3 / 10
第零章
第三話 プロローグ? そのいち
しおりを挟む『――本日の最高気温は三十三度。熱中症警戒アラートも出ています。水分補給、塩分補給などの予防に努めてくださいね?』
リビングの壁に備え付けられている、百インチはありそうなモニターに映し出された、天気予報を告げる番組。画面の右上に表示されている時間は朝の七時五分。
「♪なーなーなななあー。よしできたよ」
リビングの対面キッチンをぐるりと迂回して出てくる男性。彼が両手に持つメインディッシュをテーブルに並べたことによって、二人分の朝食が完成した。
手のひらサイズなガラス容器に、みずみずしいレタスと薄切りのきゅうりとトマトが添えられたサラダ。超薄切りゴーヤーと薄切り玉ねぎ、ライトツナ缶のマリネ。カリカリに焼かれた薄切りベーコン。両面焼きの目玉焼き。厚切りのトーストにバターを塗ってある。実に模範的な朝食のラインナップである。
「美味しそうね、あなた」
「でしょう? 日登美さん」
これらを作ってくれたのは母ではなく父である。彼はこの建物の一階にある、美容室兼喫茶室の『碧』。その喫茶室を取り仕切るマスターであり、この家の主夫でもある故に、料理堪能は基本特性なのであった。
父、八重寺隆二は壁にあるインターフォンの番号、二番を押す。すぐに応答するのは、元気の良い声だった。
「おはよう一八くん。悪いけど千鶴ちゃん、起こしてくれるかな?」
『おはよう父さん。やっぱりまだ寝てるんだ?』
「たぶんね。日登美さんはもうこっちいるから大丈夫」
『うん。おはよう母さん』
「おはよー。一八」
黒髪ストレートの艶のあるワンレングスで、眼鏡をかけた妙齢の女性。一八の母で、一階にある美容ブース、美容室『碧』の主である、美容師の八重寺日登美。彼女は部屋着ではなく、早くもよそ行きの装いだった。
「日登美さん、もしかして?」
「そうなのよ。午後から那覇支店で予約が入っててね。戻りは明日の午後あたりかしら?」
日登美は那覇に美容室『碧』の支店を持っている。だからその予定に合わせて、こうして準備を終えていたというわけになる。
「日登美さん、コーヒー飲みながらタブレットはちょっと危なくないかな?」
「大丈夫、これ防水だから」
隆二にそう返事をしながらも日登美は、デジタル版の新聞が表示されているタブレット端末から目を離さない。この情報収集も、接客には必要な一般常識であるから仕事の一環だったりするわけだ。
ただ、片手にタブレットで朝食では、子供たちに示しがつかない。だから朝食は既に終えてあり、食後のコーヒーをいただきながらの日登美であった。
「なるほどね。無理はしないでほしいな?」
「わかってるわ。ありがとう、あなた」
カチャリと音を立てて、リビングの扉が開いた。そこには、背中を押されて気怠そうにしている若い女性と、彼女の背中を押している一八の姿。
漆黒の艶やかな髪、いわゆる『お姫様カット』の糸目状態な女性が、おそらくは隆二の言っていた千鶴で間違いないのだろう。一八は隣りに座って彼女の前にあるフォークを取り、ドレッシングのかかっているトマトを食べさせようとしている。
「姉さん、はい」
「ありふぁおー」
一八は、かいがいしく千鶴の世話をしている。ツバメのひな鳥のように口を開けて咀嚼したところでやっと薄い目を開け、フォークを受け取って彼女はやっと朝食の続きを食べ始める。そんな二人を隆二も日登美も微笑ましそうに見ているのだ。
「んむ、おいひ」
「ほら、口にドレッシング。はい、いいよ」
まるで小さな子供のように、口元を拭われている千鶴。
「ごちそうさまー、やーくん」
「お粗末様でした、姉さん」
「俺が作ったんだけどね」
隆二がツッコミを入れる。
「あははは」
愛想笑いの一八。
なんとかかんとか千鶴が朝食を食べ終わって、彼女の前に淹れ立てのコーヒーが置かれたときであった。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
別に要りませんけど?
ユウキ
恋愛
「お前を愛することは無い!」
そう言ったのは、今日結婚して私の夫となったネイサンだ。夫婦の寝室、これから初夜をという時に投げつけられた言葉に、私は素直に返事をした。
「……別に要りませんけど?」
※Rに触れる様な部分は有りませんが、情事を指す言葉が出ますので念のため。
※なろうでも掲載中
王太子の子を孕まされてました
杏仁豆腐
恋愛
遊び人の王太子に無理やり犯され『私の子を孕んでくれ』と言われ……。しかし王太子には既に婚約者が……侍女だった私がその後執拗な虐めを受けるので、仕返しをしたいと思っています。
※不定期更新予定です。一話完結型です。苛め、暴力表現、性描写の表現がありますのでR指定しました。宜しくお願い致します。ノリノリの場合は大量更新したいなと思っております。
親戚のおじさんに犯された!嫌がる私の姿を見ながら胸を揉み・・・
マッキーの世界
大衆娯楽
親戚のおじさんの家に住み、大学に通うことになった。
「おじさん、卒業するまで、どうぞよろしくお願いします」
「ああ、たっぷりとかわいがってあげるよ・・・」
「・・・?は、はい」
いやらしく私の目を見ながらニヤつく・・・
その夜。
妻がエロくて死にそうです
菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。
美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。
こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。
それは……
限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常
私の物を奪っていく妹がダメになる話
七辻ゆゆ
ファンタジー
私は将来の公爵夫人として厳しく躾けられ、妹はひたすら甘やかされて育った。
立派な公爵夫人になるために、妹には優しくして、なんでも譲ってあげなさい。その結果、私は着るものがないし、妹はそのヤバさがクラスに知れ渡っている。
王子は婚約破棄をし、令嬢は自害したそうです。
七辻ゆゆ
ファンタジー
「アリシア・レッドライア! おまえとの婚約を破棄する!」
公爵令嬢アリシアは王子の言葉に微笑んだ。「殿下、美しい夢をありがとうございました」そして己の胸にナイフを突き立てた。
血に染まったパーティ会場は、王子にとって一生忘れられない景色となった。冤罪によって婚約者を自害させた愚王として生きていくことになる。
お父さん!義父を介護しに行ったら押し倒されてしまったけど・・・
マッキーの世界
大衆娯楽
今年で64歳になる義父が体調を崩したので、実家へ介護に行くことになりました。
「お父さん、大丈夫ですか?」
「自分ではちょっと起きれそうにないんだ」
「じゃあ私が
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる