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第二章 ふたりの誕生日
第5話 プレゼントの準備。
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「――お姉ちゃん、いってらっしゃい」
「はい、行ってきます。勇くん、また夕方ね」
「うん。待ってるね、お姉ちゃん」
三月二十八日、勇次郎の誕生日。縁子も静馬も、夜勤明けもあって爆睡中のはずである。朝ご飯のときに、杏奈からも麻乃からも、もちろん宗右衛門からも『おめでとう』は言ってもらった。
だが今日の本番は夕方で、勇次郎と杏奈の、誕生日を祝う集まりがある。十七時には、仲田原鈴子と文庫の姉弟を、勇次郎お抱え運転手の景子が迎えに行くことになっている。
現在時刻は八時半。いつものように、杏奈を見送った。これから夕方まで、勇次郎は本来であれば、何もする必要はないのだが、今回に限って彼は杏奈の贈り物を準備するための一仕事が待っている。
「さて、と。麻乃お姉さん」
「はい。何でしょうか?」
「そしたらまずは、僕の部屋に行って仕込みしちゃいますか」
「私も、お手伝いしてよろしいのでしょうか?」
「うん。その方が早く終わると思うからね。僕からもお願い」
「はい、かしこまりました」
▼
勇次郎に与えられた部屋の奥には、ウォークインクローゼットに繋がるドアがある。そのドアを開けると、前にいた彼の部屋の三倍はあり、天井の高さも軽く二メートル以上はありそうな、まるでガレージのような場所。
その奥にはシャッターがあり、そこを開くとテラスになっていいて、杏奈たちの部屋にも繋がっている。この一番右奥には、搬入用のエレベーターもあることから、引っ越しの際はここから荷物の搬入を行っていた。だから、ガレージと言っても過言ではないのかもしれない。このクローゼット、勇次郎はガレージと呼んでいるが、思ったよりも設備が充実しているのだ。
壁面に勇次郎が自転車の軽い整備を刷る際に使う、工具や油落としなどのケミカル類が壁に棚が組まれて置いてある。この辺りは、勇次郎がガレージと呼ぶようになったゆえんなのだろう。
トイレやシャワー室までは付いてはいないが、比較的大きめのシンクと、換気扇が取り付けられている。勇次郎は、部屋から持ってきた、まな板を置いてある。シンクの横には、前の部屋にあった大きめの冷蔵庫。ここに先日買ってきた材料も入っている。横には沖縄にあるあるな、水屋さんのタンクと、設置された冷水とお湯が使えるウォーターサーバ。
まな板の大きさは横百五十センチ、奥行き三十センチ、厚さ四センチほどある。まるで、どこかの定食屋さんにでもあるようなサイズだ。二年に一度ほど、業者さんにお願いをして、鉋で薄く削ってもらっている。こうして、十年近く大事に使っているのだ。
シンクの下から取り出したのは、使い込んだ牛刀と、棒ヤスリ(ステーキハウスのコマーシャルなどで、ナイフを研ぐ棒のこと)。ステンレス製のピーラー。ガレージのシャッターは開け放ってあるからか、外から気持ちの良い風が入ってくる。
「本格的でございますね……」
「あぁこれ。父さんの形見なんだよね」
「なるほど、勇一郎様の」
「あれ? 教えたっけ? 父さんの名前」
「勇ちゃん専属のメイドですもので」
「あぁ、そういうことね。うん、だからこんなにまな板も大きいんだ。あ、ピーラー僕がはホムセンでさ、ステンレス製の良さそうなものを買ったんだけどね」
そういいながら、勇次郎はヤスリを左手に持ち、器用に牛刀を研いでいく。研ぎ終わ棒ると、手ぬぐいで拭っておいた。
「さてと、冷蔵庫冷蔵庫」
