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第二章 ふたりの誕生日
第4話 僕、なの?
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「――あ、あの、すみませんっ」
その声に振り向くと、そこには杏奈たちと同じくらいの、女の子が二人立っていた。
「そのっ、あのっ」
「ほら、女は度胸でしょ?」
頰を真っ赤に染めて一生懸命話しかけようとする女の子と、なんとも面白いツッコミをする女の子。
「あ、あの、お願いします」
「すみません、私もお願いします」
先に色紙とペンを出させておいて、ちゃっかり自分も出すツッコミを入れた女の子が微笑ましい。
「いいですよ。どちらからにしましょうか?」
先ほどまでの表情とは打って変わって、いわゆる『営業用』ともいえる口元に微笑を携える優しげな表情になる杏奈。彼女はこれまでこうして、各社メディアの情報番組や、雑誌の取材などをいくつもこなしてきた。
「いえ、あのっ、杏奈さんではなく、そのっ、『勇きゅん』さん、ですよね?」
「えっ?」
「えっ?」
勇次郎と杏奈はお互いに見合って、信じられないという表情をしていた。杏奈を杏奈だと認識されていたのは予想通りとして、自分のことを名前ではなく鈴子が作り上げた愛称で呼ばれたのは、勇次郎も驚いただろう。
「私も『勇きゅん』さんに、サインしてもらいたいんです」
「あ、ずるい、私が先立ったのに」
『もしかして、そうなの?』
『えぇ。間違いなく勇次郎様へです。迂闊でございました。変装のことをすっかり……』
小声で相談する杏奈と麻乃。単純に驚いていたが、周りが騒ぎ出さないか見守り始めた景子。
「……僕、なの?」
「はいっ。私たち、『勇きゅんファンクラブ』に入ってまして、その」
「偶然見かけたので、慌てて色紙を買ってきたんです」
(ちょっと待って、会員何人の規模なんだか、鈴子お姉ちゃんめ……)
『勇次郎様、ここは騒ぎになるより』
『うん、わかったよ』
杏奈もうんうんと頷いていた。さすがに『勇きゅんファンクラブ』に入ってると言われてしまえば、無碍に断ることもできないのが勇次郎の優しさだろう。
「かっこいいサインは書けないけど、いいんですか?」
「はい、かまいませんっ」
「はい、わたしもっ」
「それじゃ、はい。いいですよ」
杏奈は経験があったようだが、勇次郎はサインなどしたことがない。勇次郎はおっかなびっくり名前を書いた。先日、杏奈よりお願いされたように『浜那覇勇次郎』と、旧姓を間違わない。
勇次郎がサインをおっかなびっくり書いている間、ふたりの少女は『睫毛長-い』とか、『肌綺麗ねー』とか、『声可愛いね』とか、言いたい放題。ただそれを聞いていた杏奈と麻乃は、うんうん頷いて何か誇らしげだった。
「「ありがとうございました」」
「いえ、どういたしまして……」
慣れないことをしたせいか、ひどく疲れた感じがする。
「あのっ」
「はい?」
「握手いいですか?」
「あ、はい」
勇次郎は、握手に素直に応じる。ちょっとだけ、杏奈が悔しそうにしてるのは、麻乃だけが気づいていたようだ。
二人目の女の子に握手をしていたときだった。
「テラチューブの公式動画も見ました。昨日始まったばかりなのに、もう百万再生超えていましたね。とても、可愛かったです」
「へ?」
「がんばってくださいね」
「応援してます」
笑顔で帰って行った二人の女の子。固まっている勇次郎と、慌てて検索を始める杏奈たち。
「勇くん、これっ」
「――まじですかっ」
いつの間にかテラチューブに『勇きゅんファンクラブ公式チャンネル』なるものが作られていた。登録者数がすでに三千人を超えて、登録された動画も去年のものと、今年の決勝戦で中継されていた動画だ。
「チャンネルの登録者は、東比嘉学際実行委員会となっていますね。メールアドレスが、東比嘉大学のドメインです……」
「これはおそらく、鈴子先輩――」
