BL 生徒会長が怖い

303話 脱走 5

俺は、部屋の奥の押し入れの中に身を隠させてもらった。暗いと怖いので、襖は閉められず、代わりに側でアキとユキが俺を隠すように盾になってくれている。少しするとピンポーンと来客を知らせる軽快なチャイムが部屋に鳴り響き、同時にビクリと体を強ばらせた。

「はーい。どちら様ですか？ 」

ガチャ、とドアを開けて何事もなかったかのような素振りで対応する西村さん。ここからその姿は見えないけれど、声はよく聞こえる。

「夜分遅くに申し訳ございません。ええと、西村様、ですね。私は、旅館坂北屋の最高責任者、桂本と申します。」

っ...！
何それ。

続いて聞こえてきたのは、当然ながら桂本さんの声。しかし、桂本さんの声とは思えないほど穏やかで優しく、安心させられてしまうような声色だった。
いつも、俺には凍りつくような冷たい声で話すのに、お客様相手にはこの変わりよう。

散々痛め付けられてきた俺でさえ、ひょっとしたら見つかっても許されてしまうのではと思える程、温かい声だ。
まぁ、許される訳はないと分かってはいるのだけど。

「うわ、すっごい美人...。」

うっとりと、そう呟いた西村さん。

いや、美人って...。

確かに、桂本さんは端正な容姿をしているし、お客様に対しての言動はとても親切で気が利く。おまけに優雅で綺麗な所作で振る舞うものだから、何も知らなければそう見えるかもしれない。

でも俺は、その人がいかに冷酷かを知っている。だから、例えお客様への振る舞いを見ても、桂本さんへの恐怖は治まらない。むしろ、ここにいることがバレてしまわないかとヒヤヒヤしていた。

桂本さんは、西村さんの反応に戸惑うこともなく、にこやかに「恐れ入ります。」とあしらい、話を続けた。

「実は、支配人のご子息が、別館を出てこちらの方へ走って来たのをお見かけしたものですから。高校生の男の子なのですが、何かご存じないですか？ 」

「さぁ？ 見てないですよ。」

「...そうですか。」

さらりと流れるように嘘をつく西村さんは、いつも南原さんと過ごしているだけあって、流石の肝のすわりようだ。堂々とした態度で、とても嘘をついているようには思えない。

だけど、桂本さんは南原さんですら恐れた相手。一筋縄でいくわけもなく、次の手を打ってくる。

「ところで、もう一時を回っておりますが、まだ起きていらしたんですね、お客様？ 」