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序章 憧れと出会い

第2話 どうしちゃったのかしら……

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 本州最南端の鹿児島より、九百キロ弱ほど南に位置する沖縄県。那覇空港の建物を出て、那覇空港駅よりモノレールに乗ると東海岸駅で下車。
 以前より『東海岸にリゾートを』という動きがあり、再開発されて新しくできた東城市あずまぐすくし

 そこにあるのは、東海岸に広がるリゾートと、学校法人東比嘉大学が展開する、小学校、中学校、高校、大学一貫校のある学園都市。同時に、医学部附属病院があり、県内でも有数の医療機関となっている。

 表彰台でちょっとした事件のあったあの日から一週間、十一月も中旬を過ぎたころ、大学、付属高校、附属中学合同の学園祭、『東比嘉学際』が開催されていた。

 私立わたくしりつの学校ということもあって、親族だけに配布されるという入場券がないと、敷地内に入ることすらできない。その代わり、話題になった有名なイベントなどは、公式サイトでのインターネット配信で見ることができるようになっていた。

 その昔、様々な大学などの学園祭で行われていたミスコンも、今は難しい状況にある。その代替として、東比嘉学際では男子生徒が出場する、『女装コンテスト』が行われているのだ。

 附属中学校にある体育館ステージで行われた、決勝戦の結果発表。プレゼンターとして、附属中学生徒会長の杏奈が、引退前最後の仕事をすることになる。舞台袖で準備していた杏奈も、結果が気になっていただろう。

 様々なコスチュームを身にまとった、決勝戦まで残った面々。横一列に並んだ、五人。照明が消え、スポットライトが左右から交差するように往復。ドラムロールそっくりの、古風なサウンドエフェクトが鳴る。

 ドラムロールが『ドンッ』という音で止まり、スポットライトが消える。

「優勝は、三年二組、浜那覇はまなは勇次――」
『勇きゅーん!』

 放送部のアナウンスが、食い気味にかき消されるほどに沸く、女の子たちのコール。

 裏手では、『スポット、スポットライト忘れてる』という声と同時に、一人の少年であるはずの姿が照らし出された。

『勇きゅーん!』

 かと思えば、男の子の若干野太い声も後から加わる。彼は男女双方から人気があるようだ。

 黒みがかった紫色の、魔法少女のコスチューム。いわゆる『病み系魔法少女』の姿をした、浜那覇勇次郎ゆうじろうの姿がそこにあった。彼は頰を赤く染めて、照れた表情になっている。

「――会長、会長」
「あ、はい」
「『勇きゅん』が可愛らしいのは私も理解しています。ですが見蕩みとれれてばかりいないで、そろそろ戻ってきてもらえませんか?」
「え?」
「お務めです。プレゼンターです。舞台中央へお願いします」
「……あ、すっかり忘れていました。ごめんなさい」

 慌てて舞台中央へ行こうとした杏奈。

「――会長、花束、忘れていますっ」
『うそっ!』
「か、会長。マイク入ってます……」

 右手に握っていたマイクのスイッチを切って、ため息をつく杏奈。

「な、なんてこと……」

 慌てている姿を晒すことはなかったが、声はすっかり城内に響いてしまった。杏奈は花束を取りに戻り、ひとつ深く息を吸って、ゆっくりと吐いた。

「大丈夫。ありがとう」
「いえ、どういたしまして」

 スタッフが『がんばってください』と言わんばかりに、ガッツポーズ。杏奈はそれに頷いて、勇次郎たちが待つ舞台中央へ。スポットライトが消え、照明が戻っていた。

 附属中学だけではなく、大学に在籍してる生徒も出場しているこのコンテスト。さすがに決勝に残った出場者は、それなりに女装をしても違和感のない人が残っている。だが、勇次郎だけは別格だった。

 誰もが『こんなに可愛い子が女の子なわけがないよ』と思ってしまうほどだ。それはもう、消化試合。このコンテスト自体が、勇次郎かれのためにあるのではないかと言っても過言ではないのだろう。

 勇次郎以外の出場者は、皆、『ですよねー』という感じの、諦めのような生暖かい目で彼を見ている。よく見ると彼意外は、一歩下がっているではないか? 気づいていないのは、もちろん渦中の彼だけだった。

(やっぱりね。出来レースと言われてもおかしくないってば)

 当の勇次郎もという内心そう思っていて、呆れ顔だった。

「浜那覇勇次郎君」
「あ、はい」

 凜とした美しい立ち姿。目の前にいるのは、勇次郎があこがれている女性ひとである、杏奈がそこにいる。それだけで緊張してしまうのは無理な話ではないだろう。

「勇次郎君、おめでとう」
「はいっ、ありがとうございますっ」

 杏奈は勇次郎に花束渡そうとするが、そのままだと渡し辛い。そう、身長差があるからだった。先日の杏奈のように、表彰台の上だったら簡単だったはずだ。

 杏奈は急いで答えを出そうとする。思いついたのは、王子様がお姫様に傅く方法。だが、それはあんまりだろう。
 勇次郎を傷つけないで、花束を渡す良い方法がないか、思い悩んでしまったそのとき。

「あの、会長。どうしましたか?」

 小声で問いかける勇次郎。その声に驚いてしまい、杏奈はつい、先に頭にあったとおり、片膝をついて花束を勇次郎の胸元へ差し出すようにしてしまった。

「あ、その」
「いえ、その」

 同時に、会場にいた皆から、どよめきの声が上がる。

 杏奈が片膝をついたことで、勇次郎が見下ろすような形になってしまった。それはまるで『プロポーズをする男性の仕草』のように思ったからか、勇次郎だけ頰が少し熱くなるような感じがしただろう。

 ガチガチに緊張してしまった勇次郎。そうして杏奈から受け取った花束が、やけに似合っていたのは、彼がこの姿だったからかもしれない。

 もちろん、緊張していたのは杏奈もそうだった。花束を渡したあとに、閉会の言葉を言う際、マイクのスイッチが入っていないことに、最後まで気づいていなかったのだから。
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