勇次郎はおもむろにスマホを取り出す。アドレス帳から鈴子のものをタップ。ワンコール、ツーコール。
『あらぁ、勇ちゃんじゃないの』
「ゆうちゃんじゃないの、じゃないってば」
『どうかしたの?』
「あれ、鈴子お姉ちゃんの仕業でしょう?」
『あれって?』
「テラチューブ」
『あら、あれはね、勇ちゃんのお爺さまから許可をもらってるわよ。「可愛らしいのは大いに結構」って二つ返事だったわ』
「……まじですか」
『うん。まじまじ。あのね、あれには理由があってね――」
鈴子の話はこうだった。勇次郎の配信がキャプチャされていて、たまたま文庫がみつけて驚いた。何せ、十万再生を超えているどころか、収益化までされていたチャンネルだった。
鈴子は怒髪天を衝く状態。実行委員会の現会長に連絡を取り、東比嘉警備保障で即対応することになった。もちろん、無断転載したチャンネルは、東比嘉大学の顧問弁護士からきついお叱りを受け、チャンネル閉鎖にまでなっているとのこと。
「――それでね、一度出回った動画って消せないのは勇ちゃんもわかるでしょう?」
「うん……」
「それならね、模倣犯が出ないように、出てもすぐに対処できるようにって、いっそ公式にしてしまおう。許可を得るには誰がいいか? 委員会の会長さんが、理事長先生に相談しようって話になって、一昨日にアポイントとったらね、その場でオッケーもらっちゃったのね。それで、いまここって感じ?」
「あのさ、僕の肖像権って」
『あると思う?』
勇次郎は呆れた。杏奈は肩をすくめ、麻乃は苦笑していた。景子は、ハンバーガーをお代わりしようか悩んでいた。
「……はぁ。鈴子お姉ちゃんも、よかれと思って動いてくれたんでしょう?」
『そりゃそうよ。私にとってはね、勇ちゃんでを転売されたようなものなの。徹底的に叩き潰してしかるべきなのよね』
麻乃はうんうん、と大げさに頷いていた。
「まぁいいや。今度詳しく教えてね」
『えぇ、またね、勇ちゃん』
通話が終了。勇次郎はどっと疲れが出てしまった。
▼
エンダーを出て、車に乗り込み、道の駅許田でお土産を買う。
「これこれ。これがまたB級グルメっぽくて美味しいってあったんだ」
勇次郎が買ったのは『餃子入り揚げかまぼこ』。具が餃子のタネになっている異色のかまぼこであった。
「こ、これはお酒が進みそうですね。実に美味しいです」
早くも味見中の景子。
「お酒って、景子さんはもちろん」
「はい。先輩は確か――」
「もがーっ。んくっ。駄目、言っちゃ駄目だから」
景子は慌てて麻乃の口を塞ごうとするのだが、ひらりと躱されてしまう。
「確か、さんじゅ――」
「まだ二十三ですっ。去年東比嘉大を卒業したばかりなんですから」
「あ、ちゃんと成人されていたんですね。それなら安心です」
「そうなんですか?」
「えぇ。なにせ麻乃、お、いやそのね。成人してるって間違っちゃって」
「勇次郎様、それは酷すぎます……」
「だからごめんなさいって、……あれ? お姉ちゃんは?」
「杏奈様でしたら、車の中で動画を見るとかなんとか言ってましたけど」
景子の話では杏奈は外へ出てきてないとのこと。気になって勇次郎は様子を見に行こうとしたが、右手をくんと引っ張られる感じがした。
「勇、……ちゃん」
勇次郎の手を引っ張ったのは、麻乃だった。
「あ、はい」
「一人で出歩いては困ります。これだけ人が多いところですと、もしかしたら誘拐も想定しておかないといけませんので」
「あ、ごめんなさい」
「いいのです。ところで、どちらへ?」
「あのね、ある程度買い物も終わったし、お姉ちゃんが車にいるかもってだから」
「なるほど、少々お待ちください――『先輩、そろそろ戻りますよ?』、これで車へ戻ると思います」
「なるほど、あ、間違って飲んでたりはしないよね?」
「そんなことしたら、ここで泊まりになってしまうではありませんか? そこまでお馬鹿ではありませんよ」
「そりゃそうだ」
勇次郎と麻乃は手をつないで、車へ戻る。後部座席はスモークが貼られているから、外からは見えづらい。そっと顔を近づけてみると、何やら杏奈はシートに寄りかかって眠ってしまっているようだ。
