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第52話 何やってんだ、あの野郎?
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「助かるよ。さて此度はどのような要件でワッターヒルズから――」
「その前にその手袋、外して見せてもらえますか?」
「あ、あぁ。そりゃバレてしまうよね」
「違和感ありありですから」
リズレイアさんは、手袋を外すと俺の前に指先を揃えて両手を見せてくれた。あぁ……、こりゃまいった。
「『ディズ・リカバー』、『フル・リカバー』。……あの国王、なにやってんだよ……」
麻夜ちゃんや麻昼ちゃんよりも多く、1ミリほどの黒ずみが見えるんだ。麻夜ちゃんは、練習という名目で、おそらく水なんかを綺麗にしてるんだろう。じゃないと、あそこまで早く悪素毒に侵されるわけがないんだ。その証拠に、朝也くんの指は、まだ黒ずみがなかったから。
けれどこれだともう痛い。それに、人に心配されたくないなら、こうしないと駄目なこともわかるんだよ。
そりゃ俺だって、専門家じゃない。けれど、これだけ沢山の人をみてきた。年齢と浸食は、ある程度比例してると言っても間違いじゃない。
ちょっと待て、さっきジュリエーヌさんは、手袋をしていなかったか? してたはずだ、……ってことは、まじかよ。
「ご主人様」
「あぁ、俺はあっちに行く前に、ギルドの職員はリズレイアさんも含めて、全員治したはずだったんだ」
さすがに、最低限のことはしてあるかと思ってたんだ。魔道具を作ってた国だって、ロザリエールさんから聞いてたから。けど、そりゃないだろうよ?
「そうだね。申し訳なく思うよ」
「そうじゃないんです。水が悪いのか、根菜、葉菜が悪いのか、穀物かわからないけど、まさかこんなに早いだなんて。これじゃまるで国王は、ここの人たちには何もしてないみたじゃないか?」
国王も、お貴族様閣下も、手袋なんてしていなかった。ネリーザさんはどうだった? よく覚えてない。ジロジロ見ると、ロザリエールさんに怒られそうだったから。
「私らはね、あくまでも一般市民なんだよ。王族や貴族様とは違うのさ」
「だからって、……ちょっとすみません。あのさ」
俺はロザリエールさんを見た。
「はい。なんでございましょう?」
「前に聞いた、『悪素を取り除く効果のある魔道具』。『魔石中和法魔道具』ってあったじゃない?」
「はい。『あの』魔道具のことですね。あたくしは目にしたことはありませんが、ある程度、悪素を中和する効能を持つとのことですが?」
「ここがさ、その魔道具を作った国だっていうなら、運用に耐えうるだけの試験だってここでやってるはず。この国がもし、その魔道具を交易や外交手段として利用しようっていうなら、ここの水や食べ物は宣伝の意味も含めて、ある程度は綺麗になってなきゃいけないんだ。それなのに……」
あれ? リズレイアさんが驚いたような表情してる。どうしたんだろう?
「よく知ってるんだね。このダイオラーデンには、そう呼ばれた魔道具があるにはある。ただね、核になる魔石が高価すぎて、前の冬に、動きが止まったらしいと噂があったんだよ」
「え? それじゃ?」
「はい。あたくしが思うにですが。悪素が含まれた飲み水などがもし、ほとんど中和されていなかったとしても、民は国を信じ『処理れているもの』として飲むしかない状況なのかと、思われます。生きていくためには、水を飲まなければ、食べ物を食べなければならないんです。仕方のないことでしょう? あたくしの集落がそうであったように……」
ちょっと待て、それじゃもしかして。
「ちょっとすみません」
俺はロザリエールさんの手を引いて、部屋の隅まで連れてくる。そこで、小声で相談したんだ。
『俺たちをこの世界に呼んだのって、そのために行われた可能性ってない?』
