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魔王の陰謀 下
はじまる ⭐︎
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その後も周りの踊り子達が順番に呼ばれていく、みなデュリオさんに負けず劣らずの技で観客達の視線を集めていた。なんか本当のストリップショーみたいな野蛮なのを想像していたけれど思った以上に秩序が保たれていて一安心している。まあチップを体にねじ込まれるのはなんか恥ずかしそう、俺にできるんかな。
空元気がなくなりそうになるのを必死に知らんぷりする。20人ほどいた踊り子達が順番に呼ばれていくのは、最後はお前だぞと念を押されるようで、身を削られるような思いだった。いいや、大丈夫。俺は大丈夫だ。
「梓、そろそろお前の番だぞ」
「ん!?」
え、もう俺かよと思って時計を見た。確かに控室に入ってもう2時間近くたっている。馬車でここにいたのが夕方前だし、終わる頃には暗くなってるかもなとか呑気なこと言ってる場合ではない。死ぬ、俺が緊張とストレスで死ぬ。
「き、希望……流石にもう観客達は疲れてるよな?」
「いいや、ようやく主役が来るって今日一のテンションだぜ」
おいおい死ぬわ俺が。20人もいたら疲れるだろ、というより疲れてくれ。俺の自慢出来ない十八番芸そのニである「なんやかんや上手くいく」が通用しないとかこれ以上打つ手がねえよ。俺の自慢出来ない十八番シリーズはあと5つあるけど、どれも使えないからマジで詰んだ。
「い、行ってくる……」
「顔色悪いぞ、平気か?」
「遺書書いとくから骨拾うのと墓の見積もりしてくれ」
「全然大丈夫じゃないな」
「葬式は大人数じゃなくてひっそりしてくれ」
「お前これからどこいく気だよ」
漫才ともいえない支離滅裂な何かを済ませる。他の踊り子達に心配させてしまった中、フラフラとした足で舞台裏へ向かった。舞台では俺の前の順番だった踊り子が優雅に踊っていた。緊張でガッチガチな俺とは大違いで、一人劣等感を噛み締める。
ショーが終わったのか、拍手喝采がおこる。遂に俺か、もう緊張不安の類をすっ飛ばして無の境地に達した俺は、なんだか虚に成り行きを見ていた。踊り子が一礼をして、俺の元へくる。よく見ると俺に積極的にスキンケアを教えてくれた踊り子の一人だ。ああ始まってしまうのかと諦め気味だった俺に、その肩に、ポンと手を乗せた。
「頑張れよ、新人」
その一言で正気に戻った気がする。いや違うな、正気というか、ようやく自分のためにやる気になったって感じだ。さっきまでは見てくれる客のためや王族の皆さんのための恩返し、それにクラスメイトの期待に応えることばかり考えていた。
しかし今は違う、同業者それも先輩に肩をもたれ応援される。それで、ようやく自分のことが見えたような、自分のためにやるというやる気がみなぎった。そんな感じだ。
「顔が硬いぞ、笑顔笑顔!」
「大丈夫。観客は君の失敗を見にきたんじゃない、成功を見にきたわけでもない、君が頑張っている姿が見たいんだ!」
「観客は味方だ。まだ分からねえなら今回ぐらいはかぼちゃだとでも思ってればいい」
背後から踊り子達の声援を受ける。ああ、そうなんだ、俺は思ったよりも味方が多いんだ。なんだなんだ、なんやかんや上手くいきそうだな!精一杯の笑顔でステージに歩いた。
♢
まだ何もしていないのにも関わらず、大喝采のなか中央のポールまで行くのは、妙に時間がかかるような気がした。
「きたきた!」
「今日の主役だ!」
「本当に可愛いよな~王国の奴らが羨ましいぜ」
今までの人生で言われたこともない、多分これからも言われることはないと思っていた系統の褒め言葉は、想像以上に恥ずかしい。
「二の腕エッロ……」
「足も白くて綺麗だよな」
「以外に結構筋肉ついてんのもまたいいというか……」
まだ何もしていないというのにもうそんな目で見られてる。俺はすぐに身体が熱くなってしまう発情体質なもんで、出来ればやめて欲しかったが個人の主義主張は勝手と知らんぷりをした、まだいける、まだ熱くなってないからセーフだ。
意を決してポールを手に持つ。なかなか太い深呼吸ほどではないがさあやるぞと深めの呼吸をすれば、自然と身体が動く。この感覚は実に久しぶりだ、異世界転移したばかりの時に体験したそれだ。そして、俺が踊った瞬間周りの空気が変わるのもしさしぶりだった。
「すげえ、めっちゃエロいな」
「さっきまで可愛かったのに急にエロくなるのいいんだよ」
全員が一斉に俺のことがエロいと言う目で見てくる。それだけで、今までのどれよりも発情のレベルが高い、チリと化しそうだった理性は俺の抵抗も虚しくやっぱチリになった。踊りながらエロいところを見られるのが嬉しい、もっと踊るから見てほしい。そんな意図を込めて腰を大胆に振ると、それだけで歓声が降り注いだ。