「ありゃ? お姉ちゃん、寝ちゃってないかな?」
「張り切っておいででしたから。おそらくは、疲れてしまったのでしょう」
車の前でやや待っていると、すぐに景子が戻ってくる。
「勇次郎様、麻乃さん、遅くなりました」
「いいえ。大丈夫です」
「私たちが早く来すぎただけですので」
景子は、運転席側でメカニカルキーでの解錠を行う。東比嘉ではセキュリティ上、電波式リモコン解錠システム、いわゆるアクセスキーを使用不可にしていることからこうして、実鍵を使って解錠、施錠をしている。
『どうぞ、勇ちゃん』
勇次郎の耳元でささやくようにする麻乃。
『ありがとう』
なるべく揺らさないように後部座席に乗り込むと、やはり杏奈は眠っていたようだ。
『それじゃ、帰りましょうか』
『はい』
『では、帰りましょうね』
景子もなるべく揺らさないように車を発進させる。まるで、リムジンにでも乗っているかのような静かな運転だった。
『あ、そうそう。帰りにさ、パーキング寄って、おそば食べていかない? 県内でも五本の指に入るくらいコスパが良くて美味しいって噂なんだよね』
『それは、いいですね』
景子は食いついた。
『おそばは別腹だものね』
『えぇ。まもなくおやつの時間ですから』
『何を言ってるんでしょうね、この人たちは』
呆れる麻乃と、規則正しく寝息をたてる杏奈。
▼
中城パーキングエリアで休憩し、勇次郎と景子は食堂のそばを食べ、戻ってくる。すると、車の中では杏奈が目を覚ましていた。
帰りの車の中。
「勇くん」
「はい?」
「今日の、わたしのプレゼント、どう、でしたか?」
「うん。きっとね、一生忘れられないプレゼントだった。ありがとう」
「は、はいっ……」
杏奈が選んだ勇次郎へのプレゼント。勇次郎はとても喜んでくれた。
日が明けて、夕方からは勇次郎の誕生会が始まる。そのとき、杏奈の誕生日も一緒に祝うことになっている。そのとき、勇次郎が用意したプレゼントをどう思うか? それは、そのときにならないとわからないだろう。
その声に振り向くと、そこには杏奈たちと同じくらいの、女の子が二人立っていた。
「そのっ、あのっ」
「ほら、女は度胸でしょ?」
頰を真っ赤に染めて一生懸命話しかけようとする女の子と、なんとも面白いツッコミをする女の子。
「あ、あの、お願いします」
「すみません、私もお願いします」
先に色紙とペンを出させておいて、ちゃっかり自分も出すツッコミを入れた女の子が微笑ましい。
「いいですよ。どちらからにしましょうか?」
先ほどまでの表情とは打って変わって、いわゆる『営業用』ともいえる口元に微笑を携える優しげな表情になる杏奈。彼女はこれまでこうして、各社メディアの情報番組や、雑誌の取材などをいくつもこなしてきた。
「いえ、あのっ、杏奈さんではなく、そのっ、『勇きゅん』さん、ですよね?」
「えっ?」
「えっ?」
勇次郎と杏奈はお互いに見合って、信じられないという表情をしていた。杏奈を杏奈だと認識されていたのは予想通りとして、自分のことを名前ではなく鈴子が作り上げた愛称で呼ばれたのは、勇次郎も驚いただろう。
「私も『勇きゅん』さんに、サインしてもらいたいんです」
「あ、ずるい、私が先立ったのに」
『もしかして、そうなの?』
『えぇ。間違いなく勇次郎様へです。迂闊でございました。変装のことをすっかり……』
小声で相談する杏奈と麻乃。単純に驚いていたが、周りが騒ぎ出さないか見守り始めた景子。
「……僕、なの?」
「はいっ。私たち、『勇きゅんファンクラブ』に入ってまして、その」
「偶然見かけたので、慌てて色紙を買ってきたんです」
(ちょっと待って、会員何人の規模なんだか、鈴子お姉ちゃんめ……)
『勇次郎様、ここは騒ぎになるより』
『うん、わかったよ』
杏奈もうんうんと頷いていた。さすがに『勇きゅんファンクラブ』に入ってると言われてしまえば、無碍に断ることもできないのが勇次郎の優しさだろう。
