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第一章『人外×幻想の魔物使い』
第18話:ギルドに現れた謎の鎧
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急いで走ってきたのか、透き通るような白緑の長髪は荒んでいる。
何があったのか、大きな銀眼には疲労の色が滲んでいる。
だが紛れもなく、ヨキが帰りを待っていた少女――エルウェ・スノードロップだ。
「あ、おじさん!? ねぇ助けて、私の眷属がよくわからないけど重傷なの! 変なことをずっとぶつぶつ言ってるし、脱力しててピクリとも動かな――、」
「馬鹿がっ、心配かけやがって! 無事で良かった……ッ!!」
「あぅ!?」
悲鳴を上げるように喚き散らしながら詰め寄ってくるエルウェ。
そんな彼女の言葉を遮って、ヨキは強く抱き上げた。今は彼女が無事だったという事実がひたむきに嬉しい。その一心だった抱擁に、エルウェの調子外れな声が返る。
「――ぁ、ごめんなさいおじさん……その、いろいろあって……でも今はそれどころじゃないの!」
訳がわからず言葉を失っていたエルウェだが、ややって気づく。今の時間帯は夜も半ば、ヨキと交わした日暮れまでには帰ってくるという約束を反故にしていたことを。
申し訳ない気持ちになるが、ふとニヤニヤした面持ちで見守る外野に気づき、恥ずかしくなって顔が紅潮する。公開処刑、これではいい年して親離れできていない子供のようだと。
「それに私はもう子供じゃないんだから、皆の前でこうやって抱きつくのはやめて!」
「なんだ、皆の前じゃなかったらいいのか?」
「~~~っ、ダメよ! おじさんのバカ!!」
ヨキの逞しい腕から解放され床に足をつけたエルウェは、すっかり彼のペースに飲まれていることに眉根を寄せる。それが精一杯の反抗であり、羞恥の当座しのぎだった。
「と、とにかく! リオラさんか、いなければ回復魔法を使える冒険者に治療してもらいたいの」
「まぁ何があったのかは後でじっくり聞かせてもらうぞ。どうやら血祭りにあげる準備が必要な匂いがするからな……よしわかった。リオラ、こっちに来いっ!」
それにしても、と。リオラを呼びつけながら、ヨキは思慮を巡らせる。
今は落ち着いているが、先のエルウェの狼狽した様子は珍しいものだ。
魔物使いという職業故か、ギルド内では特定の人物としか親しくしていない彼女は、その冷然たる美貌と無愛想な性格も相俟って、どこか近寄りがたいイメージで知られている。
そんなエルウェが、あんなに取り乱すとは。
「眷属……フラムのヤツ、何があった……浅域で異常事態でも起きたか……? ――エルウェ、そういえば、その怪我を負ったらしいフラムはどこに?」
憶測を独り言ちってから、ヨキはエルウェの眷属たるカーバンクルの姿が見えないことに疑義の声を上げた。エルウェが「え? フラムは別に――」と言いかけたところで――グシャッと。
ヨキの前、野次馬として囲んでいた冒険者達の中心に、白い金属製と思わしき全身鎧が投げ入れられた。金属が擦れる耳障りな音が響く。
「だから主ィ、こいつはショックを受けてるだけでどこも怪我してないって言ってるだろォ。ちょっと青春の一ページが野郎の唇で真っ黒に染まっちまっただけだァ。そんなに心配する必要はねェよォ」
継いで、開けっぱなしになっていたギルドの扉から、テューミア支部の冒険者にはほとんど周知されている幸を呼ぶ幻獣が現れる。
「は? なんだフラムのやつ、元気じゃねぇか……」
と、てっきりフラムが重傷を負ったと思い込んでいたヨキは拍子抜けだ。
だがエルウェの様子から何かあったのは事実、先に投げ入れられた白金の鎧は何かのアイテムだろうかとひとまず棚に上げて、フラムに近寄って詳しい話を聞こうとしたところで――、
「いたっ。えっ、痛い」
「なっ、なんだ――」
足元、正確には踏みつけた小さな鎧からくぐもった音が聞こえた。
