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第一章『人外×幻想の魔物使い』
第8話:美少女との初遭遇
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「『暗黒騎士』じゃなくて、ただ放浪の鎧の首が取れてただけだったのね……でもこんな種みたことないわ。それに……もしかしてあなた、今喋った?」
今、僕の目の前には少女がいた。
結局知らない天井なんてものはなく、台詞も言い切ることが出来ず、その代わりにこちらを覗き込む知らない少女の顔があった。何これ。
それも、僕が人外の身となってから昼夜を問わず妄想し、夢にまで見るほどに求めてやまなかった――目を剥くような絶世の美少女だ。
彼女は仰天した面持ちのまま、矢継ぎ早に言葉を投げてくる。
珍しいものを見つけた子供のように、見開かれた瞳には星が散っていた。どうやら興奮しているらしい。
「えっ、えっ、やっぱり新種っぽいけど、放浪の鎧系統の魔物よね? 低位の魔物なのに言葉が話せるの!? 話せるって事は理解もできるのよね? あ、ねぇねぇ、私の言葉、わかる? わかります? 小さな小さな……騎士さん?」
身体と頭が再開するも驚きから立ち直りきれず、よろよろと上体を起こした僕へ、ずいっと端麗な顔が寄ってくる。待って待って可愛い近い近い近い惚れそうにやけそう!
ハッ、馬鹿なに動揺してるんだ僕! そんな場合じゃないだろう!
今この瞬間は、今世において人間様との初コンタクトだ。同時に今世紀最大のチャンスでもある。
最初に根付いたその人の印象というものは、その後もなかなか変わりにくいものだ。だからこそ、人付き合いを円滑に進めるために極めて重要となってくるのが第一印象。それは魔物であっても変わらない。
僕はこの美少女に好かれたい。付き合いたい。結婚したい。一目惚れだ。絶対に良い印象を持って欲しい。結婚したい。
気合いを入れろ僕! 男だろ! 何のために『人外』生まれ変わった? 何のために危険を冒してこんな所まで来た? そんなの決まってる。
――『少女』に会うためだったんだろ!! 多分っ!!
「ふぁっ、ふぁいっ! そうですよろしぇいくお願いしまじぇっ!!」
…………ァっ。
はい最悪。死にたい。なんていうか、色々思うところはあるけれど、弁明したい気持ちもあるけれど、とりあえず死にたい。死んで消えてしまいたい。
穴があったら一度せっせと埋めた後に、再度隣に穴を掘って入りたいレベルで恥ずかしい。よろしぇいくってなんだよ、しぇいくって。馬鹿なの阿呆なの死ぬの?
逆にね。逆にすごいよめっちゃ綺麗に噛んだよ。意気込みすぎを通り越して、すごいキョどってすごい噛んだ。もうすごいよこれ。すごいよすごいよもう。
僕の透明な脳味噌はあまりの予想外の事態に滅茶苦茶だ。異常に熱を持って歪な回転を始め、意識がまったく現状に追いついていない。理解し切れていない。
「わぁ、なんて可愛いのかしら。それに、やっぱり私の言葉がわかるのね! むふーっ、凄い、凄いわ逸材だわ! これはきっと、私の誕生日に神様がくれたプレゼントなのね! そうに違いないわ!」
一方で、少女の方はというと。
僕を指さして指摘し笑いものにするでもなく、目の前でぴょんぴょんと跳ねて場違いなほど喜んでいる。さらには僕のことを『可愛い』だなんて言っている。
……………………。
…………。
……よくわからんが、掴みはオッケーッ! ナイスだ僕、作戦通りぃっ!
