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弟に捧ぐ
運命の王子様?
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「真田がめちゃくちゃ心配してたけど、なんかあったんか?」
「……まあ、俺だけの問題だから」
「あ、やっぱりあるんだな。俺も出来ることがあるなら何か相談乗るぜ」
「ありがとう、でもこれは1人でなんとかしないといけない話だから」
「1人でなんとかってことはクラスの奴とかタマモたちは関係ないよな……家族のことでも思い出してたのか? もしかしてホームシックってやつ? いや違うな、今まで家族の話をしなかった梓がなるとは考え難い。さらに言うとここまで悩むってことは魔王倒したぐらいじゃ解決しない問題とみた」
アホのくせに急に洞察力を発揮するな。いや違う情報集めに特化した吟遊詩人だったはずだ。それにしても心読むのうま過ぎねえ? 陽キャなんだから空気も読まずにどうでもいい話吹っかけてこいよ、いやそれはちと偏見がすぎるな。少ない会話で情報を吐き出すのはなんだかいつか読んだ探偵小説の主人公のようだ。軍人上がりの男の人がヤクと酒とタバコ好きの不摂生な探偵に出会って、その人について記録を付け始める話なんだけども……ってそれは今は関係ないな。
ちょっと話がそれたけど、そんな探偵みを感じた。吟遊詩人と探偵って相性いいし、そもそも戦闘じゃなくて探索特化職業みたいなもんだから、ひょっとしたらそういうスキルも特典で与えられてるのかもしれない。よく考えれば踊り子と方向性だけは似ているし、俺にもそんな力が無意識に与えられてるのかも……そうだといいなぁなんかカッコいいから。
「家族の話したくない気持ちわかるなぁ俺もちょっと色々と訳ありでな」
「そうなんか?」
「ああ、多分なんの問題もなく家族と過ごせてるやつって意外と少ないんじゃないのかな」
「俺んちは平和だったぞ。……俺がいなければ」
急に自分も悪く言うもんだから奏に心配された、でも仕方がないじゃないか、事実なんだから。俺がいなければ余り物なんて概念があの家に現れることはなかった。母親も父親もなんの問題もなく蓮に一心の愛情を注ぐことができた、それに蓮だって俺がいなかったらブラコンにもならなかっただろうに。知らぬ間に天才な弟の性癖をねじ曲げる片棒を担いでた事にショックが隠しきれない。
俺がいなかったら、間違いなくあの家は幸せ家族になっていた。今まで残り物ならまだ我慢出来た、仕方がないと思うことができた。でもまさか足手纏いになってたなんて、魔王倒して元の世界帰ったら即座に1人暮らしを考えたいレベル。でも蓮が認めてくれないって違うんだ、洗脳されるな毒されるな、俺の意思で動くんだ。
「ちょっと俺の話してもいい?」
1人で怯えたり悲しんだり、負の百面相をしていたところ、見かねた奏が話を切り替えてきた。……そうだな、この状態でこれ以上考えても煮詰めるだけだ。少し気分転換に人の話を聞きたい気分になった。
「俺って家族に恵まれてなくてな。母さんは料理をしたことがないし、姉さんは掃除したことがないし、もう1人の姉さんは自分のバッグより重いものを持ったことがない。家事は俺が全部やってたんだぜ」
軽い笑い話のようなノリだったが、内容は壮絶だった。船内で以外と料理の得意な奏を奇妙に思ったのを覚えているけど、そんな理由だと知りもしなんだ。存在理由があってこき使われるのか、不要だからと放っておかれるのか、どちらが幸せか酷かは人それぞれ。……俺は弟が兄貴を束縛して喜ぶ特殊性癖から解放されて真っ当に生きてくれればあとはなんでもいいや。
