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三途の川にて
再会
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「おい、おい、しっかりせんか!起きるんだ」誰かがそう言って身体を叩いている。芹沢鴨は目を開けると目の前にいるのは仙人のような風体の老人だ。
「椎崎君、いつの間にそんなに老けたのだ?」
「椎崎君?何を寝言を言っているのだ。私は日本武尊だ。お前は十二刻の間敗戦を止める為に現世にいたんだろうが」
「ああ、そうだった。俺は十二刻だけ未来の日本に行ったのだった。それを忘れていた」
「そうだ。でどうだったんだ?イギリスやアメリカとの戦の敗戦を止める事は出来たか?」
「いや、それが結局出来ませんでした。いや誠に悔しい事ですが・・・・恥じ入るばかりです。しかし水戸天狗組や新選組の同志以上の憂国の志を持った同志に会えたのでそれは満足であります。
「そうか。それは良かったの。それでその他に何か得たものはあったか?」
「得たものと云うか、教訓は得ました。やはり攘夷は行わない方が良かったと云う事です。向こうの世界でイギリスやアメリカによって破壊された街並みを見ましたが、あれを見る限り奴らが相当の軍事力を備えている事は明らかでした。ここに至って桜田門外の変で亡くなった井伊直弼大老のように開国して飽くまでも外交によって諸外国と交易を結び続ける事が真の国益になる事だと痛感致しました。あの時は私も水戸天狗組の同志と共に桜田門外の変に加わろうとしましたが、それは浅はかだったと思います。徳川幕府が存続していればイギリスやアメリカと全面戦争になる事態も避けられたように思えてなりません」
「そうか、そうか。それは良かったの。ではそろそろお前も三途の川を渡ってあの世に行かなくてな」
「はい」
「ところでな。さっきから三途の川の川べりで立ち往生している男がいてな。あれじゃ」と日本武尊は指を差した。見れば死に装束を着たまま川べりで佇んでいる男がいる。
「ああ、あの男が」
「そうだ。お前、あの男と一緒に三途の川を渡ってやれ」
「かしこまりました」と言って芹沢鴨はその男の近くへ駆け寄った。そして声を掛けて顔を見てみると驚いた事に阿南陸相なのである。
「あなたは・・・・阿南陸相か」
「えっ、なぜ私を・・・・。あなたは一体誰でしょうか?」
「わしか、わしは新選組筆頭局長の芹沢鴨じゃ。以後御見知り置きを、と言いたいところだがお互い死んでいるのだからな。自己紹介もへったくれもあるまい」
「芹沢鴨・・・・。あっ、あなたが陸軍航空士官学校附の芹沢大尉か!井田から聞きました。井田と共に宮城のクーデターを扇動してくれたとか・・・・その節はありがとうございます」
「井田君か。そういえば井田君にも介錯を頼まれた気が・・・・」結局井田中佐は敗戦後自決する事なく九十一歳まで生き延びた。しかも電通にも入社している。畑中少佐や椎崎中佐と違い、この人には至純も至誠もなかったようである。
「と云う事は畑中らは自決したんですか?」
「そうよ。畑中君も椎崎君もわしが介錯を務めたのだからな」
「そうでしたか」
「そうだ!」
「何でしょうか」
「自決したお主がここにいると云う事は間もなく畑中君も椎崎君もここへと来るだろう」
「そうでしょうか」
「そうだとも。彼らが来てから四人で渡し舟にでも乗りながら三途の川を渡ろうではないか?」
「なるほど。それはいいですね」
「よし決まりだ!」そうして芹沢鴨と阿南陸相は三途の川の川べりで畑中少佐と椎崎中佐の到着を待つのだった。
「椎崎君、いつの間にそんなに老けたのだ?」
「椎崎君?何を寝言を言っているのだ。私は日本武尊だ。お前は十二刻の間敗戦を止める為に現世にいたんだろうが」
「ああ、そうだった。俺は十二刻だけ未来の日本に行ったのだった。それを忘れていた」
「そうだ。でどうだったんだ?イギリスやアメリカとの戦の敗戦を止める事は出来たか?」
「いや、それが結局出来ませんでした。いや誠に悔しい事ですが・・・・恥じ入るばかりです。しかし水戸天狗組や新選組の同志以上の憂国の志を持った同志に会えたのでそれは満足であります。
「そうか。それは良かったの。それでその他に何か得たものはあったか?」
「得たものと云うか、教訓は得ました。やはり攘夷は行わない方が良かったと云う事です。向こうの世界でイギリスやアメリカによって破壊された街並みを見ましたが、あれを見る限り奴らが相当の軍事力を備えている事は明らかでした。ここに至って桜田門外の変で亡くなった井伊直弼大老のように開国して飽くまでも外交によって諸外国と交易を結び続ける事が真の国益になる事だと痛感致しました。あの時は私も水戸天狗組の同志と共に桜田門外の変に加わろうとしましたが、それは浅はかだったと思います。徳川幕府が存続していればイギリスやアメリカと全面戦争になる事態も避けられたように思えてなりません」
「そうか、そうか。それは良かったの。ではそろそろお前も三途の川を渡ってあの世に行かなくてな」
「はい」
「ところでな。さっきから三途の川の川べりで立ち往生している男がいてな。あれじゃ」と日本武尊は指を差した。見れば死に装束を着たまま川べりで佇んでいる男がいる。
「ああ、あの男が」
「そうだ。お前、あの男と一緒に三途の川を渡ってやれ」
「かしこまりました」と言って芹沢鴨はその男の近くへ駆け寄った。そして声を掛けて顔を見てみると驚いた事に阿南陸相なのである。
「あなたは・・・・阿南陸相か」
「えっ、なぜ私を・・・・。あなたは一体誰でしょうか?」
「わしか、わしは新選組筆頭局長の芹沢鴨じゃ。以後御見知り置きを、と言いたいところだがお互い死んでいるのだからな。自己紹介もへったくれもあるまい」
「芹沢鴨・・・・。あっ、あなたが陸軍航空士官学校附の芹沢大尉か!井田から聞きました。井田と共に宮城のクーデターを扇動してくれたとか・・・・その節はありがとうございます」
「井田君か。そういえば井田君にも介錯を頼まれた気が・・・・」結局井田中佐は敗戦後自決する事なく九十一歳まで生き延びた。しかも電通にも入社している。畑中少佐や椎崎中佐と違い、この人には至純も至誠もなかったようである。
「と云う事は畑中らは自決したんですか?」
「そうよ。畑中君も椎崎君もわしが介錯を務めたのだからな」
「そうでしたか」
「そうだ!」
「何でしょうか」
「自決したお主がここにいると云う事は間もなく畑中君も椎崎君もここへと来るだろう」
「そうでしょうか」
「そうだとも。彼らが来てから四人で渡し舟にでも乗りながら三途の川を渡ろうではないか?」
「なるほど。それはいいですね」
「よし決まりだ!」そうして芹沢鴨と阿南陸相は三途の川の川べりで畑中少佐と椎崎中佐の到着を待つのだった。
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