戦禍の女達

早起き三文

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「亜麻色の髪の村娘(後編)」

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 その帰り道に、あたしが出会った。

「こんにちは、お嬢ちゃん」

 太った、見るからに戦士のような人。

「ちょっと、聴きたい事があるんだけど、いいかな?」
「え、ええ……」

 彼は、人相が明らかに悪く、その背中に剣を背負った彼の。

 ブ、ヨォ……

「……」

 肥え太った身体が、そして贅肉を吊るした。

 ブ、ニゥ……

「アゴ」が、ブヨブヨのその下顎が、あたしに生理的な嫌悪感を感じさせた。

「ここら辺で、何か化け物を見なかったかい?」
「は、はい……?」

 その問いをあたしに向けた人の隣、両脇には、その太った人の半分程しかない背丈の人、かろうじてあたしよりも、僅かに背が高いだけの、いわゆる「小男」の人、それと。

――どこの、国の人だろう……?――

 何か見たことのない、珍しい服装、ヒラヒラした服を着て、腰に長くて、曲がった剣を吊るした人が立っている。

――見た所、戦士の人っぽいな?――

 だが、揃いも揃って、三人とも人相が悪い。特に目つきが。

 ブ、ルゥ……

――……怖い――

 唯一の救いは、あたしの住む村がすぐそば、近いこと。

「……いえ、別にそんなのは、あたしは見ていません」

 自分でも微かに震えていることが解る、そのあたしの返事、それに対してこの、太った人は。

「そうか……」

 と、軽く呟き。

「……フム」

 そして、何かジロリと、あたしの頭から。

――ゾ、ワァ……!!――

 ちょうど、下腹部の辺りから、足の先まで、撫で回すように見つめた。

――やっぱり、気持ち悪い――

 しかし、でも何かあっても、走って村まで逃げれば、何とかなるかもしれない。

「ん、解った」

 が、その人は別にそれ以上の事は何もせず、ただ。

「ありがとよ、嬢ちゃん」
「は、はい……」
「早く、帰んな?」
「……はい」
 と、言葉こそ丁寧だが。

――もう、この人達とは――

 正直、あたしはもう、この人達とは、会いたくない。

――あの、舐めるようにあたしを見る、あの――

その、目が、恐いのだ。



////////////////



「もう夕暮れでゲスな、大将?」
「……ン」

 その「仲間」の声、小男のそれを、男はその手に掴んでいる、簡素な鞘入りである。

「さっきのガキ、結構可愛いヤツだったでゲスな?」
「だから、何だよ?」
「景気付けの一発、惜しくなかっでゲスか?」
「おいおい、ちょっと待てよ……」

 短剣、予備の武器の具合を確かめつつ、どこかぼんやりと、その濁った目を。

「今回の司教サマからの依頼は、マジな依頼だ」
「まあ、そうでゲスね……」
「普通の相手なら」

 濁り、汚れきったその眼を覆う目蓋を、軽くこする。

「相手が人間ならば、俺が負けるこたぁ、ねえが」

 スゥ……

 しかし、確かにその目蓋、それの奥には小さな、鋭い光。

「確かに、気合いを入れる為にも、ヤっちまってもよかったが、よ」

 強力な戦さ人だけが持ち得る眼光を、薄く開いた、その目に宿しつつも。

「得体のしれねぇヤツが相手だ、身体はちゃんと、整え」

 歪められた、己の唇を。

 ニィ……

「体力は、温存しておく必要があるからよ?」

 醜く歪んだ口、ブヨリとした、ナメクジのような唇から放たれる言葉、それはまさしく、外道のそれではあるが。

「下手すれば、今日の夜にその、なんだ?」
「悪魔、でござるよ、殿様」
「そう、ソイツとやりあう羽目に、なるかもしんねぇ……」

 しかし、明らかに、戦士の心構えを宿している、その面構え。

「あまり、無駄なチ○ポは、使いたく、ねぇ……」

 そして、彼のその我欲に満ちた言葉と共に、二つの眼、それには。

 ギィ……

「まっ、我慢の子って、奴だ」

 明確な、強い自制心が伺える。