「父さんはやになって逃げていったよ。お陰で家事スキルは身に付いたし学校が好きになれたから悪いことばかりじゃないけど……出て行く勇気もないし、いつか連れ出してくれる王子様来ねーかなって待ってるところ」
奏がチラチラと見ているところ申し訳ないが、とてもではないが連れ出せるほどの力も妥協も俺は持ち合わせていないからな。むしろ俺の方が弟から逃げるのに王子様が欲しいレベルだ。でも気持ちはものすごいわかる、今まで当たり前だと思ってた家庭環境とかが有事の時におかしいって分かるのは簡単だけど、そこからどう逃げ出すかなんて知らない。考えたことがなかったからな。
でも奏は何年も待ち続けているのだろう、可笑しい家庭環境だとわかって耐えてきた人間だから面構えが違う。……俺は無理だけど、いつか守ってくれる素敵な人が見つかるといいな。
「……うーん、梓が俺の王子様だと思ってた時期があったんだけどな」
「とてつもない陰キャオタクバリネコでドン引きしたってか?」
「違う違う、なんかもう運命の相手見つけちゃったって感じじゃん。もちろん納得できないからって頑張って振り向かせようと努力してる奴もいるけどな」
俺にもそんな相手いるんかなーとちょっと虚な顔をしている奏を心配した。連れ出してくれる王子様に憧れるその姿が寂しい。すると、再び襖が開いた。なんだか来訪者が多いな。
「見つけたぞ。浅野、早く風呂に入れ。どうせ夜更かしするつもりなんだったら早いうちに入ってろ」
「あ、トメタツ。いま梓と王子様の話してたんだ」
「随分とロマンチックだな、乙女か」
「どこかに連れ出してくれる王子様いないかねー」
「さあな。ほらさっさとこいよ、後がつっかえたんだ。全くどうしようもないダチだよ」
トメタツこと留辰巳に連行されそうになっている。別に止めはしない、風呂に入るのは大事だ。俺は……みんなが寝たら入ろっかな。なんだなんだ仲がいい2人を見てたら、ずいぶん気分が良くなったし、1人で入っても悪い事を考えることはないだろう。
運命の王子様か……奏もいつかは巡り合えるといいな。
「……まあ、俺だけの問題だから」
「あ、やっぱりあるんだな。俺も出来ることがあるなら何か相談乗るぜ」
「ありがとう、でもこれは1人でなんとかしないといけない話だから」
「1人でなんとかってことはクラスの奴とかタマモたちは関係ないよな……家族のことでも思い出してたのか? もしかしてホームシックってやつ? いや違うな、今まで家族の話をしなかった梓がなるとは考え難い。さらに言うとここまで悩むってことは魔王倒したぐらいじゃ解決しない問題とみた」
アホのくせに急に洞察力を発揮するな。いや違う情報集めに特化した吟遊詩人だったはずだ。それにしても心読むのうま過ぎねえ? 陽キャなんだから空気も読まずにどうでもいい話吹っかけてこいよ、いやそれはちと偏見がすぎるな。少ない会話で情報を吐き出すのはなんだかいつか読んだ探偵小説の主人公のようだ。軍人上がりの男の人がヤクと酒とタバコ好きの不摂生な探偵に出会って、その人について記録を付け始める話なんだけども……ってそれは今は関係ないな。
ちょっと話がそれたけど、そんな探偵みを感じた。吟遊詩人と探偵って相性いいし、そもそも戦闘じゃなくて探索特化職業みたいなもんだから、ひょっとしたらそういうスキルも特典で与えられてるのかもしれない。よく考えれば踊り子と方向性だけは似ているし、俺にもそんな力が無意識に与えられてるのかも……そうだといいなぁなんかカッコいいから。
「家族の話したくない気持ちわかるなぁ俺もちょっと色々と訳ありでな」
「そうなんか?」
「ああ、多分なんの問題もなく家族と過ごせてるやつって意外と少ないんじゃないのかな」
「俺んちは平和だったぞ。……俺がいなければ」
