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第ゼロ章『人外×金龍の迷宮オロ・アウルム』
第17話:ルイは食欲旺盛です
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「それじゃあ君の名前は――『ルイ』。それでいいね?」
「…………っ!(ぷるぷるぷる!)」
あれからというものの、『泣き虫スラ子』から始まり『青いねスラ子』に終わるまで、実に多岐にわたるネーミングセンスを披露していた僕だけど、結局無難な『ルイ』という名に落ち着いた。
しかもこれ、僕じゃなくてシェルちゃんの発案である。
泣き虫だから『涙』。半端ない量の涙を流すから『ルイ』。
僕としては名前に『スラ子』を入れたかったんだけど、どうやらルイはその部分が終始気に入らなかったようで。最後のシェルちゃんの鶴の一声で、あっけなくルイは頷いた。凄い勢いで頷いた。ブンブンブンって。
と、このような経緯でゴールデンスライムの個体名は『ルイ』に決定。
まぁ安直だけど良いんじゃないかなって思うよ。スラ子はやっぱり入れたかったけどね。名残惜しいことこの上ない。
「…………♪」
「おお、喜んでる喜んでる」
僕の腕の中から解放されたルイは嬉しそうにぴょんぴょん跳ねる。いや、ぼいんぼいん跳ねる!
シェルちゃんは可愛らしい孫でも見るかのような微笑みを浮かべている一方で、僕は興奮のあまり鼻血が噴き出そうだった。
だってぼいんぼいんて。ねぇ……ぼいんぼいんてぇぇえええ……っ!!
「よほど嬉ばしいのじゃな。ふふ、スライムがこんなに愛くるしい魔物だったとは……なんだか我、子供が出来たみたいでそわそわするのじゃ」
三百年放置したくせにどの口がほざくか。ぷんすかちん。
「結局シェルちゃんが考えた名前だからあんまり気に入らないけど、まぁこの弾力さえあればいいよね。人化できるようになったら巨乳の美少女になってもらうんだ。最高」
「其方のネーミングは壊滅的であったからのぉ……ルイよ、我がいて良かったであろ?」
シェルちゃんが面白半分で聞けば、ルイは全身を使って頷く。その度に柔らかいスライムの身体が波打つのだからよきよき。でも、
「…………っっ」
「なんでそんなに全力で頷くんだルイ? ほらおいで、僕の腕の中に……」
「…………」
「なんでそんなに全力で逃げるんだルイ? ほら、未来の旦那さんはここにいるよ……」
手を広げて見ても首(身体)を凄い勢いで横に振るばかり。
上下に揺れるのがありきたりなのでそれは非情に眼福であったが、僕が一歩近寄るとルイも一歩後退るのだ。これではまるで僕が変態みたいじゃないか。
しばらく追いかけっこをしていた僕とルイだけど、そこでシェルちゃんの制止が入る。
「其方、いい加減にするのじゃ。早くここを出て外の世界を見るのであろ?」
正論過ぎてぐうの音も出ないです。
「おっと、そうだったそうだった。だよね、おっぱい追いかけてる場合じゃないよね。よし、とりあえずここにある財宝とか全部も収納するけど問題ない?」
「ああ、全部持って行くがいいのじゃ。手伝うかえ?」
「重すぎるのとかお願い。できれば一カ所に集めてくれたら収納しやすいかなぁ」
「ふむ、承ったのじゃ。ほれ、ルイも手伝うのじゃ。なになに、ルイはもう我の可愛い娘。もしもの時は我が守ってやるのじゃ。それなら安心であろ?」
「…………♪」
もしもの時ってなんだよ。
あれれ、僕ってもしかして本当に危険人物だと思われてる感じ? それはまずい。恋仲とまではいかないものの、「え~い」と冗談で胸を揉んでも「きゃぁ、もう。うふふ」となるくらいの友好関係は結んでいなくてはいけないのだ。
「…………しばらくは我慢するか」
シェルちゃんに近寄って楽しそうに跳ねるルイを見ながら、なんだか寂しいような、いたたまれない気がして、僕はそう決意した。
強かに激しく、醜い情欲を持って揉むのはやめようと。
「……優しく、無心で揉む、いやいや、言い方が卑猥だ。そう、無心でむにむにするくらいは……いいよね……」
今からすでに我慢できるか不安である。
それが我慢と呼べるものなのか、実に不安である。
****** ******
「あれ?」
事の重大さに気がついたのは。
ルイをむにむにすることをやめ、真面目に宝物庫内の金銀財宝を『鎧の中は異次元』という不可思議な固有スキルで専ら収納し終えた頃。
「――『神域武装』、なくない?」
「何を馬鹿なことを言って――な、ないのじゃ」
宝物庫の床をまばらに散っている硬貨の一枚一枚を丁寧に収納しながらも、ふと気がつき溢れた僕の言葉に、ルイを背に乗せてあやすように揺らしていたシェルちゃんが目を剥いた。
