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第一章『人外×幻想の魔物使い』
第10話:この僕がタダで眷属になるといつから錯覚していた?
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点々とまばらに茂る灌木を避けながら、雪の積もった草原を黙々と歩く。
一歩を踏み出す度に、ザクザクと軽快な音が鳴り渡って。音は吐き出された白い息を絡め取り、雲り空へと吸い込まれるように消えていった。
足跡は二つ。
人間にしては歩幅の小さい、少女を思わせる足跡。
もう一つは、人間の幼子にしてもここまで小股じゃないだろうという、人外の足跡。前者に比べて不規則な轍を刻む足跡は、異常に小さい。
因みにどうして二人分の足跡しかないのかと言うと、フラム先輩が僕の頭上に鎮座しているからだ。ふらふらと揺れているのもそのため。
「降りて下さいよフラム先輩……重くはないんですけど、僕らの大きさ的に、そこにいられると頭が一個増えた感じがして首が疲れるんですよ」
重くはないが、軽くもない。
しっかりとした重荷は感じるし、然しもの僕ほど重くはないけれど――言うなれば『悪霊』に取り憑かれてる感じ。それだ、我ながら良い発想力をしている。
って、幸運を呼び寄せる幸を呼ぶ幻獣に対して『悪霊』とは、些か失礼が過ぎるような気もするけどね。僕の『六道』のマイナス面を補ってくれることに期待しよう。
「フラム先輩ってなんだァ……まァ、悪い気はしないからいィ。主の肩に乗るのも好きだがァ、ずっと乗ってると肩が凝るって小言を言われるんだァ。我慢しろォ」
「そこで自分で歩くって言う選択肢が出ない辺り、先輩は僕と同じ匂いがしますね」
「お前みたいな軽薄かつ変態なヤツと一緒にするんじゃねぇよォ」
そうは言うが、フラム先輩はどことなく楽しそうだ。
多分、僕が新たなる仲間になると知れて嬉しいのだろう。
家族ってものは少ないより多い方が良いに決まってる。そりゃ静かな方がいいって人もいるだろうけど、少なくとも僕は大人数で馬鹿騒ぎするような、そんな家族に憧れるね。
その点、フラム先輩は僕と同じ感性をお持ちのようだ。
でも一つ、訂正しておかなければならないことがある。そこは譲れない。
「はぁ……何度も言ってるじゃないですか、フラム先輩。僕は変態じゃない、自分に素直なだけだって――」
不本意ながら、変態と呼ばれる所以は数十分前、エルウェに眷属にならないかとお誘いを受けた場面にまで戻らなければならない。
『私の――眷属にならない?』
少女から放たれたそれは、ある種の儀式のようなものだった。
互いがその意志を垣間見せており、エルウェは僕を求めるだろうと、そして僕はエルウェを求めるだろうという確信があった。それはもう、良い感じに纏まって仲間になる場面だったというのは否定しない。
エルウェだって、確証を持っていたに違いない――
『――条件がある』
僕がそう切り出すまでは。
甘い。甘い甘い、甘すぎるぞ少女よ。
お菓子よりも、いや、お菓子くらいに甘いぞ!
確かに『人外』である僕だけども。『少女』と交わるべくして産まれた僕だけども。
――この僕がタダで眷属になると、いつから錯覚していた?
