上 下
133 / 216
ようこそ和の国へ!

雪崩れ込む勇者限界オタク達

しおりを挟む
「「「勇者様方、日の丸へようこそ!」」」

港に着いた瞬間、俺たちを待っていたのは地面が揺れるような歓喜の声だった。いつか教科書で見た江戸時代の街のへによく似ているその港町は、10年に一度の祭りでも始まるんかと言いたいぐらいには盛りに盛り上がっていた。しかも全員揃いも揃って、勇者様達が来なさった、世界を救ってくださる救世主だとか、そんなことを言うばかり。

グルーデンの人達はそこまで勇者うんぬんに頓着がないというか、言い方はアレだけど俺にしか興味がなさげだった分、その落差に驚いた。ベルトルトさんのことだから、ヒノマルよりも沢山の人が住むグルーデンの人達が混乱しないようにと勇者の事は黙ってたのかもしれない。そこんところはこことえらい違いだと思う。まあどちらもいい意味で王の采配が効いたってとこだな。

「皆の者、出迎えご苦労だ。これより勇者様方を都へと連れて行く、挨拶をしたり握手をせがめるのは今のうちだぞ!」

皇子様の粋な計らいにヒノマルの人たちは歓喜爛漫、その四文字熟語はどういう意味かって? そんなの知らない、俺が作ったから。でもとにかく喜んで和気藹々としているのがわかってもらえたらそれで十分だ。元気過ぎるとグルーデンで踊った時みたいに、俺達にどっと押し寄せてくるのではと警戒していたが、どうやらそんな心配は不要だったみたいだ。

「よ、40人の勇者だ、本物だ!」

「世界を救う英雄に握手をせがむなんて恐れ多いよな……」

ものすごく遠慮をされている。これアレだ、文化だけじゃなくて気質も似てるんだろうな。その、控えめなところというか、なんかこっちが悪い気がするぐらい遠慮されてるもん。それに耐えきれなくなったクラスメイト達が1人また1人と、ヒノマルの人達の元へ駆け寄ってはファンサービスの如く握手をし始めた。

勇者様に握手してもらったこの手は一生洗わないと、船上でタマモに言われた事と同じような声が聞こえてくる。そんなに俺達って凄いのか、今更だけどひょっとして俺らってマジで凄いのか。そんなことになったら俺も調子に乗って握手してしまう。こんなメイド服とかいう破廉恥漢な姿の踊り子が勇者とかみんなの夢を破壊しないか心配だったけども、勇気を出してさっきから俺をチラチラと見ていた男の人達のそばへ行った。

「あの、よかったら俺も握手を……したほうがいいですか?」

「へ? え!? いいんですか!?」

「はい、もう握手は……しましたね」

いいんですかと聞きながらも颯爽と手を掴んでくるの凄い既視感がある。わかる。推しのアイドルや声優が目の前にいるとどう頑張っても挙動不審になる上に、そんなこと言われながら手を差し出されようものならいくらでも掴んでしまう。俺意外とヒノマルの人たちと仲良くなれるかもしれない、潜在的に俺と似た匂いを感じるから。

「あの、勇者様のお名前を伺っても……」

「えっと、巳陽梓です。一応勇者の1人ですけど……踊り子なんで、あんま期待しないでくださいね」

「踊り子ですか! 素晴らしいですね!」

「世界をお救いになられる勇者様だ、きっと素晴らしい舞を披露するのでしょうね!」

「変わった御召し物を着ていますが、これは勇者の装束でしょうか」

期待が重い。踊り子なんてろくな職業ではない俺なんてみんなガッカリするかもと、声が小さくなってしまったというのに、それでもヒノマルの人たちは俺を信用してやまない。後これはメイド服だ、決して勇者達は戦いにメイド服を用いるような奴らばかりでは無いからな。そうかわかったぞ、多分ヒノマルの人たちは能や歌舞伎みたいなカッコいいのを想像しているのだろう。

全然違うぞ。もう一度言う、大事なことだからな、全然違う。どちかと言うと、ポールダンスとかストラップとかそこら辺の系統なんだけど、と言ったところでヒノマルの人たちが理解できるかは分からない。百歩譲ってポールダンスはあっても、ストラップとか言うそんなド変態文化ある気がしない。

「おれ勇者様と握手だけじゃなくてこんなにお話ができるなんて……え?」

「どうしたんですか?」

どうしたのか、急に言葉を失った目の前の人は、ごめんなさいと謝るばかりだ。周りをよく見れば、俺を囲んでいる人を中心に様子がおかしくなり始めていた。

「ご、ごめんないさい……斬首します」

「なんで!?」

「じゃあせめて切腹を……」

「だからなんで!?」

さっきまで握手を交わしながら話をしていた周りのヒノマルの人達が、突然自殺宣言し始めた。これで焦るなと言うのは酷というものだろう。嫌がりながらうずくまる目の前の人を半ば無理やり起こして、何処か怪我をしたのかと確認した。その光景に俺は息を呑む。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?

寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。 ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。 ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。 その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。 そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。 それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。 女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。 BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。 このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう! 男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!? 溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

処理中です...