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第一章
第十六話 育ってない?
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タコたちを飼い始めて二日目の朝。一八は朝ごはんを食べてから、どんぶりを持って戻ってきた。
「タコさんたちおはよー。今朝も昨日と同じ海老だけど、海の水と同じにした塩水で味付けしたんだよね。食べてみたら美味しかった。どうかな?」
黒いタコも、白いタコも、底から水面に上がってアピールしているように見える。それを『良し』と判断してごはんをあげることにした。
今朝からは、触手を一本だけ伸ばし、一度だけ手に巻き付いたあと、海老を受け取るようになった。手に巻き付かれるときは、少しだけくらっとする感じがあるが、すぐにそれは気にならなくなる。気にするよりも可愛らしさのほうが勝っていたからかもしれない。
『おはようございます』
そんな何かが一八に伝わってくる。それを彼は、頭の良いタコたちの握手を見て、妄想をしているみたいなものだと思っていた。
「うん、おはようございます」
だからつい、タコたちに挨拶をしてしまうのであった。
三日目の朝も、同じように一度だけ手首に巻き付いてからごはんを受け取る。ごはんは基本、朝と晩だけ。一日二回あげるのも、魚を飼っている人たちのブログなどには書いていない。一日三回というのは見当たらない。あげすぎはよくないと書かれていたのもあり、朝晩だけにしようと思った。
その日の夕方、始めてタコたちは初めてお代わりをした。
「どうしたんだい? 一八くん」
隆二がキッチンで洗い物をしながら聞いてくる。一八は別段変わらない状態で、
「前より元気になったみたいで、ごはんが足りなくなったみたい」
「そうか。環境に慣れたら、そういうものなのかもしれないね。元気になってくれると一八くんも嬉しいだろう?」
「うんっ、すっごく嬉しい」
電子レンジでささっと解凍。塩昆布を適量に入れて軽く揉み込んだら、また三十秒ほど加熱。むき海老は水産加工場でボイルしてあるようで、長く加熱する必要がない。ひとつ食べてみて、
「うんうん。いいと思う。美味しいね」
「一八くんは優しいね。ちゃんと味見するんだもの」
「うん、だって僕の新しい家族だもん。それじゃ戻るね」
「はいよ」
一回目と同量のむき海老を持って、一八は部屋に戻る。さきほどと同じように、交互に海老をあげた。どんぶりが空っぽになったあとは再度確認。
「お代わり、いる?」
さすがに意思表示はないようだ。
「それじゃさ、明日からこれくらい持ってくるけど、大丈夫かな?」
するとタコたちは、触手を上げて応えた。どこにあれだけの海老が入っているかと思うと同時に、身動き取れなくなるほどに夢中になって食べてくれたことに嬉しさを感じる。
(もしかしたら、お腹いっぱいで動けないのかもしれないね。可愛いなぁ……)
←↙↓↘→
翌日、夏休みの課題を片付けていた一八。切りの良いところで、一休み。
「あれれ? なんだか君たち、大きくなってない?」
最初は、黒いタコも白いタコも、力なく寄り添っていて、片手の手のひらに乗るほどに小さいと思った。間違って落としてはいけないと、両手で注意して持っていた。それはしっかりと覚えている。
けれど、黒いほうはもう、右手の手のひらにぎりぎり乗りそうなくらいの大きさ。白いほうも黒ほどじゃないにしても、少し大きくなった感じがする。いや、部位によっては黒より大きく感じるものもある。
もしかしたら、水槽と海水の屈折率で大きく見えているのかもしれない。ただ一八が感じていた違和感は、違和感ではなかったことになる。
白いタコが一八に向けて触手で手招きをしている。だがそれを見て彼は、
(可愛いなぁ……)
と思っていた。可愛いと思えるセンスが、千鶴や日登美とは違うのだろう。そう思っていた矢先、自体は急変する。
黒いタコが触手上につんつん指差ししてるかのような仕草をみせるのだ。これが偶然ではないように、一八は思えた。だから海老をあげるときのように、水槽の上へ顔を出した。
