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5話 初夜5
しおりを挟む「っ…おい、シュリエル?」
「うぅ…ぅ…」
「…なぜ泣く。」
「…なさ…ごめ、なさい…っく…ふ、ぇ…」
早く、泣き止まないと。
ちゃんとしないと、我慢しないと、お父様やお母様が処刑されてしまう。
早く、止まれ、早く。
そう思うのに、焦れば焦るほど自分が惨めに思えてきて、ポロポロと溢れる涙は止まってくれない。
嫌だ、家族が殺されるのだけは。
絶対に。
ヴェルド様と初めての夜を過ごす事よりも、家族を失う方がずっと苦しい。
「ごめ、なさ…。止まらな…。」
「シュリエル…」
「大、丈夫、ですっ…っく…逆らわない、のでっ…!大人しく、するのでっ…!お父様と、お母様のこと、ううっ…殺さないでぇ…!」
「っ…!」
家族を失うくらいなら。
止まらない涙なんか無視してくれて構わないから。
お願い…。
「はぁーっ。分かった…。分かったから泣くな、シュリエル。」
「っ…はいっ…泣きません…ごめん、なさい…ごめんなさいっ…!」
呆れたようなヴェルド様の声に、急いで涙を止めようとする。
私の両手を押さえつけていた手がそっと離されたので、ゴシゴシと顔を拭った。
でも、なかなか止まらない。
「や、そうではなくて…。あー…泣いていてもいい。」
「っえ…?」
ヴェルド様が私の上から退いたと思ったら、抱き起こされて、ぎゅっと抱きしめられる。
トントンとあやすように背中を叩かれ、優しい仕草に驚いた。
え、なに、突然どうしたの?
さっきまであんなに冷酷だったのに。
「そんなに泣かれたら、流石にできないな。」
その声に、先程までの刺々しさはなく。
「何故だ。俺との婚約の何が不満だ。」
寧ろ、なんだか少し拗ねたような様子のヴェルド様が不思議だった。
「っ…私は…婚約や、こういったことは、…っ…心から、愛し合う者同士がすることだと…思っています。こんなふうに迫られるのは、とても怖くて悲しいのですっ…!」
嗚咽を押し殺しながら、必死に答える。
ポロポロと止めどなく溢れる涙を、私の顔を包み込むようにしたヴェルド様の両手の親指が拭っていく。
「ふん、俺は王太子だぞ。婚約を嫌がる女など居ない。お前だって、しがない町医者の娘から1日で王太子妃になれたというのに。」
「そ、そういう問題ではありません…!」
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