上 下
142 / 216
ようこそ和の国へ!

店主さん可哀想

しおりを挟む
2人が無事に帰ってきた頃にはすっかり仁の姿は変わって、立派な花婿の姿になっていた。俺たちはこんな会話をしてたもんだから着付けをする暇なんてなく、テンション上がり気味の店主に着付けを手伝ってもらうことになってしまった。

「すみません……譲治と色々頑張ってみたんですけど、2人ともこんな経験ないからやっぱり難しくて」

「いいのですよ、花嫁用の衣装である十二単衣はなかなか着るのも脱ぐのも大変ですからね、何なりとお申し付けください。それにしてもやはり嬉しいですね」

あんな話をしてたのを仁にバレるのも少し癪だから、2人で上手く話を合わせて誤魔化した。それに疑いもしないで素直に待ってる仁と、テキパキ俺の着付けを進める店主。やっぱりその道のプロは違うな、動き方と言うか、着せるだけなのにキレの次元が違う。でもさっきの嬉しいと言う発言には首を捻るばかりだった。

「……ごめんなさい、何が嬉しいのかわかりません。あーでもこんなに居座ってんだから、やっぱり体験だけじゃなくて買う方がいいですか?」

「いえいえとんでもない! 私が精魂込めて仕立てた正装をまさか勇者様に着ていただからなんて、何とい名誉的な事であるかと感動していたのです。もし宜しければ無料でも全然構いませんので、貰ってください!」

こんな高価なものを無料でいいとか、なんだか勇者を讃えすぎて新興宗教みたいだ。それは流石にと断ってみたものの、仁と譲治は乗り気だった。

「貰えるものはなんでも貰う主義だけど……ちと魔王を倒す勇者の服としてはちょっと動きずらいな」

「もっと動きやすい十二単衣ないんすか?」

「それは、少し難しいです。せめて1日もあれば、これを魔改造して動き易く仕立てることが出来ます」

「やめて下さい」

とんでもないこと口走ってる店主を静止した。確かにカレーライスやクトゥルフしかり魔改造大好きな日本人と同じ様な文化を持ってるとはいえ、和の国の人達にも同じ様な感性があるのかと心配になる。でも踊り子に似合う動きやすい十二単衣って興味あるか無いかと聞かれれば断然興味がある。

「……はい、無事終わりました。綺麗になりましたよ。サービスとして化粧も出来ますが」

「それは良いです」

「絶対似合うと思うのですが」

「張り合わないでください」

意外としつこい店主をなんとかあしらって、大きな鏡を見た。いつもの俺だ、ただ十二単衣を着てるだけの。思ったよりも重くて帯も固くて苦しい。花嫁役というのは思ったよりも大変なんだなと尊敬してしまいそうになった。確かにこれはこれからの旅に着てくのは無理だし、着ないとしても手入れが大変だ。旅は何が起こるかわからない、魔王やイカ野郎、それと同じぐらい厄介な相手が来るやもしれない中で、はっきり言って服に気を遣っている暇がないのが本音だと思う。

「うーん……やっぱり仕立てます。こんな1人で切り盛りしてる染物屋に来て頂いたのですから、少しぐらいは恩を返さないと」

頑固ものな店主に俺は諦めを覚え始めた、しかも悪意がないから尚更だ。そこまでしてまで拒否する理由は思い浮かばない、寧ろここは大人しく店主からの贈り物を受け取った方がお互いのためだとも思った。

じゃあお願いしますと言えば、嬉しそうにもう40にもなる店主はニコニコと笑っていた。ついでに仁と譲治もニコニコしていた。もう花婿用の衣装を貰う気満々の仁が、店主に近づいた。あ、と声を出したがもう手遅れ、仁の方が体感2歩ぐらい早かった。しかも譲治まで悪ノリし始めた、詰将棋の方がまだ脱出路があるぐらいの詰み具合だ。

「どうせなら、店主の好きに色々いじってもらって構いませんよ」

「いや、勇者様の大事な衣装にそんな不貞は出来ませんよ。それに、好きに色々っと言いますと?」

「だから、好きな性癖入れて良いんだよ。例えば自分が花婿だったら着てほしい柄だったり、あともしも花嫁役だったらどんなの着たいとか。まあ兎に角願望入れろって事だな」

「わ、私は今は染物屋を大きくすると決めておりますので、結婚はまだ……」

おい店主困らせてんじゃねえよ。あれだけぐいぐい来てたのに、いざ自分の事となるとウブなようだ。耳までタコのように赤くしている、かわいそうに。

「もう四十路って奴ですよね、お付き合いしてる人なんかはいるんですか?」

「い、いません……」

「勿体ないなー。裁縫が得意で、素直で可愛い、いいお嫁さんになれそうなのに」

「私が貰われる側ですか!?」

「店主さん素質ありそう。俺の梓ほどじゃないけど」

耳どころか首まで赤くなってきた店主と、仁たちを引き離した。調子に乗ってるようだったので必殺長袖ビンタ(十二単衣の長い袖でビンタする)を繰り出して大人しくさせた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

スライムパンツとスライムスーツで、イチャイチャしよう!

ミクリ21
BL
とある変態の話。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

俺は触手の巣でママをしている!〜卵をいっぱい産んじゃうよ!〜

ミクリ21
BL
触手の巣で、触手達の卵を産卵する青年の話。

催眠アプリ(???)

あずき
BL
俺の性癖を詰め込んだバカみたいな小説です() 暖かい目で見てね☆(((殴殴殴

ある少年の体調不良について

雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。 BLもしくはブロマンス小説。 体調不良描写があります。

処理中です...