それも、その場にいた全員が理解できる言葉――『声』が。いやしかし、それは勘違いだろうと誰もが思ったはずだ。ただ発音が似ていただけだと。
咄嗟に数メートル後ずさり、背の大剣の柄に手を添えて警戒レベルを上げたヨキの眼前、ギコギコと荒びた擦過音を出しながら、白金の鎧が糸に吊られたマリオネットのように起き上がった。
「なんだ!?」「自律する小さな鎧……?」「何かの魔導具かしら?」「魔導人形じゃねぇの?」と憶測に過ぎない声が飛び交う中――面甲の奥で煌めいた紫紺の輝きを見たヨキの一言で、
「――魔物、か?」
場が凍り付く。
「「「――――ッ!!」」」
基本的に馬鹿で騒ぐことしか能のない冒険者といえど、彼らは何度も死地をくぐり抜けてきた超人達だ。即座に各々の戦闘態勢を取り、空気が張り裂けそうな程に緊張を帯びる。
ゆらゆらと立ち上がった白金の鎧は、自信を囲む冒険者とギルド内を挙動不審気味にきょろきょろ見渡した後、兜の眼、もしくは口にあたる部分――面甲をガチャコンッと開いた。
何かの意思表明だろうか、と身構えていた冒険者達だったが、しかし次には誰もが予想できない自体が引き起こされる。
「ぬぅぅあああ!! くっそが、俺を誰だと思ってやがるッ! イディオータ男爵家の三男にして期待の新星っ、【炎槍】のホームラ・イディオータだぞ!? コケにするのも大概にしろぉぉおおッ!?」
積もっていた埃と木片を吹き飛ばし、権力者たる貴族の矜持が傷つけられたと癇癪を起こしたホームラ。彼は先端に炎の灯ったご自慢の槍を振るい――しかしヨキの鉄拳が思いのほか効いていたのかふらつく。
それでも槍は動きを止めず、狙いの逸れたまま放たれたスキル『炎塊』が白金の鎧に直撃した。
二本の足で立っていた気味の悪い鎧が派手に燃え上がった瞬間、
「ぎゃぁぁああぁぁぁあああぁあああぁぁあッッ!?」
絶叫を上げた。それは紛うことなき知性の産声。
しかも立ち上がったきりピクリとも動かなかった白金の鎧が、豪と燃え上がると同時に馬鹿でかい声で叫んだのだ。ホームラの件で気を緩めていた冒険者達も、突然の事に肩を跳ね上げて、
「「「ぎゃぁぁぁああぁああああああああああああッッ!?」」」
やっぱり叫ぶのだった。
何があったのか、大きな銀眼には疲労の色が滲んでいる。
だが紛れもなく、ヨキが帰りを待っていた少女――エルウェ・スノードロップだ。
「あ、おじさん!? ねぇ助けて、私の眷属がよくわからないけど重傷なの! 変なことをずっとぶつぶつ言ってるし、脱力しててピクリとも動かな――、」
「馬鹿がっ、心配かけやがって! 無事で良かった……ッ!!」
「あぅ!?」
悲鳴を上げるように喚き散らしながら詰め寄ってくるエルウェ。
そんな彼女の言葉を遮って、ヨキは強く抱き上げた。今は彼女が無事だったという事実がひたむきに嬉しい。その一心だった抱擁に、エルウェの調子外れな声が返る。
「――ぁ、ごめんなさいおじさん……その、いろいろあって……でも今はそれどころじゃないの!」
訳がわからず言葉を失っていたエルウェだが、ややって気づく。今の時間帯は夜も半ば、ヨキと交わした日暮れまでには帰ってくるという約束を反故にしていたことを。
申し訳ない気持ちになるが、ふとニヤニヤした面持ちで見守る外野に気づき、恥ずかしくなって顔が紅潮する。公開処刑、これではいい年して親離れできていない子供のようだと。
「それに私はもう子供じゃないんだから、皆の前でこうやって抱きつくのはやめて!」
「なんだ、皆の前じゃなかったらいいのか?」
「~~~っ、ダメよ! おじさんのバカ!!」
ヨキの逞しい腕から解放され床に足をつけたエルウェは、すっかり彼のペースに飲まれていることに眉根を寄せる。それが精一杯の反抗であり、羞恥の当座しのぎだった。
「と、とにかく! リオラさんか、いなければ回復魔法を使える冒険者に治療してもらいたいの」
「まぁ何があったのかは後でじっくり聞かせてもらうぞ。どうやら血祭りにあげる準備が必要な匂いがするからな……よしわかった。リオラ、こっちに来いっ!」
それにしても、と。リオラを呼びつけながら、ヨキは思慮を巡らせる。