瞬時に僕が何を言っているのか理解できなかったのだろうか。エルウェは『ふぁっ?』と素っ頓狂な声を漏らし呆けた。僕は彼女の様子など気にすることなく続ける。
籠手の先、小さな金の装飾がついた人差し指を立てる。
『一つ、僕の鎧を毎日磨くこと。毎日大切に愛でること』
『……ぇ、ま、まぁそれは魔物使いとして当然の責務だし』
どうにか状況を受け止め、呑み込まんとしているエルウェ。
籠手の先、緻密な金の意匠が施された中指を立てる。
『二つ、肥えた土地に根付き絢爛たる太陽を浴びてすくすくと……いやばいんばいんと成長したかのようなその果実で、僕を挟んで寝ること』
『ひゃぇっ!?』
肩を跳ねさせて奇天烈な悲鳴をあげるエルウェ。
籠手の先、質素な白と金の模様が描かれた薬指を立てる。
『三つ、僕の食事はあなたのおパンツです』
『ふぇぇぇあなた何言ってるのよぉっっ!?』
何をいってるんだこいつとばかりの表情で、ボンッと顔を紅潮させるエルウェ。
大丈夫。僕も何言ってるかわかんないから。
言い訳をするならば、単に自分の中で葛藤する天使と悪魔の格好をした僕が、二人して『今がチャンスだ』と囁いたからだ。言い訳というより開き直り、と言った方が正しかったね、あぁ本能って恐ろしい。
強気というか、自若としたイメージがあったエルウェだが、しばらくあわあわと年相応に恥ずかしがり、結局『ふぇぇえ……わ、わかったわよぉ』と涙をにじませながら了承して今に至るわけである。
いやわかってくれるんだと思わないでもないが、彼女にとって僕は所詮魔物なのだろう。人の子であったらそうはいかないはずだ。
「とんだ変態よ……新種じゃなくて、変態種よ……でも仕方ないわ。何も貞操が穢されるわけじゃないし……こんなに知能のある善性の魔物なんて、これから先出会えるとも思えないし……この変態種との出会いは運命、そう運命なのよエルウェ・スノードロップ……ほら、見た目は小さな騎士様みたいで可愛いじゃない……」
頭にフラム先輩を乗せた僕の後方から、ぶつぶつと独り言を零しながらついてくるエルウェ。
俯いたその端正な顔には若干影が落ちているが、微妙に頬を染めているため満更でもないのだろう。この変態め。
今一度、とぼとぼ歩く彼女の容姿を確認する。
育ち盛りの身体はそれこそ齢十五の成人に達したばかりというそれ特有の幼気ない雰囲気を感じさせるが、目鼻立ちのキリッとした端整な顔立ちは玲瓏な強さを見る者に思わせる。
体型は痩せ型。けれど細い輪郭の線の中に、柔らかい肉感をいっぱいいっぱいに閉じ込めているような柔らかさも備え持っていて、なによりも胸がでかいのが素晴らしい。これから毎晩その柔らかい果実に埋もれることができるという現実が素晴らしい。
一言で言い表すならば、僕の『理想の美』がそこにあった。
僕が溜まりに溜まっていた欲情を爆発させるのも無理はないだろう。わかってほしい。
美しい浅緑の髪は毛先に向かって淡い白妙に染まり、澄み切った白水晶の瞳には、振り返り怪しい紫紺の双眸を瞬かせる鎧の兜が映っていた。
つまり目が合ったのだ。
エルウェが手を胸に当てて、おどおどと問うてくる。
「ね、ねぇ……街に帰ったら契約はするけど、条件も呑むけど……わ、私の守り抜いてきた貞操までは、穢さないわよね……? ね? そうよね……?」
必死の形相で何かを訴えてくるが、ふ、と一笑に付して、僕は再び歩き出す。「ねぇちょっと!? 小さな騎士さん!? ねぇ!?」と縋って来るが無視だ。
すると、頭上からフラム先輩が言う。どこか呆れた表情。
「お前なァ……公の場で雌に対して欲望を真っ直ぐに曝け出すようなヤツを、この世界じゃ変態って言うんだよォ」
「たはーっ、そうでした。でも否定はしません!」
「たはーじゃねぇよォ! やっぱ変なヤツだなァお前、くははッ」
キリッと開き直って頭上を見る僕に、フラム先輩は兜の眼、もしくは口にあたるあみあみした部分――面甲をバシバシ叩きながら笑う。
