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第ゼロ章『人外×金龍の迷宮オロ・アウルム』
第7話:黄金のドラゴンは懐かしむ
しおりを挟む「…………まるで其方を見ているようだよ。なぁ――リカ」
黄金色に輝く龍の寂しげな、けれど淡い希望を見つけた喜びが滲み出た呟きが、洞窟内に静かに落ちた。
前方で小さな手を振っているのは、これまた小さな鎧の魔物。
どういう運命の流れか、黄金の龍が創造した迷宮に紛れ込んだ遭難者。
彼女の待つ場所まで辿り着いた幸運の持ち主。いや、その生まれはどう見ても悪運の持ち主か。
そして、かつてのあの日のように。
日陰に身を身を潜める彼女を、外へと連れ出してくれる――王子様。
「おーい! 早く来いよシェルちゃん! もうこんな場所うんざりだから、早く外に出たいんだ! あ、乗せて? そうだよシェルちゃんのせてよ、飛んだらすっごい早そうじゃん!」
その中身は元人間の、どこまでも自由奔放な男。
ちっぽけな見た目も相俟って、王子様と呼ぶには些か心許ないけれど。
「――あぁ、乗るがよいぞ。ここは狭いゆえ飛べぬが、其方が歩くよりは速いじゃろうて。ふふ、最強種たる我に跨がれる存在などそうそういない……其方が二人目じゃ。光栄に――」
「跨がるってなんかエロいな」
「うっ、うっさいのじゃっ!!」
――今は、今だけは。
かつて愛したその背中を、永きに渡って希ったその姿を……この小さき鎧の魔物に重ねてしまうことを。
どうか、許してほしい。
遙か昔に自分を連れ出した輩に。
けれど、約束を破って命を散らした馬鹿者に。
例え誓約が潰えようとも、三百と数十年もの間夢にまで見て待ち焦がれたその面影に。
今一度、この身の運命をゆだねてもいいだろう。
そう、思えた。思うことが出来た。
心のどこかでは、二度と外に出ることはないと思っていたのはずなのに。
それはきっと、この男の持つ不思議な力。
重なる面影と似た天性の性質に、黄金の龍は逆らうことが出来ない。
「あとシェルちゃん。乗るがいいじゃなくて乗ってくださいだろ?」
「ふ、ふぇええ乗ってくださいなのじゃぁあぁあぁ……っ!!」
ちなみに対等って言葉の意味、知ってる?
心底問うてみたくなったが、結局黄金の龍は脱力するように嘆息すると小さき鎧の魔物を頭に乗せて、高純度の魔結晶の光に祝福された洞窟を進むのであった。
その足取りは、どこか軽い。
鳥のように軽やかに飛ぶことも、冒険者のように力強く歩むこともできずとも。
強く、きつく、ぐるぐるに巻き付いて離れなかった重圧な鎖から解放されたかのように。
その面持ちは、どこか明るい。
やはり過去を忘れられず、心の底から笑うことはできずとも。
駄々をこねて泣き喚いた子供が必死の切願の末に、妥協点として好きなお菓子を買ってもらったように。
「……シェルちゃん、なんでにやついてんの?」
「ふ、ふふふ……なんでもないのじゃぁあ……」
今ここに、【金龍皇シエルリヒト】が想い腰を上げる。
停滞を刻んでいた一つの時代が、嵐の如く激動の奔流に包まれようとしていた。
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