「――野生の魔物を前に、そんな無防備を晒すな主ィ。オレがいるとは言え、殺されても自業自得だぞォ」
よっしゃぁあああ、と僕が内心馬鹿みたいに喜んでいると、少女の斜め後ろで敵愾心をメラメラと燃やしてこちらを睨めつける存在が、低い声で唸った。
それは少女への忠告であり、おらくは僕への牽制――手を出せば即座に殺すという気迫が感じ取れる。何もする気ないですって。
僕は少女へ向けるため柔らかくほわほわさせていた紫紺の瞳を、瞬時にキッと細める。だってシャーッと威嚇してくるその赤い獣から発せられたのは男性の声だったから。
「――――」
しかし、細めた紫光の双眸を、僕はすぐに見開くことになる。
ビックリしすぎて言葉に詰まる喉をどうにか振動させ、再び発した言葉はやっぱり少しだけ震えていて。
「……え……え、もしかして、カ、カカカカーバンクル……っ?」
――『幸を呼ぶ幻獣』
丸く磨かれた赤い結晶――ザクロ石を額に持つ、人の肩に乗る程度の大きさの猫型の魔物。
種としてはその殆どがレアモンスターに分類される幻獣系にして、ドラゴンなんか目じゃないほど極めて遭遇率の低い稀産の魔物だ。カーバンクルと遭遇した者には富や幸運、成功がもたらされるという話は誰だって知っている。
それを、この少女は遭遇どころか『眷属』として使役しているように見える。
あまねく星々の如く幾億という魔物の奔流から『召喚獣』として召喚したのであれば、それはもはや天啓のようなものだ。運などではなく、導かれる『運命』にあったと、つまりはそういうことだ。
驚きのあまり紫紺の双眸を大きく見開いて瞬かせる僕。面甲が開けっぱなしになっていることから、本物の口があれば『開いた口が塞がらない』とはこのこと。偶然にしては出来すぎた出会いだ。
前世では一度だってカーバンクルになど遭遇したことはなかったはず。いやまて、記憶が消えている可能性もあるため真実は定かではないが、でもなんだ、カーバンクルといえば無邪気で天真爛漫なイメージが僕の中にはあったんだけど……、
「うわぁ、本物……? 偽物じゃないよね? カ、カーバンクルって初めて会ったけど、可愛い見た目に反して以外と男らしい声してるんだね……」
少女の横を通り過ぎ、地面に尻餅をついて座る格好の僕の前までとことこと歩いてきたカーバンクルに言う。本当に疑っているわけではないが、なにせ僕らは『偽姫の双果実』に騙されたばかりなのだ。そんな言葉が出るのも必然か。
「…………あア。悪いかァ? オレみたいなのが幸せを呼び込む幻獣で」
自然と口をついて出た僕の言に、カーバンクルは僅かに顔を顰め、赤々と燃えるような目を吊り上げる。しばし推し量るように僕を睥睨した後、フンと鼻を鳴らして自虐的な物言いをした。
「大事なのは中身だァ。外面じゃあない。お前の持っていた印象など知ったことではないがなァ、オレは元からこんなんだァ。いいか、見た目だけでオレを侮ってみろォ、軽く百回は噛み殺すぞォ」
言いながら、鼻面に皺を寄せてシャーッと威嚇してくる。
可愛い顔してなんと物騒なことを言う猫か。その怒ってる顔が子猫なんでまったく恐怖は感じないんだけど、言動はさすが魔物って感じ。
「こら、ダメでしょフラム。小さな騎士さんが怖がってるじゃないの」
「……チッ」
咎める少女は見た目通り優しい。嫁にしたい。
片や大きく舌打ちしたフラムという名前らしいカーバンクルは、ゼロ距離まで迫りその愛らしい顔を歪めて僕にガンを飛ばしてくる。額と額がくっつく距離。な、撫でたい。ふわふわもふもふ。ペットにしたい。
おっといけない。そうだ、驚きの連続で忘れていたが、第一印象が大事なのだった。そりゃ出会って早々偽物扱いなんかされるのは誰だって嫌悪感を示すだろう。失言だったね、さっきの言葉は。
「……ごめん。さっきの言葉は取り消すよ。正直今の僕は混乱しててね、目が覚めたら美少女がいるし、ここがどこだかわかんないし、その上カーバンクルなんて初めて見たものだから……失言だったよ。謝る」
「……美少女てェ。否定はしないがァ……なンだよォ、野生にしては意外と礼儀のなってる魔物じゃねぇかァ……オレも大人げなく突っかかって悪かったなァ」
するとカーバンクル、いやフラム先輩から許しの言葉をいただけた。寛容、僕とは違って果てしなく広い心をお持ちのようだ。助かるよ。
と、美少女がフラム先輩の隣にしゃがみ込む。
彼女の服装は魔術師用とも見てとれる高い襟付きの黄色ローブに、大事な要所を守る目的の革鎧。軽い鎧だがこれがあるのとないのとでは全然違うし、何よりも特筆すべきは下半身。
長いローブの裾にはスリットが入っていて、黒タイツに包まれた艶めかしい太ももから綺麗な膝、程よいふくらはぎから踝に至るまでがチラチラと覗くのだ。
「……………………」
しかも。しかもだ。
全高が三十センチほどしかなく、尻餅をついている僕の前に人間の少女が膝を抱くようにしゃがむのだ。
結果として、僕の目の前には魅惑的な光景が広がっていた。
端的に言えばローブの中身が丸見えである。黒タイツ越しだが、はっきりと神の加護を受けし清楚な黒い布が見える。ぷっくりとした形までわかってしまうではないか!