「かっこいいサインは書けないけど、いいんですか?」
「はい、かまいませんっ」
「はい、わたしもっ」
「それじゃ、はい。いいですよ」
杏奈は経験があったようだが、勇次郎はサインなどしたことがない。勇次郎はおっかなびっくり名前を書いた。先日、杏奈よりお願いされたように『浜那覇勇次郎』と、旧姓を間違わない。
勇次郎がサインをおっかなびっくり書いている間、ふたりの少女は『睫毛長-い』とか、『肌綺麗ねー』とか、『声可愛いね』とか、言いたい放題。ただそれを聞いていた杏奈と麻乃は、うんうん頷いて何か誇らしげだった。
「「ありがとうございました」」
「いえ、どういたしまして……」
慣れないことをしたせいか、ひどく疲れた感じがする。
「あのっ」
「はい?」
「握手いいですか?」
「あ、はい」
勇次郎は、握手に素直に応じる。ちょっとだけ、杏奈が悔しそうにしてるのは、麻乃だけが気づいていたようだ。
二人目の女の子に握手をしていたときだった。
「テラチューブの公式動画も見ました。昨日始まったばかりなのに、もう百万再生超えていましたね。とても、可愛かったです」
「へ?」
「がんばってくださいね」
「応援してます」
笑顔で帰って行った二人の女の子。固まっている勇次郎と、慌てて検索を始める杏奈たち。
「勇くん、これっ」
「――まじですかっ」
いつの間にかテラチューブに『勇きゅんファンクラブ公式チャンネル』なるものが作られていた。登録者数がすでに三千人を超えて、登録された動画も去年のものと、今年の決勝戦で中継されていた動画だ。
「チャンネルの登録者は、東比嘉学際実行委員会となっていますね。メールアドレスが、東比嘉大学のドメインです……」
「これはおそらく、鈴子先輩――」
勇次郎はおもむろにスマホを取り出す。アドレス帳から鈴子のものをタップ。ワンコール、ツーコール。
『あらぁ、勇ちゃんじゃないの』
「ゆうちゃんじゃないの、じゃないってば」
『どうかしたの?』
「あれ、鈴子お姉ちゃんの仕業でしょう?」
『あれって?』
「テラチューブ」
『あら、あれはね、勇ちゃんのお爺さまから許可をもらってるわよ。「可愛らしいのは大いに結構」って二つ返事だったわ』
「……まじですか」
『うん。まじまじ。あのね、あれには理由があってね――」
鈴子の話はこうだった。勇次郎の配信がキャプチャされていて、たまたま文庫がみつけて驚いた。何せ、十万再生を超えているどころか、収益化までされていたチャンネルだった。
鈴子は怒髪天を衝く状態。実行委員会の現会長に連絡を取り、東比嘉警備保障で即対応することになった。もちろん、無断転載したチャンネルは、東比嘉大学の顧問弁護士からきついお叱りを受け、チャンネル閉鎖にまでなっているとのこと。
「――それでね、一度出回った動画って消せないのは勇ちゃんもわかるでしょう?」
「うん……」
「それならね、模倣犯が出ないように、出てもすぐに対処できるようにって、いっそ公式にしてしまおう。許可を得るには誰がいいか? 委員会の会長さんが、理事長先生に相談しようって話になって、一昨日にアポイントとったらね、その場でオッケーもらっちゃったのね。それで、いまここって感じ?」
「あのさ、僕の肖像権って」
『あると思う?』
勇次郎は呆れた。杏奈は肩をすくめ、麻乃は苦笑していた。景子は、ハンバーガーをお代わりしようか悩んでいた。
「……はぁ。鈴子お姉ちゃんも、よかれと思って動いてくれたんでしょう?」
『そりゃそうよ。私にとってはね、勇ちゃんでを転売されたようなものなの。徹底的に叩き潰してしかるべきなのよね』
麻乃はうんうん、と大げさに頷いていた。
「まぁいいや。今度詳しく教えてね」
『えぇ、またね、勇ちゃん』
通話が終了。勇次郎はどっと疲れが出てしまった。
▼
エンダーを出て、車に乗り込み、道の駅許田でお土産を買う。
「これこれ。これがまたB級グルメっぽくて美味しいってあったんだ」
勇次郎が買ったのは『餃子入り揚げかまぼこ』。具が餃子のタネになっている異色のかまぼこであった。
