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第零章

第三話 プロローグ? そのいち

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『――本日の最高気温は三十三度。熱中症警戒アラートも出ています。水分補給、塩分補給などの予防に努めてくださいね?』

 リビングの壁に備え付けられている、百インチはありそうなモニターに映し出された、天気予報を告げる番組。画面の右上に表示されている時間は朝の七時五分。

「♪なーなーなななあー。よしできたよ」

 リビングの対面キッチンをぐるりと迂回して出てくる男性。彼が両手に持つメインディッシュをテーブルに並べたことによって、二人分の朝食が完成した。

 手のひらサイズなガラス容器に、みずみずしいレタスと薄切りのきゅうりとトマトが添えられたサラダ。超薄切りゴーヤーと薄切り玉ねぎ、ライトツナ缶のマリネ。カリカリに焼かれた薄切りベーコン。両面焼きターンオーバーの目玉焼き。厚切りのトーストにバターを塗ってある。実に模範的な朝食のラインナップである。

「美味しそうね、あなた」
「でしょう? 日登美ひとみさん」

 これらを作ってくれたのは母ではなく父である。彼はこの建物の一階にある、美容室兼喫茶室の『あお』。その喫茶室を取り仕切るマスターであり、この家の主夫でもある故に、料理堪能は基本特性なのであった。

 父、八重寺やえでら隆二りゅうじは壁にあるインターフォンの番号、二番を押す。すぐに応答するのは、元気の良い声だった。

「おはよう一八かずやくん。悪いけど千鶴ちづるちゃん、起こしてくれるかな?」
『おはよう父さん。やっぱりまだ寝てるんだ?』
「たぶんね。日登美さんはもうこっちいるから大丈夫」
『うん。おはよう母さん』
「おはよー。一八」

 黒髪ストレートの艶のあるワンレングスで、眼鏡をかけた妙齢の女性。一八の母で、一階にある美容ブース、美容室『碧』の主である、美容師の八重寺日登美。彼女は部屋着ではなく、早くもよそ行きの装いだった。

「日登美さん、もしかして?」
「そうなのよ。午後から那覇支店あっちで予約が入っててね。戻りは明日の午後あたりかしら?」

 日登美は那覇に美容室『碧』の支店を持っている。だからその予定に合わせて、こうして準備を終えていたというわけになる。

「日登美さん、コーヒー飲みながらタブレットはちょっと危なくないかな?」
「大丈夫、これ防水だから」

 隆二にそう返事をしながらも日登美は、デジタル版の新聞が表示されているタブレット端末から目を離さない。この情報収集も、接客には必要な一般常識であるから仕事の一環だったりするわけだ。

 ただ、片手にタブレットで朝食では、子供たちに示しがつかない。だから朝食は既に終えてあり、食後のコーヒーをいただきながらの日登美であった。

「なるほどね。無理はしないでほしいな?」
「わかってるわ。ありがとう、あなた」

 カチャリと音を立てて、リビングの扉が開いた。そこには、背中を押されて気怠そうにしている若い女性と、彼女の背中を押している一八の姿。

 漆黒の艶やかな髪、いわゆる『お姫様カット』の糸目状態な女性が、おそらくは隆二の言っていた千鶴で間違いないのだろう。一八は隣りに座って彼女の前にあるフォークを取り、ドレッシングのかかっているトマトを食べさせようとしている。

「姉さん、はい」
「ありふぁおー」

 一八は、かいがいしく千鶴の世話をしている。ツバメのひな鳥のように口を開けて咀嚼したところでやっと薄い目を開け、フォークを受け取って彼女はやっと朝食の続きを食べ始める。そんな二人を隆二も日登美も微笑ましそうに見ているのだ。

「んむ、おいひ」
「ほら、口にドレッシング。はい、いいよ」

 まるで小さな子供のように、口元を拭われている千鶴。

「ごちそうさまー、やーくん」
「お粗末様でした、姉さん」
「俺が作ったんだけどね」

 隆二がツッコミを入れる。

「あははは」

 愛想笑いの一八。

 なんとかかんとか千鶴が朝食を食べ終わって、彼女の前に淹れ立てのコーヒーが置かれたときであった。

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