だから僕も一緒になって笑った。
『其方は誰といても態度を変えんのじゃなぁ……』
そこで鎧の中身、異空間から届く声。
機嫌の良い僕は意気揚々と語りかける。もちろん心の中で、ね。
(なに、なになになーに、シェルちゃん。もしかして自分が特別だと思ってた? ははーん、僕は誰に対してもこんな感じなんだなぁそれが)
『いや……安心したのじゃ。それと懐かしいの。其方についてきて正解であったと思うのじゃ。これなら我は、穏やかに其方の旅の行方を見守ることができそうじゃて』
てっきり『そ、そんなんじゃないわっ!』と返ってくると思っていたため、軽く拍子抜けする。
(安心……? よくわからないけど、それなら良かったよ。僕の物語を特等席で見てるといいさ。人外と少女が織り成す――『歪な物語』をね)
『……あぁ、楽しみにしてるのじゃぁ……』
その後大きな欠伸を一つ。
それっきり『眠いから寝るのじゃ』といってすぐに眠ってしまった。おい。
一歩を踏み出す度に、ザクザクと軽快な音が鳴り渡って。音は吐き出された白い息を絡め取り、雲り空へと吸い込まれるように消えていった。
足跡は二つ。
人間にしては歩幅の小さい、少女を思わせる足跡。
もう一つは、人間の幼子にしてもここまで小股じゃないだろうという、人外の足跡。前者に比べて不規則な轍を刻む足跡は、異常に小さい。
因みにどうして二人分の足跡しかないのかと言うと、フラム先輩が僕の頭上に鎮座しているからだ。ふらふらと揺れているのもそのため。
「降りて下さいよフラム先輩……重くはないんですけど、僕らの大きさ的に、そこにいられると頭が一個増えた感じがして首が疲れるんですよ」
重くはないが、軽くもない。
しっかりとした重荷は感じるし、然しもの僕ほど重くはないけれど――言うなれば『悪霊』に取り憑かれてる感じ。それだ、我ながら良い発想力をしている。
って、幸運を呼び寄せる幸を呼ぶ幻獣に対して『悪霊』とは、些か失礼が過ぎるような気もするけどね。僕の『六道』のマイナス面を補ってくれることに期待しよう。
「フラム先輩ってなんだァ……まァ、悪い気はしないからいィ。主の肩に乗るのも好きだがァ、ずっと乗ってると肩が凝るって小言を言われるんだァ。我慢しろォ」
「そこで自分で歩くって言う選択肢が出ない辺り、先輩は僕と同じ匂いがしますね」
「お前みたいな軽薄かつ変態なヤツと一緒にするんじゃねぇよォ」
そうは言うが、フラム先輩はどことなく楽しそうだ。
多分、僕が新たなる仲間になると知れて嬉しいのだろう。
家族ってものは少ないより多い方が良いに決まってる。そりゃ静かな方がいいって人もいるだろうけど、少なくとも僕は大人数で馬鹿騒ぎするような、そんな家族に憧れるね。
その点、フラム先輩は僕と同じ感性をお持ちのようだ。
でも一つ、訂正しておかなければならないことがある。そこは譲れない。
「はぁ……何度も言ってるじゃないですか、フラム先輩。僕は変態じゃない、自分に素直なだけだって――」
不本意ながら、変態と呼ばれる所以は数十分前、エルウェに眷属にならないかとお誘いを受けた場面にまで戻らなければならない。
『私の――眷属にならない?』
少女から放たれたそれは、ある種の儀式のようなものだった。
互いがその意志を垣間見せており、エルウェは僕を求めるだろうと、そして僕はエルウェを求めるだろうという確信があった。それはもう、良い感じに纏まって仲間になる場面だったというのは否定しない。
エルウェだって、確証を持っていたに違いない――
『――条件がある』
僕がそう切り出すまでは。
甘い。甘い甘い、甘すぎるぞ少女よ。
お菓子よりも、いや、お菓子くらいに甘いぞ!
確かに『人外』である僕だけども。『少女』と交わるべくして産まれた僕だけども。
――この僕がタダで眷属になると、いつから錯覚していた?