――『神域武装』
それは武器であり、防具であり、装飾品でもある。
惑星『アルバ』に存在する幾億の武装の中でも、極めて稀なレア度10。
神の器――『神器』へと最も近づいた頂点にして究極の武装。
で、あるのだが。
……そういえばこの伝承のドラゴンはダメダメなヤツだった。
「はぁ。なんだ、シェルちゃんの痛い妄想だったのか。はたまた冷え切った見栄か。いやはやドン引きだよ。はぁ。はぁ。はぁ」
「まっ、待て! 待つのじゃ! この我がそんなしょうもない虚言を吐くと思うかえ!?」
僕がジトーっとした冷めた目で黄金のドラゴンを見つめると、彼女は慌てたようにそう釈明する。
彼女はこの宝物庫に足を踏み入れる際、確かに神域武装と言ったのだ。僕は心の隅っこの方で期待してたというのに……。
「ど、どどどどどういうことじゃ!? あ、あれは易々となくして良い品物ではないのじゃ!? 我の宝具は三百年前、確かにこの場所に……適当に投げて」
「適当に投げた? 伝説級の武装を? ははは、そりゃ伝説のドラゴンさんにとっては武装の一つや二つなくしたところで取るに足らない損得ですよね。ははは、良いご身分ですこと」
「い、嫌じゃ、こやつにいじられるのはもう嫌なのじゃぁあ……ど、どこに、ええ……本当にないのじゃぁあ……グスン、どうして、エグっ」
軽くなじってやったら泣き始めた伝説のドラゴンさん。
究極の泣き虫なルイと良い勝負なんじゃないか?
「泣くなよ。ないものはないんだ。それは君の妄想だったんだ……ね? 元気だしなって。明日は何かいいこと……あるかもよ?」
「そ、そんな哀れんだ目で見るでない~っ!?」
シェルちゃんは床に散らばる硬貨の下まで探したいのか、床に腹ばいになってほふく前進のような格好で動き回る。鼻先で硬貨やアクセサリーをずらして探し回るも、その姿はまるで這いつくばる虫だ。惨めだ。実に惨めだ。
あらかたは収納を終えているため、室内は全域を見渡せるというのに。
馬鹿なの?
「いやいやいや……硬貨の下にあるほど小さいものだったの? それはないだろ……こういう時は、当時の光景を順当に思い出せばいいんだ。宝物庫まで持ってきた記憶はあるんでしょ? なら落ち着いて考えて。はい、シェルちゃんは帰ってきました」
「う、うむ。帰ってきたのじゃ」
「そこの入り口から宝物庫に入ってきました。まずそこで何をしましたか?」
「う、うむ。そうじゃな……なんとなくしか覚えてないが、恐らく……疲れてうたた寝をしたのじゃ」
怠慢なやつめ。羨ましい。
「やっぱりだらしないドラゴンだな。返った途端寝るなんて」
「そ、その時は辛かったから仕方なかったのじゃ!!」
ま、そう言うのだからいじるのはやめておこう。
シェルちゃんにとって何かしらの事件があったのは、少し前に話に聞いたばかりだからね。こういうのはあまり深く突っ込むもんじゃない。
「はぁ……まぁ、それで? 起きた後どうしたの?」
「むむむ……そうよな、そこで宝具を脱いで。そこの真ん中にあった玉座に投げて……恐らく魔力を吸ったんじゃろうな、いつの間にか治療されてたスライムを宝物庫に住まわせ――あ」
「あ」
間抜けな声が重なる。
僕とシェルちゃんは、二人して振り返った。
先までシェルちゃんの背中に乗っていたが、急に振り落とされたゴールデンスライム――ルイが、きょとんとした何食わぬ顔でそこにいた。
一度お互いに顔を見合わせると、何か確信めいたものが生まれるから不思議。
それから再び視線をルイに戻し、仲良くはもらせて聞いてみた。
「「ルイ。もしかして……食べた(のかえ)?」」
「…………っ!(ぷるぷるぷる!)」
あれからというものの、『泣き虫スラ子』から始まり『青いねスラ子』に終わるまで、実に多岐にわたるネーミングセンスを披露していた僕だけど、結局無難な『ルイ』という名に落ち着いた。
しかもこれ、僕じゃなくてシェルちゃんの発案である。
泣き虫だから『涙』。半端ない量の涙を流すから『ルイ』。
僕としては名前に『スラ子』を入れたかったんだけど、どうやらルイはその部分が終始気に入らなかったようで。最後のシェルちゃんの鶴の一声で、あっけなくルイは頷いた。凄い勢いで頷いた。ブンブンブンって。
と、このような経緯でゴールデンスライムの個体名は『ルイ』に決定。
まぁ安直だけど良いんじゃないかなって思うよ。スラ子はやっぱり入れたかったけどね。名残惜しいことこの上ない。
「…………♪」
「おお、喜んでる喜んでる」
僕の腕の中から解放されたルイは嬉しそうにぴょんぴょん跳ねる。いや、ぼいんぼいん跳ねる!