今は落ち着いているが、先のエルウェの狼狽した様子は珍しいものだ。
魔物使いという職業故か、ギルド内では特定の人物としか親しくしていない彼女は、その冷然たる美貌と無愛想な性格も相俟って、どこか近寄りがたいイメージで知られている。
そんなエルウェが、あんなに取り乱すとは。
「眷属……フラムのヤツ、何があった……浅域で異常事態でも起きたか……? ――エルウェ、そういえば、その怪我を負ったらしいフラムはどこに?」
憶測を独り言ちってから、ヨキはエルウェの眷属たるカーバンクルの姿が見えないことに疑義の声を上げた。エルウェが「え? フラムは別に――」と言いかけたところで――グシャッと。
ヨキの前、野次馬として囲んでいた冒険者達の中心に、白い金属製と思わしき全身鎧が投げ入れられた。金属が擦れる耳障りな音が響く。
「だから主ィ、こいつはショックを受けてるだけでどこも怪我してないって言ってるだろォ。ちょっと青春の一ページが野郎の唇で真っ黒に染まっちまっただけだァ。そんなに心配する必要はねェよォ」
継いで、開けっぱなしになっていたギルドの扉から、テューミア支部の冒険者にはほとんど周知されている幸を呼ぶ幻獣が現れる。
「は? なんだフラムのやつ、元気じゃねぇか……」
と、てっきりフラムが重傷を負ったと思い込んでいたヨキは拍子抜けだ。
だがエルウェの様子から何かあったのは事実、先に投げ入れられた白金の鎧は何かのアイテムだろうかとひとまず棚に上げて、フラムに近寄って詳しい話を聞こうとしたところで――、
「いたっ。えっ、痛い」
「なっ、なんだ――」
足元、正確には踏みつけた小さな鎧からくぐもった音が聞こえた。
それも、その場にいた全員が理解できる言葉――『声』が。いやしかし、それは勘違いだろうと誰もが思ったはずだ。ただ発音が似ていただけだと。
咄嗟に数メートル後ずさり、背の大剣の柄に手を添えて警戒レベルを上げたヨキの眼前、ギコギコと荒びた擦過音を出しながら、白金の鎧が糸に吊られたマリオネットのように起き上がった。
「なんだ!?」「自律する小さな鎧……?」「何かの魔導具かしら?」「魔導人形じゃねぇの?」と憶測に過ぎない声が飛び交う中――面甲の奥で煌めいた紫紺の輝きを見たヨキの一言で、
「――魔物、か?」
場が凍り付く。
「「「――――ッ!!」」」
基本的に馬鹿で騒ぐことしか能のない冒険者といえど、彼らは何度も死地をくぐり抜けてきた超人達だ。即座に各々の戦闘態勢を取り、空気が張り裂けそうな程に緊張を帯びる。
ゆらゆらと立ち上がった白金の鎧は、自信を囲む冒険者とギルド内を挙動不審気味にきょろきょろ見渡した後、兜の眼、もしくは口にあたる部分――面甲をガチャコンッと開いた。
何かの意思表明だろうか、と身構えていた冒険者達だったが、しかし次には誰もが予想できない自体が引き起こされる。
「ぬぅぅあああ!! くっそが、俺を誰だと思ってやがるッ! イディオータ男爵家の三男にして期待の新星っ、【炎槍】のホームラ・イディオータだぞ!? コケにするのも大概にしろぉぉおおッ!?」
積もっていた埃と木片を吹き飛ばし、権力者たる貴族の矜持が傷つけられたと癇癪を起こしたホームラ。彼は先端に炎の灯ったご自慢の槍を振るい――しかしヨキの鉄拳が思いのほか効いていたのかふらつく。
それでも槍は動きを止めず、狙いの逸れたまま放たれたスキル『炎塊』が白金の鎧に直撃した。
二本の足で立っていた気味の悪い鎧が派手に燃え上がった瞬間、
「ぎゃぁぁああぁぁぁあああぁあああぁぁあッッ!?」
絶叫を上げた。それは紛うことなき知性の産声。
しかも立ち上がったきりピクリとも動かなかった白金の鎧が、豪と燃え上がると同時に馬鹿でかい声で叫んだのだ。ホームラの件で気を緩めていた冒険者達も、突然の事に肩を跳ね上げて、
「「「ぎゃぁぁぁああぁああああああああああああッッ!?」」」
やっぱり叫ぶのだった。
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