『麻夜さん、麻昼さん、でございましたか。あの少女たちが、悪素毒に侵されていたのはきっと』
『うん。王家や貴族が飲むだろう水なんかから、悪素を取り除かせていたと考えたら?』
『朝也さん、でしたか? あの少年は、悪素毒に侵されていなかったんですか?』
『うん。黒ずみは見えなかった。聖属性魔法を使えるのは、麻夜ちゃんと、麻昼ちゃんだけなんだよ。一応、朝也くんも治療はしたけど、彼が持っていたのは、光属性の魔法だったはずだし』
『おそらくですが、ご主人様の予想は、当たっていなくとも、遠くはないかと思われます』
まじかー。『当たらずといえども遠からず』ってか。ロザリエールさんも、そういう懸念を抱いてるってことなんだろうな。
『それは、国王や王女の指を調べないとわからないけどさ。ロザリエールさん』
『はい』
『明日からさ、俺はひたすらここの人を治すつもり。ロザリエールさんはさ、それとなく調べてくれないかな? 本当に魔石が枯渇して、魔道具を止めてしまったのかどうか? 王家は、魔道具の代わりをさせるために、勇者を召喚したかどうかを?』
『かしこまりました。ご主人様』
俺たちは、リズレイアさんの前に戻ってきた。
「リズレイアさん」
「なんだい?」
「プライヴィアさんから、少しの間休みをもらってきたんです。だから俺、ここでできる限りの治療をしていこうと思っています――もちろん、あっちへ帰っても、定期的に戻って来たいとも思ってます」
「そうかい。本当に、ありがとうよ……」
「泣かないでください。とにかくまた、ギルド職員からさっさとやっちゃいましょう。明日からは症状の酷い人から順に、治していきますから。あ、そうだ。リズレイアさんさん」
「なんだい? なんでも協力させてもらうよ」
「ありがとうございます。まずは『文飛鳥』で、プライヴィアさんにこちらへ来られないか、打診してください」
「これはまた……」
「重要なことなんです。時と場合によっては、俺はこの国に喧嘩を売ります。まぁ、面と向かって事を構えるわけじゃありませんが。ここの人たちを、ワッターヒルズに連れて帰ってしまうようなことが、あるかもしれません。それが無理だとしても、それ相応のことをするつもりでいます。ここの人たちの治療が終わってからでいいです。今夜にでも連絡、できますよね?」
「……あぁ、わかったよ」
「じゃ、俺たちは失礼します」
俺は立ち上がって、回れ右。振り返ると、ロザリエールさんはリズレイアさんに会釈をして、俺と同じように回れ右。
「さて、忙しくなりそうだね」
「えぇ。そのようでございますね」
「その前にその手袋、外して見せてもらえますか?」
「あ、あぁ。そりゃバレてしまうよね」
「違和感ありありですから」
リズレイアさんは、手袋を外すと俺の前に指先を揃えて両手を見せてくれた。あぁ……、こりゃまいった。
「『ディズ・リカバー』、『フル・リカバー』。……あの国王、なにやってんだよ……」
麻夜ちゃんや麻昼ちゃんよりも多く、1ミリほどの黒ずみが見えるんだ。麻夜ちゃんは、練習という名目で、おそらく水なんかを綺麗にしてるんだろう。じゃないと、あそこまで早く悪素毒に侵されるわけがないんだ。その証拠に、朝也くんの指は、まだ黒ずみがなかったから。
けれどこれだともう痛い。それに、人に心配されたくないなら、こうしないと駄目なこともわかるんだよ。
そりゃ俺だって、専門家じゃない。けれど、これだけ沢山の人をみてきた。年齢と浸食は、ある程度比例してると言っても間違いじゃない。
ちょっと待て、さっきジュリエーヌさんは、手袋をしていなかったか? してたはずだ、……ってことは、まじかよ。
「ご主人様」
「あぁ、俺はあっちに行く前に、ギルドの職員はリズレイアさんも含めて、全員治したはずだったんだ」
さすがに、最低限のことはしてあるかと思ってたんだ。魔道具を作ってた国だって、ロザリエールさんから聞いてたから。けど、そりゃないだろうよ?