「えーと、この一ヶ月間でヤッた女は、確か四人程度だったなぁ……?」
「相も変わらず、ご盛んなことでゲス、大将」

 とはいえ、どうみても、その本質は。

「そうそう、あの腐れ、老いぼれヒヒジジイ司教サマの依頼といえば」
「一月前の話でござるか、殿?」
「あの、撤退命令が出たときの女の傭兵、あれは惜しかったかな?」

 人の皮を被った悪魔。

「まあ、あの便器としては平均点、そこらの量産品女傭兵の二つの壺には、たくさん小便をしてきたから別に、そこまでこだわってねぇ……」

 それには、変わりはないようだ。

「まあ、肉便器なんて、いくらでもこの世にいるべ?」

――そうでゲスね大将、ハハッ……!!――
――で、ござるよ、殿様……――

 三人とも、揃いもそろって。



////////////////



 ついに、あたしにも子供から女への第一歩。

「あー、気持ち悪い……!!」

 初潮の時が来たらしい。

「……頭が、重くて痛ァい!!」

 12歳の誕生日、確かあたしはこの日の昼間頃に産まれたと、お母さんは言っていた。

――お腹、痛い……――

 昨日からの、家に帰ってからの身体の不調、それが合図だったのだろう。

「ト、トイレに行ってくる……」

 夜の食事、それが終わった後に、あたしは頭痛と、お腹の痛みに襲われ、トイレに駆け込んだのだが。

「……イタタタ」

 何か、その時から普段の、当たり前の尿意や、便意では無いことに、気がついていた。

 バタ、ン……

――……ンッ――

 トイレ、小さく粗末な、古い板切れで作られた小屋の中で。

 クゥウ……

 木板の隙間から差し込む月の光、それだけが、おしっことかの臭いが漂う、ボロボロのトイレを照らし。

「……ン!!」

 いつもの用を足す姿で、あたしは素足に力を入れて、踏ん張り。

――……フゥ――

 チョロ、ロゥ……

 軽く「普通の」尿を便壺に放ちつつ。

「……よっと」

……スゥ

 近くの床に拭き布を用意して、しばしの間その「時」を、頭痛と軽い吐き気に耐えながらも、待っていた、が。

――ん……?――

 あたしの局部から、何の前触れもなく。

――……来た?――

 音もなく、滑り落ちたそれは。

 ヌゥ……

「……?」

 血、ではない。

――……何――

 すでに、初潮を済ませた友達から聴いた、聴くところによる。

――……何、これ?――

 ウニ色の、血ではない。

――本当に、何?――

 緑色をした、半固形の何か。

――……かしら、これ?――

 あたしの股間から、糸を引いて、ジワリ、ヌルリと、まるで油売りの芸みたいに落ちる、妙な、粘ついた、半固形物。

――な、何?――

 あたしだって、少しは初潮の時にはどうなるか、どういう物が陰部から落とされるか、それを少しは知っている。それこそ姉さんや、それが早かった友達から、教えてもらっている。

「……!?」

 その時、あたしの下腹部。

……サァ

 最近ようやく、僅かばかりに生えた。

 サゥ……

 ポツリポツリと、生えてきた下の毛。

 ワァア……

 ようやくその「目」が出てきた、あたしの髪と同じ色をした、亜麻色の糸の端みたいな、股間上の、僅かな陰毛が。

 ワァ、ザァ……

――……!?――

 何か、何故か。

 ザァア!!

 伸びて、そう。

――……イッ!?――

 グゥ、グゥウ!!

――伸びて、来ている!?――

 不気味な、異様なあたしの身体の異変。混乱するあたしの頭では、何も考えられない、そして。

――……痛ィタ、イッ!?――

 続けて、あたしの身体に顕れた、さらなる異変。

――上半身が、胸が!?――

 むずむずと、何かがあたしの、控え目極まる、胸板の奥で、動いている。

――あっ、あ!?――

 当然、用を足す時の姿勢では、別にお風呂みたいに、全裸になる必要はない。

「……くぅ、ンッ!!」

 あたしの腰から、下着だけは足首の辺りまで落とし、スカートは軽く腰上げ。

「……くぅ!!」

 ほぼ、剥き出しの細いあたしの両脚を、強く「異変」に堪えるかのように、ボロボロの木板の上で。

 グゥ!!