急に自分も悪く言うもんだから奏に心配された、でも仕方がないじゃないか、事実なんだから。俺がいなければ余り物なんて概念があの家に現れることはなかった。母親も父親もなんの問題もなく蓮に一心の愛情を注ぐことができた、それに蓮だって俺がいなかったらブラコンにもならなかっただろうに。知らぬ間に天才な弟の性癖をねじ曲げる片棒を担いでた事にショックが隠しきれない。
俺がいなかったら、間違いなくあの家は幸せ家族になっていた。今まで残り物ならまだ我慢出来た、仕方がないと思うことができた。でもまさか足手纏いになってたなんて、魔王倒して元の世界帰ったら即座に1人暮らしを考えたいレベル。でも蓮が認めてくれないって違うんだ、洗脳されるな毒されるな、俺の意思で動くんだ。
「ちょっと俺の話してもいい?」
1人で怯えたり悲しんだり、負の百面相をしていたところ、見かねた奏が話を切り替えてきた。……そうだな、この状態でこれ以上考えても煮詰めるだけだ。少し気分転換に人の話を聞きたい気分になった。
「俺って家族に恵まれてなくてな。母さんは料理をしたことがないし、姉さんは掃除したことがないし、もう1人の姉さんは自分のバッグより重いものを持ったことがない。家事は俺が全部やってたんだぜ」
軽い笑い話のようなノリだったが、内容は壮絶だった。船内で以外と料理の得意な奏を奇妙に思ったのを覚えているけど、そんな理由だと知りもしなんだ。存在理由があってこき使われるのか、不要だからと放っておかれるのか、どちらが幸せか酷かは人それぞれ。……俺は弟が兄貴を束縛して喜ぶ特殊性癖から解放されて真っ当に生きてくれればあとはなんでもいいや。
「父さんはやになって逃げていったよ。お陰で家事スキルは身に付いたし学校が好きになれたから悪いことばかりじゃないけど……出て行く勇気もないし、いつか連れ出してくれる王子様来ねーかなって待ってるところ」
奏がチラチラと見ているところ申し訳ないが、とてもではないが連れ出せるほどの力も妥協も俺は持ち合わせていないからな。むしろ俺の方が弟から逃げるのに王子様が欲しいレベルだ。でも気持ちはものすごいわかる、今まで当たり前だと思ってた家庭環境とかが有事の時におかしいって分かるのは簡単だけど、そこからどう逃げ出すかなんて知らない。考えたことがなかったからな。
でも奏は何年も待ち続けているのだろう、可笑しい家庭環境だとわかって耐えてきた人間だから面構えが違う。……俺は無理だけど、いつか守ってくれる素敵な人が見つかるといいな。
「……うーん、梓が俺の王子様だと思ってた時期があったんだけどな」
「とてつもない陰キャオタクバリネコでドン引きしたってか?」
「違う違う、なんかもう運命の相手見つけちゃったって感じじゃん。もちろん納得できないからって頑張って振り向かせようと努力してる奴もいるけどな」
俺にもそんな相手いるんかなーとちょっと虚な顔をしている奏を心配した。連れ出してくれる王子様に憧れるその姿が寂しい。すると、再び襖が開いた。なんだか来訪者が多いな。
「見つけたぞ。浅野、早く風呂に入れ。どうせ夜更かしするつもりなんだったら早いうちに入ってろ」
「あ、トメタツ。いま梓と王子様の話してたんだ」
「随分とロマンチックだな、乙女か」
「どこかに連れ出してくれる王子様いないかねー」
「さあな。ほらさっさとこいよ、後がつっかえたんだ。全くどうしようもないダチだよ」
トメタツこと留辰巳に連行されそうになっている。別に止めはしない、風呂に入るのは大事だ。俺は……みんなが寝たら入ろっかな。なんだなんだ仲がいい2人を見てたら、ずいぶん気分が良くなったし、1人で入っても悪い事を考えることはないだろう。
運命の王子様か……奏もいつかは巡り合えるといいな。
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