まな板の上に取り出したのは、先日牧志の公設市場で買った、大ぶりの大根、小ぶりなにんじん。昨日の内から解凍しておいた、冷凍の軟骨ソーキ。いわゆる、豚のスペアリブである。
「私は何をお手伝いすればよろしいですか?」
「んっと、そしたらね、その圧力鍋を洗ってから、この大根とにんじんをたわしで水洗いしてくれる?」
「はい、かしこまりました。お大根とにんじんさんは、いかがいたしましょう?」
「にんじんさんって。……ん、ピーラーで皮を剥いてから、この包丁でさ、大根は厚さ一センチ、にんじんは二センチ角くらいで乱切りにしてもらえる?」
「はい、かしこまりました」
勇次郎は、ソーキを三センチくらいの幅で、食べやすいサイズに切っていく。時間がないときは、そのまま冷凍の状態でも煮込むことは可能だが、煮上がりのあとに切るのが大変になるからこうしたほうがいいと、経験則で知っている。
ソーキを切り終わったあたりで、麻乃から声がかかる。
「はい、勇ちゃん」
「ありがとう――って、はやっ」
圧力鍋を受け取ったあと、麻乃が立つまな板の上を見ると、もう大根とにんじんが切ってあった。
「これくらいは、かるいかるいなのです、えっへん」
麻乃は得意そうに胸を張り、腰に手を当ててどや顔をしてみせる。
「ありがとう、麻乃お姉さん」
「どういたしましてでございます」
「そしたらこれをこうして――」
勇次郎は、圧力鍋に大根を敷いていく。その次に切ったソーキを、隙間ににんじんを詰めて、水を六分目くらいまで入れる。
ごそごそと、自分の荷物から何かを探してくる勇次郎。
「あ、あったあった」
勇次郎が持ってきたのは、二口のIHコンロ。勇次郎の家は元々、ガスを使わない。何故かというと、小さいころから料理をしていた勇次郎に火を使わせたくない縁子は、勇一郎が亡くなったあと全て交換してしまったのだ。
「まずはコンセントを挿して、『ぽちっとな』、『ぽちっとな』っと」
勇次郎は電源を入れて、加熱を始める。
「勇ちゃん」
「ん?」
「前から気になっていたのですが、その『ぽちっとな』ですか? それはいったい、なんでございましょう?」
「あ、あぁ。これね。鈴子お姉ちゃんに見せてもらった、古いアニメに出てきたやつでさ、ボタンを押すときには必ず言う『お約束』みたいなもの、かな?」
「そうだったのですね……」
そんな雑談をしていると、ふつふつと沸騰が始まってくる。
「えっと、あく取りと、小皿、っと」
ぐらぐらと沸騰が始まると、勇次郎は、ソーキから沸いてくる『あく』をこまめにすくい取っていく。取っては小皿に、取っては小皿にをひたすら繰り返す。
ややあって、あくが出なくなってきたあたり。
「これくらいでいいかな?」
「思った以上に手間がかかるのですね」
「ん、そうでもないよ。ここまできたらね、とりあえず『ぽちっとな』」
一度電源を切って、加熱をやめる。勇次郎は、冷蔵庫の横にある棚から、あるものを抱えてくる。
「えっと、醤油、みりん、お酒、乾燥の昆布だし。本当は昆布茶がいいらしいんだけど、成分はあまり変わらないから」
「味付け、でございますか?」
「うん。おたまで計って、昆布だしは少々」
ざらざらと鍋に入れる。
「醤油、三分の二。みりんもお酒も同じ、と。目分量だけどね」
「この段階でもう」
「あ、そう思うでしょ? 何度も試したけど、こうしてもね大丈夫なんだ」
「そう、なんですね」
「うん。加熱してる時間も、普通の鍋で煮込むよりずっと短いからって、父さんの書いたレシピ帳にあったから。それに、あとで味を調整することもあるからね」
「なるほど、勉強になります……」
「あははは」
その後に、圧力鍋の蓋を、火傷しないように取り付ける。
「よし、これで改めて――」