目がッ、目が離せないっ!
下半身から目が離せないぃぃいいっ!! 目がぁああああっ!!
「ほんとね、これってけっこう凄いことよ。野生の魔物は『悪性』に染まっているのが常なのに……もしかして、小さな騎士さんって誰かの召喚獣だったりするのかしら?」
「僕は幸せ者です。ええ、とっても、とっても幸せ者なんです……ふぁああ生きてて良かったぁぁああ……ッ」
悪性ではなく煩悩にまみれております。
「わ、私の話聞いてるかしら……?」
美少女が膝の上に頬杖をついて何か質問してきているが、今の僕は号泣中だ。嬉しさ極まって答えられない。虚空の眼球から涙を流してる程に、感極まっている。
ああ、至福である。眼福である。美少女の下着は神である。ぜひ家宝にしたい。しかも黒て。好みですぅ。ドストライクですぅ。
「……主が聞いてるだろォが。泣いてないで早く答えろよォ、鎧の魔物。ていうかなんで号泣してるンだよ、危ないヤツだなァ」
ふぇ? あるじ?
――ああ、さっきも確かそう呼んでたな。きっとこの美少女のことだ。眷属となった魔物は『契約』を結んだ人間のことをそれに準じた呼び方で呼ぶことが多い。
兜の頬にあたる部位を前足でぺしぺし叩いてくるフラム先輩に、僕はハッと正気を取り戻した。その肉球の柔らかさに再びトロンと仕掛けるが、ここは我慢だ撲。
「え、僕? 僕は……野生、なのかな。どうだろ、気づいたら大きな洞窟の中を彷徨ってたんだ。多分そこで自我が芽生えたんだと思うけど……」
正直野良の自覚はないんだけど、発生の根源を辿れば恐らく『濃密な魔素から生じた』タイプの魔物だと思う。シェルちゃんは迷宮を魔物が発生しないようにいじっていたと言うけれど、そんな話聞いたことないし絶対ではないんだろうね。
「へぇ、それでどうして外へ? ここら辺で洞窟と言えば……《かさかさする洞穴》《大百足の迷宮》《亜竜の巌窟》とかね。《金龍の迷宮》も洞窟型のダンジョンだって聞いたことがあるけど……さすがに違うわよね。それにしても、どこの場所からもけっこう距離があるわ。よくここまで無事に辿り着けたわね?」
不思議そうな表情の少女に言われ、そこでようやく僕はハッとした。
「あれ……ルイは? ルイがいない」
今、僕の目の前には少女がいた。
結局知らない天井なんてものはなく、台詞も言い切ることが出来ず、その代わりにこちらを覗き込む知らない少女の顔があった。何これ。
それも、僕が人外の身となってから昼夜を問わず妄想し、夢にまで見るほどに求めてやまなかった――目を剥くような絶世の美少女だ。
彼女は仰天した面持ちのまま、矢継ぎ早に言葉を投げてくる。
珍しいものを見つけた子供のように、見開かれた瞳には星が散っていた。どうやら興奮しているらしい。
「えっ、えっ、やっぱり新種っぽいけど、放浪の鎧系統の魔物よね? 低位の魔物なのに言葉が話せるの!? 話せるって事は理解もできるのよね? あ、ねぇねぇ、私の言葉、わかる? わかります? 小さな小さな……騎士さん?」
身体と頭が再開するも驚きから立ち直りきれず、よろよろと上体を起こした僕へ、ずいっと端麗な顔が寄ってくる。待って待って可愛い近い近い近い惚れそうにやけそう!
ハッ、馬鹿なに動揺してるんだ僕! そんな場合じゃないだろう!
今この瞬間は、今世において人間様との初コンタクトだ。同時に今世紀最大のチャンスでもある。
最初に根付いたその人の印象というものは、その後もなかなか変わりにくいものだ。だからこそ、人付き合いを円滑に進めるために極めて重要となってくるのが第一印象。それは魔物であっても変わらない。
僕はこの美少女に好かれたい。付き合いたい。結婚したい。一目惚れだ。絶対に良い印象を持って欲しい。結婚したい。
気合いを入れろ僕! 男だろ! 何のために『人外』生まれ変わった? 何のために危険を冒してこんな所まで来た? そんなの決まってる。
――『少女』に会うためだったんだろ!! 多分っ!!
「ふぁっ、ふぁいっ! そうですよろしぇいくお願いしまじぇっ!!」
…………ァっ。
はい最悪。死にたい。なんていうか、色々思うところはあるけれど、弁明したい気持ちもあるけれど、とりあえず死にたい。死んで消えてしまいたい。
穴があったら一度せっせと埋めた後に、再度隣に穴を掘って入りたいレベルで恥ずかしい。よろしぇいくってなんだよ、しぇいくって。馬鹿なの阿呆なの死ぬの?
