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191話 遊園地 10
しおりを挟む観覧車のゴンドラに乗り込んだ俺と南原さんは、向かい合った位置に座った。
ゆっくりと上がっていく視界に、記憶がより鮮明に思い出される。
うん、やっぱりこれ、乗ったことある。
懐かしい景色に、俺はつい窓の外をぼーっと見つめてしまった。
あのときは、母さんに甘えてばかりだったな...。
「坂北くん?」
「あ、すみません。ぼーっとしちゃって...。」
駄目だ。
なんか、しんみりしちゃう。
「ククッ、どうした。疲れたのか? 」
「いえ...。その...俺、昔一度だけ、亡くなった母と遊園地に来たことがあるんです。ここの遊園地じゃなかったかもしれないけど。」
桂本さんによる教育が始まったばかりの頃。
毎日泣いてばかりの俺を、見張りの目を盗んで家から連れ出してくれたのだ。
「すぐに見つかって連れ戻されてしまって、ほとんど遊べなかったけれど、観覧車には乗ったんです。それを思い出して...。」
「そうか。」
「...母さんだけが、俺の味方だった...。」
母さんがいた頃は、父さんも今よりは穏やかだった。たまに桂本さんのお仕置きから庇ってくれたこともあった。
でも、母さんが居なくなってからは...。
「坂北くん...。」
無意識に、ぎゅっと握りしめていた手を温かい感覚に包まれる。はっとして顔を上げると、いつのまにか隣に移動してきた南原さんが、自分の手を俺の手に重ねていた。
「坂北くん。今は俺が、俺たちがいる。高橋や、東山、西村も。いや、それだけじゃないな。逆境に立ち向かっていくお前の姿は、クラスメイト達にも認められているはずだ。」
「みなみ、はら、さん? 」
真っ直ぐに俺を見つめる漆黒の瞳。
そこに、慈しむような感情が写っているのが分かり、目がそらせない。
「お前はもう、一人じゃないよ。」
「っ...!」
今まで溜めていた色んな気持ちが溢れて、一瞬、息ができなくなった。
まるで、心の中を覗いているかのように、俺の欲しい言葉をくれる南原さんに、堪らなくなる。
「約束する。今度は俺が、どこへだって連れ出してやると。水族館でも、動物園でも、映画館でも、海でも山でも。」
南原さんの言葉が、胸にじんわりと広がって、氷が溶かされていくみたいに温かい。
そのいつになく柔らかい表情が、俺の心を穏やかにしていった。
「だから、その約束の証として、これを受け取ってくれないか?」
「っえ...? 」
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