上 下
34 / 36
第一章

第三十四話 ヒーローのためにそのいち

しおりを挟む
 部屋に備え付けられた机の上には、スマホが入っている鞄、ボディバッグがある。そのボディバッグを手に持ってみる。すると、まるで最初からそこになかったかのように消えていくではないか?

(これっていわゆる、『範囲バフ』みたいなもの?)
『なるほど、ゲームの中の何かに例えているわけですね。おそらくはそのバフというのが魔法の効果にあたる、と?』
(すごいすごい。その通りだよ、吽形さん)
『ワタシが一緒にいる限り、このバフは消えることがありません。これは元々、ワタシたちが普通に使える、そうですね。わかりやすく表現するなら、工学迷彩でしょうか』
(おぉおおー)
『認識阻害の効果もございます。もちろん、防犯カメラにも写りません。実際は大気中の水分を変換して、鏡のように反射させているだけです。そのため、一八さんが手に持っている鞄などにも効果が出るというわけですね。これは一八さんがワタシたちの眷属となった、身体の変化のひとつと思って頂けたら良いかと』
(すごい、すごいすごいすごい)
『とにかくですね、外に出てみましょう。どれだけ効果があるか、ワタシも確認しながら調整をしたいと思いますので』
(うんっ)

 一八はこの部屋のカードキーをボディバッグに入れる。そっと内開きのドアを開けると、誰もいないことが確認できる。

(それじゃ、ミッションスタート、だね)
『えぇ、そうでございますね』

 廊下に出て、エレベーターの前に立つ。下へいくボタンを押す。するとすぐに到着。一度ドアが開く。

『乗ってください』
(はい)
『ボタンは押さないでくださいね』
(はい)

 すると十秒くらいしただろうか? 自動的にエレベーターは降りて行く。一階に到着する。

『はい、出てください』
(はいっ)

 すると、一度開いて五秒ほどで閉まるようだ。

『これで少なくとも、誰に気づかれることなく一階まで来られます』
(おぉおお)
『問題は、……あ、今です』

 ポーターの女性が出て行く。なるほど、そのタイミングを計っていたのだろう。

(はいっ)

 ホテルから出て、スーパーの道へ向かって百メートルあたり過ぎたとき。

『では「隠形の術」を解きますね』
(うん)

 すると一八は自分の腕が確認できたのである。

「凄いね。まるでヒーローみたいだ」

 スーパーに到着。エビ関連のインスタントソースが思ったよりも充実していた。

「あった。エビマヨとバジルソースもだ。あと、これもこれも、小さいオリーブオイルも買ってと、確か海老は二日分あるからまだいいとして」
『これ、見た目が美味しそうですね』
(あ、それ買った。これね)

 会計を済ませて一八たちは出てくる。ホテルから五十メートルほどのところで『隠形の術』を発動してもらう。実に便利なもので、下げているマイバッグの擦れる音まで阻害してくれるという術だった。

 ポーターの女性がエントランス内に戻る際に、一八は侵入。するとエレベーターから降りてきたのは、さっき祖母の部屋に来ていた龍童永来りゅうどうえいらとマネージャーの斉藤だった。

 何やら機嫌良さそうな二人。おそらく良い関係を結べたのだろう、と一八も思った。

『今です』

 エレベーターにはなんと喜助が、隣には千鶴がいた。どうやらさきほどの二人を見送りに来ていたのだろう。

 あの隙のない喜助も、千鶴も一八がここにいることに気づく素振りを見せない。あっという間に十七階へ到着。先に喜助が降りて、続いて千鶴が降りる。その隙に一八は降りておく。

 千鶴が部屋に入ろうとした際だった。

「千鶴お嬢様、明日は午後から先ほどのご用事がございます。ご旅行の途中ではございますが、お忘れのないようお願いいたしますね」
「お爺さま、千鶴ち・づ・るでしょう?」
「そうだね、千鶴。うちの静江さんのためと思って頑張っておくれ」
「うん。頑張るわ、お爺さま。おやすみなさい」
「あぁ、おやすみ。千鶴」

 エレベーターが上がっていき、千鶴は部屋へ入る。そのタイミングで一八もドアを開けて中に入った。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました

ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら…… という、とんでもないお話を書きました。 ぜひ読んでください。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

RUBBER LADY 屈辱の性奴隷調教

RUBBER LADY
ファンタジー
RUBBER LADYが活躍するストーリーの続編です

処理中です...