「こ、これはお酒が進みそうですね。実に美味しいです」
早くも味見中の景子。
「お酒って、景子さんはもちろん」
「はい。先輩は確か――」
「もがーっ。んくっ。駄目、言っちゃ駄目だから」
景子は慌てて麻乃の口を塞ごうとするのだが、ひらりと躱されてしまう。
「確か、さんじゅ――」
「まだ二十三ですっ。去年東比嘉大を卒業したばかりなんですから」
「あ、ちゃんと成人されていたんですね。それなら安心です」
「そうなんですか?」
「えぇ。なにせ麻乃、お、いやそのね。成人してるって間違っちゃって」
「勇次郎様、それは酷すぎます……」
「だからごめんなさいって、……あれ? お姉ちゃんは?」
「杏奈様でしたら、車の中で動画を見るとかなんとか言ってましたけど」
景子の話では杏奈は外へ出てきてないとのこと。気になって勇次郎は様子を見に行こうとしたが、右手をくんと引っ張られる感じがした。
「勇、……ちゃん」
勇次郎の手を引っ張ったのは、麻乃だった。
「あ、はい」
「一人で出歩いては困ります。これだけ人が多いところですと、もしかしたら誘拐も想定しておかないといけませんので」
「あ、ごめんなさい」
「いいのです。ところで、どちらへ?」
「あのね、ある程度買い物も終わったし、お姉ちゃんが車にいるかもってだから」
「なるほど、少々お待ちください――『先輩、そろそろ戻りますよ?』、これで車へ戻ると思います」
「なるほど、あ、間違って飲んでたりはしないよね?」
「そんなことしたら、ここで泊まりになってしまうではありませんか? そこまでお馬鹿ではありませんよ」
「そりゃそうだ」
勇次郎と麻乃は手をつないで、車へ戻る。後部座席はスモークが貼られているから、外からは見えづらい。そっと顔を近づけてみると、何やら杏奈はシートに寄りかかって眠ってしまっているようだ。
「ありゃ? お姉ちゃん、寝ちゃってないかな?」
「張り切っておいででしたから。おそらくは、疲れてしまったのでしょう」
車の前でやや待っていると、すぐに景子が戻ってくる。
「勇次郎様、麻乃さん、遅くなりました」
「いいえ。大丈夫です」
「私たちが早く来すぎただけですので」
景子は、運転席側でメカニカルキーでの解錠を行う。東比嘉ではセキュリティ上、電波式リモコン解錠システム、いわゆるアクセスキーを使用不可にしていることからこうして、実鍵を使って解錠、施錠をしている。
『どうぞ、勇ちゃん』
勇次郎の耳元でささやくようにする麻乃。
『ありがとう』
なるべく揺らさないように後部座席に乗り込むと、やはり杏奈は眠っていたようだ。
『それじゃ、帰りましょうか』
『はい』
『では、帰りましょうね』
景子もなるべく揺らさないように車を発進させる。まるで、リムジンにでも乗っているかのような静かな運転だった。
『あ、そうそう。帰りにさ、パーキング寄って、おそば食べていかない? 県内でも五本の指に入るくらいコスパが良くて美味しいって噂なんだよね』
『それは、いいですね』
景子は食いついた。
『おそばは別腹だものね』
『えぇ。まもなくおやつの時間ですから』
『何を言ってるんでしょうね、この人たちは』
呆れる麻乃と、規則正しく寝息をたてる杏奈。
▼
中城パーキングエリアで休憩し、勇次郎と景子は食堂のそばを食べ、戻ってくる。すると、車の中では杏奈が目を覚ましていた。
帰りの車の中。
「勇くん」
「はい?」
「今日の、わたしのプレゼント、どう、でしたか?」
「うん。きっとね、一生忘れられないプレゼントだった。ありがとう」
「は、はいっ……」
杏奈が選んだ勇次郎へのプレゼント。勇次郎はとても喜んでくれた。
日が明けて、夕方からは勇次郎の誕生会が始まる。そのとき、杏奈の誕生日も一緒に祝うことになっている。そのとき、勇次郎が用意したプレゼントをどう思うか? それは、そのときにならないとわからないだろう。
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