マホウノセカイ

プロローグ

選手宣誓

「ただいま……」

「お帰りなさいませ、お嬢様」

たどたどしい足で家に帰ると、老婆やさんにお出迎えされて、私は流水のようにリビングに上がれソファーに寄りかかった。

老婆やさんから、今家政夫の岸本さんはパトラッシュ２世の散歩とスーパーでの買い出しをしている事や、お母様とお父様はもうすぐ帰ってくる事とか、色々聞かされた。流れる雲を見るようにうっすらと聞いていた。私はもう魔術議員のことで頭がいっぱいだったからだ。

私のお父様とお母様は魔術議員志望のチームのコスチュームや旗なんかを作る仕事をしている。政治に関係することだから、普通のデザイナーがしちゃダメなんだって。お父様は政治の仕事をしているし妻も娘もいるから千代田区に住んでるのだと思ってた。でも違うんだ。きっとお父様はこの街に「飼育」されている、管理されているんだ。山のような契約を結んで、馬鹿みたいに犬のふりして信頼を得ないとこの町で男の人は生きていけないんだ。

「お嬢様、どうかなさいましたか？顔色が悪いようですが……」

うわごとのように聞いていた私を心配したのだと思ったけど、どうやら顔を見て不安になったらしい。そんなに顔に出ちゃっていたのか。……そうだね。全員集まった時に言おうと思っていたけれど、なんでいえばいいのかわからなくてちょっと怖かったかも。

「……初めて外へ出てお疲れになられたのでしょう。今日はお嬢様の大好物のモンブランをデザートにこしらえました。御夕飯までごゆっくりなさって下さいませ」

悩んでいた事も顔でわかったのか、これ以上詮索しなかった老婆やさんに感謝した。

ソファーの前にある低めの机に置かれた紅茶をしばらく眺めながらボーッとしていると、賑やかな声がして、１人と１匹が帰ってきた。

「ただいま戻りました、遅れてすんません！」

「いいんだよ。それより２世ちゃんをそんなにしっかり抱き抱えてどうしたの？」

「こいつ散歩でいつもみたく大暴走して、まあすぐ疲れるよか元気があっていいんだろうけど……買い物終わって帰るぞって時にも暴れて手がつけられないっす」

「あらあら２世ちゃん今日は楽しかったのね、でも健ちゃんをイジメちゃダメよ」

ぐったりとしている岸本さんはダイニングチェアに座って一息ついた、そして一言。

「妃芽花さん、お帰りなさい。外はどうでした？」

「えっと、まあそれなりに……」

「＿＿外で何か見てきましたか？」

ビクッとした。不自然に見せないために、全身の筋肉が不自然に硬直させているという矛盾じみた事を身体が勝手にしている。

「健ちゃん……」

「……わかりました」

老婆やさんが仲裁に入ったから深くは聞かれることはなかった。でも怖かった。だってそれっきり、お母様達が帰ってくるまで何一つとして会話がなかったものだから。



「ただいまー遅くなっちゃった」

「もう夕飯は済ませてしまいましたか？」

「お帰りなさいませ、奥様、旦那様。ご夕飯はまだですよ。いつも通りの５人の食事です」

帰って来たのは９時だった確かにいつもよりも遅い。会話のない中１人でテレビを見る時間は辛いものがあった。まあそのおかげで４人に何をゆうかしっかりまとまったような気がする。

「どうしたの？もうそろそろご飯よ」

「妃芽花さん、どうかしましたか？」

お母様達が心配して私の方まで来てくれた。虚ろ気味に大丈夫と答えるとさらに心配された。……私は意を決した。こうなったら当たって砕けろいや砕けたらダメだけど、でも言わなきゃ始まらない。私はまだスタートラインに立てていないんだ。

「お母様、お父様、老婆やさん、岸本さん……」

いつも一緒にいる４人の名前を呼ぶだけなのに、なんでこんなに緊張するんだろう。

「どうしたの妃芽花」

「どこか悪いのかい？」

「……」

「……」

近くにいた2人は私のことを心配してくれた。後ろから見ている老婆やさん達は、黙って成り行きを見ていた。言わなきゃ始まらないでも寸での所で声が出ない。

時間が経っていく、４人ともの私を見る目が怖くてたまらない。言わなきゃ、言わなきゃ、、

関根くんみたいに困ってる人を助けたい、

お姉様の暴走を止めたい、

高橋くんを助けたい！

「私、魔法議員になる！」