シェルちゃんは可愛らしい孫でも見るかのような微笑みを浮かべている一方で、僕は興奮のあまり鼻血が噴き出そうだった。
だってぼいんぼいんて。ねぇ……ぼいんぼいんてぇぇえええ……っ!!
「よほど嬉ばしいのじゃな。ふふ、スライムがこんなに愛くるしい魔物だったとは……なんだか我、子供が出来たみたいでそわそわするのじゃ」
三百年放置したくせにどの口がほざくか。ぷんすかちん。
「結局シェルちゃんが考えた名前だからあんまり気に入らないけど、まぁこの弾力さえあればいいよね。人化できるようになったら巨乳の美少女になってもらうんだ。最高」
「其方のネーミングは壊滅的であったからのぉ……ルイよ、我がいて良かったであろ?」
シェルちゃんが面白半分で聞けば、ルイは全身を使って頷く。その度に柔らかいスライムの身体が波打つのだからよきよき。でも、
「…………っっ」
「なんでそんなに全力で頷くんだルイ? ほらおいで、僕の腕の中に……」
「…………」
「なんでそんなに全力で逃げるんだルイ? ほら、未来の旦那さんはここにいるよ……」
手を広げて見ても首(身体)を凄い勢いで横に振るばかり。
上下に揺れるのがありきたりなのでそれは非情に眼福であったが、僕が一歩近寄るとルイも一歩後退るのだ。これではまるで僕が変態みたいじゃないか。
しばらく追いかけっこをしていた僕とルイだけど、そこでシェルちゃんの制止が入る。
「其方、いい加減にするのじゃ。早くここを出て外の世界を見るのであろ?」
正論過ぎてぐうの音も出ないです。
「おっと、そうだったそうだった。だよね、おっぱい追いかけてる場合じゃないよね。よし、とりあえずここにある財宝とか全部も収納するけど問題ない?」
「ああ、全部持って行くがいいのじゃ。手伝うかえ?」
「重すぎるのとかお願い。できれば一カ所に集めてくれたら収納しやすいかなぁ」
「ふむ、承ったのじゃ。ほれ、ルイも手伝うのじゃ。なになに、ルイはもう我の可愛い娘。もしもの時は我が守ってやるのじゃ。それなら安心であろ?」
「…………♪」
もしもの時ってなんだよ。
あれれ、僕ってもしかして本当に危険人物だと思われてる感じ? それはまずい。恋仲とまではいかないものの、「え~い」と冗談で胸を揉んでも「きゃぁ、もう。うふふ」となるくらいの友好関係は結んでいなくてはいけないのだ。
「…………しばらくは我慢するか」
シェルちゃんに近寄って楽しそうに跳ねるルイを見ながら、なんだか寂しいような、いたたまれない気がして、僕はそう決意した。
強かに激しく、醜い情欲を持って揉むのはやめようと。
「……優しく、無心で揉む、いやいや、言い方が卑猥だ。そう、無心でむにむにするくらいは……いいよね……」
今からすでに我慢できるか不安である。
それが我慢と呼べるものなのか、実に不安である。
****** ******
「あれ?」
事の重大さに気がついたのは。
ルイをむにむにすることをやめ、真面目に宝物庫内の金銀財宝を『鎧の中は異次元』という不可思議な固有スキルで専ら収納し終えた頃。
「――『神域武装』、なくない?」
「何を馬鹿なことを言って――な、ないのじゃ」
宝物庫の床をまばらに散っている硬貨の一枚一枚を丁寧に収納しながらも、ふと気がつき溢れた僕の言葉に、ルイを背に乗せてあやすように揺らしていたシェルちゃんが目を剥いた。
――『神域武装』
それは武器であり、防具であり、装飾品でもある。
惑星『アルバ』に存在する幾億の武装の中でも、極めて稀なレア度10。