「そうだね。申し訳なく思うよ」
「そうじゃないんです。水が悪いのか、根菜、葉菜が悪いのか、穀物かわからないけど、まさかこんなに早いだなんて。これじゃまるで国王は、ここの人たちには何もしてないみたじゃないか?」
国王も、お貴族様閣下も、手袋なんてしていなかった。ネリーザさんはどうだった? よく覚えてない。ジロジロ見ると、ロザリエールさんに怒られそうだったから。
「私らはね、あくまでも一般市民なんだよ。王族や貴族様とは違うのさ」
「だからって、……ちょっとすみません。あのさ」
俺はロザリエールさんを見た。
「はい。なんでございましょう?」
「前に聞いた、『悪素を取り除く効果のある魔道具』。『魔石中和法魔道具』ってあったじゃない?」
「はい。『あの』魔道具のことですね。あたくしは目にしたことはありませんが、ある程度、悪素を中和する効能を持つとのことですが?」
「ここがさ、その魔道具を作った国だっていうなら、運用に耐えうるだけの試験だってここでやってるはず。この国がもし、その魔道具を交易や外交手段として利用しようっていうなら、ここの水や食べ物は宣伝の意味も含めて、ある程度は綺麗になってなきゃいけないんだ。それなのに……」
あれ? リズレイアさんが驚いたような表情してる。どうしたんだろう?
「よく知ってるんだね。このダイオラーデンには、そう呼ばれた魔道具があるにはある。ただね、核になる魔石が高価すぎて、前の冬に、動きが止まったらしいと噂があったんだよ」
「え? それじゃ?」
「はい。あたくしが思うにですが。悪素が含まれた飲み水などがもし、ほとんど中和されていなかったとしても、民は国を信じ『処理れているもの』として飲むしかない状況なのかと、思われます。生きていくためには、水を飲まなければ、食べ物を食べなければならないんです。仕方のないことでしょう? あたくしの集落がそうであったように……」
ちょっと待て、それじゃもしかして。
「ちょっとすみません」
俺はロザリエールさんの手を引いて、部屋の隅まで連れてくる。そこで、小声で相談したんだ。
『俺たちをこの世界に呼んだのって、そのために行われた可能性ってない?』
『麻夜さん、麻昼さん、でございましたか。あの少女たちが、悪素毒に侵されていたのはきっと』
『うん。王家や貴族が飲むだろう水なんかから、悪素を取り除かせていたと考えたら?』
『朝也さん、でしたか? あの少年は、悪素毒に侵されていなかったんですか?』
『うん。黒ずみは見えなかった。聖属性魔法を使えるのは、麻夜ちゃんと、麻昼ちゃんだけなんだよ。一応、朝也くんも治療はしたけど、彼が持っていたのは、光属性の魔法だったはずだし』
『おそらくですが、ご主人様の予想は、当たっていなくとも、遠くはないかと思われます』
まじかー。『当たらずといえども遠からず』ってか。ロザリエールさんも、そういう懸念を抱いてるってことなんだろうな。
『それは、国王や王女の指を調べないとわからないけどさ。ロザリエールさん』
『はい』
『明日からさ、俺はひたすらここの人を治すつもり。ロザリエールさんはさ、それとなく調べてくれないかな? 本当に魔石が枯渇して、魔道具を止めてしまったのかどうか? 王家は、魔道具の代わりをさせるために、勇者を召喚したかどうかを?』
『かしこまりました。ご主人様』
俺たちは、リズレイアさんの前に戻ってきた。
「リズレイアさん」
「なんだい?」
「プライヴィアさんから、少しの間休みをもらってきたんです。だから俺、ここでできる限りの治療をしていこうと思っています――もちろん、あっちへ帰っても、定期的に戻って来たいとも思ってます」
「そうかい。本当に、ありがとうよ……」
「泣かないでください。とにかくまた、ギルド職員からさっさとやっちゃいましょう。明日からは症状の酷い人から順に、治していきますから。あ、そうだ。リズレイアさんさん」
「なんだい? なんでも協力させてもらうよ」
「ありがとうございます。まずは『文飛鳥』で、プライヴィアさんにこちらへ来られないか、打診してください」
「これはまた……」
「重要なことなんです。時と場合によっては、俺はこの国に喧嘩を売ります。まぁ、面と向かって事を構えるわけじゃありませんが。ここの人たちを、ワッターヒルズに連れて帰ってしまうようなことが、あるかもしれません。それが無理だとしても、それ相応のことをするつもりでいます。ここの人たちの治療が終わってからでいいです。今夜にでも連絡、できますよね?」
「……あぁ、わかったよ」
「じゃ、俺たちは失礼します」
俺は立ち上がって、回れ右。振り返ると、ロザリエールさんはリズレイアさんに会釈をして、俺と同じように回れ右。
「さて、忙しくなりそうだね」
「えぇ。そのようでございますね」
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