「『ぽちっとな』でございますね?」
横から麻乃がどや顔をしつつ、加熱ボタンを押す。
「あ、うん。ありがとう」
今度は沸騰も早い。ヤカンでお湯を沸かすと、水蒸気が音を立てるように、同じ音を出し始める圧力鍋。
「麻乃お姉さん、ここ、見ててね」
勇次郎が指差すところは、『ロックピン』や『圧力表示ピン』と呼ぶ部分。
「あ、上がりましたね」
「うん。これでね鍋の中の圧力がかかってるって証拠。ここでまた『ぽちっとな』、『ぽちっとな』、……と、火力を小にして。ここからね一時間加熱するんだ」
「一時間でございますか? 聞いた話によればですね、四時間から一昼夜煮込むと……」
「そこでこの、圧力鍋なんだよね。時間を短縮できるんだ、便利なんだよ。一度使ったら手抜き料理には欠かせなくなるから」
勇次郎は、キッチンタイマーを六十分にセットする。
「よし、これで」
指を伸ばして、スタートボタンを押す麻乃。
「また、『ぽちっとな』でございますね?」
「よくわかっていらっしゃる」
「もちろんです。勇ちゃんの専属ですもの」
ガレージまでのドアを開けたまま、部屋に戻ってきた。換気扇と、用意してもらった大きめの送風機で強制的にテラスへ排気。これでほぼ、部屋へは湯気が流れてこない。
「勇ちゃん」
「ん?」
「これから一時間ですよね?」
「うん」
「それならば、ルートビアをお持ちいたしましょうか?」
「あ、お願い」
「かしこまりました」
一時間後――
「『ぽちっとな』」
勇次郎は、IHコンロの電源を落とす。
「ここからこのピンが落ちるまで放置するんだ」
「ということは、余熱での煮込みでございますね?」
「うん。よくわかるね」
「これでも一応、お料理はできますので」
確かに、下ごしらえを手伝ってもらったときの手際は良かった。
「ルートビア、お代わりどういたします?」
「いや、さすがにもう。三杯目になっちゃうから」
「さすがに、別腹ではありませんからね」
「はい、行ってきます。勇くん、また夕方ね」
「うん。待ってるね、お姉ちゃん」
三月二十八日、勇次郎の誕生日。縁子も静馬も、夜勤明けもあって爆睡中のはずである。朝ご飯のときに、杏奈からも麻乃からも、もちろん宗右衛門からも『おめでとう』は言ってもらった。
だが今日の本番は夕方で、勇次郎と杏奈の、誕生日を祝う集まりがある。十七時には、仲田原鈴子と文庫の姉弟を、勇次郎お抱え運転手の景子が迎えに行くことになっている。
現在時刻は八時半。いつものように、杏奈を見送った。これから夕方まで、勇次郎は本来であれば、何もする必要はないのだが、今回に限って彼は杏奈の贈り物を準備するための一仕事が待っている。
「さて、と。麻乃お姉さん」
「はい。何でしょうか?」
「そしたらまずは、僕の部屋に行って仕込みしちゃいますか」
「私も、お手伝いしてよろしいのでしょうか?」
「うん。その方が早く終わると思うからね。僕からもお願い」
「はい、かしこまりました」
▼
勇次郎に与えられた部屋の奥には、ウォークインクローゼットに繋がるドアがある。そのドアを開けると、前にいた彼の部屋の三倍はあり、天井の高さも軽く二メートル以上はありそうな、まるでガレージのような場所。
その奥にはシャッターがあり、そこを開くとテラスになっていいて、杏奈たちの部屋にも繋がっている。この一番右奥には、搬入用のエレベーターもあることから、引っ越しの際はここから荷物の搬入を行っていた。だから、ガレージと言っても過言ではないのかもしれない。このクローゼット、勇次郎はガレージと呼んでいるが、思ったよりも設備が充実しているのだ。