逆にね。逆にすごいよめっちゃ綺麗に噛んだよ。意気込みすぎを通り越して、すごいキョどってすごい噛んだ。もうすごいよこれ。すごいよすごいよもう。
僕の透明な脳味噌はあまりの予想外の事態に滅茶苦茶だ。異常に熱を持って歪な回転を始め、意識がまったく現状に追いついていない。理解し切れていない。
「わぁ、なんて可愛いのかしら。それに、やっぱり私の言葉がわかるのね! むふーっ、凄い、凄いわ逸材だわ! これはきっと、私の誕生日に神様がくれたプレゼントなのね! そうに違いないわ!」
一方で、少女の方はというと。
僕を指さして指摘し笑いものにするでもなく、目の前でぴょんぴょんと跳ねて場違いなほど喜んでいる。さらには僕のことを『可愛い』だなんて言っている。
……………………。
…………。
……よくわからんが、掴みはオッケーッ! ナイスだ僕、作戦通りぃっ!
「――野生の魔物を前に、そんな無防備を晒すな主ィ。オレがいるとは言え、殺されても自業自得だぞォ」
よっしゃぁあああ、と僕が内心馬鹿みたいに喜んでいると、少女の斜め後ろで敵愾心をメラメラと燃やしてこちらを睨めつける存在が、低い声で唸った。
それは少女への忠告であり、おらくは僕への牽制――手を出せば即座に殺すという気迫が感じ取れる。何もする気ないですって。
僕は少女へ向けるため柔らかくほわほわさせていた紫紺の瞳を、瞬時にキッと細める。だってシャーッと威嚇してくるその赤い獣から発せられたのは男性の声だったから。
「――――」
しかし、細めた紫光の双眸を、僕はすぐに見開くことになる。
ビックリしすぎて言葉に詰まる喉をどうにか振動させ、再び発した言葉はやっぱり少しだけ震えていて。
「……え……え、もしかして、カ、カカカカーバンクル……っ?」
――『幸を呼ぶ幻獣』
丸く磨かれた赤い結晶――ザクロ石を額に持つ、人の肩に乗る程度の大きさの猫型の魔物。
種としてはその殆どがレアモンスターに分類される幻獣系にして、ドラゴンなんか目じゃないほど極めて遭遇率の低い稀産の魔物だ。カーバンクルと遭遇した者には富や幸運、成功がもたらされるという話は誰だって知っている。
それを、この少女は遭遇どころか『眷属』として使役しているように見える。
あまねく星々の如く幾億という魔物の奔流から『召喚獣』として召喚したのであれば、それはもはや天啓のようなものだ。運などではなく、導かれる『運命』にあったと、つまりはそういうことだ。
驚きのあまり紫紺の双眸を大きく見開いて瞬かせる僕。面甲が開けっぱなしになっていることから、本物の口があれば『開いた口が塞がらない』とはこのこと。偶然にしては出来すぎた出会いだ。
前世では一度だってカーバンクルになど遭遇したことはなかったはず。いやまて、記憶が消えている可能性もあるため真実は定かではないが、でもなんだ、カーバンクルといえば無邪気で天真爛漫なイメージが僕の中にはあったんだけど……、
「うわぁ、本物……? 偽物じゃないよね? カ、カーバンクルって初めて会ったけど、可愛い見た目に反して以外と男らしい声してるんだね……」
少女の横を通り過ぎ、地面に尻餅をついて座る格好の僕の前までとことこと歩いてきたカーバンクルに言う。本当に疑っているわけではないが、なにせ僕らは『偽姫の双果実』に騙されたばかりなのだ。そんな言葉が出るのも必然か。
「…………あア。悪いかァ? オレみたいなのが幸せを呼び込む幻獣で」
自然と口をついて出た僕の言に、カーバンクルは僅かに顔を顰め、赤々と燃えるような目を吊り上げる。しばし推し量るように僕を睥睨した後、フンと鼻を鳴らして自虐的な物言いをした。
「大事なのは中身だァ。外面じゃあない。お前の持っていた印象など知ったことではないがなァ、オレは元からこんなんだァ。いいか、見た目だけでオレを侮ってみろォ、軽く百回は噛み殺すぞォ」
言いながら、鼻面に皺を寄せてシャーッと威嚇してくる。
可愛い顔してなんと物騒なことを言う猫か。その怒ってる顔が子猫なんでまったく恐怖は感じないんだけど、言動はさすが魔物って感じ。
「こら、ダメでしょフラム。小さな騎士さんが怖がってるじゃないの」
「……チッ」
