来事をうまく飲み込めていない2人。自分として戦いに応用できそうで嬉しい限りだけど被害にあった仁たちからしたら溜まったもんじゃないだろう。あとで謝っとこうとかうっすら考える。

「梓殿、実はタマモが皆様の旅を共にすることとなりまして……迷惑にはならないようきちんと言っておきます、あと」

「は、はいはい! そんなに言わないで、後は俺たちに任せて下さい」

勇者の旅において迷惑をかけないことなんかを色々言ってはいるものの、最終的にタマモ本人への世話焼き願望を隠しきれていない。クラスの奴らが守るし、何より俺に関しては逆にタマモに迷惑をかけないかが心配だ。もう一度は迷惑をかけた、いやいやまだ本番まではしてないから純潔だし……そんな己の欲望をどう滅するかを今必死に練りこんでる最中だ。

「あ、そうだ。梓殿にはこれを差し上げます、どうかお納めください」

タマモのあれこれでついつい後回しになってしまったのか。旅立つ直前になって皇子様が差し出してきた、中々綺麗で上質な巻物だ。本物の巻物なんて初めて触るしなんなら生で見る機会もそう多くはなかった。皇子様曰くこの王家に伝わる数多の巻物の1つを模写をした物らしく、色欲を抑えたり自らの身を守る術なんかも書かれているそうだ。

「こんなにあるんですね……」

「鍛錬は1日にしてならずに御座います、お互いに限界を超える日々を過ごしましょう」

つまり今すぐにでも読んで実践しろと。……コグダム都に行くまでに歩きながら読んでみようか。皇子様からのエールを無駄にはできないし、これで本当に制御できるようになったら願ったり叶ったりだ。

「この巻物の修行を5年も繰り返せば色欲の完全なる制御ができるようになります!」

……完璧になるための修行の道は、長く険しそうだ。

「お待ち下さい、勇者様方!」

放心状態だったが、何やら聞いたことのある声が聞こえた。
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