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75話 お泊まり 12
しおりを挟む「うっ......ぐすっ...ひっく...ぅ...。」
苛烈な責めを受けながら、俺はまだ一度も射精が許されていない。何度も寸止めされ熱をもて余した俺の体は今、ようやくシャワー責めから解放され湯船に浸かっていた。
手錠もまだ嵌められたままで、南原さんが洗い終るのをただ待っている。
「ふぇっ......うっ...く...ぐすっ...ふ、ぅ...」
先ほどまで俺を見ていた嗜虐の悦びに満ちた南原さんの目が忘れられず、軽くトラウマだ。
早く終わって。もう帰りたい。逃げたい。
でも、これでいいんだよな...。俺が耐えれば俺も皆も自由な学校生活が送れる。これはその対価なのだから、きっちり支払わなければ。
覚悟を決めてきたつもりだった。何をされても耐えるって。なのに涙は次々と溢れてきて、湯船の水面をポタポタと揺らしている。南原さんが体を流すシャワーの音に嗚咽を隠しながら、体を震わせ静かに泣いた。
恋人でもない相手にこんなことをされているから?
これからのベッドでの行為が怖いから?
寸止めで焦らされて辛いから?
多分違う。止まらない涙の理由は、自分でもよく分からなかった。
俺は、何がそんなに悲しいのだろう。
「坂北くん。そろそろ上がろうか。」
「ーーーっ!」
洗髪と洗身を終えたらしい南原さんから声がかかる。俺は、ビクッと体を強ばらせただけで、一言も言葉を発さない。
すると、顎を掬われ強制的に上を向かされ、滲む視界の中で南原さんと目が合った。
「無視か?いい度胸だな。」
「っ......ぁ...ごめ...なさぃ...」
鋭く光る視線に貫かれ、か細い震え声でかろうじて謝罪をする。
片手で水が滴る黒髪をかき上げ、ふんと偉そうに鼻を鳴らした南原さんは、ざぱっと両手で俺を横抱きにすると、浴室を出た。
しっとりと濡れた肌に張りつく艶のある髪に、程よく鍛えられた筋肉質の身体。南原さんの纏う壮絶な色香にクラクラする。
この人にこれから抱かれるんだと意識すると、まるで身体中の熱が集まったように顔が熱くなった。
「ククッ、期待してるのか?」
何を言ってるんだこの人は。俺はむしろ、期待どころか恐怖しか感じてない...はず。
「っ!...し、してませんよ!!」
慌てて否定するが、説得力に欠ける顔をしていた自覚はある。故に余計に恥ずかしくなった。
ああ、ベッドではまた意地悪されて泣かされるんだろうな...。
気が重くなる俺とは反対に、おそらく南原さんはそれを楽しみに心躍らせているのだろう。そう考えたらまた視界がぼやけてきて、もうこらえようとも思わなくなった雫がつぅーと頬を伝っていった。
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