壁面に勇次郎が自転車の軽い整備を刷る際に使う、工具や油落としなどのケミカル類が壁に棚が組まれて置いてある。この辺りは、勇次郎がガレージと呼ぶようになったゆえんなのだろう。
トイレやシャワー室までは付いてはいないが、比較的大きめのシンクと、換気扇が取り付けられている。勇次郎は、部屋から持ってきた、まな板を置いてある。シンクの横には、前の部屋にあった大きめの冷蔵庫。ここに先日買ってきた材料も入っている。横には沖縄にあるあるな、水屋さんのタンクと、設置された冷水とお湯が使えるウォーターサーバ。
まな板の大きさは横百五十センチ、奥行き三十センチ、厚さ四センチほどある。まるで、どこかの定食屋さんにでもあるようなサイズだ。二年に一度ほど、業者さんにお願いをして、鉋で薄く削ってもらっている。こうして、十年近く大事に使っているのだ。
シンクの下から取り出したのは、使い込んだ牛刀と、棒ヤスリ(ステーキハウスのコマーシャルなどで、ナイフを研ぐ棒のこと)。ステンレス製のピーラー。ガレージのシャッターは開け放ってあるからか、外から気持ちの良い風が入ってくる。
「本格的でございますね……」
「あぁこれ。父さんの形見なんだよね」
「なるほど、勇一郎様の」
「あれ? 教えたっけ? 父さんの名前」
「勇ちゃん専属のメイドですもので」
「あぁ、そういうことね。うん、だからこんなにまな板も大きいんだ。あ、ピーラー僕がはホムセンでさ、ステンレス製の良さそうなものを買ったんだけどね」
そういいながら、勇次郎はヤスリを左手に持ち、器用に牛刀を研いでいく。研ぎ終わ棒ると、手ぬぐいで拭っておいた。
「さてと、冷蔵庫冷蔵庫」
まな板の上に取り出したのは、先日牧志の公設市場で買った、大ぶりの大根、小ぶりなにんじん。昨日の内から解凍しておいた、冷凍の軟骨ソーキ。いわゆる、豚のスペアリブである。
「私は何をお手伝いすればよろしいですか?」
「んっと、そしたらね、その圧力鍋を洗ってから、この大根とにんじんをたわしで水洗いしてくれる?」
「はい、かしこまりました。お大根とにんじんさんは、いかがいたしましょう?」
「にんじんさんって。……ん、ピーラーで皮を剥いてから、この包丁でさ、大根は厚さ一センチ、にんじんは二センチ角くらいで乱切りにしてもらえる?」
「はい、かしこまりました」
勇次郎は、ソーキを三センチくらいの幅で、食べやすいサイズに切っていく。時間がないときは、そのまま冷凍の状態でも煮込むことは可能だが、煮上がりのあとに切るのが大変になるからこうしたほうがいいと、経験則で知っている。
ソーキを切り終わったあたりで、麻乃から声がかかる。
「はい、勇ちゃん」
「ありがとう――って、はやっ」
圧力鍋を受け取ったあと、麻乃が立つまな板の上を見ると、もう大根とにんじんが切ってあった。
「これくらいは、かるいかるいなのです、えっへん」
麻乃は得意そうに胸を張り、腰に手を当ててどや顔をしてみせる。
「ありがとう、麻乃お姉さん」
「どういたしましてでございます」
「そしたらこれをこうして――」
勇次郎は、圧力鍋に大根を敷いていく。その次に切ったソーキを、隙間ににんじんを詰めて、水を六分目くらいまで入れる。
ごそごそと、自分の荷物から何かを探してくる勇次郎。
「あ、あったあった」
勇次郎が持ってきたのは、二口のIHコンロ。勇次郎の家は元々、ガスを使わない。何故かというと、小さいころから料理をしていた勇次郎に火を使わせたくない縁子は、勇一郎が亡くなったあと全て交換してしまったのだ。
「まずはコンセントを挿して、『ぽちっとな』、『ぽちっとな』っと」
勇次郎は電源を入れて、加熱を始める。
「勇ちゃん」
「ん?」
「前から気になっていたのですが、その『ぽちっとな』ですか? それはいったい、なんでございましょう?」