 白い素足を、腐りかけた木の板に、足先の指の力を強く入れて、踏ん張るあたしの。

 ザワォ……

 そう、もちろん衣服は纏ったままの上半身、それの。

 ムゥ、グ……

――……アッ!?――

 あたしの、おっぱいが、服の下の胸板が。

――おっぱいが!?――

 最近、膨らんできた事を、気にしていた、その部分の。

――その、先が!?――

 グゥギォ!!

 痛い、おっぱいの、先が。

「ひっ!?」

 姉さんが、たまにしている自慰。

――へえ、こうして……――

 覗き見た姉さんの、その時のはだけた胸、もちろんあたしより遥かに発達しているおっぱい。

――こう、やるんだ……?――

 その胸の尖端が尖るのは、覗き見た事はある、が。

「ガァ!?」

 いきなり、その二つの先っぽが。

 ギィ!!

 痛い、どころではない。

「ガッ、グ!?」

 激痛を、あたしの脳天に向かって突き上げた。

――な、何が!?――

 あたしの淡いふくらみ、触れれば少しだけは柔らかく、あたしの指を押し返す、おっぱいから、胸の頂きが。

 グゥウ……!!

 目に見えて。

 ジュッ、ギィ!!

 服を。

「ギィイ!?」

 グリュ、グゥ!!

 この前「街」で買った、産まれて初めて付けるブラジャーの、その麻布を破かんばかりに、飛び、飛び!!

「乳首が、ちぐびがァ……!!」

 だが、その胸の、乳首のありえない異変に、気を取られる間もなく。

 グゥ……

「……ガァ!?」

 あたしの下腹部、あたしのへその辺りから。

 グゥリュ、ブゥ……!!

 下品な、言いたくはないけど、まるで下痢の時のような不快な音が。

――お腹、が!?――

 その、内部からあたしの身体を振動させつつ、トイレに鳴り響く。

――ねじ、れる……!!――

 そして、次の刹那の瞬間。

「ギィ!?」

 あたしの下腹部、その部分から「T」の字が。

 グオゥ、ウ!!

 それを、歪に歪めた筋のような物が、伸びて。

 ザァウ、アゥ!!

 不気味に、激しくうねっている。陰毛の真上へと浮き出して来た。

――た、確か、そこには、子宮というのが!?――

 あたしの、あたしの、あたしの!!

 グゥウ、リュウ、ウッ!!

 お腹が、おへその周辺が、それが、文字通り踊っている!!

「ギァ、アギィ!?」

 頭が真っ白になる暇もない。気絶するには、下腹部からの刺激が強すぎる。

「アギィ、オゥ!?」

 だめだ、このままだと、便壺に落ちる、足首に力が、入らない。

 ズッ、ルウ……

「……きゃあ!?」

……スタン!!

 だか、そのしりもちをついたのが、所々湿気で腐っている、床板に座ったのが。

「……!?」

 悪かったのかもしれない。

 ブチュ!!

 その破裂音、それがあたしの、お尻の孔からトイレ中に響き。

 ブ、ブリィイ!!

 ジトジトした汚らしい床を、さらに茶色に、穢らしく染める、自分の物からの悪臭に、あたしは顔を歪める。

――ギッ!?――

 暇も、無い。

 グゥルイ、グゥ!!

 続いて、律動する下腹部が、今までで最大の激痛を発しつつ。

 グゥウ……!!

「ギャア、ァア……!!」

 グゥリュ、ブクゥ!!

 不気味に、跳ね上がるように膨らみ始めた、あたしのお腹。

「ガァ、フゥ!?」

 粗末な板床に、しりもちをついたお尻が。

 グ、チュ……

 自分の排泄した物で、何度も、ジクジクと滑る。

「……クゥ!!」

 あたしの細い両手は、どうにか身体を支えるように。

 パゥ、カァ……

 はしたなく開脚した身体、それの後ろに回され、力を入れられ。

 ――……グゥア!?――

 自分でも恥ずかしいという気持ちを抱く、所ではない、陰部が全開の下半身、あたしの女の子の部分。

――ガッ、ガァ……!?――

 それら、周辺からの激痛。

――だ、だれか助け!!――

 もはや、服やスカート、そして片方の足首に引っ掛かっている、パンツが汚れるなどはもちろん。

 ズグゥ、ウ!!

