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第47話 お礼参り。

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「歩いたり走ったりして、昼間は林に身を隠して無理矢理眠って、それを繰り返して7日かかったけど……。馬車だと2日かからないとかありえなくない?」

 『いいかげん休もうか?』と野営をしようと思ったんだけど、止まってくれなくてさ。2頭とも、『まだいける』みたいな意思表示をしたもんだから、途中、『リカバー』かけて、無理してもらっちゃったんだ。

「あのですね。この距離を7日で移動できる方がおかしいと思いませんか?」

 何気に呆れた表情で、諭す言葉をかけてくれるロザリエールさん。

「そうかな?」
「はい。あたくしだって、馬車を乗り継いで移動して、3日ですよ? 3日」
「あれって、歩けるからって意味じゃなかったんだ」
「途中で気づいてくれると思ったんですが……」

 ワッターヒルズを出て二日目の夕方。俺たちは目的地へ予想よりも早く到着した。準備もあったから、正確には三日目の夜。俺とロザリエールさんは、ある豪邸へ繋がる壁を登ってたんだ。

『なんで登るの?』
『正面突破なさりたいのでしたら、お止めいたしませんが?』
『それは無理』
『なら、きりきり登ってくださいまし』

 ロザリエールさんに、先に登ってもらって、縄を下ろしてもらって、それを頼りに力業で無理矢理登っていく。中二階で一息ついて、小声でやりとりしつつ、次も力任せに登っていく。

 まぁ、一般人的な腕力じゃなかったんだよね、俺って。じゃなければ、こんな登り方できないから。日本にいた俺じゃ、絶対に無理。

『ここで間違いない?』
『はい。依頼はここで受けましたから』
『なるほどね、じゃ、ここが例のお貴族様の屋敷ってことね』
『そうでございます』

 いやはや、こんな小高い丘の上。それで、城壁があって、それも二段になってて。その上の土台に、屋敷が建ってるとか。ちょっとした要塞じゃないのさ?

 ロザリエールさんが、スカートの中から取り出した、刀身の黒い小刀みたいなナイフ。刃渡りは、少し長めの刺身包丁くらいかな? いかにもロザリエールさんが持ちそうな得物だけど。

『これって、俺にときに持ってたヤツ?』
『小さな頃から愛用していた、狩りに使うナイフなんです』
『俺って、猪とか鹿と同じなのね……』
『そんな生易しい存在じゃありませんってば……』

 ロザリエールさんの後ろをついていく。すると、屋敷と思われる場所から、100メートルほどの場所にはなれがある。俺たちはそこに向かってるんだ。

『ところで、ほんとにここにいるの?』
『はい。対象の情報を得たと連絡を入れたんです』
『なるほど』
『まだ探してるようですね。ご主人様のことを……』

 そう答えてくれながらも、肩を震わせてるんだ。握る拳にも力が入ってる。

『はいはい。怒らないの。ありがとう、そんなふうに心配してくれるだけで、俺は嬉しいから』
『そんなわけではありません、……ところで』
『ん?』
『先ほど打ち合わせした方法で、本当によろしいのですか?』
『俺がいるから大丈夫。それに、騒がれたらめんどくさいし』
『わかりました。では、手はず通りに』

 俺たちは、ロザリエールさんが約束した時間に、この離れに到着した。建物の中にいるのは、隣にある屋敷の主人、このお貴族様、ご当主本人と、その執事とのこと。ダイオラーデン王家に知られないよう、大事にしないよう、わざわざ離れで手配書を見せられたらしいんだ。

『じゃ、いいかな? まずは、手加減なしでやっちゃってください』
『はい、かしこまりました。では、いってまいります』
『うん。お願いします』

 ロザリエールさんが離れの建物に消えていく。俺は建物の扉に耳をあてて、中の様子をうかがってたんだけど。『遅かったではな――』までは聞き取れたんだけど、あとは何も聞こえなくなったんだ。

 ややあって、ロザリエールさんが出てくる。凄いね、返り血も浴びてない。うちの、メイドさんそのまんま。

『始末いたしました』
『うん、ありがとう。大丈夫。ロザリエールさんが感じるかもしれない罪悪感はさ、俺も一緒に背負うからね』

 ドアを開けて、建物に入っていく。細い通路があって、ひとつだけ明かりが漏れている部屋があった。外から見たら、光が漏れていないんだから、たいした離れだよね。中に人がいること自体、隠そうってんだから。

 お貴族様だと思われる若い男は、仰向けになって手足を縛ってある。執事のほうは、うつ伏せになって、後ろ手で縛ってある。足も忘れず縛ってあるよ。俺の注文通り、執事だけ、猿ぐつわがかましてある。しかし、初めてみたけど、なんていうかこう。複雑な気分だよね。こいつらが、俺を殺そうとしてた、張本人たちだなんてさ。

 そこいら中に血が飛び散ってる。俺も踏んじゃったけど、あとで戻るから大丈夫。そうそう、二人ともぴくりとも動かない。『手加減なしでやっちゃっていいよ』ってお願いしたからね。手足縛る系の位拘束するなら、死んでてもらったほうが楽なんだわ。

「さてと。『リザレクト蘇生呪文』。もいっちょ、『リザレクト』、っと」

 二人とも、一瞬びくんと身体が動いた。うん、ちゃんと生き返ったね。床に飛び散ってたものも、なぜか回収される物理法則を無視した不思議現象だけは、なんか感動するよ。俺がリザレクトを、かけてながら言うのもなんだけどね。

 ロザリエールさんは初めて見るんだね。ちょっと驚いている感があるんだ。俺は彼女が蘇生されたところを見てるから、どういう結果になるかは知ってるんだけど。

 あらぁ、お貴族様がにらんでる睨んでる。

「初めまして。俺は、わかるかな? 顔は知らないか。タツマ・ソウトメというものなんだけど?」
「……貴様、いつの間に侵入した?」
「だから、俺がしてる質問と、答えがずれてるんだけど」
「ケルミオット、ケルミオットはおらんのか?」
「ケルミオットさんって、もしかしてそこに、転がってる執事さんのこと? あ、ロザリアさん。そこの入り口閉めちゃってくれる?」
「はい、かしこまりました」

 後ろ手にドアを閉めてくれる。

「それでさ? 俺、あんたになんかした? ダイオラーデン王国、侯爵、ハウリベルーム・グリオル閣下?」

 侯爵って解釈にもよるんだろうけど、王家の血筋がない場合があるってどこかで読んだっけ? 何代もかけて、男爵や伯爵からのし上がった最上位の貴族だった? ロザリエールさんがあらかじめ、教えてくれていたんだ。この若造のこと――といっても、俺より5歳ほど年上らしいんだけどさ。

「あれ? 答えるつもりがない? じゃ、仕方ないか。タオルをねじって、口に突っ込んでと」

 俺はハウリベルーム閣下の口に、タオルをねじって突っ込んだ。見える場所に縛ってある、右手の小指を握った。

「よいしょ」

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