敵国の者でも構わず治癒した聖女の行く末

かのほ

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2話 初夜2

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「シュリエル様、こちらへ」

と、侍女に案内された私は、言われるがままに仕方なく入浴をする。
美しく豪華な装飾に広々とした浴槽だったが、温かいお湯に浸かっても私の体は強張ったままだった。

くつろげる余裕なんてない。
私はこれから、好きでもない人と房事をしなくてはならないのだから。

私の歳は19だが、そういった事をしたことは今まで一度も無い。
するとすれば、お互い想い合うことができ、将来を誓い合った大好きな人との幸せな時間だと思っていた。

こんな形ですることになるなんて、考えたこともなかった。

怖い…。

身を守るように両手で自分の肩を抱くと、ジワリと涙が滲んできた。

『シュリエル!シュリエル!お願い、娘を返して!』

『お願いです!娘を連れて行かないでください!』

『お母様!お父様!』

私が最後に見た両親の姿。
涙を流しながら必死にこちらに手を伸ばしてくれていた。

冷酷なヴェルド様にお願いしたって、もう二度と会わせては貰えないだろう。
ちゃんとお別れもできなかった。

だけど、私がヴェルド様の機嫌を損ねたりしなければ、きっと生きていてくれるはずだ。
それだけが、私の心の救いだ。

これから、私はどうなってしまうのだろう。

「シュリエル様。」

侍女が声を掛けに来た。
ヴェルド様に抱かれてしまうのが怖くて、ついつい長風呂になってしまったからだろう。
心臓がドキリと跳ねた。

とはいえ風呂場に籠城するわけにもいかず。

「は、はい。今出ます。」

そして、侍女に手伝われながら身支度を済ませた私は、ヴェルド様の寝室へ向かった。

ドアの前まで来て、ノックをしようと上げた手が止まる。

嫌だ…嫌…ヴェルド様とは、したくない。
怖い。怖いよ…。

グッと拳を握りしめて震えていると。

「おい、何をしている。早く入ってこいシュリエル。」

「っ…!」

私の気配に気づいたらしいヴェルド様に呼ばれ、仕方なく部屋に入った。

でも、恐ろしくてドアのすぐそばから動けない。

「随分と長かったな。」

「っ…」

咎めるような言葉に、ビクリと震える。
だって、仕方ないじゃない。
突然こんな状況になって、混乱しているし、何より初めてがこんな形でなんて、辛すぎる。

「まあいい、こっちに来い。」



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