神の器――『神器』へと最も近づいた頂点にして究極の武装。
で、あるのだが。
……そういえばこの伝承のドラゴンはダメダメなヤツだった。
「はぁ。なんだ、シェルちゃんの痛い妄想だったのか。はたまた冷え切った見栄か。いやはやドン引きだよ。はぁ。はぁ。はぁ」
「まっ、待て! 待つのじゃ! この我がそんなしょうもない虚言を吐くと思うかえ!?」
僕がジトーっとした冷めた目で黄金のドラゴンを見つめると、彼女は慌てたようにそう釈明する。
彼女はこの宝物庫に足を踏み入れる際、確かに神域武装と言ったのだ。僕は心の隅っこの方で期待してたというのに……。
「ど、どどどどどういうことじゃ!? あ、あれは易々となくして良い品物ではないのじゃ!? 我の宝具は三百年前、確かにこの場所に……適当に投げて」
「適当に投げた? 伝説級の武装を? ははは、そりゃ伝説のドラゴンさんにとっては武装の一つや二つなくしたところで取るに足らない損得ですよね。ははは、良いご身分ですこと」
「い、嫌じゃ、こやつにいじられるのはもう嫌なのじゃぁあ……ど、どこに、ええ……本当にないのじゃぁあ……グスン、どうして、エグっ」
軽くなじってやったら泣き始めた伝説のドラゴンさん。
究極の泣き虫なルイと良い勝負なんじゃないか?
「泣くなよ。ないものはないんだ。それは君の妄想だったんだ……ね? 元気だしなって。明日は何かいいこと……あるかもよ?」
「そ、そんな哀れんだ目で見るでない~っ!?」
シェルちゃんは床に散らばる硬貨の下まで探したいのか、床に腹ばいになってほふく前進のような格好で動き回る。鼻先で硬貨やアクセサリーをずらして探し回るも、その姿はまるで這いつくばる虫だ。惨めだ。実に惨めだ。
あらかたは収納を終えているため、室内は全域を見渡せるというのに。
馬鹿なの?
「いやいやいや……硬貨の下にあるほど小さいものだったの? それはないだろ……こういう時は、当時の光景を順当に思い出せばいいんだ。宝物庫まで持ってきた記憶はあるんでしょ? なら落ち着いて考えて。はい、シェルちゃんは帰ってきました」
「う、うむ。帰ってきたのじゃ」
「そこの入り口から宝物庫に入ってきました。まずそこで何をしましたか?」
「う、うむ。そうじゃな……なんとなくしか覚えてないが、恐らく……疲れてうたた寝をしたのじゃ」
怠慢なやつめ。羨ましい。
「やっぱりだらしないドラゴンだな。返った途端寝るなんて」
「そ、その時は辛かったから仕方なかったのじゃ!!」
ま、そう言うのだからいじるのはやめておこう。
シェルちゃんにとって何かしらの事件があったのは、少し前に話に聞いたばかりだからね。こういうのはあまり深く突っ込むもんじゃない。
「はぁ……まぁ、それで? 起きた後どうしたの?」
「むむむ……そうよな、そこで宝具を脱いで。そこの真ん中にあった玉座に投げて……恐らく魔力を吸ったんじゃろうな、いつの間にか治療されてたスライムを宝物庫に住まわせ――あ」
「あ」
間抜けな声が重なる。
僕とシェルちゃんは、二人して振り返った。
先までシェルちゃんの背中に乗っていたが、急に振り落とされたゴールデンスライム――ルイが、きょとんとした何食わぬ顔でそこにいた。
一度お互いに顔を見合わせると、何か確信めいたものが生まれるから不思議。
それから再び視線をルイに戻し、仲良くはもらせて聞いてみた。
「「ルイ。もしかして……食べた(のかえ)?」」
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