クラスで異世界に転移するまではいい、でも175㎝の俺が踊り子って誰得だよ!

荒瀬竜巻

文字の大きさ
上 下
14 / 216

前途多難

しおりを挟む
俺はただ許可を求めただけだ。なのにこいつと来たら、思いっきし驚いている。そしてしばらくの沈黙の後、ものすごく嬉しそうな顔をして俺を見つめ直す。不良なんだからもっと怖そうなツラしろよ……ってこれはこいつに失礼か。

「梓、仁って呼んでくれ」

「……仁」

「もう一回」

「仁」

「もう一回」

「言わせすぎだ」

でこにデコピンをかましても嬉しそうにしている真田、いや仁を見て、俺は嬉しいと共に、罪悪感も感じた。こいつは元々不良。女の子にモテて、強い先輩達に囲まれてて、俺のような日陰ものを虐げる立場にいた奴だ。

そんな奴が今じゃあ1人のクラスメイトしかも男相手にゾッコンとか。可愛くも強くもない俺にプロポーズとかしてるのを、怖い先輩に見られたらどうなるんだろう。

「どうした、具合悪いんか?」

俺は自分で思ったより、顔に出やすいタイプのようだ。コイツの将来が心配なのを今はそっと横に置いて、何でもないと嘘をついた。もうちょっと休んだ方がいいと優しくしてくれる仁と話というよりは、戯れのようなやり取りをしていた。そしたら急に、外界とこの部屋を繋ぐ人間用の入り口である大きなドアが、バッタンバッタンと音を立てた。

「おい、誰だ」

さっきまでの優しい声色はどこへやら、またあのヤンキーに戻った。でも聴き慣れてるせいか、こっちの方がまだ真田仁って感じがする。ドッタンバッタンの音の主が部屋に雪崩れ込んできた。もう一度言う、入ったではない、雪崩れ込んできたが適切だ。何しろ1人では無かったからな。残り38人のクラスメイトだ。

「おい、真田だけずるいぞ!俺も下の名前で呼ばれたい!」

「そうだよ、そう言うの抜け駆けって言うんだよ!」

早々に仁が問い詰められている。本人はうっせーと一掃していたけど、一体何があったと言うのか。

「な、なんかあったのか?」

「うん。昨日の夜から俺たちライバルになった」

「は?」

詳しく聞かせて貰えば、俺が倒れた後、全員がもれなく俺に惚れてしまったらしい。その時点でおかしいけどまだ話は終わらない。で、39人の恋のライバルは、俺を手に入れたら勝ちと言う最早魔王に関係ない勝負事を始めてしまったとのことだ。

「何で俺だよ」

「可愛いから」

「可愛かったから」

「可愛い」

「エロい」

「超可愛い」

全員から可愛いと言われたって男としては複雑なもんだった。後誰だよエロい言った奴、相手男だぞ、馬鹿じゃねえの。まあ俺も仁のことであんな夢見たんだから人のこと言える立場じゃねえけど。

「ってわけでおれも名前で呼んでくれ!浅野じゃなくて奏、リピートアフタミー!」

「俺も俺も!前多って呼んでくれ」

「おいお前ら!オレの……何だっけ、ばいせん特権? 侵害するな!」

「真田、それは専売特許のこと言ってるのか?」

「べつにお前の特権じゃねえだろ、なあ梓」

いきなり下の名前で呼ばれるとか陰キャには辛すぎる。兎に角名前で呼んでくれと言って聞かないもんだから、もうしょうがない、まあこれくらいはしても構わないと、一人一人名前を呼ぶ事にした。怖かったけど梓呼びも認めた、怖かったけど。

「……梓が優しくてよかったな。だがコイツを護衛するの座は譲らねえ、このオレの物だ、手ェ出すんじゃねぇ」

「譲ってくれなくて結構だ、奪ってみせる」

「ア″ァ!? おい二家本、やんのかよ!」

「いいぜ、表出ろや」

仁はというとものすごく不機嫌になって、全員にガンを飛ばしまくってる。そして更に火に油を注がれている。

「じ、仁? 大丈夫か?」

「……お前は絶対守るから。敵からも味方からも」

強い、強い意志を感じる言葉だった。とても言い返せる雰囲気ではなく、小さく頑張れとエールを送った。

どうやら俺の、俺たちの異世界転移は、他とは違った意味で前途多難になりそうだ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

成長率マシマシスキルを選んだら無職判定されて追放されました。~スキルマニアに助けられましたが染まらないようにしたいと思います~

m-kawa
ファンタジー
第5回集英社Web小説大賞、奨励賞受賞。書籍化します。 書籍化に伴い、この作品はアルファポリスから削除予定となりますので、あしからずご承知おきください。 【第七部開始】 召喚魔法陣から逃げようとした主人公は、逃げ遅れたせいで召喚に遅刻してしまう。だが他のクラスメイトと違って任意のスキルを選べるようになっていた。しかし選んだ成長率マシマシスキルは自分の得意なものが現れないスキルだったのか、召喚先の国で無職判定をされて追い出されてしまう。 一方で微妙な職業が出てしまい、肩身の狭い思いをしていたヒロインも追い出される主人公の後を追って飛び出してしまった。 だがしかし、追い出された先は平民が住まう街などではなく、危険な魔物が住まう森の中だった! 突如始まったサバイバルに、成長率マシマシスキルは果たして役に立つのか! 魔物に襲われた主人公の運命やいかに! ※小説家になろう様とカクヨム様にも投稿しています。 ※カクヨムにて先行公開中

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

処理中です...