 柔らかめの、棒切れみたいな「成長」をしている、両胸の突起や。

 グチュ……

 便まみれの、お尻を気にしている心は。

――……!?――

欠片もない、なぜならば。

――出る……!!――

 それは、女の直感。認めたくない直感。

――う、産まれる……!!――

 あたしのその「出産」の時の声、それはもはや、悲鳴でもなく。

 ブ、チォ!!

――ギィヤ、アァ……!!――

 絶叫。

――……アッ、アッ!!――

 そして。

 ブジャア!!

――……あっ――

 多分、噂に聴いている破水とは、このような物なのだろう。

――……コドモ?――

 その時、すでに伸びきり、痛みすら麻痺した、あたしの薄い、子供に毛が生えた程度のふくらみである胸から。

 グゥウ!!

 胸板の薄さ、おっぱいの大きさはそのままで、ただその先「だけ」が気色悪い「発芽」をしていた、二つの棒乳首。

 ジュク、ウゥ……

――……アッ、こっちも――

 すでに粗末なブラジャーの布を延ばし、断ち切る寸前とも言える、あたしの両乳首の、棒の尖端から。

――……出る――

 ブシュ……!!

 お乳が、よくは見えないが、おそらくは淡い白色の、半透明の液体が、着たままである上半身衣服を、全て。

 シュ、ウゥ……!!

 大きく、拡く、ベタベタに、濡らす。



////////////////



 子供。

――あっ、あっ……!!――

 いや、カイブツ。

――あたしは、12歳で――

 青黒い身体、調度あたしの頭の半分位の大きさの「ソレ」には、目も。

――コドモを、産んだ――

 口も、鼻も無い。

――……いや――

 小さな角が生えた、アタマが、あるようだ。

――コレハ、ニンゲン、ジャナイ――

 そして。

――変な、アカチャン――

「ソレ」とあたしのお腹の中、膣内の、そう、子宮とやらを繋ぐ。

 ズゥ、ル……

 母さんから聴いた事だけある、おそらくはヘソの緒、だけど。

――ちがう――

 しっぽ、いや、それとも違う。

 グリュ、ウ……

 そう、ヘビ。

――いくらなんでも、フツウは――

 そう、普通はヘソの緒とやらは、こんな、風に。

 ビチャ!!

――……ヒッ!?――

 跳ねて、蠢いて、時おり伸縮したりは。

――ムラサキ色の、ヘビがあたしの股間から――

 ビチャ、ア、グゥリュ!!

「出産」の余韻で未だ続く、あたしの膣内の律動と。連動するように、跳ねて、蠢いて、時おり伸縮したりは、しない。

 グチュウ、チュ!!

 穢い色をした、緑色をした、異様に、ネバネバした汁を、撒き散らしたりは、しない。

――……ちゃん、どうしたの?――

 そして、あたしの錯乱を通り越した、発狂寸前の頭、その耳に聴こえてきた、トイレの外からの。

――……ねえ、ちゃん?――
――何してるのよ、アンタ?――

 声。

「……!?」

 この声、母さんと姉さんの。

――……入って、いいかしら?――

「……イッ!?」

 見られて、視られていいものか!!

「……だ、ダメェ!!」

――……ちゃん、お腹痛いの?――

「入って、こない、デェ!!」

 だが、もともとこのトイレには、鍵など無い。

――入るわよ、アンタ?――

「だめ、止めて!?」

――ハハン、さてはアンタ?――

 その、姉さんの声と共に、粗末な、湿気に満ちたトイレの木の扉が。

 ギィ……

――変な事、してるんでしょーう?――

「止めて、見ないで入らないでェ……!!」

 開き始め。

――12歳で、もう自慰を覚えたのね?――

 バァ……

「止めてェ、見ないデェ、閉じてェ……!!」

――アンタも、女に成りかけていたのね?――

 ……タン

 そして、真夜中の村。

――……!!――

 静まり返った、その平和な村の中で。

――ア、ア、アンタ!?――

 あたしの母さんと、姉さんの。

――……ちゃん、あなた、だわよね?――

 魂が、抜けた声。

――そうだと、いってよ、……ちゃん!?――

 そして。

――どうしたの?――
――姉ちゃん、何が……――

 様子を見に来た、妹や弟達からの。

――……!!――

 声が、あたしの大切な家族の口から、凄まじい。

――………………!!――

 声が、悲鳴が。

――……………………!!!!!!――

 絶叫が、夜の村中に、拡がった。



     
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