「あ、あぁ。これね。鈴子お姉ちゃんに見せてもらった、古いアニメに出てきたやつでさ、ボタンを押すときには必ず言う『お約束』みたいなもの、かな?」
「そうだったのですね……」
そんな雑談をしていると、ふつふつと沸騰が始まってくる。
「えっと、あく取りと、小皿、っと」
ぐらぐらと沸騰が始まると、勇次郎は、ソーキから沸いてくる『あく』をこまめにすくい取っていく。取っては小皿に、取っては小皿にをひたすら繰り返す。
ややあって、あくが出なくなってきたあたり。
「これくらいでいいかな?」
「思った以上に手間がかかるのですね」
「ん、そうでもないよ。ここまできたらね、とりあえず『ぽちっとな』」
一度電源を切って、加熱をやめる。勇次郎は、冷蔵庫の横にある棚から、あるものを抱えてくる。
「えっと、醤油、みりん、お酒、乾燥の昆布だし。本当は昆布茶がいいらしいんだけど、成分はあまり変わらないから」
「味付け、でございますか?」
「うん。おたまで計って、昆布だしは少々」
ざらざらと鍋に入れる。
「醤油、三分の二。みりんもお酒も同じ、と。目分量だけどね」
「この段階でもう」
「あ、そう思うでしょ? 何度も試したけど、こうしてもね大丈夫なんだ」
「そう、なんですね」
「うん。加熱してる時間も、普通の鍋で煮込むよりずっと短いからって、父さんの書いたレシピ帳にあったから。それに、あとで味を調整することもあるからね」
「なるほど、勉強になります……」
「あははは」
その後に、圧力鍋の蓋を、火傷しないように取り付ける。
「よし、これで改めて――」
「『ぽちっとな』でございますね?」
横から麻乃がどや顔をしつつ、加熱ボタンを押す。
「あ、うん。ありがとう」
今度は沸騰も早い。ヤカンでお湯を沸かすと、水蒸気が音を立てるように、同じ音を出し始める圧力鍋。
「麻乃お姉さん、ここ、見ててね」
勇次郎が指差すところは、『ロックピン』や『圧力表示ピン』と呼ぶ部分。
「あ、上がりましたね」
「うん。これでね鍋の中の圧力がかかってるって証拠。ここでまた『ぽちっとな』、『ぽちっとな』、……と、火力を小にして。ここからね一時間加熱するんだ」
「一時間でございますか? 聞いた話によればですね、四時間から一昼夜煮込むと……」
「そこでこの、圧力鍋なんだよね。時間を短縮できるんだ、便利なんだよ。一度使ったら手抜き料理には欠かせなくなるから」
勇次郎は、キッチンタイマーを六十分にセットする。
「よし、これで」
指を伸ばして、スタートボタンを押す麻乃。
「また、『ぽちっとな』でございますね?」
「よくわかっていらっしゃる」
「もちろんです。勇ちゃんの専属ですもの」
ガレージまでのドアを開けたまま、部屋に戻ってきた。換気扇と、用意してもらった大きめの送風機で強制的にテラスへ排気。これでほぼ、部屋へは湯気が流れてこない。
「勇ちゃん」
「ん?」
「これから一時間ですよね?」
「うん」
「それならば、ルートビアをお持ちいたしましょうか?」
「あ、お願い」
「かしこまりました」
一時間後――
「『ぽちっとな』」
勇次郎は、IHコンロの電源を落とす。
「ここからこのピンが落ちるまで放置するんだ」
「ということは、余熱での煮込みでございますね?」
「うん。よくわかるね」
「これでも一応、お料理はできますので」
確かに、下ごしらえを手伝ってもらったときの手際は良かった。
「ルートビア、お代わりどういたします?」
「いや、さすがにもう。三杯目になっちゃうから」
「さすがに、別腹ではありませんからね」
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