咎める少女は見た目通り優しい。嫁にしたい。
片や大きく舌打ちしたフラムという名前らしいカーバンクルは、ゼロ距離まで迫りその愛らしい顔を歪めて僕にガンを飛ばしてくる。額と額がくっつく距離。な、撫でたい。ふわふわもふもふ。ペットにしたい。
おっといけない。そうだ、驚きの連続で忘れていたが、第一印象が大事なのだった。そりゃ出会って早々偽物扱いなんかされるのは誰だって嫌悪感を示すだろう。失言だったね、さっきの言葉は。
「……ごめん。さっきの言葉は取り消すよ。正直今の僕は混乱しててね、目が覚めたら美少女がいるし、ここがどこだかわかんないし、その上カーバンクルなんて初めて見たものだから……失言だったよ。謝る」
「……美少女てェ。否定はしないがァ……なンだよォ、野生にしては意外と礼儀のなってる魔物じゃねぇかァ……オレも大人げなく突っかかって悪かったなァ」
するとカーバンクル、いやフラム先輩から許しの言葉をいただけた。寛容、僕とは違って果てしなく広い心をお持ちのようだ。助かるよ。
と、美少女がフラム先輩の隣にしゃがみ込む。
彼女の服装は魔術師用とも見てとれる高い襟付きの黄色ローブに、大事な要所を守る目的の革鎧。軽い鎧だがこれがあるのとないのとでは全然違うし、何よりも特筆すべきは下半身。
長いローブの裾にはスリットが入っていて、黒タイツに包まれた艶めかしい太ももから綺麗な膝、程よいふくらはぎから踝に至るまでがチラチラと覗くのだ。
「……………………」
しかも。しかもだ。
全高が三十センチほどしかなく、尻餅をついている僕の前に人間の少女が膝を抱くようにしゃがむのだ。
結果として、僕の目の前には魅惑的な光景が広がっていた。
端的に言えばローブの中身が丸見えである。黒タイツ越しだが、はっきりと神の加護を受けし清楚な黒い布が見える。ぷっくりとした形までわかってしまうではないか!
目がッ、目が離せないっ!
下半身から目が離せないぃぃいいっ!! 目がぁああああっ!!
「ほんとね、これってけっこう凄いことよ。野生の魔物は『悪性』に染まっているのが常なのに……もしかして、小さな騎士さんって誰かの召喚獣だったりするのかしら?」
「僕は幸せ者です。ええ、とっても、とっても幸せ者なんです……ふぁああ生きてて良かったぁぁああ……ッ」
悪性ではなく煩悩にまみれております。
「わ、私の話聞いてるかしら……?」
美少女が膝の上に頬杖をついて何か質問してきているが、今の僕は号泣中だ。嬉しさ極まって答えられない。虚空の眼球から涙を流してる程に、感極まっている。
ああ、至福である。眼福である。美少女の下着は神である。ぜひ家宝にしたい。しかも黒て。好みですぅ。ドストライクですぅ。
「……主が聞いてるだろォが。泣いてないで早く答えろよォ、鎧の魔物。ていうかなんで号泣してるンだよ、危ないヤツだなァ」
ふぇ? あるじ?
――ああ、さっきも確かそう呼んでたな。きっとこの美少女のことだ。眷属となった魔物は『契約』を結んだ人間のことをそれに準じた呼び方で呼ぶことが多い。
兜の頬にあたる部位を前足でぺしぺし叩いてくるフラム先輩に、僕はハッと正気を取り戻した。その肉球の柔らかさに再びトロンと仕掛けるが、ここは我慢だ撲。
「え、僕? 僕は……野生、なのかな。どうだろ、気づいたら大きな洞窟の中を彷徨ってたんだ。多分そこで自我が芽生えたんだと思うけど……」
正直野良の自覚はないんだけど、発生の根源を辿れば恐らく『濃密な魔素から生じた』タイプの魔物だと思う。シェルちゃんは迷宮を魔物が発生しないようにいじっていたと言うけれど、そんな話聞いたことないし絶対ではないんだろうね。
「へぇ、それでどうして外へ? ここら辺で洞窟と言えば……《かさかさする洞穴》《大百足の迷宮》《亜竜の巌窟》とかね。《金龍の迷宮》も洞窟型のダンジョンだって聞いたことがあるけど……さすがに違うわよね。それにしても、どこの場所からもけっこう距離があるわ。よくここまで無事に辿り着けたわね?」
不思議そうな表情の少女に言われ、そこでようやく僕はハッとした。
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