上 下
8 / 57
第ゼロ章『人外×金龍の迷宮オロ・アウルム』

第7話:黄金のドラゴンは懐かしむ

しおりを挟む

「…………まるで其方そちを見ているようだよ。なぁ――リカ」

 黄金色に輝く龍の寂しげな、けれど淡い希望を見つけた喜びが滲み出た呟きが、洞窟内に静かに落ちた。

 前方で小さな手を振っているのは、これまた小さな鎧の魔物。
 どういう運命の流れか、黄金の龍が創造した迷宮ダンジョンに紛れ込んだ遭難者。
 彼女の待つ場所まで辿り着いた幸運の持ち主。いや、その生まれはどう見ても悪運の持ち主か。

 そして、かつてのあの日のように。
 日陰に身を身を潜める彼女を、外へと連れ出してくれる――王子様。

「おーい! 早く来いよシェルちゃん! もうこんな場所うんざりだから、早く外に出たいんだ! あ、乗せて? そうだよシェルちゃんのせてよ、飛んだらすっごい早そうじゃん!」

 その中身は元人間の、どこまでも自由奔放な男。
 ちっぽけな見た目も相俟って、王子様と呼ぶには些か心許ないけれど。

「――あぁ、乗るがよいぞ。ここは狭いゆえ飛べぬが、其方が歩くよりは速いじゃろうて。ふふ、最強種たる我に跨がれる存在などそうそういない……其方が二人目じゃ。光栄に――」

「跨がるってなんかエロいな」

「うっ、うっさいのじゃっ!!」

 ――今は、今だけは。
 かつて愛したその背中を、永きに渡って希ったその姿を……この小さき鎧の魔物に重ねてしまうことを。

 どうか、許してほしい。

 遙か昔に自分を連れ出したともがらに。
 けれど、約束を破って命を散らした馬鹿者に。
 例え誓約が潰えようとも、三百と数十年もの間夢にまで見て待ち焦がれたその面影に。

 今一度、この身の運命をゆだねてもいいだろう。

 そう、思えた。思うことが出来た。
 心のどこかでは、二度と外に出ることはないと思っていたのはずなのに。

 それはきっと、この男の持つ不思議な力。
 重なる面影と似た天性の性質それに、黄金の龍は逆らうことが出来ない。

「あとシェルちゃん。乗るがいいじゃなくて乗ってくださいだろ?」

「ふ、ふぇええ乗ってくださいなのじゃぁあぁあぁ……っ!!」

 ちなみに対等って言葉の意味、知ってる?

 心底問うてみたくなったが、結局黄金の龍は脱力するように嘆息すると小さき鎧の魔物を頭に乗せて、高純度の魔結晶の光に祝福された洞窟を進むのであった。

 その足取りは、どこか軽い。
 鳥のように軽やかに飛ぶことも、冒険者のように力強く歩むこともできずとも。
 強く、きつく、ぐるぐるに巻き付いて離れなかった重圧な鎖から解放されたかのように。

 その面持ちは、どこか明るい。
 やはり過去を忘れられず、心の底から笑うことはできずとも。
 駄々をこねて泣き喚いた子供が必死の切願の末に、妥協点として好きなお菓子を買ってもらったように。

「……シェルちゃん、なんでにやついてんの?」

「ふ、ふふふ……なんでもないのじゃぁあ……」

 今ここに、【金龍皇シエルリヒト】が想い、、腰を上げる。
 停滞を刻んでいた一つの時代が、嵐の如く激動の奔流に包まれようとしていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

転生先は石ころのようです――え!?――

ルリカリ
ファンタジー
ある日 超絶よくあるトラックに引かれ死亡した レンカ、そして期待の!異世界転生!とウキウキ気分でいたつかの間、転生先は!転がってた石!?

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

異世界災派 ~1514億4000万円を失った自衛隊、海外に災害派遣す~

ス々月帶爲
ファンタジー
元号が令和となり一年。自衛隊に数々の災難が、襲い掛かっていた。 対戦闘機訓練の為、東北沖を飛行していた航空自衛隊のF-35A戦闘機が何の前触れもなく消失。そのF-35Aを捜索していた海上自衛隊護衛艦のありあけも、同じく捜索活動を行っていた、いずも型護衛艦2番艦かがの目の前で消えた。約一週間後、厄災は東北沖だけにとどまらなかった事を知らされた。陸上自衛隊の車両を積載しアメリカ合衆国に向かっていたC-2が津軽海峡上空で消失したのだ。 これまでの損失を計ると、1514億4000万円。過去に類をみない、恐ろしい損害を負った防衛省・自衛隊。 防衛省は、対策本部を設置し陸上自衛隊の東部方面隊、陸上総隊より選抜された部隊で混成団を編成。 損失を取り返すため、何より一緒に消えてしまった自衛官を見つけ出す為、混成団を災害派遣する決定を下したのだった。 派遣を任されたのは、陸上自衛隊のプロフェッショナル集団、陸上総隊の隷下に入る中央即応連隊。彼等は、国際平和協力活動等に尽力する為、先遣部隊等として主力部隊到着迄活動基盤を準備する事等を主任務とし、日々訓練に励んでいる。 其の第一中隊長を任されているのは、暗い過去を持つ新渡戸愛桜。彼女は、この派遣に於て、指揮官としての特殊な苦悩を味い、高みを目指す。 海上自衛隊版、出しました →https://ncode.syosetu.com/n3744fn/ ※作中で、F-35A ライトニングⅡが墜落したことを示唆する表現がございます。ですが、実際に墜落した時より前に書かれた表現ということをご理解いただければ幸いです。捜索が打ち切りとなったことにつきまして、本心から残念に思います。搭乗員の方、戦闘機にご冥福をお祈り申し上げます。 「小説家になろう」に於ても投稿させて頂いております。 →https://ncode.syosetu.com/n3570fj/ 「カクヨム」に於ても投稿させて頂いております。 →https://kakuyomu.jp/works/1177354054889229369

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

クラス転移、異世界に召喚された俺の特典が外れスキル『危険察知』だったけどあらゆる危険を回避して成り上がります

まるせい
ファンタジー
クラスごと集団転移させられた主人公の鈴木は、クラスメイトと違い訓練をしてもスキルが発現しなかった。 そんな中、召喚されたサントブルム王国で【召喚者】と【王候補】が協力をし、王選を戦う儀式が始まる。 選定の儀にて王候補を選ぶ鈴木だったがここで初めてスキルが発動し、数合わせの王族を選んでしまうことになる。 あらゆる危険を『危険察知』で切り抜けツンデレ王女やメイドとイチャイチャ生活。 鈴木のハーレム生活が始まる!

元剣聖のスケルトンが追放された最弱美少女テイマーのテイムモンスターになって成り上がる

ゆる弥
ファンタジー
転生した体はなんと骨だった。 モンスターに転生してしまった俺は、たまたま助けたテイマーにテイムされる。 実は前世が剣聖の俺。 剣を持てば最強だ。 最弱テイマーにテイムされた最強のスケルトンとの成り上がり物語。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

処理中です...