瞬時に僕が何を言っているのか理解できなかったのだろうか。エルウェは『ふぁっ?』と素っ頓狂な声を漏らし呆けた。僕は彼女の様子など気にすることなく続ける。
籠手の先、小さな金の装飾がついた人差し指を立てる。
『一つ、僕の鎧を毎日磨くこと。毎日大切に愛でること』
『……ぇ、ま、まぁそれは魔物使いとして当然の責務だし』
どうにか状況を受け止め、呑み込まんとしているエルウェ。
籠手の先、緻密な金の意匠が施された中指を立てる。
『二つ、肥えた土地に根付き絢爛たる太陽を浴びてすくすくと……いやばいんばいんと成長したかのようなその果実で、僕を挟んで寝ること』
『ひゃぇっ!?』
肩を跳ねさせて奇天烈な悲鳴をあげるエルウェ。
籠手の先、質素な白と金の模様が描かれた薬指を立てる。
『三つ、僕の食事はあなたのおパンツです』
『ふぇぇぇあなた何言ってるのよぉっっ!?』
何をいってるんだこいつとばかりの表情で、ボンッと顔を紅潮させるエルウェ。
大丈夫。僕も何言ってるかわかんないから。
言い訳をするならば、単に自分の中で葛藤する天使と悪魔の格好をした僕が、二人して『今がチャンスだ』と囁いたからだ。言い訳というより開き直り、と言った方が正しかったね、あぁ本能って恐ろしい。
強気というか、自若としたイメージがあったエルウェだが、しばらくあわあわと年相応に恥ずかしがり、結局『ふぇぇえ……わ、わかったわよぉ』と涙をにじませながら了承して今に至るわけである。
いやわかってくれるんだと思わないでもないが、彼女にとって僕は所詮魔物なのだろう。人の子であったらそうはいかないはずだ。
「とんだ変態よ……新種じゃなくて、変態種よ……でも仕方ないわ。何も貞操が穢されるわけじゃないし……こんなに知能のある善性の魔物なんて、これから先出会えるとも思えないし……この変態種との出会いは運命、そう運命なのよエルウェ・スノードロップ……ほら、見た目は小さな騎士様みたいで可愛いじゃない……」
頭にフラム先輩を乗せた僕の後方から、ぶつぶつと独り言を零しながらついてくるエルウェ。
俯いたその端正な顔には若干影が落ちているが、微妙に頬を染めているため満更でもないのだろう。この変態め。
今一度、とぼとぼ歩く彼女の容姿を確認する。
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体型は痩せ型。けれど細い輪郭の線の中に、柔らかい肉感をいっぱいいっぱいに閉じ込めているような柔らかさも備え持っていて、なによりも胸がでかいのが素晴らしい。これから毎晩その柔らかい果実に埋もれることができるという現実が素晴らしい。
一言で言い表すならば、僕の『理想の美』がそこにあった。
僕が溜まりに溜まっていた欲情を爆発させるのも無理はないだろう。わかってほしい。
美しい浅緑の髪は毛先に向かって淡い白妙に染まり、澄み切った白水晶の瞳には、振り返り怪しい紫紺の双眸を瞬かせる鎧の兜が映っていた。
つまり目が合ったのだ。
エルウェが手を胸に当てて、おどおどと問うてくる。
「ね、ねぇ……街に帰ったら契約はするけど、条件も呑むけど……わ、私の守り抜いてきた貞操までは、穢さないわよね……? ね? そうよね……?」
必死の形相で何かを訴えてくるが、ふ、と一笑に付して、僕は再び歩き出す。「ねぇちょっと!? 小さな騎士さん!? ねぇ!?」と縋って来るが無視だ。
すると、頭上からフラム先輩が言う。どこか呆れた表情。
「お前なァ……公の場で雌に対して欲望を真っ直ぐに曝け出すようなヤツを、この世界じゃ変態って言うんだよォ」
「たはーっ、そうでした。でも否定はしません!」
「たはーじゃねぇよォ! やっぱ変なヤツだなァお前、くははッ」
キリッと開き直って頭上を見る僕に、フラム先輩は兜の眼、もしくは口にあたるあみあみした部分――面甲をバシバシ叩きながら笑う。
だから僕も一緒になって笑った。
『其方は誰といても態度を変えんのじゃなぁ……』
そこで鎧の中身、異空間から届く声。
機嫌の良い僕は意気揚々と語りかける。もちろん心の中で、ね。
(なに、なになになーに、シェルちゃん。もしかして自分が特別だと思ってた? ははーん、僕は誰に対してもこんな感じなんだなぁそれが)
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てっきり『そ、そんなんじゃないわっ!』と返ってくると思っていたため、軽く拍子抜けする。
(安心……? よくわからないけど、それなら良かったよ。僕の物語を特等席で見てるといいさ。人外と少女が織り成す――『歪な物語』をね)
『……あぁ、楽しみにしてるのじゃぁ……』
その後大きな欠伸を一つ。
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