「ど、どうかしたの? もしかして食べ過ぎた? それならどうしよう? 獣医さんのところへ連れていったほうがいいのかな?」
「タコさんたちおはよー。今朝も昨日と同じ海老だけど、海の水と同じにした塩水で味付けしたんだよね。食べてみたら美味しかった。どうかな?」
黒いタコも、白いタコも、底から水面に上がってアピールしているように見える。それを『良し』と判断してごはんをあげることにした。
今朝からは、触手を一本だけ伸ばし、一度だけ手に巻き付いたあと、海老を受け取るようになった。手に巻き付かれるときは、少しだけくらっとする感じがあるが、すぐにそれは気にならなくなる。気にするよりも可愛らしさのほうが勝っていたからかもしれない。
『おはようございます』
そんな何かが一八に伝わってくる。それを彼は、頭の良いタコたちの握手を見て、妄想をしているみたいなものだと思っていた。
「うん、おはようございます」
だからつい、タコたちに挨拶をしてしまうのであった。
三日目の朝も、同じように一度だけ手首に巻き付いてからごはんを受け取る。ごはんは基本、朝と晩だけ。一日二回あげるのも、魚を飼っている人たちのブログなどには書いていない。一日三回というのは見当たらない。あげすぎはよくないと書かれていたのもあり、朝晩だけにしようと思った。
その日の夕方、始めてタコたちは初めてお代わりをした。
「どうしたんだい? 一八くん」
隆二がキッチンで洗い物をしながら聞いてくる。一八は別段変わらない状態で、
「前より元気になったみたいで、ごはんが足りなくなったみたい」
「そうか。環境に慣れたら、そういうものなのかもしれないね。元気になってくれると一八くんも嬉しいだろう?」
「うんっ、すっごく嬉しい」
電子レンジでささっと解凍。塩昆布を適量に入れて軽く揉み込んだら、また三十秒ほど加熱。むき海老は水産加工場でボイルしてあるようで、長く加熱する必要がない。ひとつ食べてみて、
「うんうん。いいと思う。美味しいね」
「一八くんは優しいね。ちゃんと味見するんだもの」
「うん、だって僕の新しい家族だもん。それじゃ戻るね」
「はいよ」
一回目と同量のむき海老を持って、一八は部屋に戻る。さきほどと同じように、交互に海老をあげた。どんぶりが空っぽになったあとは再度確認。
「お代わり、いる?」
さすがに意思表示はないようだ。
「それじゃさ、明日からこれくらい持ってくるけど、大丈夫かな?」
するとタコたちは、触手を上げて応えた。どこにあれだけの海老が入っているかと思うと同時に、身動き取れなくなるほどに夢中になって食べてくれたことに嬉しさを感じる。
(もしかしたら、お腹いっぱいで動けないのかもしれないね。可愛いなぁ……)
←↙↓↘→
翌日、夏休みの課題を片付けていた一八。切りの良いところで、一休み。
「あれれ? なんだか君たち、大きくなってない?」
最初は、黒いタコも白いタコも、力なく寄り添っていて、片手の手のひらに乗るほどに小さいと思った。間違って落としてはいけないと、両手で注意して持っていた。それはしっかりと覚えている。
けれど、黒いほうはもう、右手の手のひらにぎりぎり乗りそうなくらいの大きさ。白いほうも黒ほどじゃないにしても、少し大きくなった感じがする。いや、部位によっては黒より大きく感じるものもある。
もしかしたら、水槽と海水の屈折率で大きく見えているのかもしれない。ただ一八が感じていた違和感は、違和感ではなかったことになる。
白いタコが一八に向けて触手で手招きをしている。だがそれを見て彼は、
(可愛いなぁ……)
と思っていた。可愛いと思えるセンスが、千鶴や日登美とは違うのだろう。そう思っていた矢先、自体は急変する。
黒いタコが触手上につんつん指差ししてるかのような仕草をみせるのだ。これが偶然ではないように、一八は思えた。だから海老をあげるときのように、水槽の上へ顔を出した。
「ど、どうかしたの? もしかして食べ過ぎた? それならどうしよう? 獣医さんのところへ連れていったほうがいいのかな?」
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