今俺はエロく踊る、客が喜んでエロい目で見る、発情する、更にエロく踊ると、ドツボとも呼んでもいいほどの悪循環に入っていた。
空元気がなくなりそうになるのを必死に知らんぷりする。20人ほどいた踊り子達が順番に呼ばれていくのは、最後はお前だぞと念を押されるようで、身を削られるような思いだった。いいや、大丈夫。俺は大丈夫だ。
「梓、そろそろお前の番だぞ」
「ん!?」
え、もう俺かよと思って時計を見た。確かに控室に入ってもう2時間近くたっている。馬車でここにいたのが夕方前だし、終わる頃には暗くなってるかもなとか呑気なこと言ってる場合ではない。死ぬ、俺が緊張とストレスで死ぬ。
「き、希望……流石にもう観客達は疲れてるよな?」
「いいや、ようやく主役が来るって今日一のテンションだぜ」
おいおい死ぬわ俺が。20人もいたら疲れるだろ、というより疲れてくれ。俺の自慢出来ない十八番芸そのニである「なんやかんや上手くいく」が通用しないとかこれ以上打つ手がねえよ。俺の自慢出来ない十八番シリーズはあと5つあるけど、どれも使えないからマジで詰んだ。
「い、行ってくる……」
「顔色悪いぞ、平気か?」
「遺書書いとくから骨拾うのと墓の見積もりしてくれ」
「全然大丈夫じゃないな」
「葬式は大人数じゃなくてひっそりしてくれ」
「お前これからどこいく気だよ」
漫才ともいえない支離滅裂な何かを済ませる。他の踊り子達に心配させてしまった中、フラフラとした足で舞台裏へ向かった。舞台では俺の前の順番だった踊り子が優雅に踊っていた。緊張でガッチガチな俺とは大違いで、一人劣等感を噛み締める。
ショーが終わったのか、拍手喝采がおこる。遂に俺か、もう緊張不安の類をすっ飛ばして無の境地に達した俺は、なんだか虚に成り行きを見ていた。踊り子が一礼をして、俺の元へくる。よく見ると俺に積極的にスキンケアを教えてくれた踊り子の一人だ。ああ始まってしまうのかと諦め気味だった俺に、その肩に、ポンと手を乗せた。
「頑張れよ、新人」
その一言で正気に戻った気がする。いや違うな、正気というか、ようやく自分のためにやる気になったって感じだ。さっきまでは見てくれる客のためや王族の皆さんのための恩返し、それにクラスメイトの期待に応えることばかり考えていた。
しかし今は違う、同業者それも先輩に肩をもたれ応援される。それで、ようやく自分のことが見えたような、自分のためにやるというやる気がみなぎった。そんな感じだ。
「顔が硬いぞ、笑顔笑顔!」
「大丈夫。観客は君の失敗を見にきたんじゃない、成功を見にきたわけでもない、君が頑張っている姿が見たいんだ!」
「観客は味方だ。まだ分からねえなら今回ぐらいはかぼちゃだとでも思ってればいい」
背後から踊り子達の声援を受ける。ああ、そうなんだ、俺は思ったよりも味方が多いんだ。なんだなんだ、なんやかんや上手くいきそうだな!精一杯の笑顔でステージに歩いた。
♢
まだ何もしていないのにも関わらず、大喝采のなか中央のポールまで行くのは、妙に時間がかかるような気がした。
「きたきた!」
「今日の主役だ!」
「本当に可愛いよな~王国の奴らが羨ましいぜ」
今までの人生で言われたこともない、多分これからも言われることはないと思っていた系統の褒め言葉は、想像以上に恥ずかしい。
「二の腕エッロ……」
「足も白くて綺麗だよな」
「以外に結構筋肉ついてんのもまたいいというか……」
まだ何もしていないというのにもうそんな目で見られてる。俺はすぐに身体が熱くなってしまう発情体質なもんで、出来ればやめて欲しかったが個人の主義主張は勝手と知らんぷりをした、まだいける、まだ熱くなってないからセーフだ。
意を決してポールを手に持つ。なかなか太い深呼吸ほどではないがさあやるぞと深めの呼吸をすれば、自然と身体が動く。この感覚は実に久しぶりだ、異世界転移したばかりの時に体験したそれだ。そして、俺が踊った瞬間周りの空気が変わるのもしさしぶりだった。
「すげえ、めっちゃエロいな」
「さっきまで可愛かったのに急にエロくなるのいいんだよ」
全員が一斉に俺のことがエロいと言う目で見てくる。それだけで、今までのどれよりも発情のレベルが高い、チリと化しそうだった理性は俺の抵抗も虚しくやっぱチリになった。踊りながらエロいところを見られるのが嬉しい、もっと踊るから見てほしい。そんな意図を込めて腰を大胆に振ると、それだけで歓声が降り注いだ。
今俺はエロく踊る、客が喜んでエロい目で見る、発情する、更にエロく踊ると、ドツボとも呼んでもいいほどの悪循環に入っていた。
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